表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
1165/1700

第1134話 底からの脱出劇

 日向が、このジ・アビスに支配されたガロンヌ河の水底から脱出する方法を考え付いたようだ。


 まだ日向たちの酸素には多少の余裕があるが、エヴァが危ない。彼女はパニックを起こしてロクに酸素を吸えずに沈んでしまった結果、もう酸欠になって溺れてしまっている。


(この方法を実行するためには、まず北園さんの協力を得ないと。でも水の中だからな……こっちの言うことが上手く伝わるといいんだけど。俺たちの絆が今、試される……!)


 時間がない。素早く行動しなければ。

 まず日向は、エヴァを必死に起こそうとしている北園の肩を叩く。


(ん!? どうしたの、日向くん!?)


 北園が”精神感応(テレパシー)”で、肩を叩いてきた日向に返事をした。

 日向は両手を前に突き出すジェスチャーをしつつ、北園に声をかける。水中なので、その声はひどく(にご)り、とても聞き取りづらい。


「ば、び、ばー……!」


(ばびばー? そのジェスチャーは……あ、バリアー!? 私にバリアーを張れって言ってる!?)


「……! うん! うん!」


 日向の意思が、北園に伝わった。

 日向は嬉しそうに首を縦に振り、北園の言葉を肯定。


(りょーかい! 何をするつもりかはわからないけど、上手くやってね日向くん! このままじゃエヴァちゃんが危ないから……!)


「うん……!」


 日向と北園はエヴァを連れて車の中から脱出。それから日向の指示通り、北園がバリアーを展開。日向が何をするのかは分からないが、念のための全力の”二重展開(ダブルウォール)”だ。


 北園がバリアーを展開したのを見た日向は、次に本堂とシャオランのもとへ行き、彼らに北園のバリアーの後ろに隠れるようジェスチャーで指示。


(本堂さん! シャオラン! 北園さんのバリアーの後ろへ急いで!)


(日向が何やら言いたげなようだが……北園がバリアーを展開しているな。あの後ろに隠れろということか?)


(き、キタゾノのバリアーの後ろに行けばいいの!? それでちゃんと助かるんだよね!? 信じてるよヒューガ!?)


 二人にも日向の伝えたいことが上手く伝わってくれたようで、北園のバリアーの後ろへ行ってくれた。それを見届けながら、日向は皆から離れた場所まで泳いでいく。この河を渡って行こうとした対岸の方向だ。


(ひ、ヒューガどこ行くんだろう……? ひ、ヒカゲみたいに一人で逃げるわけじゃないよね!?)


 日向の行動が読めず、シャオランは心配そうな表情。

 その日向はというと、皆から十分な距離を取ったところで停止した。


(ここまで来たらオーケーかな。北園さんは……良し、ちゃんとバリアーを維持してくれているな。あとはもう、()()()()()()()だけだ!)


 すると日向は、水底を足場にしてしっかりと立ち、『太陽の牙』を頭の上に掲げる。水中の息苦しさをこらえながら、剣に自身の意識を集中させる。


(太陽の牙……”最大火力(ギガイグニート)”ッ!!)


 瞬間。

 日向の『太陽の牙』から、緋色の光の刀身が発生。


 それと同時に尋常ならざる熱波が発生し、日向たちを沈めている水を一瞬で押し返した。日向のすぐ周辺だけでなく、後方にいる北園たちの位置まで熱波が届き、彼女らを沈めていた水も跳ね()けられる。水面の水は爆裂したかのように吹っ飛ばされた。


 それほどの熱量が発生したのだから、当然ながら後方にいた北園たちも、日向の”最大火力(ギガイグニート)”の熱波に(さら)される。しかし、日向たちを沈めていた水と、北園が日向の指示であらかじめ展開していたバリアーが二重の壁となり、日向の熱波を防いでくれた。


 今の日向たちは、周囲の水が押し退けられたことで、河の底にいながら水から脱出できている状態だ。しかし日向の熱波が強烈過ぎて、北園はバリアーを解除できない。本堂とシャオランも迂闊に北園のバリアーの後ろから出ることができないし、ここで日向が”最大火力(ギガイグニート)”を中断すれば、押し退けられた水が容赦なく流れ込んできて、再び日向たちを沈めるだろう。


