第1088話 各々の持ち場
本堂、エヴァ、ズィークフリドの三人がサイボーグ型のレッドラムと戦う中、グスタフ大佐は生存者たちのグループを指揮して他のレッドラムたちと交戦している。自らも”溶岩”の能力で火球を発射し、レッドラムと戦っている。
「目の前の戦いも大事だが、背後のサイボーグ型にも注意せよ! 奴の攻撃力および攻撃規模は、並みのレッドラムとは桁違いだ! 巻き込まれないよう気を付けろ!」
「了解!」
「分かりました!」
グスタフの声を受けて、彼の指揮下にいる人間たちの表情がさらに引き締まる。多くの者たちは軍人ではないので、戦いの経験など今日が初めてのはずだが、プロの軍人たちにも決して劣らない戦いぶりを見せている。
この生存者たちの奮闘ぶりは、グスタフ大佐の指揮能力によるところが大きいだろう。娘を助けるために軍の要職に就く必要があった彼は、これまでひたすら自身の能力を高めることに注力してきた。そのため、彼の軍人としての能力の高さは本物だ。
近くでは人型の岩の巨人のようなものが、レッドラムのグループの一つに突撃して暴れ回っている。これはロシア兵の一人であるシチェクだ。大柄な体格と豪快な性格が特徴の男だ。
「ふはははは! 化け物どもめ、蹴散らしてくれるわ!」
「SHAAAAAA!!」
「GYAAAAA!?」
岩で全身を、そして顔まで覆っているシチェクは、防御力は高いが視界が悪い。そのため、大人しい性格の戦車兵イーゴリがシチェクに随伴し、電磁スキャンの能力を駆使して敵の位置をシチェクに教えている。
「シチェク! 九時の方向から新手!」
「任せろぉ! 片付けてやるぅ!」
「一時の方向から敵のエネルギー弾が飛んでくる! 対衝撃体勢用意!」
「よぉし! この岩の剛腕で受け止めてくれるわ!」
「遠距離攻撃してきた奴は、いま他の人たちが攻撃してくれてる! シチェクはさっきの九時の方向からの敵に集中して!」
「了解だぁ!」
なかなかに絶妙なコンビネーションを見せるシチェクとイーゴリ。イーゴリがうまくシチェクに指示を送り、シチェクが襲い来るレッドラムたちを次々と葬り去る。
健闘している二人の兵士を見て、グスタフ大佐がシチェクに声をかけた。
「シチェクくん! 君のパワーとディフェンスはこちらの陣営にとって、なくてはならない存在、頼みの綱だ! どうかそれを念頭に置いてほしい! 大々的な活躍を期待しているが、君が倒れたら我々が一気に崩れてしまうだろう!」
「うむ、責任重大というワケだな! 了解した!」
シチェクは決して悪い人間ではないのだが、調子が乗ってくると少々突撃しすぎてしまう傾向がある。そんな彼の性質をいち早く見抜いたグスタフ大佐は、彼がミスを犯さないうちに釘を刺した。
グスタフの指示を受けて、シチェクは少し慎重な姿勢を見せつつ、引き続きレッドラムたちを巨岩の身体で叩き潰していく。彼をはじめとした皆の奮闘で、このあたりのレッドラムの数はだいぶ少なくなった。
「ふははは! 無敵ではないかこの能力は! 今ならあのズィークフリドにも勝てるかもしれんな! かつてクーデターの時に戦った時は手も足も出なかったが、リベンジとしゃれこむのも一興か!」
「もー! シチェク、さっきグスタフ大佐に『調子に乗り過ぎないように』って言われたばっかりでしょ!」
「分かっておるわい! これでも俺様は常に細心の警戒を……」
……と、シチェクがイーゴリと話している、その時だった。
突如として、空が光る。
それとほぼ同時に、空から轟音が鳴り響く。
さらに同時に、一条の稲妻が天から降ってきて、岩人間となっているシチェクの脳天を撃ち抜いた。
「ぬおおおおおお!?」
「し、シチェク!?」
降ってきた稲妻は、岩人間の頭部を粉々に粉砕してしまった。
その衝撃で、岩人間が倒れてしまう。
イーゴリは急いで岩人間の頭部側に回り込み、中にいるシチェクの安否を確認しに行く。
「シチェク、大丈夫!?」
幸いにも、シチェクは無事だった。落雷の衝撃によるものか、頭から軽く血を流しているが、元気そうではある。落雷を受けてくれた岩人間の頭部が、シチェクを守ってくれたのだろう。
「うむ……! ちと頭が痛いが、大丈夫だ。それよりも何が起こったのだ!? 雷が降ってきたか!?」
「うん、その通りだよ! 雷が降ってきてシチェクの岩人間の頭に当たったんだ!」
シチェクとイーゴリの二人がやり取りをしている間にも、天が光って轟音が鳴り響き、雷は降り続けている。この戦場にいる人間たちを狙っているかのように、やたらめったらと降り注いでくる。
「うわぁぁぁ!? 雷がぁぁぁ!?」
「誰か、回復の能力が使える奴はこっちに来てくれ! 一人、雷に被弾した!」
「くぅ……! 鼓膜が割れそうだ……。当たらなくても、この大音量を聞かされ続けているだけでひどく苦痛だ……!」
降り注ぐ雷は、次々と人間たちに被害を出しているようだ。
これまで保ってきた守りの堅さが、少しずつ崩されていく。
それを機に、レッドラムたちが少しずつ盛り返してきてしまう。
「ぬぅぅ……! 雷がこちらの被害をどんどん拡大していっているようだな。この雷、間違いなくレッドラムの能力だろう! どこだ! この雷の能力者は!」
シチェクが叫びながら周囲を見回している。
一方で、イーゴリは苦い表情を浮かべていた。
「これほどの規模で、そして雷を司る能力……。この雷を降らせているのは、サイボーグ型のレッドラムじゃないかな……」
「そうか! ならば、俺様もサイボーグ型を倒すために参戦を……!」
「ダメだよ! 僕たちが……というか君がここを離れたら、他のチームがレッドラムに押し込まれてしまう!」
「ううむ……しかし、多少の危険を冒してでも一気にサイボーグ型を仕留める方が、結果として被害は小さくならないか? 雷だってすぐ止められるのだから……」
「でも、一気に仕留められないかもしれないじゃないか! あのサイボーグ型は強い! 仕留めるのに手間取って、その間にレッドラムたちが押し寄せてきたら、完全に挟み撃ちにされて皆そろってなぶり殺しだよ!」
「やはり、あの三人が集中して戦えるよう、俺様たちはここで守りに徹するのが最善ということか……。ぬぅぅもどかしい! あの三人には一刻でも早く、サイボーグ型を倒してもらわねば!」
降り注いでくる雷を忌々しく思いながら、シチェクはサイボーグ型と戦っている三人の方を見た。