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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1145話 忍び寄る魔の手

 日向が運転する車はどうにかテルセール・ミレニオ橋を渡り切り、浸水していないエリアまで移動することができた。北園と日影も車の近くにいる。


 あと川を渡り切れていないのは、本堂とシャオラン。

 道を塞ぐ水の腕を相手していたら、すっかり遅れてしまった。


「エヴァが凍り付かせていた川の水も、既にほぼ砕かれて水面が露出してしまっているな。俺達も急いで離脱した方が良い」


「そ、そうだね! ジ・アビスの腕が出てくる前に!」


 言葉を交わし、本堂は”迅雷”で、シャオランは風の練気法の”順風”と”飛脚”で、それぞれ一直線に駆ける。その速度たるや、下手な乗用車よりよっぽど速い。ヨットのように水しぶきを上げて移動している。


 途中で二人の前方に水の腕が複数出現。五本の指先に力を込めて、掴みかかるような形状で襲い掛かってくる。


 本堂とシャオランの二人は、これに素早く反応。

 本堂は右腕の刃で水の腕を迎え撃ち、斬り捨てていく。

 シャオランは手の甲や(ひじ)を使って、水の腕を巧みにいなしていく。


 あともう少しで、この二人も安全地帯への移動が完了する。


 ……だがその時、本堂の足元の氷が壊され、氷の下から複数の水の腕が伸びてきた。伸びてきた水の腕は、あっという間に本堂を捕まえてしまう。


「む……!」


「ほ、ホンドー!?」


 水の腕に捕まり、本堂が転倒する。

 そのまま水の腕は、本堂を川の中へ引きずり込もうとする。


 ジ・アビスの水に落ちたら最後、浮上することはできなくなる。

 日影の”オーバーヒート”のような規格外の推進力でもない限り。


 転倒した本堂は、とっさに地面を掴んで踏ん張ろうとした。だがしかし、いま本堂がいるのは凍った水の上。これではいくらしがみつこうとしても、指が滑ってしまってまったく踏ん張れない。


 ……と思われたが。

 本堂は氷をしっかりと掴んで、水の腕の引きずり込みに耐えていた。


 よく見れば、今の本堂の指の爪は人間の時よりずっと鋭くなっている。この鋭い爪を氷に食い込ませることで、氷を掴んでも滑らずに済んだのだ。


「肉体改造の能力に感謝だな。では、放電……!」


 本堂の身体から強烈な電気が流れ、本堂を捕まえていた水の腕も巻き込まれた。水の腕は飛沫(しぶき)と共に爆散し、沈黙した。


 それから本堂は立ち上がり、再び移動を開始。

 すぐ近くにはシャオランがいて、彼を取り囲む水の腕と戦っていた。

 本堂に余計な邪魔が入らぬよう、援護してくれていたのだろう。


 本堂は電気を(まと)いながら突撃し、シャオランを取り囲む水の腕を横から蹴散らした。


「ホンドー! よかった、なんとか逃げ切れたんだね!」


「ああ。待ってもらってすまないな。移動を再開しよう」


「わかった!」


 その後、この二人も無事にジ・アビスが支配するエブロ川を突破。六人全員、車も込みで川を渡り切ることができた。


 水没地帯から距離を取り、もう水の腕も攻撃を仕掛けてこなくなったのを確認してから、日向が車から降りて皆に声をかけた。


「皆、お疲れ。思った以上に大変だったけど、どうにかこうにか突破できてよかったよ」


「日向くんもお疲れさま! 軽く見てたけど、ものすごく運転うまかったよ! 水の腕の攻撃もひょいひょい避けてて、格好良かった!」


「満面の笑みで格好良かったって言ってくれる北園さんがかわいい」


 思わず(ほお)(ゆる)んでしまう日向。

 同時に、今回の戦いも無事に勝てたのだという実感が湧いてくる。


 仲間たちもそれぞれ、思い思いに一息入れている。

 シャオランは車に寄りかかって息を吐き、エヴァは車内で休んでいる。

 日影は油断なく、ジ・アビスが攻撃を仕掛けてこないよう川の方を見張っている。


 そして本堂は、車の状態をチェックしているようだ。

 無表情ではあるが、どこか感心した様子を見せている。


「思いの(ほか)、車の損傷が少ないな。もっと廃車寸前までダメージを受けるかと思っていたが。俺も少し見たが、想像以上に日向の運転が上手かったようだ」


「いやそんな、皆が助けてくれたおかげですよ。そりゃ俺も俺なりに頑張りましたけど、ずっと必死だったので何やったかロクに憶えてないと言いますか」


「思い返すと、アメリカチームと戦った時、日影が初めてバイクに乗ったにもかかわらずプロ並みに乗りこなしていたな。日影がバイクを運転する才能があったように、お前は車を運転する才能があったのでは」


「ど、どうですかね。たしかに俺と日影って色々と対照的なところがあるから、その法則に(のっと)れば違うとも言い切れないのかも……? 俺は全然そんな実感ないんですけど」


「去年の12月にお前が北園とデートしていた時も、ゲームセンターのカーゲームを上手くプレイしていたな」


「ああ、ありましたねそんなこと……って、ちょっと待てなんでアンタがそれ知ってるんだ」


 その時の日向の対戦相手が実は本堂だったから、なのであるが日向はそれを知らない。そして本堂も言うだけ言ってそっぽを向き、知らんぷり。やり取りを隣で見ていた北園が微笑み、和気あいあいとした雰囲気が流れる。


 ……だがその時だった。


 日向たちの近くの道路のマンホールが勢いよく吹っ飛び、マンホールの穴の中から水の腕が出てきて、北園の身体全体を鷲掴(わしづか)みにした。


「きゃっ……!?」


 ジ・アビスが街の下に張り巡らされた下水道を通して、川から水の腕をここまで伸ばしてきたのだ。あまりに突然の奇襲に、北園は困惑の声を上げることだけしかできなかった。


 そして水の腕は北園を捕まえると、彼女を捕まえたままマンホールの中に引っ込んでしまった。


 この一連の出来事、ひどくあっという間だった。くつろいでいたシャオランやエヴァが何の反応もできなかったのはもちろんのこと、川の方を警戒していた日影は北園の方を振り返ることさえ間に合わず、目の前で北園をかっさらわれた日向も手を伸ばす間すらなかった。


 しかし、そんな中。

 本堂だけはいち早く反応し、北園を追いかけてマンホールの中へ飛び込んだ。


「北園……!」

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