 ゆえに日向がやるべきことは、北園のバリアーが日向の熱波に焼き尽くされないうちに、さっさとこの『太陽の牙』のエネルギーを前方に向けてぶっ放すこと。


「太陽の牙……”星殺閃光(バスタードノヴァ)”ッ!!」


 水から脱し、発することができるようになった声で高らかに叫び、日向は前方の対岸に向けて剣を振り下ろす。長大な緋色の光の刀身から灼熱の閃光が一直線に放たれ、対岸に直撃した。


 日向が放った”星殺閃光(バスタードノヴァ)”は、対岸をどんどん溶解させて掘り進めていく。途中に民家などの建物があったが、お構いなしに巻き込んでしまった。あの家に人がいないことを祈るばかりだ。


 そして日向の閃光は、大地を100メートルほどUの字状に焼きくり抜いた。あまりにも強烈な光線で焼かれたことで、くり抜かれた土の表面がマグマとなって煮えたぎっている。


 すると、新しい道ができあがったことで、日向の閃光によってくり抜かれた水路に河の水が一気に流れ込む。マグマとなっている土の表面を急激に冷却しながらだ。


 日向たちもこの水の流れに巻き込まれ、新しい水路の方へウォータースライダーのように流される。


「うおおおお!?」

「わわわわわ!?」

「ぬ……!?」

「ひゃああああああ!?」


 声を上げて流されていく日向たち。

 ちなみにエヴァは、北園がしっかりと抱きかかえている。


 水路への水の流れに巻き込まれはしたものの、まだ日向たちを巻き込んでいる水は浅い。今ならば日向たちを沈めようとする水を振り払い、河底から脱出できるかもしれない。


「皆、今だ! それぞれ脱出を!」


 流されながら、日向が皆に声をかける。

 北園はエヴァを抱えながら空を飛び、どうにか避難完了。

 本堂は水路の端まで走り、そこから一気に上まで駆け上がった。

 シャオランは空の練気法”飛脚”で、空中ジャンプで脱出した。


 あと脱出できていないのは日向のみ。だが日向は、先ほどの三人のように、この水の流れから脱出するのに適した技を持っていない。


「こ、これがこの作戦の一番の賭けの部分なんだよな……。どうやって脱出しようかな俺は……!」


 最大の問題に直面し、焦りの表情を見せる日向。この方法で仲間たちは助けることはできると考えてはいたが、この最後の場面で自分が確実に助かる方法については何も思いついていなかった。


 しかし、ここで左の岸から、日向に向かって、ロープ付きの浮き輪が投げ込まれた。先に河から脱出していた日影が投げ込んできたようだ。


「日向ッ! 掴まりやがれ!」


「うおおナイス! マジで助かる!」


 日向が浮き輪をキャッチし、さっそく日影が引っ張り上げる。

 だが、流れ込んできた水流から水の腕が出てきて、引っ張り上げられている日向を捕まえてしまう。再び日向を水の底へ引きずり込む気だ。


「や、やばぁぁ!? 日影頑張って! ファイト! 助けて!」


「わ、分かってるっつうの……! だが、クソ……引きずり込むパワーがすげぇぜ……! 水の腕のパワーだけじゃねぇ、オレたちを水の中で押さえつけていた重力も、日向を引っ張ってやがるな……!」


「そ、そんなこと言って、わざと俺を沈めようとしているワケじゃないよな!?」


「んなワケねーだろアホッ! この状況でボケる奴があるかッ!」


「ヒカゲ! 手伝うよ!」


「俺も手を貸そう……!」


「シャオラン! 本堂! 助かるぜ、頼んだ!」


 本堂とシャオランもやって来て、日影と一緒に日向を引っ張る。シャオランの怪力は語るに及ばず、今は異形と成っている本堂も、大型トラックを素手で浮かせるほどのパワーを有している。


「はぁぁぁ……ッ!!」

「ぬうう……!!」

「うおりゃああああッ!!」


 やがて日向は、一本釣りされたカツオのごとく、水の中から勢いよく引き上げられた。


「た、助かった……けど、思ったより勢いよく引っ張り上げられたぞ。そのまま俺は宙を舞って、成す術なく落下して……ぐぇぇ!?」


「あ、ヒューガが茂みの中に落ちた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