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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1146話 マンホールの中の駆け引き

 ジ・アビスの水の腕が、北園をマンホールの中へ引きずり込んでしまった。本堂がいち早くそれに反応し、北園を救出するために水の腕を追う。


 水の腕が北園を捕まえるのとほぼ同時に動き出した本堂。狭いマンホールの穴に向かって、何のためらいもなくダイブする。落下の最中に身体が壁にぶつからないよう、前へ伸ばした両腕の指先から足のつま先に至るまでまっすぐピンと張る。


 すぐ目の前には、水の腕に引きずり込まれている北園の姿。

 水の腕が北園を引きずり込む速度と、本堂の落下速度は、ちょうど同じくらい。

 あともう少しのところで、追い付けない。


 すると本堂は、左腕を引き絞って突き出した。

 それと同時に、彼の左腕から触手のようなものが複数生えて、北園へと伸びる。


「血管を改造して作った触手だ。届け……!」


 祈るように(つぶや)く本堂。その祈りが届いたか、指ほどの太さの細めの触手が、北園を捕まえている水の腕に絡みつく。水の腕を捕まえた。


 本堂はそのまま、右手と両足を躊躇(ちゅうちょ)なく壁に押し当て、落下のブレーキをかける。ブレーキをかけながら、水の腕が北園を引きずり込まないように踏ん張る。靴を履いている足はともかく、素手の右手がどんどんすりおろされて傷ついていく。


 右手のダメージという代償は負ったが、本堂はどうにか北園が引きずり込まれるのを食い止めることができた。


 だがしかし、水の腕はまだ北園を捕まえたままだ。そして水の腕と本堂のパワーは拮抗している。これ以上は北園を引きずり込まれはしないが、水の腕から北園を奪い返すこともできない。


 マンホールの穴の下では下水道いっぱいに水が流れている。しかもこの水、流れが非常に速い。これに北園が引きずり込まれたら、もう助ける手立ては無いだろう。絶対に彼女を奪われるわけにはいかない。


「このままスタミナ勝負になれば、不利なのは恐らく俺の方だな……。この体勢では、北園ごと俺の身体を引っ張り上げるのが難しい。俺ごと落ちないように耐えるのが精いっぱいだ」


 本堂ほどの能力と頭脳をもってしても、この状況を(くつがえ)すのは極めて難しい。冷静な彼の額にも、だんだんと嫌な汗がにじみ始める。


 先ほど本堂が水の腕に捕まった時は、身体から放電することで水の腕を振りほどくことができた。それと同じように、北園を捕まえている水の腕に電撃を浴びせてやれば、水の腕を撃退して北園を救出することができるだろう。


 しかしそれは同時に、水の腕に捕まっている北園をも電気で焼いてしまうことを意味する。おまけに彼女の身体は、水の腕に捕まってしまったことで濡れている。電気のダメージもさらに跳ね上がってしまうだろう。


「あの水の腕、電気にこそ弱いようだが、それでもそれなりの電力を浴びせてやらねば倒しきれない。それを実行したとしても、北園が無事で済むとは思えん……」


 ならば、他の仲間たちが助けに来てくれるまで、こうやって耐え続けるか。


 それも少し難しいところがある。何しろ、この狭いマンホールの穴の中だ。仲間たちにここまで来てもらって引っ張り上げてもらう、というのはクレーン車でも用意しない限り無理な話だ。地上の仲間たちでも、今の本堂たちを手助けできる手段は限られている。


 不安定な体勢により、本堂も徐々に消耗してきた。

 触手でホールドしている北園ごと、本堂の身体が少しずつ下へと引っ張られ始める。


 北園も、黙って水の腕に捕まってはいない。

 自分の行動でこの窮地を切り抜けることができないか、必死に方法を模索している。


「空中滑空はもうやってる……。でも、この水の腕は放してくれない。もともとパワーのある腕だったけど、特に引きずり込む力が半端じゃない……!」


 また、北園の超能力は手のひらから発動するが、今の彼女は両腕を拘束されている。ここで”発火能力(パイロキネシス)”や”電撃能力(ボルテージ)”を使えば北園自身もダメージを受けることになる。”凍結能力(フリージング)”を使おうものなら、触手を伸ばしている本堂をも凍らせてしまうことになる。


