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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1127話 水の腕

 フランス、水没したパリの街で、スクーターに乗っていた女性をレッドラムから助けた日向たち。


 しかし、その女性と話をしていた途中で、すぐ側の水に異変が起きる。水面の水がひとりでに、天に向かって伸び始めているのだ。


「な、なんだ? 水が動いてる……?」


「あ、あなたたち、今からでも逃げましょう! たぶんまだ間に合うわ!」


 そう言ってスクーターの女性は、自身のスクーターのサイドスタンドを蹴り上げてアクセルを回し、わき目も振らずにこの場から退散した。


 一方、日向たちはこの場に留まっている。

 今から何が来るのか、皆が直感していた。

 日向は水没した街の方を見ながら、本堂に声をかけた。


「本堂さんは、俺が乗ってきた電気ワゴン車をこの場から退避させてくれませんか? 巻き込まれて大破してしまったらもったいないですから」


「そうだな……。恐らくは激しい戦いになるだろうからな。承った。俺も車の避難を終えたらすぐに合流する」


「分かりました」


 日向の返事を聞くと、本堂はワゴン車の運転席に乗り込み、そのままワゴン車に乗ってこの場から離脱した。


 そして、こうしている間にも、天に向かって伸びている水はさらに高く伸び続けている。相当な大きさだ。エッフェル塔にも並ぶのではないかと思うほどである。


 見上げるほどに高く伸びた水は、変形を始める。

 水の先端部分が大きく広がり、五つほどに枝分かれする。

 そして、人間の手のひらのような形になった。


 形成されたのは、水で作られた巨大な人間の腕と手だ。しかし、たしかにディティールは人間の腕と手に間違いないのだが、妙に痩せ細っているというか、骨ばったデザインだ。まるで幽霊やアンデッドの腕のようにも見える。指の先端には鋭い爪。不気味な造形だ。


 日向が、側にいたエヴァに声をかける。


「エヴァ! こいつは、やっぱり……」


「はい。例の『気配』を感じます。この水の腕が”水害”の星殺し、ジ・アビスです!」


「そうか、やっぱりか! 山みたいに大きかったマカハドマやプルガトリウムと比べると小さいけど、それでもとんでもない大きさだな……!」


「けれど、この気配……変わらないです」


「変わらないって、何が?」


「この街に到着した時も言った通り、この街を沈めている水から感じる気配は、本当にジ・アビスのものか疑わしいうっすらとしたものです。この水の腕からは、その疑わしい気配と同じものを感じます。一方で、ここからはるか西に感じる気配……ジ・アビスのものだと思っていた気配は、今もなお同じ方角から感じます。ここには来ていません」


「つまり、この水の腕はジ・アビスじゃないってことか? あるいは、なぜかジ・アビスと同じ気配を持っている、ジ・アビスのそっくりさん?」


「いえ、どちらかと言うと、これは……」


「ふ、二人とも! もう話をしてる時間はないよ! あの水の腕が襲い掛かってくる!」


 シャオランが声を上げた。

 そして彼の言う通り、水の腕が大きくスナップを利かせた後、日向たちめがけて手のひらを振り下ろしてきた。


 しかし、日向とエヴァもすでに戦闘態勢を整えている。

 二人はそれぞれ、己の手に持つ剣と杖を構え、紅蓮の炎を放った。


「太陽の牙……”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”っ!!」


「焼き尽くせ……”ラグナロクの大火”!!」


 二人が放った炎が水の腕に向かって飛んでいきながら、混ざり合って一つになった。巨大な炎の塊が水の腕と真正面から激突し、大爆炎を巻き起こす。


 炎の塊を受けた水の腕は、大きく()()ってもんどり打つ。だがしかし、すぐに体勢を立て直し、今度は左から右へ平手打ちを繰り出すように、手のひらで薙ぎ払いを繰り出してきた。


