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第1105話 大雨と溶岩

 日向たちがジナイーダと戦闘を繰り広げている、その一方で。

 こちらはホログラート基地の屋外。


 ここでは、人間たちと『星殺し』プルガトリウムとの戦いが繰り広げられている。山のように大きいプルガトリウムが基地を目指して接近しつつ、身体から溶岩弾を飛ばして基地を攻撃。着弾した溶岩弾は「プルガトリウムの破片」として、独立して行動。その破片を生存者たちが各個撃破している。


 空には真っ黒な雨雲が立ち込め、激しい雨を降らせている。その激しさたるや、ここら一帯を湖にでも変えてしまうのではないかという勢いである。プルガトリウムも吹き付ける雨を受けて、全身から白煙を上げている。


 この豪雨はエヴァの能力によるものだ。雨粒一つひとつが持つ冷たさは、プルガトリウムの熱を奪うには到底足りない。だがしかし、雨が止むことなく激しく降り続けることで、さすがのプルガトリウムも多少は(こた)えている様子である。プルガトリウムの破片も、生存者たちが撃破可能なまでに弱体化されている。


「vooooo...!!」


 忌々しげに鳴き声を発するプルガトリウム。

 その視線の先には、エヴァ・アンダーソンの姿。


 エヴァもまた、生存者たちがプルガトリウムの破片と戦う中、プルガトリウム本体をまっすぐ睨み返していた。


「皆さんがあなたの破片の相手をしてくれているおかげで、今回は私も『星の力』のコントロールに集中できます。前回と同じようにはいきませんよ……!」


「vooooo...!!!」


 うめき声を発すると、プルガトリウムは大きく口を開いた。噴火寸前の火口のような口の中で、灼熱のエネルギーが集められていく。先ほど、この基地全体を巻き込むほどの超大爆炎を巻き起こした熱線攻撃を行なうつもりだ。


 これに対して、エヴァはその場で舞を披露するかのように、杖をゆっくりと振り回す。そのエヴァの杖の動きに合わせて、周囲の雨水が動き出す。


「我が意と共に……”アプスーの御心”」


 エヴァの能力によって、地面の雨水が操作される。

 操作された雨水が、エヴァの周囲で渦を巻くように集まっていく。


 プルガトリウムが熱線を吐き出した。

 超巨大な緋色の光線が、エヴァに向かって一直線に撃ち出される。


「voooooooo!!!」


 一方、エヴァもプルガトリウムに杖の先端を向けた。それに合わせて、エヴァの周囲に集まっていた水が龍の形となって、水浸しの地面から湧いてくるように、プルガトリウムへと飛んでいった。


「行け、セイリュウ……!!」


 プルガトリウムの熱線と、エヴァが生み出した水の龍が、真正面から激突した。


 巻き起こる膨大な水蒸気と共に、水の龍がどんどん蒸発させられていく。すでに顔の部分が熱線に呑み込まれてしまった。


 しかし水の龍は止まらない。まるで手品か何かのように、水浸しの地面からどんどん湧いてくる。まったく胴体が途切れることなく、熱線に突撃し続ける。


 やがて、プルガトリウムは熱線を撃ち尽くした。

 同時に水の龍も、尾の部分まで蒸発した。


 プルガトリウムとしては、今の熱線は、エヴァを確実に葬り去るための渾身の一撃だっただろう。しかし、それはエヴァに止められた。いま優勢なのはエヴァの方だ。


 エヴァが天を仰ぎ見て、両腕を広げる。

 まるで、空に向かって何かを呼び掛けるように。


「下す……”エンリルの裁定”!!」


 エヴァが詠唱を終えると同時に、空から強烈な水流が放たれる。しかも三発。三発の水流が、三方向からプルガトリウムに突き刺さる。


「voooooooo...!?」


 水流の直撃を受けて、プルガトリウムが声を上げる。プルガトリウムの巨体と比較すると、水流はあまり大きくないようにも見えるが、実際は一つの水流だけでも民家四軒くらいは一撃で潰せるほどの規模がある。


