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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1125話 災害の傷痕

 あれから日向たち六人は、電気ワゴン車でひたすら西を目指し続けた。


 ロシアの首都、モスクワを通過する。


 ジナイーダ少将の話では、この都市は狭山が直接出てきて破壊したと言っていたが、どうやらその話は嘘ではなさそうだった。街全体が、巨人に叩き潰されてペシャンコにされたかのように崩壊しているのだ。見る影もないとはこのことか。


 ひどい有様の街だったが、それでもわずかに生き残っている人々はいた。日向たちはエヴァの能力で育てた野菜などを彼らに分け与えて、旅を続けた。


 モスクワを通過して、国境を越え、ベラルーシへ。


 この国ではところどころ、超広範囲にわたって氷漬けにされている場所があった。木々も、家も、道も、人々も、何もかもが凍らされていた。恐らくは日向たちが日本で倒したマカハドマの仕業だろう。日本に襲来する前は、このあたりでも暴れ回っていたらしい。


 マカハドマはすでに倒され、そのマカハドマがこの国で暴れ回っていたのも、もう数カ月も前のことだろう。それなのに、この国を凍らせている氷はいまだに溶けていない。恐るべき能力だ。日向たちは改めて、あの時マカハドマに勝てた幸運に感謝する。


 さらに国境を越えてポーランドへ。


 この辺りでは、核ミサイルでも落とされたかのような大規模な破壊跡が目立った。何キロにもわたる大きさの爆心地があって、それを中心として周囲一帯が薙ぎ払われたような痕跡。これはきっと”嵐”の星殺し、ドゥームズデイによるものだろう。


 ドゥームズデイは空を飛ぶことができる。機動力に関しては、これまでに日向たちが見てきた『星殺し』の中でも随一のはずだ。その機動力にモノを言わせて、短時間であちこちを破壊できるということである。


 今もどこかで、ドゥームズデイは街や自然を吹き飛ばしているかもしれない。ミオンたちが外殻調査船を手に入れてくれたら早急に討伐に取りかかろう、と日向たちは決意した。


 生き残りの人々を助け、襲い来るレッドラムを撃破しつつ、旅を続けた日向たち。


 北園はなかなか次の行動の足掛かりになりそうな予知夢を見ることができず、電気ワゴン車以上の移動手段も手に入らない。移動のための日数ばかりが刻々と過ぎ去っていく。


 ポーランドの国境を越えると、今度はドイツへ。


 ここでは、河が氾濫でもしたのだろうか。街全体が水浸しにされて破壊されているような様子であった。大きな河がある街が徹底的に破壊されている。道路全体が小川のような水たまりになっていて、高層ビルも、綺麗な公共施設も、見るも無残な姿に成り果てていた。


 水を使って破壊を行なう『星殺し』は、日向たちはまだ見たことがない。恐らくは”水害”の星殺し、ジ・アビスによるものなのだろう。


 はたしてジ・アビスは、まだこの周辺にいるのだろうか。それともすでに別の地域へと移動してしまっているのだろうか。エヴァが西の方角から感じる『星殺し』の気配は、ジ・アビスのものなのだろうか。


 やがて日向たちはドイツも通過し、フランスにやって来た。

 日向たちは現在、パリの郊外にいる。


 フランスは、ドイツよりもさらに大惨事だった。セーヌ河から(あふ)れ出た水が、パリの街を水没させてしまっていた。信じられない光景だった。


 ちなみに、このフランスに来るまでにかかった日数も相当なものになってしまった。日向の存在のタイムリミットは、ちょうど残り30日である。


「こっちは命がかかってるってのに随分と雑に時間が消し飛んだな! ……いやそれより、このパリの惨状だよ。どうなってるんだよ街が沈んでるって……」


 日向が引き気味に、そうつぶやいた。

 その隣からエヴァも顔を覗かせ、街を沈めている水を見ている。


「ここら一帯の水からも、うっすらとですが『星の力』を感じます。私が察知し、ここまで追ってきていた『星殺し』の気配と同じような感じです」


「水から『星殺し』の気配が? でもエヴァ、お前がもともと察知していた『星殺し』の気配は、まだもっと西の方にいるんだろ? ここに移動してきたのか?」


「いえ……私が察知していた気配は、この三十日間まったく移動してはいません。でも、このあたりの水からも同様の『星殺し』の気配を感じる。それも間違いないのです。西の方の気配と比べると、本当にうっすらとですけど……」


 いまいちエヴァの歯切れが悪い。彼女としても、気配の正体が正確に掴めず、もやもやとした思いをしているのだろう。浮かない表情をしている。


 とはいえ、一つ、ほぼ確定したことがある。


 エヴァは「ここの()から『星殺し』の気配を感じる」と言っている。現在生き残っている『星殺し』の中で、水を操ることを専門としている個体といえば、”水害”の星殺しのジ・アビスだ。そして日向たちがはるばるロシアからここまで追ってきた西方の『星殺し』の気配も、ここの水から感じる気配……ジ・アビスのものと同様だとエヴァは言う。


