第1082話 謎の攻撃と消えた敵
赤鎌型のレッドラムを追い詰め、挟み撃ちにしようとした日向たち三人。しかし赤鎌型のレッドラムの姿は無く、しかもキールが血まみれになって戦車の上から落ちてきたのだ。
「き、キールさん!? どうしたんですか!?」
「キール!? しっかりしろ、キール! 何があった!」
「う……ぐ……わ、分かんねぇ……いきなり後ろから、腰のあたりをバッサリだ……」
苦しそうに表情を歪ませながら、キールはかろうじて答えてくれた。見てみれば確かに、彼の腰の後ろあたりに深い切り傷がある。出血も激しい。
「赤鎌型が姿を消したのと、何か関係があるのか……?」
そう言って日向は、赤鎌型がいると思われていた場所……今は赤い氷の残骸が散らばっている場所を見てみる。この赤い氷の残骸も、赤鎌型が姿を消したことに関わっているのだろうか。
この氷の残骸を調べたい。
しかし、キールを襲撃した謎の攻撃も気になる。
「百歩譲って、氷を調べている間に俺の背中に攻撃を仕掛けてくるなら、まだいい。問題は、負傷したキールさんを狙われた場合だ。残ったアンドレイさんは本当に優秀な兵士さんだけど、この正体不明の攻撃を相手に、キールさんを守りながら自分の防御までこなすのは……」
キールを守るなら、日向もアンドレイと共に、次の攻撃に備えて防御とキールの救護を優先するべきだ。二人がかりなら、どうにかこの謎の攻撃にも対応できるかもしれない。しかしそうなると、氷の残骸を調べている余裕はない。
悩む日向。
だが、そこへアンドレイが声をかけた。
「日下部くん! キールと君の背中は俺に任せろ! どのみちキールはこれ以上戦わせるのは無理だ! いったんこの地下格納庫から彼を逃がす必要がある! ここで謎の攻撃の警戒ばかりしていては、赤い冷気でキールの体力が削られていくだけだぞ!」
「わ、分かりました! すぐ終わらせますので!」
弾かれたように、日向は赤い氷の残骸のもとへ。いくつか氷の欠片を拾い上げた結果、彼の優れた観察眼は、この残骸が何なのかすぐに見抜いてみせた。
「これは……赤鎌型の氷の装甲の一部? ……そうか、そういうことか!」
赤い氷の残骸は、赤鎌型の装甲だった。
それが判明したと同時に、日向は先ほどキールを襲撃した謎の攻撃の正体にも気づいた。
その時だった。
空気が揺らぐ。
何かが日向たちに向かってやって来る。
「アンドレイさん! 全身硬化!」
「む、分かった!」
日向の声を受けると同時に、アンドレイは全身を黒く硬化させた。こうすることで全身を隙間なく守ることができるが、その代わり『星の力』の消費が激しい、アンドレイの奥の手である。
アンドレイが全身を硬化させると同時に、彼の身体に何かが激突。
事前にガードの姿勢も取っていたアンドレイは、その激突の衝撃に負けず踏ん張った。
「くっ……! 見えない何かが、俺を斬りつけてきたぞ! だが、いったい何が……」
「アンドレイさん! 分かりました! キールさんを斬りつけて、いまアンドレイさんにも攻撃を仕掛けてきたのは、俺たちの目に映らないくらいの速度で動いている赤鎌型のレッドラムです!」
「赤鎌型だと!? 羽を展開させて高速移動しているのか!? だが先ほど高速移動をしたときは、ここまでデタラメな速さじゃなかったはず……」
「氷の装甲を脱ぎ捨てたからです! この赤い氷の残骸は赤鎌型の装甲でした! 装甲を脱ぎ捨てて身軽になったぶん、速度も馬鹿みたいに速くなったものかと!」
「理屈は通っているが、それにしたって本当にデタラメが過ぎる速さだぞ……!? 先ほどはかろうじて移動の軌跡が目視できる程度だったが、今は影も形もまるで捉えきれん……!」
しかし、その日向の言葉を裏付けるかのように、あちこちで床や柱、自動車や戦車などが切り刻まれる音が聞こえる。どうやら赤鎌型は超高速移動をしつつ、やたらめったらに周囲を大鎌で攻撃しているらしい。
「どうする!? 先ほどはキールのためにここを離脱するべきだと言ったが、あんな異常な速さの敵から、負傷者を抱えつつ逃げ切るなどとても……」
苦い表情で日向に尋ねるアンドレイ。
そんな彼に、日向は表情を引き締めて答える。
「俺が囮になります。赤鎌型は俺に執着しています。俺が引き付ければ、お二人が逃げる時間が稼げるかも」
「心苦しいが……それが最善だろうな。すまない日下部くん、しばらく頼むぞ!」
「すまねぇな日下部……。カッコつけて付いて来たのに、足手まといになっちまった……」
「そんなことないですキールさん。さっきの赤鎌型の背中への一撃、ナイスショットでしたよ」
そう言って日向は、二人のもとを離れる。
日向たちの周囲を飛び回っているであろう赤鎌型に声をかけながら。
「ほら来いよコールドサイス! 俺の首が欲しけりゃ取ってみろ!」
「KISHAAAAAAAA!!!」
姿は見えないが、赤鎌型のレッドラムも日向の挑発に応えるように叫んだ。その叫び声も、日向たちの周囲を取り囲んでいるかのような聞こえ方だった。
走り出した日向を短く見届けて、アンドレイはキールを助け起こそうとする。
「よし行くぞ。キール、立てるか?」
「それが……悪い。足が動かねぇんだ……。斬られたのは腰の後ろあたりなのに、足が動かないなんておかしいよな……。でも動かないんだよ……」
「まさか脊髄を損傷したのか? なんということだ……ぐ、ごほっ!?」
キールを助け起こそうとしていたアンドレイが、突如として血を吐いた。支えていたキールと共にその場で崩れ落ちてしまう。
「おいアンドレイ、どうした!? お前こそ大丈夫か!? さっきの超高速攻撃を受け止めた時か!?」
「いや……これは赤い冷気のダメージだ。さっきの赤鎌型の攻撃はしっかり防御できてる。お前こそ大丈夫かキール? その傷に合わせて赤い冷気まで……」
「正直、二の腕まで痺れてきて、目がかすんできてるぜ……。俺、マジで駄目かもしれねぇ。いっそここに置いていってもらった方が……」
「二度とそんなこと言うな。そら、担ぐぞ!」
「悪い、恩に着る……」
「外に出ても赤い雪が降っているうえに、大規模戦闘中だからな……。このまま地下格納庫を進んで、基地の地下通路へ避難するぞ」
そう言ってアンドレイはキールを背中に担ぎ、その場を後にした。