第1087話 鋼鉄と雷撃のデストロイヤー
また時間は少し遡り、日向たちが赤鎌型のレッドラムと、そしてオリガたちがゴスロリ型のレッドラムと戦っていた時。
ホログラート基地の屋外では、人間たちとレッドラムたちが激しい戦いを繰り広げていた。この時はまだ赤鎌型もゴスロリ型も生きているので、空からは赤い雪が降り、あちこちの建物からレッドラムの増援が湧いてきている。
人間たちはそれぞれ十人前後のグループで行動し、レッドラムに遠距離攻撃を仕掛ける。一人が攻撃したら、その隙を埋めるように別の人間が攻撃を行なう三段撃ち戦法で、レッドラムたちを近寄らせない。
しびれを切らしてレッドラムが突撃してきたら、近接戦闘に長けた能力者が迎え撃つ。専守防衛を心がけ、レッドラムたちに優勢を明け渡さないようにする。
しかし人間陣営が守りに徹するあまり、レッドラムたちにダメージを与えることはできても、撃破までは届かないことが多い。その結果、レッドラムの数があまり減らず、そこに増援のレッドラムもやって来て、少しずつレッドラムの数が増えつつある。このままでは押し切られる。
時間稼ぎをしているかのような消極的な戦い方だが、実際その通りだ。人間陣営は時間稼ぎをしている。
本堂やズィークフリド、そしてエヴァといった主力級の面々は今、サイボーグ型のレッドラムと対峙している。彼らに他のレッドラムを近寄らせないのが人間陣営の目標だ。三人がサイボーグ型のレッドラムを倒し、他のレッドラムの掃討に戻ってきてくれれば、戦局は一気に覆る。
サイボーグ型のレッドラムは、他のレッドラムの相手をしながら戦うには極めて危険な攻撃力と防御力を有している。彼が好き勝手に暴れたら、それだけで人間陣営は窮地に追い込まれるだろう。だから主力の三人が集中して抑え込んでいる。
ズィークフリドが”濃霧”の能力を使い、サイボーグ型の周囲に霧を発生させる。
「グフフ……目クラマシノツモリカ? 無駄ナコトヲ……」
霧の向こうからズィークフリドが”縮地法”を使い、サイボーグ型の懐に潜り込む。そして渾身の右正拳を突き刺した。
「ッ!!」
「グフッ……!? コレハ、以前ニ戦ッタ時ヨリ随分ト強ク……イヤ、俺様ガ弱クナッタノカ! 貴様ノ霧ニハ敵ヲ弱体化サセル能力ガアルナ!? グフフ、小癪ナ!」
よろめいて後退したサイボーグ型。
ズィークフリドが逃さず追撃を仕掛ける。
サイボーグ型は背中の四本のメカニカルアームを伸ばし、ズィークフリドを攻撃してくる。四本のアームの先端には鋭いクローが取り付けられており、これでズィークフリドを突き刺すつもりだ。
ズィークフリドはこのアームの突き刺しを全て回避し、再びサイボーグ型に肉薄。至近距離からの振り下ろすような回し蹴りで、サイボーグ型の側頭部を蹴り抜いた。
ズィークフリドの蹴りを喰らい、二度よろめくサイボーグ型。
しかし、よろめいただけだ。すぐに踏ん張って体勢を立て直す。
「グフフ、コノ程度ノ攻撃ナド! 弱体化シテモナオ、俺様ト貴様ノ戦力ノ差ハ歴然ナノダァ!!」
そう言って、サイボーグ型が大きく腕を振るって裏拳を繰り出した。ズィークフリドは巻き込まれる前に飛び退いて、裏拳を回避。
飛び退いたズィークフリドを、サイボーグ型が追撃してきた。
大きく跳び上がり、ズィークフリドめがけて落下してくる。
「踏ミ潰シテヤルッ!!」
「……!」
再びその場から飛び退くズィークフリド。
先ほどまでズィークフリドがいた場所に、サイボーグ型が激突。
巨大な鉄球でも落ちてきたかのように、地面が大きく粉砕された。
粉砕された地面の中心に立つサイボーグ型。
そのサイボーグ型に、本堂が攻撃を仕掛ける。
空中で右足を振り抜き、真空の刃をサイボーグ型めがけて射出した。
「喰らえ……!」
「生温イ!」
サイボーグ型が背中のアームのうちの一本を振り抜く。
これに激突して、本堂の真空刃は打ち消されてしまった。
「くっ……。ならばこれだ……!」
本堂は右手を突き出し、手のひらから稲妻状の電撃を発射。
高圧電流が光の速さでサイボーグ型に襲い掛かる。
これに対してサイボーグ型は、なんとその場で仁王立ち。
突き出した胸筋に、本堂の電撃が命中する。
しかし、サイボーグ型はまるで堪えた様子がない。
「グフフ、コソバユイ! 静電気以下ダナ! イイカ、電撃トイウノハ、コウイウモノダ!」
そう言ってサイボーグ型は、背中のメカニカルアームを目の前の地面へ四本同時に突き刺す。すると、強烈なスパークが波のように本堂へと押し寄せてきた。本堂はその場から大きくジャンプし、スパークの波を飛び越える。
「ぬっ……!?」
本堂の下を通過していったスパークの波は、彼の背後にあった倉庫のような建物の壁に直撃し、電気の大爆発が巻き起こる。その衝撃で壁が大きく崩壊してしまった。
「何という威力……。こちらの電撃も『星の力』で強化されているはずだが、歯牙にもかけない破壊力だな……」
本堂がそう呟く一方で、サイボーグ型は先ほど砕いた岩盤の一部を、四本のメカニカルアームを使って持ち上げる。ちょっとした家ほどもありそうな、巨大な岩盤だ。
その岩盤を持ち上げると、通常個体のレッドラムと戦っている人間たちめがけて投げつけた。
「グフフ! 落石注意ダ!」
「いかん……! 皆、そこから逃げろ!」
「え!? あ、うわ!? 岩が降ってくる……!?」
生存者たちのグループは、サイボーグ型が投げつけてきた岩盤に気づくのが遅れてしまった。このままでは押し潰される。
しかしそこへ、生存者たちと岩盤の間に割って入るように、高くジャンプする小さな影。
やって来たのはエヴァだ。
空中で杖を振りかぶり、飛んできた岩盤に杖の先端を叩きつける。
「粉砕せよ……”ティアマットの鳴動”!!」
地震の震動エネルギーを乗せて打ち込まれたエヴァの強打は、岩盤を粉々に粉砕して押し返した。
エヴァは地面に着地すると、続いて『星の力』を充填。
サイボーグ型に向かって、渦を巻く炎の奔流を撃ち出した。
「焼き尽くせ……”ラグナロクの大火”!!」
「グフフ……バリアー!!」
サイボーグ型は四本のメカニカルアームと自身の両腕を広げ、自分を取り囲むような半球状のバリアーを展開。直後にバリアーごとエヴァの炎に呑み込まれるが、サイボーグ型のバリアーは傷一つつかずエヴァの炎を防御していた。
「奴はバリアーも使用できるのですか……。攻防ともに隙が無い、厄介な相手ですね……」
苦い表情をしながら、エヴァがそう呟く。
本堂とズィークフリドにも取り囲まれる中、サイボーグ型は不敵に笑った。
「グフフ……! 貴様ラゴトキ、瞬キノウチニ殺スコトダッテデキルガ、モウ少シ遊ンデヤロウ! 『コノ能力』ニ、貴様ラハ生キ残ルコトガデキルカ?」




