第1095話 黒炎の女将軍
また時間は少し遡り、まだ他の目付きのレッドラムたちが生きている時。
ここはホログラート基地の核ミサイル管制施設として使われているドーム状の建物。ここでは日影とジナイーダが対峙している。
今にもジナイーダに飛び掛からんと、前かがみになっている日影。
対するジナイーダは、何の構えも取っていない。
そして日影が”オーバーヒート”を発動し、炎の塊となってジナイーダに突撃した。
「行くぜ、ジナイーダッ!!」
言うと同時に、ものすごい速度でジナイーダめがけて飛ぶ日影。
それと同時に、ジナイーダが左手を挙げた。
その瞬間、周囲のコンピューターパネルやコンテナの後ろに隠れていたライフル型のレッドラムたちが一斉に姿を現し、ジナイーダに攻撃を仕掛けようとしていた日影に光弾を発射。
「SHAAA!!」
「KIEE!!」
八体ほどのライフル型のレッドラムが、日影の進路を予測して同時射撃。八つの光弾が日影の四方八方から襲い掛かり、全くの同時に日影に着弾。大爆発を巻き起こした。
「一対一で戦ってもらえると思ったか? 私はリアリストだ。目標達成のためならば、使える手段は何でも使わせてもらう」
ジナイーダがそう言い放つ。
日影がどうなったのかは、まだ彼の姿が煙に包まれていて確認ができない。しかし光弾は確かに日影に命中していた。無事で済んでいないのは間違いないだろう。
やがて煙が晴れる。日影は無事だった。どうやら”オーバーヒート”の大火力が、光弾によるダメージを減少させたようだ。
「ちッ、薄々そんな予感はしてたぜ。正々堂々、一対一ってタイプには見えなかったんだよなテメェ。勝つためなら何でもやるド畜生の気配だった」
「ふん、凌いだか。さっさと死んでおけば良いものを……!」
そう言って、ジナイーダが攻撃を仕掛けてきた。彼女の超能力による炎と”怨気”を混ぜ合わせた、赤黒い槍で日影を突き刺しにかかる。
「はぁっ!!」
「ッと!」
日影は『太陽の牙』を上手く使い、ジナイーダの突きを右に逸らす。そしてそのまま刀身を横に傾け、ジナイーダの首を狙って横一文字斬り。
ジナイーダも上体を屈めて、日影の斬撃を回避した。
それと同時に、身体を時計回りに回転させながら後退。
さらに同時に、日影の足元を狙って槍を左から右へ振り抜いた。
日影はその場から軽く飛び退き、足を狙ってきたジナイーダの斬り払いを回避。彼女の槍がかすめた床に、赤黒い焼け跡のような斬撃痕が残った。
飛び退いた日影は、ジナイーダめがけてジャンプ斬り。
渾身の力を込めて、彼女の脳天を狙って『太陽の牙』を振り下ろす。
「どるぁぁッ!!」
だが、ジナイーダもまた大きく後ろへ飛び退いて、日影の斬撃を回避した。誰もいなくなった床に『太陽の牙』が叩きつけられ、その衝撃で炎をまき散らす。
すぐにジナイーダに追撃を仕掛けようとする日影。
しかしそこへ、先ほど日影に横やりを入れてきたライフル型のレッドラムたちが、再び日影に向かって一斉射撃。
「くそッ、うぜぇ!」
射撃音とライフル型の気配を鋭敏に察知し、日影は自分を狙う光弾を次々と『太陽の牙』で打ち払う。戦闘に関しては極めて優れた直感を持つ彼だからこそできる芸当だ。
しかしそこへ、先ほど大きく飛び退いたジナイーダが、空中で日影めがけて炎の槍を投げつけてきた。
「消し飛べ!」
ライフル型が射撃によって日影の足を止めているところへ、ジナイーダの投槍。黒炎を纏いながら飛来してくる炎の槍は、禍々しいミサイルのようである。
「喰らうかッ!」
日影はライフル型の射撃の一瞬の隙を突き、前方に向かって”オーバーヒート”で飛ぶ。先ほど日影がいた場所に黒炎の投槍が着弾し、大爆炎を巻き起こした。
