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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1133話 水底に沈む

 ジ・アビスが支配している河を凍らせて渡ろうとした日向たちだったが、逆に誘い込まれてワゴン車ごと河の中に落とされてしまった。


 落下の衝撃でワゴン車のフロントガラスは粉々に割れた。

 すでにワゴン車は車体全体が水の中に引き込まれてしまっている。

 沈没しながら、ワゴン車の中に大量の水が流れ込んでくる。


「お、おいどうするんだこれ! このままじゃオレたち全員、マジで水没だぞ!」


「というか、もう水没しちゃってるんだよな! ほらもう車が河の底に着地しちゃったもん!」


「ジ・アビスの水の中に沈んじゃったら、もう浮かび上がれないんだよね!? うわぁぁもうおしまいだぁぁぁ!?」


「どうにもならんな、これは……! 一体どうすれば良い……!?」


 車内の水は、すでに日向たちの胸のあたりまで溜まってしまっている。水かさが増すとそれに比例するように、日向たちのパニックの度合いも高まっていってしまう。ジ・アビスに落ちてしまったらもう終わり、という事実が日向たちから冷静さを剥ぎ取っていく。


 そんな中、(つと)めて冷静さを保っているのは北園。車が吹っ飛ばされたことで想起された過去の交通事故のトラウマを抑え込みながら、隣にいるエヴァに声をかけていた。


「え、エヴァちゃん! あなたの能力ならジ・アビスの水も無効化できるんじゃなかったっけ!? 水の中でも呼吸できるようになるって言ってたよね! お願い、私たちを助けて!」


 ……しかしエヴァは、青い顔をして怯えてしまっていた。北園の言葉も全く耳に入っていない様子である。


「み、水が……水が……! やだ、やだ……怖い……!」


「しっかりしてエヴァちゃん! ゼムリアさんみたいな格好良い女の人になるんでしょ!? 冷静に、冷静に、だよ!」


「ぜ、ゼムリアみたいに……。わ、分かり――」


 ……と、エヴァが少し冷静さを取り戻そうとしてくれた、その瞬間。

 エヴァの隣の窓ガラスが割れて破壊され、さらなる量の水が車内に流れ込んできた。


「わっ……!? ぶ、ごぼっ……!?」


 窓から流れ込んできた水がエヴァに覆いかぶさる。顔にかかった水によって呼吸が(さえぎ)られ、水の中に完全に沈んでしまったと錯覚したエヴァは、さらなるパニックに陥ってしまった。手足をジタバタさせて暴れ始める。


「ぷはっ!? ごほっ!? い、いや! 助けて! 助けてっ!」


「エヴァちゃん、だめ! 落ち着いて! うう……もう全然聞いてくれない……!」


 そしてとうとう、車内は天井まで完全に水に浸かってしまった。


 水の中でも、エヴァは引き続きパニックになったままジタバタしている。おまけに、水に沈む瞬間に肺いっぱいに空気を吸い込むのも忘れており、さっそく息苦しくなっている様子だ。


「ごぼごぼがぼごぼっ……!?」


(エヴァちゃん、しっかりして! 冷静さを取り戻して……!)


 隣で北園が”精神感応(テレパシー)”で呼びかけつつ、エヴァを落ち着かせようと彼女を抑え込んでいる。だがしかし、エヴァは敵に拘束されていると勘違いしているのか、必死に北園を振りほどこうとしている。


 日影や本堂、それからシャオランはどうにか冷静さを取り戻し、ひとまず車の外に出る。それから水面へ浮上しようと試みるが、やはり身体が浮かび上がらない。


(む……やはり無理か……! 俺の強化された身体能力でも、全く浮き上がらんとは……!)


(パリでミシェルから『マモノが水の中に引き込まれた話』を聞いて、二度と浮かび上がれないっていうのは、てっきり水中であの水の腕がボクたちを引きずり込んでいる感じなのかと思ったけど、これは違うな……。ボクたちを浮上させないように、上から重力で押さえつけられているような感じだ……!)


(クソ……! だったら、オレを押さえつけるよりもさらに強いパワーで無理やり浮き上がるってのはどうだ!? 再生の炎……”我が身を食らえ(オーバーヒート)”ッ!!)


 日影が水中でオーバーヒートを発動。

 水の中だろうと、青白い業火はお構いなしに彼の身体を包み込む。


 そして、ジェットエンジンのように勢い良く燃える炎が推進力を生み出し、日影は一気に浮上。河の水面から飛び出した。


「お……!? だ、脱出できた! 海ほどは深くない河だったから、押さえつけの力も弱かったのか? しかし……ここからオレはどうすれば、まだ水の中にいるアイツらを助けてやれる!? 考えるのは苦手だが、今回ばかりは脳みそフル回転させろオレ……!」


 この局面、どう動くべきか。

 日影は”オーバーヒート”で河の上空に留まったまま、思考を巡らす。


 だが、氷を砕いて露わになった河の表面から、長大な水の腕が幾本も伸びてきて、日影に掴みかかってきた。再び日影を水の中に引きずり込もうというのか。


「ああクソッ! ゆっくり考えさせてくれる暇も与えねぇってのか!」


 悪態をつきながら、日影は水の腕を蹴散らす。この河の規模がパリの街の水没地帯よりも小さいからか、出現する水の腕もパリの時よりか細く、実際に貧弱だ。日影はたやすく水の腕を撃破していく。しかしそのせいで、水の中にいる皆を助けに行くどころではない。


 そしてこうしている間にも、エヴァの酸素が限界に達してしまい、水を飲んでしまった。ひときわ激しく手足をバタつかせたかと思うと、そのままぐったりしてしまう。


「ごぼぼぼっ……!? か……げぼっ……」


(エヴァちゃん!? そ、そんな……! だめ、お願いしっかりして……!)


 北園が必死にエヴァの肩をゆすって意識を取り戻させようとしているが、エヴァは苦しそうな表情で目を閉じ、ぐったりとしたままだ。このままでは命が危ない。


 猶予はもう、ほとんど残されていない。

 はたして、どうすればこの水の地獄から脱出できるのか。


 そんな中、日向が何かを考え付いたような様子を見せた。


(この方法なら、賭けではあるけれど、あるいは……!)

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