 水の腕の薙ぎ払いに次々と家屋が巻き込まれ、粉砕されてしまう。それはまるで津波に押し流されるように。あるいは、机の上に出してあるものを子供が叩き落としてしまうように。


 破壊されて瓦礫(がれき)と化した家を押し流しながら、水の腕が日向たちに迫ってくる。これに対して迎え撃つのは、北園とシャオランとエヴァの三人。


「”雷光一条(サンダーステラ)”っ!!」


「空の練気法、”炎龍”!!」


「射抜け……”シヴァの眼光”!!」


 北園の青い雷の光線と、シャオランの蒼く燃えるようなオーラの奔流、そしてエヴァの緋色の閃光が、それぞれ同時に水の腕に直撃。そのまま三人のエネルギー波と水の腕の押し合いになる。


 押し合いに勝利したのは、北園たち三人。

 三人のエネルギー波が大爆発を起こし、水の腕はそれに押し退()けられる。


 しかし、水の腕はまだまだ健在。

 今度は手のひらを、爪を立てるような形に。

 そして、その指先から高圧水流のレーザーを撃ち出してきた。


 水の腕が放つ高圧水流は凄まじい威力だ。その水圧はもはや切れ味の領域にまで昇華され、道を覆う石畳(いしだたみ)を切り裂いてしまっている。


 北園がバリアーを展開し、仲間たちを水のレーザーから守る。

 そんな中、日影だけが、北園のバリアーが展開される前に飛び出した。


 日影はそのまま前方へ走っていき、その先の手すりに足をかけて跳躍。そして空中で”オーバーヒート”を発動。五本の水のレーザーを()(くぐ)りながら飛行し、水の手のひらのど真ん中に体当たりをぶちかました。


「おるぁぁぁッ!!」


 日影が突っ込んできたことで、水の手のひらが爆散する。

 水の腕自体も大きく()()り、隙が生まれた。


 日影が日向たちのもとに戻ってきて、日向に声をかける。


「今だ日向! ぶちかませッ!」


「よし、任せろ!」


 日影の言葉を受けて、日向が”点火(イグニッション)”を発動。

 本日二回目となる”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”を撃ち出した。


「これでも喰らえぇぇっ!!」


 日向が放った炎の奔流は、水の腕のど真ん中に命中。

 爆炎の衝撃によって、水の腕がくの字に曲がる。


 そして水の腕は、日向の炎に焼かれて黒煙を上げながら、ゆっくりと水の中へ沈んでいった。


「……倒したのか?」


 日向がつぶやく。

 今の水の腕の倒れ方は、間違いなく絶命した時の様子だった。


 だがしかし相手は、仮にも『星殺し』ジ・アビスかもしれないと見なした存在だ。はたして本当にこの程度で終わるのだろうかと、日向たちは嫌な予感を(ぬぐ)えない。


 するとそこへ、車を退避させていた本堂が戻ってきた。


「何やら巨大な水の腕と戦っていたようだが……倒したのか?」


「あ、本堂さん。まぁ、たぶん倒したとは思うんですけど……。なぁエヴァ、さっきの水の腕の気配はどうなった?」


「それが……変化なしです。先ほどの水の腕、たしかに倒した手応えがありましたが、ここら一帯の水から感じる気配はいまだ健在です。はるか西にいるジ・アビスの気配もそのままです」


 ……しかし、その時だった。


 日向たちの前方……水没した街の方から地鳴りのような音が聞こえる。実際に地震が起きているワケではないが、とにかく何らかの轟音が鳴り響き始めた。北園が慌てた様子で声を上げる。


「わわ!? な、なに!? なんかすごい音だよ!?」


「み、みんな! 前見て、前!」


 シャオランがそう言って、前方を指さした。

 前方の水没地帯から、また先ほどの水の腕が生え始めていたのだ。


 だが……今度はその数が尋常ではない。

 海岸線に沿って左右に広がるように、実に五十体ほどの水の腕が生成されていた。

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