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第1111話 信じて待つ

 ミサイル管制施設での戦いを終えて、北園はイーゴリに道案内されながら、基地の地下へ向かう。背中には、冷たくなってしまったオリガを乗せて。


「ええと、北園ちゃん。オリガは僕が運ぼうか?」


「あ、ありがとうございます……でも、だいじょうぶです……」


「ん……分かった」


 やがて北園は基地の地下通路へ到着。そこでは大勢の人間たちが集まっていた。大勢、とは言ったが、今回の戦いが始まった時と比べると、随分と少なくなってしまっている。通路に横たえられている重傷者も少なくない。


(オリガさんのことをグスタフさんたちに伝えたら、すぐに私もみんなの治療に移らないと)


 それから北園は、グスタフの姿を見つけた。

 彼の傍にはズィークフリドもいる。


「あ……グスタフさん……!」


「おお、北園良乃か。君も無事だったんだな。ひとまずは良かった。ボロボロだが、大丈夫か?」


「は、はい……。私はだいじょうぶです……でも……」


「君が背中におぶっているのは、オリガか? ぐったりしているように見えるが……」


「グスタフさん……それからズィークさん……その、落ち着いて聞いてください……」


 北園は、グスタフとズィークフリドに説明した。

 オリガの最期について。


 二人は、ひどい衝撃を受けていた。

 心を一撃で粉砕されてしまったかのような、そんな様子だった。


「なんと……いうことだ……オリガ……」


「…………っ」


 グスタフのガッシリとした身体が、力無くふらつく。

 ズィークフリドはオリガの遺体を北園から譲り受け、震えながら抱きしめていた。


 力無くふらついていたグスタフだが、どうにか足腰を立たせて、改めて北園に声をかける。


「北園さん。娘をここまで連れてきてくれてありがとう……。君自身も大きな怪我をしているのに、苦労をかけさせたね」


「わ、私なんて、これくらいぜんぜん平気ですから……。それと、オリガさんが最後に、ズィークさんとグスタフさんに伝えてほしいって言ってました。『幸せだった』って……」


「そうか……。ずっと離ればなれになっていた娘だったが、私は最後の最後でようやく、親らしいことをこの子にしてやれたのかな……」


 微笑みながら、グスタフはオリガに目を向ける。そんな彼の瞳は涙で(うる)み、両の(こぶし)は悲しみを握り潰すように強く握られている。そんなグスタフを見ると、北園はまた、いたたまれない気持ちになってきた。


 それからグスタフは、再び北園の方を向いて話しかけてくる。


「それと……日下部くんが、プルガトリウムと戦いに行ったのだったね」


「あ、はい……。いったいどうするつもりかはわからないですけど、日向くんならきっと勝てると思います」


「そうだな……。どのみち、我々は日下部くんの勝利を信じて、ここで待つしかない。今からこの基地を離脱するのは極めて困難だ。出来ることといえばせいぜい、日下部くんが勝つことを祈りつつ、この場にいる負傷者たちの手当てをすることくらいだな」


「そうかも、ですね……。私もお手伝いします。怪我した人の回復なら、私も得意分野ですから」


「ありがとう、頼む。だが……万が一の時は、君たちだけでもこの基地から逃げるんだ。ここに残るよりは、その方がずっと生存確率は高い。生き延びることさえできれば、再戦にも(のぞ)めるだろうから」


「は、はい、わかりました。でもきっと、日向くんならだいじょうぶです。日向くんはこういう時、何の根拠もなく人を安心させるようなことは言わないですから。きっと何か、なんとかできる方法があるんだと思います」


「なるほど。素晴らしい信頼だ。日下部くんの勝利を信じる我々の祈りにも、力が入るというものだ」


 自分をまっすぐ見つめて語る北園を見て、グスタフもまた満足そうにうなずいた。


 その一方で、こちらはズィークフリド。

 今もまだ、オリガの遺体を抱きしめている。


 その時だった。オリガの身体から蒼色のエネルギーがわずかに湧いて出て、それがズィークフリド身体へと吸い込まれていった。


 するとズィークフリドは、突如としてオリガの遺体をゆっくりと床に寝かせると、そのままどこかに歩いて行ってしまった。


 ズィークフリドに蒼色のエネルギーが取り込まれるところまでは見ていなかった北園とグスタフは、突然どこかへ行ってしまったズィークフリドを見て首をかしげる。


「ず、ズィークさん、どうしたんでしょうか?」


「分からない……心の整理にでも行ったのだろうか」


「その割には、なんだかしっかりとした足取りに見えましたよ? 目的地がはっきりと定まっているみたいな……」


「あの子は賢い。今は放っておいても、ひとまず大丈夫だろう。それより北園さん。さっそくで悪いが、負傷者たちの手当てを頼む」


「あ、はい! わかりました!」


「向こうに君の友人たちがいる。彼らも怪我をしているから、まずは回復ついでに会っていくといい」


「りょーかいです! エヴァちゃんが意識を取り戻してくれたら、日向くんを手伝ってくれるかも!」


「あのような小さな子を酷使するのは気が引けるが、そういった方法に頼るくらいしか、我々に残された道はないか」


 ……その後、北園はグスタフに示された方向へ向かい、仲間たちと再会し、異形となった本堂の姿を見て盛大に驚くことになる。




◆     ◆     ◆



 そしてこちらは、プルガトリウムと戦うために基地の屋外へとやって来た日向の様子。


 イーゴリが言っていた通り、プルガトリウムはもうホログラート基地のすぐ前方にいる。山よりも高い背丈を持つ溶岩の怪物が、日向を見下ろしている。


「voooooooo...!!!」


 プルガトリウムから流れ出るマグマがどんどんホログラート基地へと押し寄せてきており、すでに基地の敷地内は溶岩地帯だ。空は燃えるように赤く染まり、基地内はマグマが発する灯りによって静かに照らされている。


 日向はうっかりマグマを踏まないように注意しつつ移動して、プルガトリウムの正面に立った。


「さて……頼むぞ、『太陽の牙』……!」

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