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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1144話 手厚い歓迎

 引き続き、エブロ川の渡河作戦。


 日向が運転する車がテルセール・ミレニオ橋を渡り始めた。独特なアーチが特徴的な大橋である。橋の上は街中と違って水浸しにはなっていないので、地面から水の腕が出現することもない。


「橋の向こう側に渡るまで、しばらくは安全に進めそうかな……」


 アクセルを踏み、ハンドルを握りながら、日向がそう呟いた。ちなみに彼の後ろ、真ん中の後部座席にはエヴァがいる。


 だがしかし、橋の両隣の凍り付いた川から、川の氷を粉砕して水の腕が次々と出現。まるで街路樹のように立ち並ぶ。先ほどの日向の希望的観測に満ちた発言を完全否定するかのごとく。


「手厚い歓迎ですね日向」


「上手いこと言ったつもりか!」


 とにかく、このままではまずい。この立ち並ぶ水の腕が一斉に車に攻撃を仕掛けてきたら、車はひとたまりもないだろう。水の腕たちをどうにかしなければならない。


「エヴァ! またさっきみたいに派手に吹雪を巻き起こして、この腕たちを凍らせることはできるか!?」


「敵との距離が近いです。この車まで巻き込むことになりますよ?」


「かと言って、あの数の腕を放置するわけにもいかない! 頼む!」


「分かりました、そう言うのであれば。”フィンブルの冬”!!」


 エヴァが能力を発動。車の後ろから、車を巻き込んで追い抜くように猛吹雪が吹き(すさ)ぶ。車体や窓ガラスが真っ白に凍り付いていく。道路とタイヤまで凍り付き、さすがのスタッドレスタイヤといえどスリップしそうになるが、日向がうまくハンドルを回して持ちこたえた。


 吹雪はそのまま、車の前方にて待ち構えている水の腕の群れも巻き込んだ。水の腕たちの手のひらや手首、上腕や関節部分が凍結していく。


 エヴァの吹雪に巻き込まれて、多くの水の腕は凍ってまともに動かなくなった。だがしかし、あまり吹雪に巻き込まれずに済んで生き残った水の腕もいる。


「だいぶ壊滅させてくれたけど、まだ水の腕は残ってるな……」


「一度止まって、殲滅してから進みますか?」


「残念だけど、そんな暇はない。このまま突っ切るぞ。エヴァ、援護頼む!」


「分かりました……!」


 日向がアクセル全開。

 右前方の水の腕が、五本の指から水流レーザーを放ってきた。

 水流レーザーは橋の表面を削りながら、車へと迫ってくる。


 日向はハンドルを右に切って、水流レーザーを回避した。

 だが次は、左前方の水の腕が同じく水流レーザーを放つ。


「あっぶなぁ!?」


 ギリギリのところでハンドルを左に切って、日向は二回目の水流レーザーも回避。ここでエヴァが空から雷を降らせ、先ほど水流レーザーを放ってきた二本の水の腕を撃破。


 橋の右側の水の腕が動き、日向たちの車を叩き潰しにかかる。

 日向はさらにアクセルを踏み込み、急にスピードアップ。

 水の腕の叩きつけをくぐり抜け、回避した。


 ここでようやく、橋を囲む水の腕の群れを抜けた。

 ここから橋は下り坂になり、向こう岸へと降りる道となる。


「どうにか突破したか……。よし、最後の関門だ……」


 橋の向こう岸もまた水浸しになっている。今はエヴァの最初の吹雪によって街の水も凍り付いているが、最初と同じようにジ・アビスの水の腕は氷を砕いて襲い掛かってくるだろう。


 すると、日向の車の前方にて、氷を砕いて水柱が噴き上がった。一発だけではない。あちこちから次々と水柱が発生する。「もしもこれに車が巻き込まれたら、一発で下から突き上げられて横転してしまうだろう」と考えてしまう程度には勢いがある水柱だ。


「ジ・アビスめ、攻め方を変えてきたな。水の腕を作らずに、水をそのまま噴射させることで、『水の腕を作る』っていう余計な工程を省いて手数を増加させているんだ」


「大丈夫なのですか日向? この水柱の発生の激しさ、そう簡単には抜けられそうにありませんが……」


「それでも、止まったら駄目だ。水柱に狙い撃ちされて車をひっくり返されるかもしれない。それ以外にも水流レーザーとか、水に沈めての足止めとか、ジ・アビスがこっちを一気に『持っていける』攻撃は多い……!」


 そう言って日向は、またアクセルを力強く踏む。

 よりいっそう表情を真剣なものにして、ハンドルを握り締める。


 日向は、水柱が噴き上がるタイミングやパターンを一瞬で分析し、安全なルートを割り出した。己の直感に従い、そのルートを突き進む。


 車の近くで、次々と水柱が噴き上がった。

 だがしかし、日向が運転する車はついぞ巻き込まれることはなかった。


「あ、危なかった……」


「日向! 前!」


 エヴァが叫んだ。

 前方の地面の氷を粉砕して、三つの水の腕が螺旋を描いて回転しながら車に襲い掛かってきた。


「どわぁぁぁぁ!?」


 日向、慌ててハンドルを右に切った。

 彼が座る左の運転席の屋根が少し(えぐ)られた。


 屋根こそ抉られたが、損傷はその程度。

 車は特に減速も停止もせず、水の腕が飛び出てきたポイントを通過。


 あと少しだ。

 あともう少しで、この凍った川のエリアを抜けることができる。

 ここさえ抜ければ、ひとまずジ・アビスも日向たちを追っては来れないだろう。


 しかしここで最大の試練。車の前方の地面の氷が大きく破壊され、三階建てビルほどの高さの大波が襲い掛かる。しかもこの大波、左右に非常に大きく広がっている。


「こ、これはやばい、避けきれない……!」


 大波は、日向たちの車を引き付けるようにして、いきなり出現した。これでは日向は急に回避などできないし、エヴァの『星の力』の充填も間に合わない。


 だがそこへ、北園がやって来た。

 空中から飛んできた彼女は、車に襲い掛かろうとしていた大波めがけて特大の冷気弾を撃ち出す。


「えいっ! ”吹雪(ブリザード)”+”凍結能力(フリージング)”!」


 大波と特大冷気弾が激突し、大波の一部が凍り付いた。

 ちょうど日向たちの車の真正面の部分である。


 波の一部が凍らされたことで、日向たちは大波に巻き込まれずに済んだ。しかし波が凍ったということは、今度は反り立つ氷の壁となって日向たちの行く手を阻むということ。


 ……と、そこへ今度は日影もやって来た。

 真上から急降下するように突撃して、氷の壁を破壊した。


「どるぁぁぁッ!!」


 氷を破壊し、再び飛び立つ日影。

 これで、車が通るための氷壁の抜け穴が作り出された。

 車はこの抜け穴を通過して、見事に大波を突破した。


 そしてついに車が、凍り付いた川の上から降りた。

 日向とエヴァは見事に、このジ・アビスが支配する川を渡り切ったのである。

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