 つまり、日向たちが追ってきた『星殺し』の気配はジ・アビスのものだったのだろう。次に日向たちが相対するであろう『星殺し』はジ・アビスだ。


 そう考えた日向は、また別の心配事が思い浮かんでしまった。


「薄々、そう来るんじゃないかなとは思っていたけど……。ジ・アビスは海の中に潜んでいるんじゃないか?」


「海の中……です……か……」


 エヴァがいつになく、気まずそうな表情を浮かべた。

 しかし日向はそのエヴァの様子に気づかず、話を続ける。


「ああ。まだジ・アビスがどんな姿をしているかも、能力の全容もまったく分かっていないけれど、少なくともこれは間違いないと思ってる。ジ・アビスはこのヨーロッパ周辺の海や、その海からつながる河川を移動して、水辺の街に水を流し込んで破壊したんだ」


 ジ・アビスは海の中にいる。

 そうなると面倒な話だ。

 日向たちはどうやって、海の中に潜む『星殺し』を倒しに行けばいいのか。


 海軍が所有するような武装潜水艦などの乗り物を使って戦うか。

 それとも日向たちが素潜りして直接ジ・アビスを倒しに行くか。


 潜水艦を使おうにも、日向たちは潜水艦の操縦方法などまったく分からない。素潜りの場合、それはそれで問題だらけだ。水の中は間違いなくジ・アビスの土俵。日向たちはこれ以上ないほどの不利を強いられてしまう。


 あとは、日向が新しく覚えた技”星殺閃光(バスタードノヴァ)”で、水中のジ・アビスを撃ち抜くという方法もあるか。あの技の超火力ならそれも可能なはずだ。潜水艦や素潜りなどに比べれば、この方法のほうがよっぽど現実的だろう。


 ……と、ここで日影が口を開いた。


「ま、ここで悩んでいてもしょうがねぇだろ。詳しい戦略を立てるのは、ジ・アビスのことをもっと知ってからじゃねぇと」


 そう言って、日影はこの話を結論付けた。

 彼の横で北園も首を縦に振っている。


「そうだね。なにせ私たちはまだ、ジ・アビスがどんな見た目なのかもわかっていないしね。どんな姿をしてるんだろう。サメみたいな感じかな? それともクジラ? マカハドマやプルガトリウムは山みたいなサイズだったし、ジ・アビスもすごく大きいかも」


「さて、どうだろうな。ひとまずの目標は、一刻も早くジ・アビスを見つけることだ。ここまでのエヴァの話を統合すると、ジ・アビスがいるのはたぶん北大西洋ってところか。オレたちはこれからスペインを横断して、ポルトガルに入って、このヨーロッパの一番端っこを目指さなくちゃならねぇ」


 その日影の言葉を聞いて、日向がどんよりとした表情を見せた。


「半分以上は来たんだろうけど、まだまだ先は長いなぁ……。俺のタイムリミット、保つかな……」


「が、がんばろう日向くん! 運転係の本堂さんもヨーロッパの道路にすごく慣れてきてるし、この調子を維持しつつ急いで行けば、たぶん十日くらいでいけるはず!」


「そうだな……行くしかない。それに、逆転の目は一応ある。スピカさんとミオンさんが飛空艇を……アーリアの外殻調査船を手に入れてくれれば、俺たちは空を飛んで移動する手段を入手できる。ジ・アビスを倒した後でタイムリミットが20日くらいになっても、あの乗り物があれば残りの『星殺し』を探すのも格段に楽になるはずだ」


 その日向の言葉に、北園と日影もうなずいた。

 一方で、エヴァはまだ気まずそうな表情をしていた。


「海……ですか……そうですか……」


 ……しかし、その時だった。

 急にシャオランが声を上げた。


「ちょっと待って……。声が聞こえる。バイクのエンジン音も。誰かがレッドラムに襲われて助けを求めてるっぽい!」


「俺も聞こえたぞ。彼方(あちら)だな」


 シャオランの声に、本堂も反応。

 どうやら二人は、生存者が襲われて助けを求めている声を聞き取ったらしい。


「どうする、日向くん?」


「決まってる。先は急ぎたいけれど、助けないわけにはいかないよ」


「だよね! よーし、がんばろー!」


「車で移動するより、皆それぞれの能力で急行してもらった方がたぶん早いな。というわけで皆、全速力で生存者のもとへ!」


「りょーかい!」

「承った」

「わかった!」

「よっしゃ」

「分かりました」


 日向の号令に返事をして、まずは北園が空を飛んで行った。日影も日向たちから距離を取り、そこから”オーバーヒート”で空を駆ける。本堂、シャオラン、エヴァの三人は、人間とは思えない速度で猛ダッシュを開始し、あっという間に姿が見えなくなった。


 この場に取り残されたのは、日向だけ。


「……うん。そういえば、この六人で移動速度が常人と変わらないの、俺だけだったね……。よし、車で行くか」


 そう言って日向は電気ワゴン車に乗り込み、運転を開始。完全なる無免許運転であり、日向も少し気が引けたが、それを取り締まってくれる大人や警察はもういない。


「俺も多くの男子のご多分に漏れず、車はそこそこ好きだからな。運転のやり方くらいは知ってるぞ。けど……うぉぉぉ、やっぱりゲームとは勝手が違う気がするなぁ……!」


 電気ワゴン車はフラフラと走行しながら、先に行った五人を追いかけ始めた。

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