第1099話 基地奪還戦最終段階
人類を見限り、裏切った女将軍ジナイーダと決着をつける時が来た。対するは日向、北園、日影、そしてオリガの四人。
日向たちがここに来るまで、日影はジナイーダの策略によって手ひどく痛めつけられた。”再生の炎”がロクに機能しないところまで弱らせられているが、それでも負けずに戦うつもりのようだ。
「日影。大丈夫か、その身体で?」
「ああ、まだいける。あの女には一発返してやらないと気が済まねぇ」
日影はそう言うが、やはり彼の消耗は甚大だ。”オーバーヒート”はもちろん、”オーバードライヴ”だってまともに使用することはできないだろう。
いつもならまずは日影に切り込ませるところだが、日影の調子を確認した日向は、自分が切り込み役を担当することにした。
「北園さん! オリガさん! 援護お願いします!」
「りょーかい!」
「ジナイーダは強いわよ。油断しないで、日下部日向」
二人の声を背に受けて、日向はダッシュ。
ジナイーダとの距離を詰め、”点火”を発動させながら『太陽の牙』を振り下ろす。
「おりゃあああ!!」
「ふん……」
さすがに日向の”点火”の一撃をまともに受け止めるのはマズいと判断したか、ジナイーダは少し後退して日向の斬撃を回避。
ジナイーダがわずかに後ろに下がったことで、日向を槍の射程内に捉えた。左の持ち手を前に、右の持ち手を後ろにして槍を構え、日向めがけて三連突きを繰り出す。
「はぁぁっ!!」
「うわっとと!?」
日向も慌てて後ろに飛び退き、ジナイーダの攻撃を回避した。
しかしジナイーダは日向との距離を詰め、追撃を仕掛けてきた。今度は突き、薙ぎ払い、袈裟斬りの三連撃だ。
「はっ! せいっ! ふんっ!」
「おわ!? っと!? ひぇ!?」
日向はこの三連撃も回避してみせたが、回避に手一杯でとても反撃どころではない。ジナイーダは槍のリーチを活かし、日向が反撃を仕掛けるのが難しい絶妙な間合いをキープしてくる。
「『剣の使い手が槍の使い手を倒すには、槍の使い手の三倍くらいの実力が必要』とか聞いたことがあるけど、これは思った以上にやりにくいな……!」
だが、日向にジナイーダの三倍の実力は無くても、仲間がいる。
オリガが日向の背後から、ジナイーダに向かって拳銃を発砲。
「喰らいなさいな!」
ジナイーダもオリガの攻撃を察知し、左に跳んで銃弾を回避。
銃弾は回避されてしまったが、日向への攻撃は中断させた。
そしてジナイーダが跳んだ先に、北園の火球が撃ち出される。人間一人などまるまる焼き尽くしてしまうような巨大な火球が、地面を削りながらジナイーダに迫る。
「いっけぇー!」
「回避先を読んでいたか。だが、この程度の炎……!」
ジナイーダは左手を突き出し、バリアーを展開。
展開させたバリアーに北園の火球が激突。
せき止められた火球は誘爆し、ジナイーダを包み込んで大爆炎を巻き起こす。
ジナイーダは無傷だった。しかし今の大爆炎を目くらましにして、日向と北園とオリガの三人が姿を消した。前方には日影だけが残っている。
「私を挟み撃ちにでもするつもりか。操作パネルやコンテナの陰に隠れているな」
ジナイーダにとっては、やりにくい展開になった。隠れた三人を探すために下手に動いて背中を見せれば、三人はその隙を突いてくるだろう。うかつには動けない。
「空中を飛んで上から探すのは……それも厳しいか。撃ち落とされる可能性がある。オリガに加えて日下部日向も、警戒すべき射撃能力の持ち主と聞いている」
するとジナイーダは、槍を逆手に持って肩の上で構えた。投槍のポーズだ。
「……問題ない。ここには……今の私には、巻き込んで気にする友軍もいないのだから」
そう言って、ジナイーダは近くのコンテナ群に向かって槍を投擲。槍は着弾と同時に黒い大爆炎を巻き起こした。同時に、コンテナ群の中から日向の悲鳴が聞こえた。
「どわぁぁぁ!?」
「そこに隠れていたのは日下部日向か。ハズレだな。奴は”怨気”の炎で焼いてもダメージを再生してしまう。狙うべきは北園良乃かオリガだ」
そう言ってジナイーダは、今度は両手に一本ずつ黒炎の槍を生成。コントロールパネルが多く設置されている場所に向かって、二本の槍を交互に投げつけた。
すると、投げた槍が着弾するよりも早く、そこからオリガが飛び出してきた。槍が着弾して巻き起こった大爆炎をバックに、鋭いダッシュでジナイーダに向かっていく。
「そこに隠れていたか、オリガ……!」
ジナイーダは再び黒炎の槍を生成。オリガを迎え撃つ用意。
オリガはジナイーダに向かって走りながら、拳銃を連続で発砲。
ジナイーダは槍の穂先を小さく動かし、銃弾を払うように弾いていく。
ジナイーダに接近しつつ、オリガは”精神支配”の超能力を使用。ジナイーダはオリガの眼を見ないようにして”精神支配”を回避。洗脳には失敗したが、ジナイーダはオリガの方を見ることができない状態だ。よってジナイーダの動きも悪くなるはずだ。
オリガとジナイーダとの間合いが一メートルほどになると、オリガは一気に踏み込んで、放たれた矢のような鋭さで氷のナイフを突き出した。
「はっ!!」
しかし、これはジナイーダに回避される。
ジナイーダはオリガの横に回り込むと、彼女の胴体を狙って槍を突き出す。
だがオリガも負けていない。迫りくる槍の穂先を、左足のかかとですくい上げるように蹴り上げ、刺突の軌道を逸らした。
「もらった……!」
ジナイーダの槍を上に逸らしたことで、彼女の懐がガラ空きに。オリガはそこを狙って、氷のナイフを全力で投擲。
これに対して、ジナイーダはバク宙で後退。彼女の顔が床の方を向いている時、彼女の下をナイフが通過していくのが見えた。
バク宙から着地したジナイーダは、今度は前宙で飛び上がる。
そして回転の勢いを利用しながら、下にいるオリガめがけて槍を投げつけた。
「ふんっ!!」
「ちっ……!」
オリガは後方にローリングを行ない、同時に床に手をついて氷柱の壁を生み出す。
ジナイーダが投げた槍が、先ほどまでオリガがいた場所に着弾。槍を形成していた炎のエネルギーが破裂し、黒い爆炎を発生させる。
身を焼かれれば、北園の”治癒能力”でも回復できない怨嗟の黒炎。オリガはローリングと同時に作り出しておいた氷柱の壁を遮蔽物にして、この黒炎から身を守った。
だがジナイーダは、今度はオリガが隠れている氷柱の壁を直接狙って、まっすぐ槍を投擲。
「爆炎だけならまだしも、直撃は防げないわね……!」
オリガはすぐさま氷柱の壁の後ろから退避。
氷柱の壁にジナイーダの槍が直撃し、木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「なぜ貴様は、私を理解してくれないのだ! 同じ『無敵兵士計画』を体験し、同じものを見てきたはずなのに、なぜ『人間は滅んでも仕方ない存在』だと分からない!」
そして、氷柱の壁から飛び出したオリガに、ジナイーダが追撃を仕掛けてきた。黒炎を身に纏い、ロケットのような速さで。
「ふん……。やっぱり、一筋縄じゃいかない手強さね」