第1114話 プルガトリウム討滅戦
ホログラート基地の屋外にて、プルガトリウムを倒すための最後の戦いが始まった。立ち向かうは日向とズィークフリド。
今のプルガトリウムはマグマの怪物のような姿を失って、燃え盛る炎が人間の形になったような姿をしている。恐らくマグマの怪物だった時より火力はずっと落ちているだろうが、それでもなお凄まじい熱を感じる。少し離れている日向とズィークフリドにまで炎の熱さが届いている。
まず動き出すのはプルガトリウム。
姿勢をわずかに前に倒し、踏み込みの用意。
……が、ズィークフリドがそれを見逃さなかった。プルガトリウムが動いた瞬間、ズィークフリドが氷の右拳でプルガトリウムの左頬を殴り飛ばす。
「ッ!!」
「voa...!?」
ズィークフリドの拳を受けて、プルガトリウムがよろめく。炎だけで構成されているエネルギー体のような見た目なので物理的な攻撃が効くか不安なところがあったが、ちゃんと炎の中に実体があるようだ。
プルガトリウムを殴って怯ませると、次にズィークフリドはローとミドルの中間くらいの左キック。プルガトリウムの右太ももに痛烈な一撃を突き刺した。
いまズィークフリドが攻撃に使用した右拳と左足を見てみると、その部分の氷の装甲がプルガトリウムの炎によって溶けてしまっている。一瞬触れただけで溶かされてしまうのだから、やはりプルガトリウムの炎の火力は相当なものだ。
プルガトリウムもやられっぱなしではいてくれない。目の前のズィークフリドを狙って右フックを振るう。そのモーションはパワフルで素早いが、大振りだ。身軽さや機動力といった、現在のプルガトリウムの長所を潰している攻撃とさえ言える。
大振りな攻撃だったので、ズィークフリドは上体を後ろへ反らしてプルガトリウムの攻撃を回避。綺麗なモーションのスウェーである。
だが、ここでズィークフリドに誤算が生じる。振り抜かれたプルガトリウムの右拳はソニックブラストのように空間をブレさせ、さらにそこへプルガトリウム自身の炎も乗せられていた。拳と共に振り抜かれた炎の熱が、ズィークフリドの顔を守るマスクのような氷を融解させた。
「……!」
戦慄するズィークフリド。相手のパワーはズィークフリドの予想以上だった。恐らく、少なく見積もってもズィークフリドの十倍以上。それほどでなければ、拳を振り抜いた余波だけで氷の装甲を溶かすなど有り得ない。
プルガトリウムが攻撃を続行してくる。
左、右、左、右……次々と大振りの拳を繰り出す。
ズィークフリドは、今度は一回目の時よりも大きな動作で回避行動を取り、プルガトリウムの攻撃を全て避けきった。あれほどのパワーで殴られたら、たとえズィークフリドだろうと即死も有り得る。猛烈な腕力と炎で肉体を貫かれることになるだろう。
一回飛び退くズィークフリド。プルガトリウムから距離を取る。そして破壊された氷の装甲を修復。右拳と左足、それから顔が再び分厚い氷で覆われた。
プルガトリウムもズィークフリドを逃がさない。足元の地面を殴りつけ、Vの字に火柱を奔らせてズィークフリドの左右の逃げ道を塞ぐ。
それからプルガトリウムは、前方に向かって大ジャンプ。ズィークフリドを飛び越えるつもりだ。彼の後方の逃げ道も塞ぎ、Vの字の火柱の内側へ追い込むつもりか。
しかし、ズィークフリドはプルガトリウムの行動を読んでいた。プルガトリウムと同じくらいの高さまでジャンプし、オーバーヘッドキックでプルガトリウムを蹴り落とす。
「ッ!!」
「voooo...!!」
二人が着地。プルガトリウムが先に動き、またもズィークフリドに拳を振るいまくる。ズィークフリドはバク転を連続で繰り出し、プルガトリウムの攻撃を回避しつつ距離を取る。
ズィークフリドがVの字の火柱から脱出した。そのタイミングで大きく跳び上がり、右足を蹴り上げるように冷気弾を発射。プルガトリウムめがけてまっすぐ飛んでいく。
これに対してプルガトリウムは、真正面から冷気弾にストレートを打ち込み粉砕。冷たい爆風がプルガトリウムに吹き付けるが、プルガトリウムにはまるで効いていない。
だが、冷気弾からまき散らされた冷気の一部が、プルガトリウムの周囲に残留する。それと同時に、プルガトリウムは自身の内側から力が抜けていくような感覚に襲われた。
これは、もともとズィークフリドが持っていた”濃霧”の能力。「霧で包み込んだ相手を弱体化させる能力」だ。それを、オリガから受け継いだ氷の異能にも付与したのだ。
プルガトリウムが弱体化したのを確認したズィークフリドは、”縮地法”で一瞬のうちにプルガトリウムの懐へ潜り込む。そしてみぞおちに右正拳を突き刺し、小さくジャンプしながらの二連逆回し蹴り。左かかと、右足がプルガトリウムの側頭部を蹴り抜いた。
「ッ!!」
「vooo...!?」
よろめくプルガトリウム。
着地したズィークフリドは、そのまま身体ごと回転しながら逆水平チョップ。左手は鋭い氷で覆われており、プルガトリウムの首を斬り飛ばす勢いで繰り出した。
ズィークフリドの逆水平は、見事にプルガトリウムの首に命中。だがしかし、命中と同時に氷は砕け散ってしまった。そしてプルガトリウムはいまだ健在。
現在の両者の間合いは至近距離。
プルガトリウムが右拳で大振りのアッパーを繰り出した。
ズィークフリドは大きく上体を反らして、プルガトリウムのアッパーを回避しようとする。だがその時、アッパーが巻き起こした熱波がズィークフリドの左目を焼いた。
「っ……!」
目を焼かれる熱さに顔をしかめるズィークフリド。
バク転を繰り出し、プルガトリウムから距離を取る。
だがその動きはプルガトリウムに読まれていた。プルガトリウムはズィークフリドめがけて、ミサイルのような速度で一直線に飛び蹴りを仕掛けてきた。
「vooooo!!!」
「ッ……!」
まるで燃え盛る巨大な弩砲が直撃したかのような衝撃。体重160キロを超えるズィークフリドの身体が、虫のように軽々と吹っ飛ばされる。身を守る氷の装甲もあっけなく破壊された。
ズィークフリドは受け身を取り、どうにか無事に着地。
ダメージは大きいが、まだまだ戦闘続行可能な様子だ。
そしてズィークフリドとプルガトリウムが、再び正面から駆け寄り、それぞれ攻撃を仕掛けた。
「ッ!!」
「vooo!!!」
……一方でこちらは、そんな一人と一体の激闘を少し離れたところから見守る日向の様子。
「あかん、まるでついていけん。そもそも完全にガス欠状態の俺がプルガトリウム相手にできることなんてほとんど無いだろうし、この超ハイレベルな戦いについていけないのも致し方ないというか」
とはいえ、このままズィークフリドにばかり戦いを任せるわけにもいかない。敵の強さも相当なものだ。尋常ならざるタフネスでズィークフリドの攻撃を耐えて、恐るべき攻撃力で一撃必殺の反撃を仕掛けてくる。
「『太陽の牙』がパワーアップしたからか、いつもよりエネルギーが回復する速度が早い気がする。このぶんなら、あともう少し待てば”点火”をもう一回くらいは使えそうだ」
慎重に見極めなければならない。
限られた攻撃のチャンスを、どこで使うか。