第1089話 止められない破壊者
サイボーグ型の能力により雷が降り注いでいる、ホログラート基地の屋外。絶え間なく続く落雷は、十回に一回ほどの確率で一人の人間に直撃し、無視できない被害を人間陣営にもたらしつつある。
本堂たち三人もまた、空から次々と周囲に落ちてくる雷に対して警戒の姿勢を取っていた。
「この雷は……サイボーグ型の能力か?」
「そのようです。これほど大規模な能力まで使えるとは……」
「エヴァ。お前の能力で、この雷の嵐に対抗することは可能か?」
「はい。天候のコントロール権を奪い、落雷の量を減らします。しかし、そちらに『星の力』を大きく割くことになるので、私がサイボーグ型に仕掛ける攻撃の威力が減少するのは避けられないかと」
「構わない。この雷は他のグループにも被害を出している。少しでも全体の被害を抑える方が優先だ」
本堂の言葉にエヴァはうなずき、天に向かって杖の先端を向ける。
それからすぐに、落雷の頻度が目に見えて落ちてきた。
だが、サイボーグ型も恐らくエヴァの能力に抵抗しているのだろう。落雷の頻度は大きく落ちたが、それでも完全に止まってはいない。時おり不意を突いて空から雷が降ってくる。
「ヌゥゥ、俺様ノ落雷能力ヲ抑エ込ミニ来タカ! 小癪ナ真似ヲ!」
その言葉とは裏腹に、サイボーグ型は少し楽しそうな様子のようにも見える。この程度の抵抗は予想の範囲内ということなのだろうか。
サイボーグ型が本堂とエヴァの二人めがけて突撃してくる。
背中の四本のメカニカルアームの爪をガシャガシャと開閉させながら。
「エヴァ、下がるぞ」
「分かってます!」
本堂とエヴァは同時に飛び退き、サイボーグ型から距離を取る。その際、本堂はサイボーグ型の顔面に向かって”指電”を放ち、目くらましにして少しでもサイボーグ型の足を止めようとする。エヴァは一発の暴風弾を撃ち出し、サイボーグ型の胴体に命中させた。
本堂の電撃と、エヴァの暴風弾。
その両方が直撃しても、サイボーグ型は平然と耐えていた。
「俺の電撃はともかく、エヴァの風を受けてもビクともしないか。威力減少の影響がさっそく出てしまっているようだな……」
そしてサイボーグ型は、再び突撃を再開してくる。
狙いはエヴァだ。
「星ノ巫女! 貴様ヲ殺セバ、仮ニ我等ガイナクナロウト、モハヤコノ星ノ復活ハ絶望的ナモノニナル! 貴様ガ最優先ターゲットダ!」
「吠えていなさい。あなたごときに負けるつもりはありません……!」
後退しながら言い返すエヴァ。
逃げるエヴァに向かって、サイボーグ型が背中のメカニカルアームを伸ばしてくる。
しかし、そのサイボーグ型の横から走り寄ってくる黒い影。
ズィークフリドの強烈な右フックが、サイボーグ型を殴り飛ばした。
「ッ!!」
「ヌゥッ!?」
不意打ちを受け、よろめくサイボーグ型。
その隙を逃さず、ズィークフリドがさらなるラッシュを仕掛ける。
彼の霧で弱体化しているサイボーグ型の肉体に、ズィークフリドの剛撃が次々と直撃。
「フン! コノ程度!」
サイボーグ型も負けじと、四本のメカニカルアームと自分自身の二つの拳で、ズィークフリドに反撃を仕掛ける。
だが、ズィークフリドはサイボーグ型の反撃をうまく回避し、自身の攻撃を途切れさせない。回避しながら攻撃を続けている。
「ク……!」
攻撃を受け続けたサイボーグ型が、初めて苦悶の声らしき呻き声を漏らした。ズィークフリドの攻撃は効いている。
この隙を逃さない。
ズィークフリドは右手の指をまっすぐ立てて貫手を繰り出す。
狙いは、サイボーグ型の装甲に守られていない、みぞおち部分。
ズィークフリドの貫手は命中。
サイボーグ型のみぞおちに、ズィークフリドの手が深々と突き刺さっている。
