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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第21章 闇は昏く、海は深く、灯は儚く
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第1122話 エヴァと星の力

 また次の日。

 日向の存在のタイムリミットまで、あと67日。


 先日に確保した電気ワゴン車で西へと向かう日向たち。

 このロシアを出て隣の国に入るには、まだまだ距離がありそうだ。

 ロシアの国土の広さには驚嘆するしかない。


 さて、その日向たちの前に現在、障害が立ちはだかっていた。隆起に富む山道のハイウェイにて、ガーゴイル型のレッドラムが十体ほどの群れを成し、上空を飛び回っている。


 ガーゴイル型のレッドラムたちは、まだ日向たちの存在に気づいていない。小高い丘のようになっている地形がちょうど陰になっていて、ガーゴイル型たちの目から電気ワゴン車を隠してくれている。


 ガーゴイル型たちはまだ日向に気づいてはいないが、ここから移動すればすぐに見つかってしまうだろう。空を飛べるガーゴイル型は機動力も高く、電気ワゴン車で走っているだけでは逃げ切れない。まず間違いなくワゴン車が攻撃されてしまう。せっかく手に入れた移動手段を危険に晒すことは避けたい。


 ガーゴイル型たちがこちらに気づいていない今は、絶好の不意打ちチャンスだ。しかし、ガーゴイル型たちが飛んでいる位置が高く、距離もかなり離れている。仕掛けることができる攻撃は限られている。


「北園さんの超能力や、シャオランの”衝破”は届きそう?」


 日向が二人に尋ねる。

 北園とシャオランは、それぞれ浮かない表情で首を横に振った。


「たぶんむりー……。この距離はちょっとさすがに……」


「ボクも厳しいと思うなぁ。よしんば”炎龍”あたりが届いたとしても、この距離じゃ威力は大きく削がれちゃう」


「二人はダメか。じゃあ本堂さんは? 今の本堂さんは”(テンペスト)”の星の牙なんですから、あいつらに落雷をお見舞いするくらいはできるのでは?」


「可能ではあるが、まだコントロールに少々の難がありそうだ。それに、仮に命中したとしても、一発の落雷であの群れを全滅させることは無理だ。生き残ったガーゴイル型どもが此方(こちら)に攻め込んでくるぞ」


「本堂さんも難しいか。日影は……論外だな。まともな遠距離攻撃がほぼ無いし」


「ちッ、腹立つが事実だな。いっそ”オーバーヒート”で飛んでいって強襲を仕掛けてきてやろうか。連中がこっちに攻め込んでくる前にぶっ潰してやるよ」


「うーん、意外と悪くない話か……? ”オーバーヒート”のエネルギー消費量に目をつぶればだけど。とはいえ、あのガーゴイル型たちを片付けた後で、またボス級のレッドラムが出てこないとも限らない。その時に日影の炎のエネルギーが減っていたら不安だし……」


「心配しすぎだぜ。あの程度の数、一瞬で終わらせてやるよ。すぐに終わればエネルギー消費も結果的に少なく済むだろ」


「世間じゃそれを死亡フラグと言うのだよ日影くん」


「なんで急に教授っぽい口ぶりになった? しかもすげぇ胡散臭いタイプな」


「じゃあ……最後はエヴァか。お前はどうだ? この距離から、あの数のレッドラムを一瞬で片づけるのは、いけそうか?」


 エヴァに声をかけた日向。

 彼女は表情を変えず、ゆっくりとうなずいた。


「ええ、可能です。むしろこれくらいの距離が、私の得意な間合いです。あなたたちのやり取りは茶番を聞いているようでした。どうして私にもっと早く声をかけてくれなかったのかと」


「お前はいつも一言多いなー。そこまで言うのなら、きっちりどうにかしてくれるんだろうな?」


「勿論です。刮目(かつもく)するといいですよ。では……降り注げ”バアルの慈雨”!!」


 エヴァがそう言って、杖を天に向けてかざす。

 すると、ガーゴイル型たちの真上の灰色の雲から、キラキラとした雨が降る。


 この雨はただの雨ではない。雨粒の一つひとつが、凄まじい量の水が凝縮されて構成されている。それが空から銃弾のような速度で降ってくる。つまり、この雨に打たれた者は、たちまちのうちに(はち)の巣というわけだ。


