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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1163話 青黒い大河

 突如として襲ってきた重狙撃銃型のレッドラムを、見事に撃破した日向たち。


 エヴァの能力が解除され、森林地帯を包み込んでいた濃霧が消え去り、視界が晴れ渡っていく。重狙撃銃型のレッドラムにトドメを刺しに行っていた日影も空から戻ってきた。”オーバーヒート”の炎を(まと)って、ジェットパックのように炎を陸地に当てて落下の勢いを殺しつつ着地。


「戻ったぜ。重狙撃銃型はしっかり始末しておいた」


「あっ、お疲れさまー!」


 着地した日影のもとに、北園が走り寄ってきた。両腕を大きく開いており、今にも日影に飛びついて抱きつかんとする勢いである。


「え、あ、お、おう?」


 いきなり北園がやって来るので日影も戸惑う。はたして日向の目もはばからずにこの可愛い北園を抱きしめていいものか、それとも北園には悪いが回避させてもらうか、彼の中で欲望と理性が一瞬のうちに激しくせめぎ合う。


 最終的に日影は、間を取ってハイタッチを選んだ。両腕を広げて向かってくる北園に対して「ハイタッチで頼む」と指示するように右手を軽く挙げる。


 ……が、北園は日影の側を通り過ぎた。


 そして彼女が向かった先は、日影の後ろにいた六匹の犬たちのもと。今は人間以上の体格があるその犬たちを、北園は飛び込むように抱きしめた。


「みんな、お疲れさまー! 大活躍だったねー! もふもふー!」


「ワン!」


「ワオン!」


「アウ?」


 もふもふに囲まれ、もふもふを堪能する北園。

 その表情は、これ以上ないくらい幸せそうである。


 そして日影はというと、右手を挙げたポーズのままで固まっている。その表情は、北園が近づいてきた時のまま固まっている。


 そんな日影の右肩に、日向が手をポンと乗せた。


「ねぇ今どんな気持ち?」


「こんな気持ちだおるぁぁッ!!」


 そう言って日影は、彼の肩に乗せられていた日向の手を取って華麗なる背負い投げを決めた。


「げほぉぉ!? ま、またお前はすぐそうやって暴力に訴える……」


 若者らしいふざけたやり取りが繰り広げられている。ともすれば残存しているかもしれないレッドラムに不意を突かれるのではと心配しそうになる光景だが、その心配はほとんど無い。すでにエヴァとシャオランが周囲の気配を探って周囲を警戒しており、六匹の犬たちも北園にモフられながらも嗅覚を利かせ、レッドラムの匂いを探っている。


 日影に投げられて倒れている日向のもとに、本堂がやって来た。


「お疲れ様だったな、日向」


「あ、本堂さん。お疲れ様です。見事な狙撃でしたね」


 倒れながら本堂を見上げ、返事をする日向。

 そんな日向に本堂は手を貸し、立ち上がらせる。


「あの犬達が、匂いで重狙撃銃型を探ってくれたおかげだ。今回の勝利、あの犬達がいなければ、無かったかもしれんな」


「そうかもしれません。エヴァの気配感知が効かないうえに、”瞬間移動(テレポート)”で逃げ回って、おまけに超遠距離攻撃ですからね。あのワンコたちがいなかったら、はたしてどうなっていたことやら……。ところで本堂さん、”轟雷砲”を撃った腕は大丈夫なんですか?」


「ああ、反動の事か。前にも言ったと思うが、もう俺の腕は”轟雷砲”の反動程度で壊れるような耐久力ではなくなった」


 そう言って本堂は”轟雷砲”を撃った右腕を挙げてみせる。その動作は非常に軽やかで、ヒビ一本さえ入っていないであろうことが窺える。


「本当に全然大丈夫そうですね……。どんだけ頑丈になってるんですか、今の本堂さんの腕」


 ……と、日向と本堂がやり取りを交わしていたところへ、シャオランとエヴァもやって来た。


「なんとか勝てたけど……本番はここからだよね……」


「そうですね。今のはしょせん前哨戦。今日の私たちの本番は、まだこの先にあるのですから」


 そう、この二人の言う通りだ。本来ならこの戦闘は予定外のことだった。今日の六人の本命は今しがた倒した重狙撃銃型のレッドラムではなく、その先に流れるタホ川を越えることなのだから。


 日向たちは車を道路に戻し、再び先へと進む。

 あともう一時間も進めば、タホ川が見えてくるはずだ。


 ……ところが。


 日向たちが車を走らせて四十分もしないうちに、大きな川が……いや、川と呼ぶにはあまりにも大きすぎる水場だ。音を立てて激しく流れている。水の色は青く見えるが、どこか黒ずんでいるようにも見えて、不気味な雰囲気である。


 まず間違いなくあの川もジ・アビスの支配下にあると思っていい。しかし運転席の本堂は、手元の地図と、前方少し遠くに見える青黒い川を見比べている。


 そんな本堂に、後ろの座席から日向が声をかける。


「本堂さん、どうしたんですか? あれがタホ川じゃないんですか?」


「恐らくはそうなのだろうが……見えてくるのがあまりにも早すぎる。そしてタホ川は、あんな巨大な河ではないはずなのだが」


「ええと、それじゃあ、考えられる可能性としては……」


「あれがタホ川だと仮定するのならば、恐らくはジ・アビスの能力によって増水しているのだろうな。しかしあの規模……もはや洪水だぞ」


 本堂の言う通り、あの川の規模は異常である。アマゾン川もかくやと言うほどの川幅だ。これほど大規模な川は、この地球全体で見てもそうそう無いだろう。


 タホ川はジ・アビスが潜んでいる大西洋に直結している河川だ。これまでの川と比べてもトップクラスでジ・アビスの影響力を受けやすい位置にある川だと言っていい。そこまでは日向たちも予測してはいたが、これほどまでに川の規模を捻じ曲げるとは流石(さすが)に予想外だった。


 こうなると問題になってくるのは、どうやってこの巨大な川を渡ろうか、ということだ。ここまでの規模の川となると、もうエヴァの能力で川全体を凍らせるということも難しい。エブロ川の時の渡河作戦の延長くらいに考えていた日向たちは、作戦の立て直しを余儀なくされる。


 まだ日向たちが近づいていることに気づいていないのか、タホ川からは何の動きもない。今のうちに日向たちは、どうやってこの川を越えるか考えなければならない。

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