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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1124話 一方その頃のミオンとスピカ

 日にちは少し(さかのぼ)り、日向たちがロシアのホログラート基地を出発した時くらい。


 ここインドの山林地帯に、シャオランの師匠であるミオンの姿があった。彼女の頭の近くには、幽霊となっているスピカも浮遊している。


 彼女たちは日向に頼まれて、このインドの自然公園内にあるアーリアの民の外殻調査船を手に入れるためにやって来た。彼女がいる場所は、すでに外殻調査船が発見された場所の近く。中国で日向たちと別れてから、ざっと15日ほどでここまで到着したことになる。


 木々が生い茂る道を歩きながら、ミオンが口を開く。


「思いのほか、到着に時間がかかっちゃったわね~。襲ってくるレッドラムと戦わないといけなかったし、途中の町で調査船の修理に使えそうな工具も調達してきたし。あとは、スピカちゃんのスピードにも合わせないといけなかったし~」


「むむむ。ワタシだって、あれでも全力でついて来てたんですからねー? だいたいおかしいでしょー。風の練気法の”飛脚”を使って、空を駆けて一直線でここまで飛んできたってのは分かるんですけど、その速度が戦闘機並みって」


「ただ”飛脚”を使うだけじゃなくて、”順風”で空気抵抗も軽減しているのよ。風の練気法の奥義の一つ”舞空”よ~。だからあれだけの速度も出せるのよ~。まぁスピカちゃんに合わせて飛んだから、その速度が出せたのも一瞬だけだったけどね~?」


「はいはいワタシが悪うございましたよーっと。まったくもう、ワタシだって超能力がちゃんと使えたらそれくらい……」


 そう言って、スピカが()ねる。

 しかしすぐに気を取り直し、改めてミオンに声をかけた。


「ところでミオンさんー? たしかにこの辺は外殻調査船がある場所から近いでしょうけど、それでもまだそこそこ距離がありますよねー? どうしてわざわざここに降りたんですー?」


「ん~、ここに何か、ちょっと気配を感じたというか。もしかしたら、誰かがレッドラムに襲われて怪我をしているのかも」


「本当? そうだとしたら大変じゃないですか。急いで探さないと」


 ミオンの話を聞いて、スピカが少し真剣みを帯びた気配に。

 二人は、気配の出どころを辿って森の中を進む。


 やがて、二人は見つけた。

 背が高い木の根元に横たわる、三つ目の虎のマモノを。

 日向たちも戦ったことがある、ドゥンと呼ばれるマモノだ。


 ドゥンはひどい怪我をしており、血まみれだ。血に濡れていない箇所の方が少ないくらいだ。ぐったりとしており、弱々しく開いた目でミオンたちを見ている。レッドラムにやられたのだろうか。


「わ……これはひどい……」


「手の施しようがないわね……。私は北園ちゃんみたいに”治癒能力(ヒーリング)”は使えないから……。いや、これはたとえ”治癒能力(ヒーリング)”が使えたとしても……」


「グ……ル……」


 ミオンたちを見上げながら、ドゥンは消え入りそうな声で一回鳴いた。そして目を開いたまま、息を引き取ってしまった。


「安らかに……ね」


 ミオンはそう言って、ドゥンの顔にそっと手を伸ばし、開いていた(まぶた)をゆっくりと閉じさせた。


 その一方で、スピカが慌てた様子でミオンに声をかけた。


「み、ミオンさんー! ちょっと、周りを見てー!?」


「……ええ。あなたが言いたいこと、だいたい分かるわ」


 そう返事をして、ミオンは周囲を見回した。

 周囲にもまた、大量のマモノの死体が転がっていた。

 大きいマモノから小さいマモノ。獣から鳥類、爬虫類や虫まで様々な種類が。


「ま、まるでマモノの墓場だよー……!」


「墓場というより、戦場跡ね、これは」


「戦場跡……。うん、たしかにこの辺、戦いが起こってた痕跡があるね。そのあたりの地面や木に広がっている血痕はレッドラムの成れの果てかな?」


「迂闊だったわ。私たちはもう少し急いでここに来るべきだった。あの外殻調査船を、王子さまが放置するはずがない。私たちか、あるいは日向くんたちが調査船を求めてここに来ることを見越して、前もってレッドラムに破壊させようとしたんだわ」


