第1115話 氷炎交差
引き続き、ズィークフリドとプルガトリウムが拳で激闘を繰り広げている。
ズィークフリドはプルガトリウムの攻撃を回避しつつ、その隙に攻撃。そして攻撃に使った氷の装甲が融解させられたら、他の部位で攻撃しつつ溶けた氷を再凍結させて修復する。
プルガトリウムは相当な回数、ズィークフリドからの攻撃を受けているが、倒れる様子はまだまだ全くない。ダメージを意に介さず、ズィークフリドに反撃を仕掛ける。体格は日向とさして変わらないのに、恐るべきタフネスだ。
プルガトリウムの左ストレートがズィークフリドの右肩にかすった。それだけでズィークフリドの右肩を覆う氷の装甲は粉砕され、その下のズィークフリドの右肩が熱波で焼かれる。
この勢いに乗り、プルガトリウムがさらなる追撃を仕掛けようとする。
だがその時、プルガトリウムの視界の端に日向の姿が映り込んだ。
もしや『太陽の牙』のエネルギーが回復し、”点火”で横やりを入れてくるつもりなのでは。そう考えたプルガトリウムが、視界の端の日向を警戒する。
その隙にズィークフリドがダメージから復帰。日向に気を取られていたプルガトリウムのみぞおちに、カノン砲のような踏み込み突きを打ち込んだ。
「ッ!!」
「voooo...!?」
プルガトリウムが後ずさる。
しかし、すぐにダメージから復帰。
すぐ目の前にいるズィークフリドに反撃をしかけにかかる。
だがその時、またもプルガトリウムの端に移り込む日向の姿。
プルガトリウム、また日向に気を取られる。
そしてまたその隙に、ズィークフリドがプルガトリウムの側頭部に右回し蹴りを叩き込んだ。
「ッ!!」
「voa...!?」
常人が喰らえば首がもげるのではないかと思うほどの、重くて鋭くて速い蹴り。さすがのプルガトリウムも、これには身体が横へ大きく傾いた。
しかし、すぐに体勢を立て直してしまうプルガトリウム。そしてプルガトリウムは、日向が今度は自分の背後へ回り込もうとしている気配を察知した。
日向も理解している。自分がプルガトリウムの近くに張り付けば、プルガトリウムは『太陽の牙』を持つ日向を警戒せざるを得なくなり、ズィークフリドとの戦いに集中できなくなることが。
そしてその間に、ズィークフリドがプルガトリウムの腹部に突き刺すような右ソバットをお見舞いした。プルガトリウムの身体がくの字に曲がる。
「vo...!!」
ソバットを受けて、プルガトリウムの動きが止まった。腹部のダメージを気にしているのか、前かがみのような姿勢で硬直している。
ズィークフリドはもちろんのこと、日向もこの隙を見逃さない。ズィークフリドは氷の拳で正拳突きを繰り出そうとし、日向はプルガトリウムの背後から”点火”で斬りかかる。
だがしかし、プルガトリウムは全身で力むようにパワーをみなぎらせ、一気に解放。プルガトリウムの身体から衝撃波のような爆炎が発生し、日向とズィークフリドの二人に襲い掛かった。
「や、やばっ!? うわぁぁ!?」
「っ!!」
日向はあっけなく爆炎に吹っ飛ばされ、地面を転がる。ズィークフリドはとっさに飛び退いたようだが、それでもかなり爆炎に巻き込まれた。全身の氷の装甲が音を立てて溶かされ、半壊させられる。
飛び退きから着地するズィークフリド。
顔を上げれば、もうプルガトリウムが目の前に迫ってきていた。
ズィークフリドめがけて、渾身の右ストレートを繰り出す。
しかしズィークフリドはプルガトリウムの右ストレートを避けつつ、逆にプルガトリウムの顔面に右ストレートを突き刺した。見事なカウンターだ。
ところが、プルガトリウムはズィークフリドのカウンターをあっさりと耐え抜き、左足で回し蹴りを放った。これがズィークフリドの腹部に直撃。
「voooo!!!」
「ッ……!」
蹴り飛ばされるズィークフリド。
攻撃を喰らう直前、自らも後ろに跳ぶことでダメージを逃がした。
ズィークフリドが着地し、顔を上げる。
その瞬間、すでに間合いを詰めていたプルガトリウムが、ズィークフリドの顔面に灼熱の右ストレートをぶちかました。
「vooooooooooo!!!」
「っ……」
直撃してしまった。
超常の怪力と炎を有するプルガトリウムの拳が、ズィークフリドに。
ズィークフリドは大きく仰け反るように、まっすぐ殴り飛ばされた。
……が、しかし。
ズィークフリドはそのままバク宙をするように受け身を取って、足から着地。さらにそこから八回ほどの素早いバク転を繰り出し、最後に大きく一回バク宙。そして着地した。
