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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1132話 渡河作戦

 パリの街を後にした日向たち。

 ミシェルが教えてくれた道に沿って、六人を乗せた電気ワゴン車は走る。


 彼女が教えてくれた道は、フランスとスペインの内陸を通ってポルトガルへ向かうルートだ。大西洋そのものがジ・アビスならば、海や、海の近くの河川に近寄ったら、またあの水の腕に襲われる可能性がある。それを憂慮(ゆうりょ)して提案してくれた。


 ただしフランスの地理上、どうしても一か所、大きな河を横断しなければならない場面がある。フランスの南西部から南部にかけてを大きく横断するように流れるガロンヌ河が存在するためだ。


 ミシェルが提案してくれたのは、フランス南西にある比較的小さな町、サン=マケールとランゴンから河を渡るルートだ。パリからの行きやすさ、先に進むために遠回りしないで済む距離、河の面積の小ささ、諸々を考慮すると、ここが一番マシかもしれないとのことだった。


 その目的のポイントに、日向たちは一日と半日をかけて到着した。

 日向の存在のタイムリミットは、残り29日。


 まずは河の手前の町、サン=マケールに到着した日向たち。閑静な住宅街と広大な田園が特徴的な、いかにもヨーロッパの片田舎という印象の町である。


 さすがに河の近くの町というだけあって、その特徴的な住宅街も田園も、広範囲にわたって浸水してしまっていた。恐らくはジ・アビスの攻撃によるものだろう。


「このぶんでは、この街とその先のランゴンをつなぐ唯一の橋も落とされているだろうな。長らく世話になったこの電気ワゴン車だが、ここに置いていかなければならなくなるだろう」


 車を運転しながら、本堂がそう告げる。

 しかし、それに対して日向が口を開く。


「エヴァの氷の異能で河を凍らせて、車ごと渡っちゃえばいいんじゃないですかね?」


「む、その手があったか。今のエヴァの能力ならそれも可能だろうな。スケールが大き過ぎて逆に考えが及ばなかった」


「ありますよね、そういうの」


 日向の案を採用することにした一行。

 しかしそんな中、シャオランが不安そうな表情をしていた。


「うーん……そんなに簡単にいくかなぁ……? そりゃあエヴァの超規模な異能力あってこそ、そんな無茶苦茶な作戦も実行できるんだけど、仮にも相手は大ボスの『星殺し』なんでしょ? 凍らせるだけで無力化できるかな……?」


 そうつぶやくシャオランに、北園が声をかける。


「でもパリの街じゃ、エヴァちゃんが凍らせてから、水の腕はそれっきり凍ったままで活動しなかったよ? だいじょうぶなんじゃないかな」


「こっちを油断させるための策とか……」


「心配しすぎだよきっと。パパっと渡っちゃえばだいじょうぶ!」


「ああ、これアレだ……。嫌がる子供を何とか安心させようとする、母親の無責任かつ適当なアドバイス……」


「だいじょうぶだと思うけどなぁ」


 さっそく渡河作戦実行開始である。

 まずは水の腕に攻撃されないギリギリの位置まで、車で接近。

 河からおよそ80メートルほど離れた地点。このあたりで良いだろう。


「それでは、始めます。凍えてしまえ……”フィンブルの冬”!」


 エヴァが詠唱と共に能力を発動。

 ガロンヌ河に猛烈な吹雪が吹き付けてきて、河の表面が凍り付いた。


「完了しました」


 エヴァがつぶやく。

 凍り付いた河を見ながら、日影がエヴァに声をかけた。


「さすがの能力だな。ところで、ずっと気になってたんだがよ」


「何でしょう」


「お前のその技名、自分で付けたのか? 人間の文明を知らないにしちゃ、随分と人間文明の神話にあやかってるみてぇだが」


「私ではありません。ゼムリアとヘヴンが付けました」


「ああ、アイツらが。娘に格好良い技名でもプレゼントしようとしたってわけか?」


「もともとはゼムリアが『色々な属性に変換できて応用が利く『星の力』だけど、行動の選択肢が多すぎると迷いが生じることもある。いくらか体系化して攻撃方法を絞りましょう』と提案したのが始まりでした」


「それで体系化されたのが、いま使っている技の数々だな」


「はい。そうしたらヘヴンが『体系化したなら技名も必要じゃねぇか?』と言い出して、そこからあの二人がノリノリで考え始めました。神のごときチカラを振るうのだから、それに見合った技名……というのがコンセプトらしいです」


「ホント親バカだな、あの二人……」


 やり取りもそこそこにして、六人は再び車で出発。河にかけられていた橋は、やはり落とされていたので、予定通り凍った河を渡ることにする。


 車で河に侵入できそうな場所を探して、いざ前進。

 白く凍った河の上を、電気ワゴン車が疾走する。


「こうなってしまったらジ・アビスも文字通り手出しできないだろうな。ふははざまぁ」


 凍った河を車窓から眺めながら、日向がそうつぶやいた。


 ……だが、その時だった。

 ワゴン車の前方にて、凍った河を下から粉砕するように、巨大な水柱が上がった。


「うわわわ!? ちょっ、何だ今の!?」


「ま、まさかジ・アビスが攻撃してきたの!? 凍った河を下から突き上げて破壊しちゃった……!」


「ほらやっぱりボクが言ったとおりじゃんかぁぁぁ!?」


「ああクソ! シャオランがもうちっと強く日向の考えを止めてくれていればなぁ!」


「ぼ、ボクが悪いのぉぉ!?」


 ワゴン車の周囲で、巨大な水柱が次々と噴き上がる。

 水柱が噴き上がるたびに、凍っていた河の表面が破壊されていく。


「このままでは(まず)いな……! 一度、撤退するしかない……!」


「じ、仁! 早く岸まで戻ってください! 早く早くっ!」


 エヴァもいつになく声を張り上げて本堂を()かしている。水に落ちるのが怖いのだろう。本堂もすぐさまサイドブレーキを引き、車をバックさせる用意。


 ……しかし、ちょうど電気ワゴン車の真下で、氷を粉砕して巨大な水柱が噴き上がった。ワゴン車もそれに巻き込まれて宙を舞う。


「や、やだ、やだやだやだ……!」


 エヴァが怯え切った声を上げる。

 そんな彼女の恐怖を意に介さず、無情にも車は真っ逆さまに落ちる。


 そして日向たちが乗っている車は、氷が砕かれて露わになった河の表面に着水。その瞬間に河から大量の水の腕が出てきて、車を水の中に引きずり込んでしまった。

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