第1103話 皇帝の炎
ジナイーダに向かって重機関銃を撃とうとしたオリガだったが、突如として吐血してしまう。
オリガはその体調不良に負けず、再び重機関銃の照準を合わせて、ジナイーダめがけて引き金を引いた。
ジナイーダは北園の”雷光一条”をバリアで防ぎつつ、顔だけで背後のオリガの方へ振り返った。
その振り返ったジナイーダの顔面に、オリガの弾丸が命中した。
弾丸は、上下に二つ付いていたジナイーダの右目を吹き飛ばし、彼女の顔の右半分を抉っていった。
だが、それだけだった。ジナイーダは大きく身体を倒しつつ回避を行ない、北園の”雷光一条”とオリガの弾丸から逃れてしまった。
「し、しまった、仕留め損ねた……私としたことが……!」
自身に対して悪態をつくオリガ。
日向もまたジナイーダの方を見ながら、焦りの表情を浮かべていた。
「これはマズい……。ジナイーダ少将に大きな傷を与えた挙句、倒しきれなかった。”憎怨火”の炎もさらに強くなってしまったはずだ……!」
その日向の言う通り、ジナイーダから溢れる熱気が陽炎を生み出し、空間が揺らいでいる。明らかにパワーアップした様子だ。側頭部ごと抉られた右目を右手で押さえ、残った左目に彼女の中の全ての憤怒を込めたかのような鋭い目つきで日向たちを睨んでいる。
「やってくれたな……。しかし同時に、礼も言わなければならんな。これだけの怒り、これだけの憎悪、これだけの火力があれば、貴様らなどまばたきの内に焼き尽くせる。手間が省けるというものだっ!!」
そう言うとジナイーダは、日向から距離を取るように飛び上がった。そして右手に持った黒炎の槍を構えて投擲の用意。構えた黒炎の槍から激しい黒炎が溢れ出し、まるで一本の巨大な燃え盛る槍のようになった。
そしてジナイーダは飛び上がったまま、その槍を日向の目の前に着弾するように投げつけた。
「喰らうがいい……”ツァーリ・プラムヤ”!!」
ジナイーダが投げ放った槍が、床に突き刺さる。
それと同時に、赤黒い炎が日向たちの視界を染めた。
「うわ……!?」
床に着弾した槍は、このミサイル管制施設の端から端まで届くほどの超大爆炎を巻き起こした。コンテナ群は吹き飛ばされ、コントロールパネルはスパークを起こして爆発。奥の巨大なモニターは、その全てが爆風の風圧で粉砕された。壁も天井も爆風によって一部が崩落する。
爆炎に巻き込まれた日向は、全身にひどい火傷を負ってうつ伏せに倒れていた。近くに遮蔽物も何もなかった彼は、爆炎から逃げ切ることができなかった。
「あぐ……げほっ……」
日影とオリガは、それぞれ近くのコンテナ群やコントロールパネルの裏に隠れたようだ。だがそれでも、この管制施設全体を巻き込むほどの爆炎により、かなりの火傷を受けてしまった。しかもこの火傷は回復不可能だ。
「ぐッ……なんつう火力だよ……」
「冗談抜きで下手なミサイルよりやばい威力じゃない……。大変なことになったわね……ごほっ、ごほっ……」
北園もまた物陰の後ろに隠れ、さらに球状のバリアーを展開することで、どうにか無傷で済んだようだ。しかし今の爆炎を目の当たりにして、おまけに一網打尽にされた仲間たちを見て、戦慄してしまっているようだ。
「あわわ……。ど、どうしよう、どうすればいいのかな……。ひとまずここは、日影くんやオリガさんの回復を……あ、でも今の炎は”怨気”の炎だから、私の”治癒能力”も効かないんだ……。それならジナイーダさんに攻撃した方が……」
戦慄が動揺を生み、北園はすぐに行動できないでいる。