ズィークフリドは顔に大きな火傷こそ負ってしまったものの、いまだ健在だ。今のプルガトリウムの攻撃は、下手をすれば顔面の骨を粉砕されて戦闘不能に追い込まれてもおかしくなかったというのに。どうやってズィークフリドはプルガトリウムの攻撃を耐えきったのか。
彼はプルガトリウムの右ストレートを喰らった瞬間、極限まで脱力してダメージを逃がした。そしてプルガトリウムの拳の威力に身を任せるように殴り飛ばされ、それから先ほどの連続バク転によって、残っていたダメージも全て逃がし切ったのである。
プルガトリウムはズィークフリドを仕留め損ねたと確認するや否や、再びズィークフリドとの間合いを詰めて拳のラッシュを仕掛けてきた。パンチ一回ごとの動作は相変わらずの大振りだが、速い。大振りのパンチでものすごい速度のラッシュを仕掛けてくる。もはや不自然なまでの速さだ。
ズィークフリドはプルガトリウムのラッシュを全て回避するか、捌いて受け流す。だがしかし、回避すれば拳の熱波が襲い掛かり、捌くためにわずかにプルガトリウムに触れようものなら即座に火傷を負わせられる。いったんプルガトリウムから距離を取りたいところだが、プルガトリウムがズィークフリドを逃がさない。
しかしそこへ、先ほどの爆炎から復帰した日向がやって来た。プルガトリウムの背中めがけて、イグニッション状態の『太陽の牙』を投げつける。
「ズィークさんっ!」
日向が投げた『太陽の牙』は、回転しながらプルガトリウムの背中へと迫る。プルガトリウムも日向の攻撃を察知し、大きく身を屈めて『太陽の牙』を回避した。
……が、プルガトリウムの向こうにいたズィークフリドが、飛んできた『太陽の牙』を見事にキャッチ。そして目の前のプルガトリウムを『太陽の牙』で切り裂いた。
「ッ!!」
「vooaaaaaaa!?」
悲鳴を上げるプルガトリウム。
ズィークフリドの攻撃は続く。
燃え盛る両手剣を軽々と振るい、次々とプルガトリウムに斬撃を加える。
彼の右手は氷で覆われ、『太陽の牙』の拒絶熱に耐えている。
日向は、なけなしの『太陽の牙』のエネルギーをどの場面で使うか、どこでどのような攻撃を仕掛ければプルガトリウムに有効的なダメージを与えることができるか、それを見極める必要があった。
そして選んだのが、この局面。
自分ではなくズィークフリドに『太陽の牙』を使わせた方が、よりプルガトリウムに大きなダメージを与えることができるのではないかと踏んだ。
その判断は大いに功を奏した。
わずかな間に、ズィークフリドは日向以上に『太陽の牙』を華麗に振るい、プルガトリウムを切り刻んでくれた。
「voo...a...」
大ダメージを受けて、後ずさるプルガトリウム。
ズィークフリドが持つ『太陽の牙』も、どんどん熱を上げてきた。
もう間もなく、ズィークフリドの右手の氷の装甲も融解させられる。
そのタイミングを見計らい、ズィークフリドがプルガトリウムに『太陽の牙』を投げつけた。丸ノコのように回転しながら飛んでいった『太陽の牙』が、プルガトリウムの胴を切り裂いた。
「voaaaa...!?」
高速回転する『太陽の牙』がプルガトリウムを切り裂き、そのまま貫通するようにプルガトリウムの背後へ通過。そしてそれを、プルガトリウムの後ろにいた日向がキャッチ。
「っとと……奇跡的ナイスキャッチ。よし、それじゃあトドメ用意……!」
日向が剣を持ち、霞の構えを取った。顔の横に『太陽の牙』を持ってきて、その切っ先をプルガトリウムへ向ける。
ズィークフリドもまた”烈穿”の構えを取る。左手のひらをプルガトリウムへ向けてロックオン。右の五指に、その指の先端まで力を浸透させる。さらに右手を氷で包み込み、まるで剣のような形状に。
そして、二人が動いた。
日向は、全体重を乗せた渾身の刺突を。
ズィークフリドは、氷の剣と化した右手で必殺の貫手を。
二人の攻撃は同時にプルガトリウムに直撃し、そのまま二人はプルガトリウムを交差点としてすれ違う。同時攻撃を受けたプルガトリウムは、その場でしばらく硬直。
やがて、プルガトリウムが苦しみだす。
「vooo...a...aaaa...!?」
そして、その炎の身体の内側から、冷気が混じった大爆炎が巻き起こり、プルガトリウムもその爆発に巻き込まれるように破裂した。
「vooooooaaaaaaaaaaaaaaaa.........」
大絶叫だけを残し、プルガトリウムは斃された。
その身体を構成していた炎も四方に散らばり、やがて風と共に消えた。
こうして日向たちは……いや、人類は。
三体目の『星殺し』を葬り去ることに成功したのだ。