 三発の水流を撃ち込まれ、プルガトリウムの動きが止まる。

 そしてエヴァは、トドメとばかりに、杖を力強く振り下ろして詠唱した。


「開け、天の水門!!」


 すると、プルガトリウムの真上から、超巨大な水柱が降ってきた。

 まるで、空に惑星のような大きさのバケツがあって、それを一気にひっくり返したかのようだった。


 規格外の量の水が、プルガトリウムに叩きつけられる。

 山すら覆い隠してしまうほどの水蒸気が発生する。

 蒸発させきれなかった冷たい水が、プルガトリウムの溶岩の身体の表面を流れる。


「vooooooaaaaaaaaaaa...!?」


 これにはさすがのプルガトリウムも(こた)えたようだ。超大量の水に押し潰されそうになっているが、大地に溶岩の両手をついて耐えている。


 やがて、エヴァが降らせた水柱が止まった。エヴァが攻撃を止めたというより、空に蓄積させていた雨のエネルギーを撃ち尽くしたようであった。


 プルガトリウムは、エヴァの攻撃に耐え切った。

 押し潰されそうになっていた身体を、ゆっくりと大地から起こす。


「倒しきれませんでしたか……! 雨のエネルギーはいったん打ち止めですが、それならば次は吹雪に切り替えます。湿(しめ)()に満ちたこの大地ごと、あなたを凍らせる……!」


 ……だが、その時だった。

 エヴァの周囲で、突如として地面からマグマが噴き上がった。

 一回だけでなく、四回、五回と立て続けに。


 エヴァの周囲でプルガトリウムの破片を撃退していた生存者たちも悲鳴を上げている。


「うわ!? な、なんだ!? 下から溶岩が!?」


「熱っつぁぁぁ!? う、腕にマグマがかかっちまったぁぁ! お、俺の腕が落ちたぁぁぁ!?」


「や、やばい! マグマの飛沫(しぶき)がかかるだけでも致命傷になる! 下がれ下がれ!」


 この地面から噴き上がるマグマは、どうやらプルガトリウム本体の仕業のようだ。この基地に向かって侵攻し、エヴァと戦闘を繰り広げながら、足元を焼く溶岩を地中からここまで伸ばしてきていたらしい。


「プルガトリウムは”気配遮断(ハイディング)”の超能力を持っている……。それさえなければ、地中からやって来る溶岩だろうと、私が感知できたのに……!」


 悔しそうな表情を見せるエヴァ。

 この噴き上がるマグマのせいで、また多くの負傷者が出てしまったようだ。


 エヴァ自身の心配もしないといけない。

 プルガトリウムの本命はエヴァだ。

 恐らく、生存者たちが噴き上がるマグマに巻き込まれたのは、ついでに過ぎない。


「いったんここから離れなければ。一か所に留まっていたら、足元から焼かれてしまう」


 エヴァが素早く前方に移動する。

 そのすぐ後に、先ほどまでエヴァが立っていた場所からマグマが噴き上がった。


 危機一髪だったエヴァだが、まだ危機は去っていなかった。逃げたエヴァの行く手を阻むように、今度はエヴァの前方からマグマが噴き上がる。そして次は左右同時に。


「早く逃げないと、囲まれる……!」


 エヴァは、噴き上がるマグマとマグマの隙間を見つけ、そこから素早く退却しようとする。


 だがしかし。

 走っている途中のエヴァの足を、何かが捕まえた。


「うあ!?」


 まるで深い沼に足を取られてしまったような感覚。

 足を取られたエヴァは、派手に転倒してしまう。

 エヴァを捕まえたのは、灰色に(にご)った泥の塊のような物体。


 これはプルガトリウムの破片だ。雨に打たれ続け、生存者たちに無力化され、冷えたマグマのような形状となってこの場に放置されていたものだ。そんな死体のような状態でも、エヴァを捕まえるために動いたのだ。


 泥のようなプルガトリウムの破片は、エヴァの足をしっかりと捕まえて放さない。しかも、泥状の表面の内部ではまだ高い熱を保持しているらしく、捕まえているエヴァの足を焼いている。


「ああああああっ!? くぅ……放して……!」


 エヴァは、『星の力』を使った冷気でプルガトリウムの破片を攻撃。それと同時に破片から足を引き抜こうとしている。


 そのエヴァに向かって、頭上から何かが飛んでくる。別の場所で噴き上がったマグマによって打ち上げられた、大きめのコンクリートの欠片だ。エヴァはプルガトリウムの破片に気を取られ、飛んでくるコンクリート片に気づかない。


 エヴァがプルガトリウムの破片を無力化し、足を引き抜いた。

 それと同時に、コンクリート片がエヴァに直撃。

 不運にも、エヴァの頭部にちょうど命中した。


「あぐ……!?」


 頭部に鈍い衝撃を受けて、エヴァがぐったりと倒れてしまった。

 エヴァの意識は飛び、完全に気絶してしまっている。


 この間にも、地面からは次々とマグマが噴き上がる。

 エヴァ、絶体絶命のピンチだ。

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