投槍を回避した日影は、そのままジナイーダの真下まで移動。そして一気に飛び上がり、真上にいたジナイーダに斬撃を叩きつける。
「るぁぁッ!!」
「くっ!」
ジナイーダは新たに作り出した黒炎の槍で、日影の斬撃をガード。金属音と共に真上へ大きく吹っ飛ばされる。
天井へ吹っ飛ばされたジナイーダは、吹っ飛ばされながらも体勢を整え、足から天井に着地。下にいる日影に向かって、巨大な赤黒い火球を撃ち出した。
「燃え尽きろっ!」
「その程度ッ!」
日影は再びジナイーダに向かって”オーバーヒート”で飛び上がり、正面から飛んできた火球に『太陽の牙』の燃え盛る刀身を振り下ろす。その結果、火球は真っ二つに叩き斬られた。割れた火球の中心を日影が通過し、その後で火球は誘爆した。
天井のジナイーダを狙って剣を突き出す日影。
ジナイーダは横に向かって跳び、日影の刺突を回避。
建物の壁に着地し、二本の炎の槍を作り出して両手で握る。
そのジナイーダを追いかける日影。
”オーバーヒート”の推進力で、あっという間に彼女との距離を詰める。
そして『太陽の牙』を力の限り振り下ろす。
「だるぁぁッ!!」
振り下ろされた日影の斬撃を、ジナイーダは左手の槍でいなす。
攻撃を凌がれた日影だが、負けじとジナイーダを押し込みつつ連続攻撃。
ジナイーダも後退しつつ、両手の槍で日影の攻撃を防ぎ、時には反撃を仕掛ける。日影はジナイーダの反撃を防御しながら、さらに彼女を押し込んでいく。
両者はそれぞれ白く輝いて見える業火と、不気味な赤黒い炎を纏い、建物の壁を奔りながら戦っている。二人の攻防の余波で、建物の壁がどんどん削れていく。あるいは焼け跡をつけられていく。
やがて、日影がジナイーダの隙を突いて、大振りの横斬りを繰り出した。ジナイーダがうまく回避も防御もできないタイミングを狙った。
「ちっ……!」
ジナイーダは左の槍を使って、日影の斬撃を受け止める。
しかし、攻撃の馬力は日影の方に分がある。
ジナイーダは日影の攻撃に耐えきれず、吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされ、建物の中心の床に背中から叩きつけられるジナイーダ。すぐさま受け身を取って体勢を立て直した。
ジナイーダがまだダメージから回復する前に追撃を仕掛けようとする日影。だがしかし、そんな彼に向かってライフル型のレッドラムが射撃を行ない、彼を足止めする。
「SHAAA!!」
「ちぃッ! いい加減、テメェらもウザくなってきたぜ!」
日影はそう言うと、ジナイーダの周囲をぐるりと回るように滑空。その際に進路上にいたレッドラムたちを六体ほど斬り捨てた。あるいは燃え盛る身体で撥ね飛ばした。
「GYAAAA!?」
「GUAAA!?」
「八体全部やるつもりだったが、二体ほど仕留め損ねちまったか。だがこれで、邪魔者はだいぶ減ったぜ」
ジナイーダの正面に戻ってきて、日影は彼女に向かってそう告げる。
ジナイーダは表情は変わらなかったが、内心では少し焦っているようだ。
(思ったよりやるな……。奴の戦い方は決して力任せなだけではない。まだまだ粗削りだが、確かな武を感じる。おまけにあの超火力と再生能力。やりにくいことこの上ない。これは、『あの作戦』を実行に移すべきか……)
日影とジナイーダ、それからついでに二体のライフル型のレッドラム。両陣営が正面から睨み合い、相手の出方を窺うと同時に、次なる自分の一手を頭の中で模索する。
……しかし、その時だった。
彼らがいる場所とはまた別の場所から、何か物音が聞こえた。
「何だ? そっちにもレッドラムが潜んでたか……?」
物音は日影の背後の方から聞こえた。
音がした方へ素早く振り返る日影。
そこにいたのは、見覚えのない人間の少女だった。
「あ……たすけて……」