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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1140話 苦手なものこそ楽しもう

 エヴァの水泳特訓は一日中続いた。


 水中歩行、簡単な泳ぎ、潜水などを一通りこなしていくにつれて、エヴァも最初ほど水に対して取り乱なくなってきた。まだ緊張気味ではあるが、正気さえ保てなくなっていた最初と比べれば遥かにマシである。


 このプールには、浅いところと深いところがある。急に深いところに足を踏み入れて沈んでしまった時、エヴァはやはりひどく慌てふためいた。しかし、やはりある程度は水に慣れてきたおかげか、ガロンヌ河で溺れた時ほどパニックにはならなかった。


「み、水怖い。でも落ち着いて浮上しないと助からない……」


「そうそうその調子! リラックスだよエヴァちゃん! 落ち着いて浮き上がればだいじょうぶだからね!」


 それなりにエヴァが水に慣れてきたところで、今度は簡単な泳ぎを教えてみる。バタ足やクロール、平泳ぎから犬かきまで、彼女に合いそうな泳ぎを片っ端から試してみる。


 するとエヴァは、教えた泳ぎ方を全てほぼ完璧に覚えてしまった。まだぎこちない部分はあるが、先ほどまでまともに泳ぐことなどできなかったとは思えないくらいの完成度である。恐らくは、大自然の中を生きてきた彼女の身体能力の賜物だろう。


 泳ぎ方を教え、次に北園はホテルの売店からビーチボールを拝借してきた。これを使ってエヴァと遊ぶつもりだ。


「落とした方が負けだからねー! そーれ!」


「わ、と、と……。水が邪魔して動きにくいですね……」


「でもうまいよー! 今度はちょっと強めに! そりゃー!」


「ま、負けません……えいっ!」


 元より負けず嫌いな一面もあるエヴァ。北園に負けないようにと、張り切ってビーチボールを叩き飛ばす。


 やがて北園は、一緒にプールに入っていた日向やシャオランまで誘って、四人でビーチバレーをプレイ。


「はい日向くん!」


「ほいシャオラン」


「エヴァ、いくよ!」


「とと……。えっと、日向!」


「ほいシャオラン」


「キタゾノ!」


「エヴァちゃん!」


「シャオラン……!」


「ヒューガ!」


「ほいシャオラン」


「返ってきた!? えっと、エヴァ!」


「日向っ!」


「北園さん……と見せかけてシャオラン」


「ねぇもしかしなくてもさっきからボクばっかり狙ってるでしょおおお!?」


「ふふ……これは賑やかな遊びですね」


 三人に負けないようにという気持ち。そして夢中になるほどの楽しい雰囲気。気が付けばエヴァは、昔からそうしていたかのように、ボールを追って水の中で飛んだり跳ねたりしていた。


 ここで日向たちのチームが日影たちのチームと交代。

 日向とシャオランがレッドラムの襲撃を警戒。

 日影と本堂が泳ぎの練習を行なう。


「プール上がり直後で、今は11月。『再生の炎』で自動的に身体が温められる俺はともかく、シャオランは寒くない?」


「寒いに決まってるでしょおおお……! ヒューガ、火を焚いてぇぇ……!」


「オレたちは模擬戦でもしとくか本堂。相手してくれ」


「承った。この水かきと背びれ胸びれを完備した水中戦特化本堂が相手になろう」


「マジで水かきと背びれ胸びれ完備してやがる……なんだそれ……」


「”生命(ライフメイカー)”の身体改造能力だ」


 そして北園は、エヴァのためにまた新しい遊具を準備したようだ。空気を入れて水の上に浮かべることができる大きなアザラシの浮き具である。


「エヴァちゃん、今度はこれに乗ってみて。しっかりバランスを取らないとひっくり返っちゃうよ」


「分かりました。これは……意外と難しいですね……」


「でもしっかり乗れてるじゃん! すごいよエヴァちゃん、さすがの運動神経!」


 ふらふらとしながらも、アザラシの浮き具にしっかりとしがみつくエヴァ。緊張した表情でバランスを取っている。


 ……と、そこへ本堂が水中から接近。

 エヴァが乗っていたアザラシの浮き具を下からひっくり返した。


「サメの襲撃」


「きゃ……!?」


 アザラシの浮き具はひっくり返り、エヴァも落下。

 しかもここは、彼女の足が届かないくらいに深い場所。


 しかしエヴァは、慌てながらもしっかりと体勢を整え、浮上して水面から顔を出して見せた。


「な、何するんですか仁! 不服どころじゃないですよ!」


「おお、エヴァ、普通に泳げているな。凄まじい上達ぶりだ」


「はい? あ……本当ですね……。私、泳げています……」


「長く水に慣れ親しんだことで、恐怖心も薄れてきたか」


「そ、それでもまだどきどきしますが……。いやそれより! 危ないので私を落とさないでください!」


「お前の成長具合を確かめたかった。許せ」


「許しません!」


「悲しいな」


 エヴァは怒って、泳いで本堂を追いかけ始める。しかし本堂は水中の環境に適応させた肉体を駆使し、驚くべき速度でエヴァから逃げてしまう。


 そんな二人の様子を、北園と日影が離れた場所から見ていた。


「本堂の奴、いきなりオレとの模擬戦を中断して何しに行ったかと思えば、何してるんだ本当に……」


「あはは……。本堂さんなりに、エヴァちゃんのことを心配してたのかもね」


「それはそうと北園、すげぇじゃねぇか。つい数時間前まで水に触ることさえビクついていたエヴァが、今じゃ普通に泳いでやがる。名コーチだな」


「えへへ~、ほめられた」


「ビーチボールを使ったりアザラシの浮き具を使ったり、よく考えたな。あれのおかげでエヴァも楽しむことができて、いつの間にか水が何ともなくなったって感じだったぜ」


「あれはねー、狭山さんのやり方を思い出したんだ。狭山さん、私たちの苦手な教科とか訓練とかを教えてくれる時、苦手なものこそ楽しめるように、面白いって思ってもらえるようにって色々と工夫してくれたから」


「そういやそうだったな。苦手意識をなくすため、楽しんで学習してもらうっていうのがアイツのやり方だった。けどそれにしたって、お前の腕も大したもんだよ。教師の才能とかあるんじゃねぇか?」


「先生かぁ……! いいね、楽しそう! 将来の夢の候補に入れちゃおう!」


「将来の夢を安心してまっとうできる世界にするためにも、勝たねぇとな」


「うんっ、そうだね!」


 笑顔で返事をする北園を見て、日影も彼らしからぬ(おだ)やかな微笑みを見せた。

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