第1090話 助かるためには
「がふっ……!?」
サイボーグ型の攻撃を受け、腹部を深く引き裂かれてしまった本堂。後ろのめりに下がっていき、やがてバランスを崩して背中から倒れた。
サイボーグ型を挟んで、本堂の反対側にいるエヴァが、本堂に呼び掛ける。
「仁!? 大丈夫ですか!? くっ……今すぐ彼の治療をしに行きたいところですが、目の前のサイボーグ型がそれを許さないでしょう……」
「グフフフ! 次ハ貴様ダ! 星ノ巫女!」
「どきなさい! 彼を死なせるわけにはいきません!」
そう言って、エヴァが巨大な火球を発射。
対するサイボーグ型は、仁王立ちでその場から動かない。
サイボーグ型の左右のメカニカルアームが一本ずつ動き、アームの中心から赤黒いレーザーを発射。エヴァの火球をぶち抜いて、そのままエヴァにも襲い掛かる。
「きゃっ……!?」
慌ててその場から飛び退き、赤黒いレーザーを回避するエヴァ。回避の瞬間、レーザーから憶えのある不吉な気運を感じ取った。
「この気配は”怨気”ですか……! あなたもその能力が使えるのですね……」
「グフフ、ソノ通リ! サァ恐レオノノケ! 貴様ラ一人残ラズ、死ヲクレテヤロウ!」
そう言って、エヴァの前に立ちはだかるサイボーグ型。
このままでは本堂を助けに行けない。
その時、先ほどサイボーグ型に吹っ飛ばされたズィークフリドが再びやって来て、駆けつけてきた勢いのままサイボーグ型を殴りつける。
「ッ!!」
「ヌゥッ! マタ貴様カ! シブトイ奴メ!」
サイボーグ型は”怨気”を纏わせたアームの爪でズィークフリドに襲い掛かり、さらには”怨気”によって赤黒くなったレーザー攻撃まで織り交ぜてくる。
ズィークフリドはその全てを回避し、サイボーグ型に攻撃を仕掛けて引き下がらせる。エヴァが本堂のもとに駆け付けるための道ができた。
「今です……!」
エヴァが急いで本堂のもとまで駆け寄る。そしてサイボーグ型が横やりを入れてこないよう、能力で自分たちとサイボーグ型との間に壁を作る。
そしてエヴァは、本堂の傷の具合を診ながら、彼に声をかけた。
「仁! しっかりしてください、仁!」
「エヴァか……。すまん、不覚を取った……」
「今から”生命”の能力で傷の治療をします! 気をしっかり持ってください!」
「いや……無駄だ……。この傷は”怨気”の攻撃によるものだ……能力による傷の再生はできない……」
「そ、そんな……!」
本堂の言葉を聞いて、顔が青ざめるエヴァ。
彼が受けた傷は、どう見ても致命傷だ。
今は意識があるものの、やがて大量出血も合わせて死に至るのは間違いない。
「諦めてはいけません……! もしかしたら、能力が効くかもしれないじゃないですか……!」
そう言って、エヴァは本堂の傷に能力を行使し、治療を開始。彼の肉体の細胞を活性化させ、自然治癒力を劇的に高めることで怪我の再生を促す。
……だが、やはりエヴァがどれだけ強く能力を使っても、本堂の傷は塞がらなかった。
「そんな……どうすれば……」
絶望に打ちひしがれるエヴァ。
ここで本堂を失ったら、日向たちに何と説明すれば良いのか。
本堂にとっても、ここで命を落とすことは不本意なことだった。
死の恐怖のためではない。もう日向たちと共に戦えなくなるからだ。
この災害で家族を失った。最後まで戦って決着をつけたいと思っていた。
「死ねない……死ぬわけにはいかない……何か、方法は……」
傷の痛みで頭が茹で上がりそうな本堂。
強い理性で思考を回し、助かる方法を模索する。
そして本堂は、ある一つの考えに思い至った。
その考えを実行に移すには、エヴァの協力が不可欠だ。
本堂は、すぐ側にいるエヴァに声をかけた。
「エヴァ……」
「何ですか、仁……」
「『星の力』を、もっと俺に寄越してくれ……」
「ほ、『星の力』を……?」
「そうだ……。”怨気”で怪我を治療できないのなら、この怪我を耐えきれるくらいに生命力を底上げするしかない……。そのためには『星の力』を使うのが……」
「だ、駄目です……! すでにあなたが有している『星の力』は、あなたが保有できるだけの限界量です! これ以上『星の力』を吸収したら、あなたは人間でなくなるのかもしれないのですよ! あなたの家族や友人が、異形と成り果てたあなたを見たら何と言うか……」
「構わない……。俺が化け物になって困る家族は、もういない……。友人も、いま生きているのが分かっているのは日向たちくらいのものだ……。皆ならきっと、分かってくれるさ……」
「『星の力』を吸収した後で、理性を保てているかも分かりませんよ……?」
「分が悪い賭けなのは百も承知だ……。他に方法が無い……やってくれ、エヴァ……」
本堂にそう言われても、エヴァはまだ迷っている様子である。
思い詰めた表情をしながら、彼の表情や傷の具合を交互に見ている。
しかし、やがてエヴァはうなずいた。
「分かりました……もう他に方法は無さそうですし……やってみましょう」
そう言って、エヴァは左手のひらに蒼いオーラを集める。『星の力』だ。
手のひらに集めた『星の力』を本堂に送るエヴァ。
蒼いオーラが本堂の身体を包み込む。
突如、倒れていた本堂の身体が跳ね上がった。
「ぐっ……!?」
「仁! 大丈夫ですか!?」
「ぐ……うぅ、あああ……っ!!」
「やはり、過剰な量の『星の力』が、彼の肉体を変質させている……!」
本堂の身体の内側からバキバキと音が鳴る。
肉体の基礎となる骨格までもが変質しているようだ。
「がっ、ぐぁぁぁ……っ!!」
身体中から血をまき散らして、本堂が地面の上をのたうち回る。どんな状況でも冷静さを崩さなかった彼が、身体中を襲う激痛に耐えかねて苦しんでいる。
「仁! 気をしっかり持ってください! あなたならきっと耐えることができるはずです!」
「ぐ……ぬ、ぐぅっ……!!」
一瞬、エヴァの声に反応したかのような様子を見せた本堂。
しかし、すぐに意識を痛みに持っていかれてしまう。うつ伏せになってうずくまった。
その時、エヴァたちの近くでスパーク音混じりの爆発音が聞こえた。どうやらズィークフリドとサイボーグ型の戦闘音のようだ。かなり激しい戦いが繰り広げられている様子である。
「私も向こうに加勢した方が良さそうですが、仁の容態を見守らないわけには……」
……だが、その時だった。サイボーグ型から横やりを入れられないよう、エヴァが作り出しておいた岩の壁が向こう側から破壊された。
「きゃ……!?」
突如として岩の壁を破壊されて、エヴァは驚愕。
舞い上がる土埃を避けるように顔を右腕で覆う。
岩の壁を粉砕して姿を現したのは、やはりサイボーグ型のレッドラムだった。
「グフフフ……死ニカケノ蛆虫ニトドメヲ刺シニ来テヤッタゾ」