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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1164話 難問

 ジ・アビスが支配する、もはや元の面影など微塵も残さない黒ずんだ大河となったタホ川を、どうにかして渡らなければならない。


 日向たちは川から一キロ以上離れた地点で車を停め、対策会議を開く。


「エヴァ、念のため聞くけど、あの川を凍らせるってのは無理だよな?」


「はい、無理です。いくら何でも大きすぎます。よしんば凍らせることができたとしても、フランスの時のように氷を破壊されると思います。川をこれだけ増水させるほどのチカラ……水のパワーも相応に引き上げられているはずです」


「だよなぁ……」


「エヴァちゃんの能力でジ・アビスの水の中でも活動できるようにして、あえてこっちから飛び込んで強行突破! ……っていうのはどうかな? ジ・アビスに沈んだら浮き上がることはできないっていうけど、フランスの時はなんとかなったし、今回もいけるかも……?」


 北園がそう提案するが、それに対してシャオランが反対意見を述べる。


「でも、この激流だよ? 下手すれば水の中でみんな流されちゃうかもしれない。エヴァの能力が及ぶ範囲って限られてるんでしょ? もしも誰かが流されちゃって、エヴァの能力の範囲外に出ちゃって、そのまま溺れてしまったりしたら……」


「そっか、その可能性があるのかぁ……」


「最悪、車をここで乗り捨てることになるとしても、こっちから水の中に飛び込むのは、ボクは避けたい方がいいと思うなぁ」


 その他にも、様々な案が出ては消えていく。


 エヴァの能力で、この川の下にトンネルを掘り、向こう岸まで通り抜ける案も出た。彼女の能力で長距離のトンネルを掘ることができるのは、ロシアでプルガトリウムと戦った時に実証済みだ。


 しかしジ・アビスが川の下にトンネルを掘られていることを察知したら、トンネルに水を通されるかもしれない。日向たちがトンネルを通行中にそんなことをされたら、地上に浮上するのは絶望的だ。川から離れた場所でも地下水脈を通して水浸しにしてしまえるジ・アビスならば、川の真下のトンネルを浸水させることくらい容易いことだろう。


 日向の”星殺閃光(バスタードノヴァ)”やエヴァの地形操作能力でこの川の形を変えて枝流を増やしまくり、本流の水量を減らす案も出たが、これはすぐに否決された。水の量が多すぎてあまりにも非現実的だからだ。


 エヴァの能力なら土でこの川を埋め立てることができるのでは……とも考えられたが、やはりあの川の規模を考えると厳しいものがある。そもそもジ・アビスが水の流れで川の底を掘り、水深を増加させている可能性だって捨てきれない。


「あれもダメ、これもダメ……くっそぉ八方手詰まりだ。ワンコたちの能力を活用するのは……いや無理か。こいつらの能力じゃどうしようもない」


 日向も頭を悩ませている。テレビゲームや漫画やアニメなどの知識まで総動員して、この異常事態に対する有効な手立てがないか探っているが、こんな特異な状況をどうにかするような作品などなかなか見つからない。


 ここで、日影が口を開く。


「いっそ、全員で空を飛んでさっさと川を越えることができりゃいいんだけどな。オレ一人ならいけるんだけどな。いけねぇ連中もいるからな。日向とか。日向とか。あと日向とか」


「飛べない日向はただの日向だ。つまりそれが普通なんだよこんにゃろう」


 また日向と日影の言い合いになりそうな雰囲気である。

 今はこんなことをしている場合ではないのだが。


「ふむ……空を飛ぶか。いっそ、本当にそれしかないのではないか?」


 ここで日影の発言を本堂が拾った。

 当の日影も意外そうな表情で本堂の方を見る。


「適当に願望を言っただけなんだが……何か空を飛ぶアテがあるのかよ本堂? そういえばお前、水中特化だとか言って『星の力』で肉体改造してたな。もしかしてその要領で、今度は空を飛べるように肉体を造り替えるとか?」


「いや、残念だが俺の肉体改造能力に『飛行能力の付与』という機能は無いようだ。別の方法を探らなければならない」


「じゃあどうするつもりだよ。オレたちの中で自前の能力で飛べねぇのはお前と日向の野郎、それからワンコどもだ。こいつら全員、空へ飛ばすっていうのか?」


「エヴァの重力操作はどうだ? 飛ばすのではなく浮かせる感覚だろうが、空を飛べることに変わりはない」


 これは良いアイディアではないだろうか。

 そう言った期待の眼差しで、日向たちはエヴァの方を見た。


 エヴァは少し悩むような表情をしながらも、答えた。


「フランスのパリ……でしたか? あの街でジ・アビスの水の腕と戦った時のことを憶えていますか? あの時の水の腕は、見上げるほどに高く巨大でした。恐らくはこの川も同等の大きさの水の腕を生成できるでしょう。それに負けないくらいの高度が必要です」


「今のお前は、俺達をそれくらいまで飛ばすことは可能か?」


「可能ではあります。しかし、良乃の空中飛行のように器用に動かすことは期待しないでください。あくまで重力の方向性を決めるだけですので。私一人ならともかく、あなたと日向と、それから六匹の犬たち。さらには車。これだけの大人数を正確にコントロールするのは難易度が高いのです」


「この作戦は厳しそうか?」


「これまでに出てきた作戦の中では一番、成功の可能性は高いとは思いますが、危険であることに変わりはありません。難易度の高さゆえ、私もこの方法はあえて提案はしませんでした。しかし、これしかないのであれば最善を尽くします」


「ここで長く足止めを喰らっていては、本格的に日向のタイムリミットが危うくなる。一刻も早く突破したいところだ。お前が良いのであれば、この作戦でいきたいと思う」


 これで、今回の作戦は決定した。エヴァの重力操作で空を飛べない者たちを空から運び、飛べる者たちはジ・アビスの攻撃からエヴァたちを守る。川渡りならぬ、空渡りだ。


「なんつうか、毎度毎度、あり合わせの能力で頑張ってます感が強ぇな、オレたち」


「存外、そういうものだろう。戦いにおいても、人生においても。多少みっともなかろうが、利用できるものは何であろうと全て利用し、そして勝利できれば、それが全てだ」


 肩をすくめて(つぶや)いた日影に、本堂はクールにそう返した。

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