……しかし、ズィークフリドの様子がおかしい。
サイボーグ型から右手を引き抜こうとしても、引き抜けないような様子だ。
そして、そんなズィークフリドの様子を見て、サイボーグ型は嗤った。
「グフフフ……! 肉ヲ斬ラセテ骨ヲ断ツ、トイウヤツダ!」
サイボーグ型は、ズィークフリドの貫手を喰らったと同時に、みぞおち部分の筋肉を引き締めた。そして引き締められた筋肉がズィークフリドの右手を締め付け、彼を逃がさず捕らえたのだ。
「ヨクモヤッテクレタナ、生意気ナ人間メ! 今度ハコチラノ番ダ!」
そう言って、サイボーグ型はズィークフリドの右手をみぞおちで捕まえたまま、両拳のラッシュを繰り出した。赤い岩のような拳が次々とズィークフリドに叩きつけられる。
「……っ!!」
右手を封じられ、距離を取ることもできないズィークフリドは、左腕のみを使ってサイボーグ型のラッシュをガードしている。しかし馬力があまりにも違い過ぎる。いくらズィークフリドといえども、このサイボーグ型のラッシュを受け続けていては、あっという間に全身を壊されてしまう。
「……ッ!!」
このままでは、やられる。
最悪、指の骨が抜けるのも覚悟して、渾身の力で右手をサイボーグ型から引き抜いた。
ズィークフリドの右手は、無事に引き抜くことができた。
しかし、引き抜いた瞬間にわずかな隙が生じる。
それを待っていたと言わんばかりに、サイボーグ型がズィークフリドを蹴り飛ばした。
「貰ッタゾォ!!」
「っ……!」
バトル漫画のようにまっすぐ吹っ飛ばされるズィークフリド。
その先の建物の外壁にぶつかり、壁が崩れる。
粉砕された壁ごと建物の中に叩き込まれた。
攻撃の手応えを感じ、愉悦に浸るサイボーグ型。
しかしその隙に、今度は本堂がサイボーグ型の横から接近。
稲妻と暴風を込めた右手のひらを、サイボーグ型のわき腹に押し当てる。
「ヌ?」
「零距離から、嵐を直接叩き込む……。
喰らうがいい。”零嵐撃”……!!」
瞬間、風と電気が大爆発を起こしたかのような、特大の轟音。
次いで、サイボーグ型の巨体が浮き上がり、吹っ飛んだ。
……が、サイボーグ型は踏ん張った。
よろめきつつもバランスを取り、転倒すらすることなく、本堂を見据える。
「ホオ……!? 思ッタヨリモ、ナカナカヤルナ! ダガシカシ、コノ程度デ俺様ヲ倒スコトハデキン!」
「く……。”天鼓”や”轟雷砲”をも超えうる、今の俺の最強の一撃だったのだがな……。こうも平気そうな顔で耐えられると、流石に堪える」
サイボーグ型が本堂にターゲットを切り替え、突撃してきた。そのサイボーグ型の後ろからエヴァが巨大な氷柱を発射して援護射撃をしてくれているが、サイボーグ型は氷柱の方を見ることさえせず、メカニカルアームで粉砕してしまう。
エヴァの氷柱を粉砕しつつ、サイボーグ型がメカニカルアームでラッシュを仕掛けてくる。
「ソラソラソラァッ!!」
手数は多いが、動きは単調だ。
本堂ならば回避は難しくない。
「とはいえ、このパワーと、あのアームの鋭い爪。一撃でも直撃したら命に係わるな……」
……と、本堂が思考した、その瞬間だった。
本堂とサイボーグ型の間に割って入るように、落雷が降ってきた。
「くっ……!?」
突然の眩い光と轟音に、本堂は動きが一瞬ストップ。
視界も光に塗り潰され、鼓膜も馬鹿になってしまう。
そして本堂が動けるようになったころには、サイボーグ型がすぐ目の前に。本堂をメカニカルアームの射程圏内に捉えている。
「しまった……!? 距離を……!」
「モウ遅イ! 死ネェェッ!!」
サイボーグ型の右上のメカニカルアームが、赤黒いオーラを発する。
そのオーラを発したアームが大きく振り抜かれ、本堂の腹部を深く引き裂いた。