 そして、その予測結果に一寸の違いなく、雨に打たれたガーゴイル型たちは機関銃の乱射に巻き込まれたかのように空中で四散し、絶命した。


「はい、この通りです」


 日向に向かって振り返り、エヴァはそう言った。素っ気ない口調だが、どこか得意げなオーラが溢れている。内心ではドヤ顔しているに違いない。


「ぬぐぐ、しっかり仕事されてちょっと悔しいな。さすがは元ラスボス、えげつない破壊力」


「昨日はレッドラムたちが至近距離で攻撃を仕掛けてきたので、全力で能力を行使したら私自身やあなたたちを巻き込んでしまう恐れがありました。しかし、巻き込む心配がない間合いならば思う存分に攻撃ができます」


「こうしてみると、エヴァは俺たちの中でも超遠距離攻撃タイプなんだな。野生児で動きも身軽だから、近接戦闘に目が行きがちだったけど」


「『星殺し』を倒し、『星の力』を少しずつ取り戻すことができたからですね。少なくとも、あなたたちの仲間になったばかりの私では、ここまでの能力は発揮できませんでした」


「お、ここまでとは打って変わって謙虚な発言」


「私が謙虚な発言をするのがそんなに珍しい認識ですか。不服を申し立てます」


「また不服を申し立てられた。すぐこれだよ」


 やり取りもそこそこにして、日向たちはすぐに移動を再開。また別のレッドラムがここにやって来る可能性もある。遭遇する前にさっさとこの場を離れておきたいところだ。


 本堂が運転を務め、助手席には日影。

 真ん中の席には日向とシャオラン。

 そして一番後ろには北園とエヴァ。


 移動再開からほどなくして、シャオランがエヴァに声をかけた。


「そういえばエヴァ。今のキミの『星の力』は、全体の総量で言うとどれくらい取り戻せたの?」


「およそ二割といったところでしょうか」


「二割かぁ。二割でもアレなんだから、やっぱりすごいね『星の力』……」


「ちなみに、私が皆さんと『幻の大地』で戦った時、途中から私が『星の意志』の制限を解除してパワーアップしましたが、あれが二割と五分くらいです」


「あ、あの時もメチャクチャな火力だったのに、たった二割と五分なんだ……。というか、もう今と大して変わらないじゃん」


「さらにちなみに、そこから私はさらにパワーアップを遂げて、『星の力』を各属性に変換せずにそのまま活用する戦い方を披露しましたが、あの時が三割くらいです」


「あ、あれで三割なの!? 普通に全力全開のラスボスの雰囲気だったよ!? それにあの時、とんでもない破壊光線とか撃ってきたよね!?」


「”星の咆哮(スーパーロア)”ですか。はい、三割です。ちなみに十割の『星の力』であの技を放てば、この星は軽く消し飛ぶでしょう」


「な、なんかエヴァがとんでもない危険物に見えてきたよボクは……」


「惜しむらくは、『星殺し』を倒しても、一部の『星の力』は狭山誠のもとへ戻ってしまうので、この”最後の災害(テラ・バスタード)”では『星の力』の全力をお見せすることができないところでしょうか。この調子で七体の『星殺し』を倒せば、最終的に私と狭山誠が保有する『星の力』の量は五分五分くらいになると思います」


 たしかにエヴァが十全に『星の力』を振るうことができていれば、狭山を倒すこともそう難しい話ではなかったかもしれない。本当に、惜しい話である。


 しかし一方で、日向は考えた。


「もしも逆に、狭山さんがエヴァから『星の力』をまた奪ってしまったら、名実ともに狭山さんはこの星を一瞬で滅ぼす能力が手に入るわけか……。仲間としても当たり前だけど、エヴァはしっかりと守らないとな」

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