「でも、もうこの状況をどうにかするには自爆戦法しかないよね……!」


 そう言って、北園は決意した。

 多少のダメージを受けるのは覚悟の上で、この水の腕を振り払うことを。


「日向くんの『太陽の牙』の炎でもない限り、ただ水に火をぶつけても火力が落ちちゃうだろうから……ここは電撃が正解だよね。というわけで本堂さん! 私、今から電撃を出して水の腕を振り払います!」


「何……!? 馬鹿な、お前まで電気に焼かれるぞ北園!」


「覚悟の上です! もともと私が油断して捕まっちゃったから、こうして本堂さんにも迷惑かけてるから……!」


「落ち着け! この水の腕を振り払う電力となると、最悪の場合、電気のショックでお前の心臓が止まりかねんぞ!」


「その場合は、後で本堂さんが蘇生してくれたら……」


「無論、最善は尽くすが、それでも確実に蘇生できるとは限らん。賭けのチップには重すぎる……!」


「でも……それじゃあどうすれば……」


 北園に問われて、本堂は困ったような表情を見せた。

 代わりにどうすれば良いのか、まだ彼も考え付いていない。


 ……しかし、その時だった。


「二人とも! その心配は無さそうだよ!」


 声と共に、誰かがこのマンホール内に降りてきた。

 やって来たのはシャオランだ。手に何かを持って本堂のもとにやって来た。


「シャオラン……! 来てくれて嬉しいが、この状況をどうにかできるのか……?」


「た、たぶん! あとはヒューガ次第かな!」


「日向が……?」


 シャオランが持ってきたのは、どうやらフック付きのワイヤーのようだ。それを左手で持ち、右手で本堂の足を掴み、左手に持っているワイヤーをくいくいと引っ張る。


 くいくいと引っ張ったのは、地上にいる仲間たちに「本堂たちを確保した」という合図。ワイヤーを握っていた日影がこの合図を受け取り、車の運転席に座る日向に声をかける。


「日向ッ! シャオランが本堂たちを確保した! 車を動かせ! 川の方はエヴァが見張ってるから、テメェは遠慮なくやれ!」


「分かった! それにしても、スタッドレスタイヤと一緒に、このワイヤーウインチも持ってきておいて大正解だった!」


 日影の声を聞いた日向が車のアクセルを踏む。車は現在、荷室が解放された状態でマンホールに背を向けている。そして車の荷室には先ほど日向が言及したワイヤーウインチが取り付けられており、その先端はマンホールの中へと続いている。先ほどシャオランが持っていたワイヤー付きフックがそれだ。


 車がワイヤーを引っ張ることで、そのワイヤーの先端を持っているシャオランが引っ張り上げられる。シャオランが掴んでいる本堂も引っ張り上げられ、その本堂がホールドしている北園も引っ張り上げられる。


 さすがのジ・アビスの水の腕も、本堂の怪力に加えて自動車の馬力まで合わされば、もう耐えられない。パワー負けして逆に引っ張られる。


 それでも水の腕は、北園を放さない。いくら引っ張られても水の腕は千切れず、まるで(もち)のように一緒に伸びていく。


 やがてシャオランが地上に引っ張り上げられ、次いで本堂、それから北園も地上へ姿を現した。そしていまだに北園を捕まえている水の腕も。


 その水の腕の手首を、日影がすかさず『太陽の牙』で切り裂いた。


「しつけぇんだよッ!!」


 本気の怒り声と共に繰り出された横斬り。

 水の腕は切断され、ようやく北園が解放された。


「よし! キタゾノ救出成功!」


「皆、早く車に乗って! また襲われる前に、さっさとここから離れよう!」


 運転席から日向が声をかける。

 仲間たちも急いで車に乗り込んだ。

 消耗している本堂と北園は、シャオランと日影が支えながら。


 仲間の五人全員が車に乗り込んだことを確認した日向は、すぐに車を走らせる。


 ジ・アビスの水の腕は、それ以上は日向たちを追撃しては来なかった。

 恐るべき不意打ちだったが、日向たちはどうにか切り抜けることができたようだ。

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