そしてジナイーダは、わずかながらも北園が自分に攻撃の意思を向けたことを察知し、北園の方をチラリと見た。
ジナイーダの足が、少しだけ地面から浮く。超能力による浮遊能力だ。日向に右足首を破壊されたことで、ここからは超能力による移動方法に切り替えるつもりなのだろう。
するとジナイーダはわずかに姿勢を低くした後、爆炎と共に北園へ突撃。勢いよく槍を突き出してきた。
「はぁぁっ!!」
「ば、バリアーっ!!」
ジナイーダの攻撃に合わせて、バリアーを展開した北園。
しかし彼女のバリアーは、ジナイーダの突撃によってあっさりと粉砕され、バリアーの向こうにいた北園も諸共はね飛ばされてしまった。
「きゃあああっ!?」
ジナイーダが突進した後には、黒炎が螺旋状に舞い上がる。
その黒炎に巻き込まれて、瓦礫や木箱の破片が焼き尽くされていく。
はね飛ばされてしまった北園も、床に落下して叩きつけられた。幸い、槍の直撃は逸れたようだが、全身にやけどを負ってしまっている。
「う……うう……」
「私の炎が強くなって向上するのは、槍の攻撃力だけではない。爆炎で私の身体を押し出すことで移動力を高めることもできる。そのスピードと火力を組み合わせた突撃は、貴様のバリアー程度では防げんよ」
このままでは北園が危ない。
オリガが遮蔽物から飛び出し、ジナイーダに向かって重機関銃を射撃。
「あなたの相手は私よ!」
「ふん。トドメの邪魔ばかりだな、貴様らは」
ジナイーダは飛び上がり、空中で右に左にと移動してオリガの射撃を避ける。そしてオリガの射撃を掻い潜りながら、滑空してきてオリガに突撃。
「串刺しだっ!!」
「ちっ……!」
オリガはローリングを行ない、ジナイーダの突撃を回避。その隙に北園のもとへ駆け寄り、彼女を助け起こす。
「良乃! しっかりなさいな!」
「オリガさん……熱つつつ……。うん、私はなんとか大丈夫です……!」
「よし、良い返事ね。一緒にジナイーダを撃ち落とすわよ!」
「りょーかいです!」
オリガは重機関銃を撃ちまくり、北園は”発火能力”の火球を連続発射する。対するジナイーダは二人の頭上を飛び回って攻撃を回避しつつ、左手にも槍を生成。右手に持っていた一本目と合わせて二槍流になる。
二人の遠距離攻撃を回避しつつ、ジナイーダは床へと降りてきた。そして直線上にいるオリガと北園を狙って突進の用意。二本の槍を突き出しつつ、姿勢をわずかに低くした。
「さっきの突進が来る! 良乃、回避よ!」
「はい!」
二人はそれぞれ左右に分かれる。
その二人の間を通るように、ジナイーダが突進。
螺旋状に巻き起こった赤黒い炎が、わずかに二人の肌を焼いた。
突進を終えたジナイーダが素早く振り返る。
そして、背後にいる北園めがけて左手の槍を投げつけた。
「”ツァーリ・プラムヤ”!!」
「わ、わ!? だ、”二重展開”っ!!」
ジナイーダの最大火力が飛んできた。
回避する余裕がなかった北園は、二重のバリアーで受け止める用意。
投げ放たれた炎の槍が、北園のバリアーに命中。
直後、赤黒い炎の奔流が、凄まじい勢いで北園のバリアーを包み込む。
北園のバリアーは少しの間、炎に耐えてくれていたが、やがて破壊されてしまった。
「くううう……うああああっ!?」
北園も赤黒い炎の奔流に巻き込まれ、吹っ飛ばされる。炎の発生の終わり際だったため、炎はすぐに止まり、北園もあまり身を焼かれずに済んだのは不幸中の幸いだった。
だがジナイーダの右手には、まだ二本目の槍が残っている。
素早く投擲の構えを取り、ジナイーダは北園めがけて二本目の槍を投げつけた。
「今度こそもらった!! ”ツァーリ・プラムヤ”ッ!!」