「ここにいるマモノたちは、そのレッドラムと戦闘になって、こんなことに?」


「恐らくは。今さら感が強いけれど、今からでも急いで調査船のもとへ向かいましょう! すでにレッドラムが調査船の破壊に着手している可能性も十分にある! 被害を少しでも小さく食い止めないと!」


 ミオンはそう言って、風の練気法の”舞空”を使って外殻調査船のもとへ向かう。スピカも遅れてついて行く。


 そしてミオンは、再び地上へ着地。

 ここは、かつて日向たち五人とガナ・イーシャが決戦を繰り広げた高原だった。


 高原は、まるで地獄のような光景と化していた。短い砂色の草が生えていたこの場所は、いまや血で真っ赤に染め上げられている。先ほどの森林以上の数のマモノが、あちこちで死んでいる。


 そんな平原のど真ん中に、二体の超巨大な四足歩行のマモノがそびえ立っていた。


 二体のうち、一体はガナ・イーシャ。学校の校舎ほどもある圧倒的大きさの体躯が特徴的な、山のごとき巨象である。


 二体のうち、もう一体はクグバロム。ガナ・イーシャより一回り小さいが、それでも凄まじい巨体を誇り、頭部には雄々しい二本の巨大角を持つ鹿のマモノである。


 この二体のマモノもまた、ひどい怪我を負っている。意識こそあるようだが、身体のあちこちから流血しており、その様子はまるで二つの山から血の滝が流れ出ているかのよう。


 そして、この二体のマモノの背後には、ミオンたちの目的であるアーリアの外殻調査船が、山に半分埋まっているような状態で鎮座していた。調査船は、ここから見る限りでは傷一つついていない。


「この子たちも、外殻調査船をレッドラムから守ってくれて……」


「ヴォ……」


「ウォォ……」


 ミオンのつぶやきに返事をするかのように、ガナ・イーシャとクグバロムは鳴いた。


 二体の超巨大マモノたちの身体が、ぐらりと揺れる。

 その後、二体は地響きを上げて、大地に横たわるように倒れてしまった。


 二体の超巨大マモノはゆっくりと瞳を閉じ、再びその瞳を開くことは二度となかった。


 ガナ・イーシャはかつて、この外殻調査船を警戒し、破壊しようとして日向たちと戦うことになった過去がある。そんなガナ・イーシャが、ライバルであるクグバロムと共に、外殻調査船を守ってくれた。きっとそれが、この星の未来を守るためにつながると思って行動してくれたのだろう。


「……ありがとうね、あなたたち。あなたたちの勇気と先見がなければ、私たちはこの災害における勝ちの目を一つ失っていたところだった」


 息絶えた二体の超巨大マモノに声をかけたミオン。

 もう聞こえていないかもしれないが、声をかけずにはいられなかった。


 その後、スピカもミオンに追いついてきた。


「ここも大変なことになっちゃってるねー……」


「ええ。弔いは私が済ませておいたから、今は調査船の確保を優先させましょう」


「ん。そうですね……」


 その後、二人は外殻調査船の内部へ。ひととおり内部を見て回るが、致命的な欠損は見つからなかった。内部にレッドラムが潜んでいるような様子もない。外のマモノたちは、しっかりこの調査船を守り抜いてくれていたようだ。


「経年で痛んでいるところはあるけれど、そこさえ修復できれば、この外殻調査船は動かせそうだ。あともう一つ。この調査船を、この岩山から掘り出さないといけないけれど……」


「任せてちょうだいな。一日もあれば岩山ごと崩して、この調査船を掘り出せるわよ~」


「うーん、頼りになるお言葉。それじゃあ早速取りかかりましょっか。少しでも早くこの調査船を動かせるようにして、北園ちゃんたちのところへ駆けつけてあげないと」


「そうね~。それに私、わりと機械音痴だから、いくらスピカちゃんが手伝ってくれるとはいえ、これだけ大きな艦を一人で修理するとなると、そっちの方がどれだけかかるか分からないものね~」


「うーん、頼りにならないお言葉。え、大丈夫だよね? 日向くんのタイムリミットが過ぎても修理は終わらなかったとか、そんな展開はないよね?」


「まぁそこは、やってみないことにはどうにも、ね~」


「た、頼みますよースピカさんー。頑張ってくれたマモノたちのためにもさー」


「そうね。それを言われると、否が応でも気合いが入っちゃうわね。頑張らなくちゃ!」


 こうしてミオンとスピカは、ひとまず無事に外殻調査船を確保。

 これを問題なく動かすことができるよう、セッティングを開始した。

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