第1080話 血戦、赤鎌型
時間は少し遡り、まだオリガたちがゴスロリ型のレッドラムと戦っていた頃。
軍用トラックや装甲車を置いてあるホログラート基地の地下格納庫では、日向と二人のロシア兵アンドレイとキールが、赤鎌型のレッドラムと対峙していた。
赤鎌型のレッドラムの正体は、かつて日向がこのホログラート基地で倒した『星の牙』コールドサイスだ。亡霊としてこの基地に留まっていたところを、ゴスロリ型のレッドラムによって復活させられた。
地下格納庫には赤い冷気が充満している。外で降っている赤い雪と同じく、この赤い冷気は人間たちの肉体を呪いのように蝕む。先ほどはキールがダメージによって膝をついてしまった場面もあった。
「つまり、あまり長期戦はできないってこと……!」
そう考え、『太陽の牙』を握り直す日向。
かく言う日向は”再生の炎”により冷気のダメージも寒さもほとんど感じないが、それでも”再生の炎”のエネルギー自体は消費されているだろう。長期戦になると困るのは日向も同じだ。
「HYUGAAAAAAA!!」
赤鎌型が一瞬で日向との間合いを詰めて、右腕一本で巨大な鎌を振り回す。一撃一撃が人間一人くらい簡単に真っ二つにしてしまいそうな威力。とうてい普通の人間がガードしきれる衝撃ではないが、日向は”復讐火”で身体能力を強化し、張り合っている。
「くぅぅ! それでもすごいパワーとスピードだ……! 今のコールドサイスは、今まで戦ってきた中で間違いなく一番強い……!」
「LUAAAAAAAA!!」
赤鎌型が大鎌を左から右へ一薙ぎ。日向はこれをガードするが、身体が大きく傾いて体勢を崩す。
歪曲した大鎌の刃は、気を付けて防御しなければ剣のガードを掻い潜ってくる。その防御の難しさが、日向の体勢を崩した。
赤鎌型は、左腕の大爪を使って日向を貫きにかかる。
大鎌から大爪への流れるような連撃。日向が体勢を整える間を与えず追撃する。
日向は当然、体勢を立て直すのは間に合わない。
しかし、日向は逆に、自らさらに大きく身体を横へ傾けた。そうして赤鎌型の爪を回避し、浮き上がった右足で赤鎌型の腹部を蹴り飛ばす。
「そっちも強くなったけど、強くなったのはこっちだって同じだぞ! はぁっ!!」
「GUU……!」
日向の蹴りを受けて、赤鎌型が吹っ飛ぶ。
これほどの威力、もちろんただの蹴りではない。”復讐火”で威力を上げている。
赤鎌型が吹っ飛んだところへ、今度はロシア兵のアンドレイが追撃を仕掛ける。肉体の炭素濃度を操作して黒く硬化させた両腕で、赤鎌型に殴りかかる。
「行くぞ!」
素早く赤鎌型との距離を詰め、右の拳を突き出すアンドレイ。
彼の拳は赤鎌型の左肩に命中し、そこを覆う赤い氷の装甲を少し破壊した。
アンドレイは続けて左右の拳によるコンビネーションを放つ。
しかし、これは全て赤鎌型に回避されてしまった。
「SHAAAAAA!!」
赤鎌型はバックステップしながら大鎌を縦に振るう。
アンドレイは素早く上体を屈め、この大鎌を回避。
赤鎌型がアンドレイに気を取られている隙に今度は、同じくロシア兵のキールが赤鎌型の背後から攻撃を仕掛ける。指をピストルの形にして、右手人差し指から見えない風の弾丸を放つ。
「背中がガラ空きだぜ!」
五発、六発と風の弾丸を撃ち、それら全てが赤鎌型の背中に命中。
しかし、赤鎌型の背中もまた赤い氷の装甲で覆われている。
風の弾丸は赤鎌型の背中の装甲にヒビを入れるだけで終わり、ダメージまでは与えられなかった。
「SHUUUUUU……!!」
赤鎌型はキールに向かって振り返りながら、目の前へ大鎌を振り下ろす。振り下ろされた大鎌の切っ先が床を叩き、そこから大量の赤い氷が発生。大波のようにキールへと押し寄せる。
「うおおおおおやべぇやべぇ!?」
氷に巻き込まれないよう、キールはすぐさまその場から退避。
キールと入れ替わるように、今度は日向とアンドレイが同時に赤鎌型へ攻撃を仕掛ける。
「りゃああっ!!」
「せいやぁぁっ!!」
日向は剣を振り下ろし、アンドレイは右の回し蹴り。
しかし赤鎌型はその場から飛び退き、二人の攻撃を回避。
日向たち三人から大きく距離を取った赤鎌型は、背中の装甲を展開。カマキリの時の名残を感じさせる四枚の薄羽を展開させると、音を立てて羽ばたき始める。
「あれは……赤い吹雪が来る!」
「あの大勢殺しやがったヤバイ吹雪か! 絶対避けねぇと!」
「遮蔽物に身を隠すぞ!」
「SHAAAAAAAAAAA!!!」
赤鎌型の羽ばたきに合わせて猛烈な赤い吹雪が発生し、日向たちに襲い掛かる。巻き込んだ領域を真っ赤に染め上げる、鮮血のような猛吹雪。
日向たちは、先ほど赤鎌型が発生させた氷の後ろに隠れて赤い吹雪をやり過ごした。
「危なかったぜ……」
「しかしあの氷の装甲、厄介ですね……。思った以上に頑丈だ。そもそも前回の森で戦った時、シャオランの拳に耐え切れた時点でその頑丈さを考慮すべきでしたけど、これほどとは……」
「でもよ日下部、事前のブリーフィングでのお前の話が正しければ、あの氷の装甲にも弱点があるんだったよな!?」
「ええ。弱点というか、装甲に隙が生まれるタイミングです。それが――」
「二人とも話はそこまでだ! もう赤鎌型が向かってきている!」
赤い氷越しに赤鎌型を注視していたアンドレイが叫んだ。
そのアンドレイの言葉の通り、赤鎌型は赤い氷の壁を飛び越え、ジャンプしながら日向たちめがけて大鎌を振り下ろす。
「SHAAAAAA!!」
「っと……散開!」
日向の声に合わせて、三人はそれぞれ別方向に飛び退き、赤鎌型の攻撃を回避すると同時に取り囲む。
着地した赤鎌型は、正面にいる日向を見据えている。
どうやら日向をターゲットに定めたようだ。
背中の薄羽を羽ばたかせて、今にも日向に襲い掛からんとしている。
「お前本当に、どれだけ俺を狙えば気が済むんだ!」
「HYUUUUGAAAAAAA……!!」
執念を湧き上がらせるように、赤鎌型が日向の名を叫ぶ。
そして、赤鎌型の身体がわずかに前へと傾く。
日向との間合いを詰め、攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
次の瞬間。
赤鎌型の姿が消失し、気が付けば背中合わせで日向の背後に。
その右手に握られている大鎌は、すでに振り抜かれた後。
そして日向の首に、彼の首の周りをぐるりと取り囲むような血の痕がある。その血の痕から少しずつ血が流れている。
「日向くん!」
「日向!?」
アンドレイとキールが叫ぶ。
日向は、目にも留まらぬ速さで赤鎌型に首を切断されてしまったのだ。