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第1076話 怨嗟の声

 オリガを追い詰めたゾンビ型たちは、そのまま一つの血の塊のような姿へと変化し、その中にオリガを生き埋めにする形で捕らえてしまった。


 血の山の中に閉じ込められているオリガ。

 全身が固められてしまったかのように動けない。

 指の一本に至るまで同様だ。


 幸い、わずかだが呼吸はできる。

 呼吸はできるが、むせ返るような血の匂いが充満している。

 結果として満足な呼吸はできず、酸素の欠乏により頭が茫然とする。


「はっ……はぁっ……うぅ……ぐ……」


 真っ赤な空間に閉じ込められているオリガ。

 その赤い空間の中に黒色が混じり、亡者のような人間の顔を形作る。

 それらの不気味な顔たちがオリガの全方位を取り囲み、次々と怨嗟の声を突きつける。


「オ前ノセイデ、私タチハ……」


「痛イヨ……俺タチガ何ヲシタッテイウンダ……」


「恨ムゾ……恨ムカラナ……」


「くぅ……! やめて……!」


 耳を塞いででも、オリガはこれ以上、彼らの声を聞きたくなかった。だがしかし、先述の通り指の一本まで動かせないので、耳を塞ぐことさえできない。何の抵抗もできないまま、彼らの声を聞き続けるしかない。


「オ前ハ、我々ヲ殺シタソノ後デ、家族ト再会シタナ」


「我々ヲ殺シテオキナガラ、ノウノウト幸セソウニ……」


「許サンゾ……オ前モ、オ前ノ家族モ……」


「だって、二十年以上も引き離されてきた家族だったのよ! ズィークもお父さんも、二十年以上ずっと私のことを気にかけてくれていた! 私にだって人並みに幸せに生きる権利くらいあるでしょう!?」


「ナイ」


「オ前ニハモウ、ソノ資格ハ無カッタ。我々ヲ惨殺シタ、アノ日カラ」


「私達ハ何モ悪イコトナドシテイナカッタノニ、タダ邪魔ダカラトイウ理由ダケデ貴女ニ殺サレタ。貴女ガ連レテキタマモノニ殺サレタ」


「オ前ノ無垢ナ幸セヲ否定スル権利ガ、我々ニハ有ル」


「で、でも私は、あなたたちを殺してしまった罪を少しでも償うために、今はこうして人々のために戦っているの……。お願いだから、もう邪魔をしないで……」


「ソンナ贖罪、我々ハ求メテイナイ」


「私達ガ貴女ニ要求スルノハ、タダ一ツ」


「破滅シロ。オ前ノ幸セ、希望、()どころ、何モカモ無残ニ破滅シロ」


「オ前モ、俺タチト一緒ニナッテシマエ」


「全テノ希望ヲ奪ワレテシマエ」


「あ……あ……ああ……」


 否定されていく。

 オリガが心の拠り所にしていた「贖罪の念」が、ほかならぬ贖罪の対象そのものである彼らに否定されていく。


 自分がやってきたことは何だったのか。

 何のための戦いだったのか。

 結局、彼らの言う通り、自分がやってきたことは全て、ただの自己満足だったのか。


 そんな自責の念が、オリガの心を自ら押し潰していく。

 オリガの瞳から、光が失われていく。


 しかし、それでもオリガは心をつなぎ、怨霊たちへ声をかける。


「でも……少なくとも私は、今を生きる人々のために戦っている……。あなたたちの許しは得られないかもしれないけれど、いま生きている人たちの役には立てているはずよ……。あなたたちの家族だって、あなたたちの代わりに、知らずの内でも守っているかも……」


「私達ノ、家族……」


「お願い、もう放して……。あなたたちだってこの行動は本意ではないはず……きっとレッドラムにされてしまったから……」


 だが、そんなオリガに向けられたのは。

 彼女の胸を刺し貫くような、返しの一言だった。


「忘レタノカ。オ前ノセイデ、我々ハコウナッタ」


「……ぁ…………」


「オ前ガ我々ヲ殺サナケレバ、オ前ノ手ヲ借リズトモ、我々ノ手デ家族ヲ守レタ」


「我々ヲ奪ッタオ前ニ守ラレタトコロデ、我々ノ家族ハオ前ヲ(ゆる)シハシナイダロウ」


「不本意ダ。我々モ不本意ダ。コンナ姿デ生キルノハ」


「ご、ごめんなさい……」


「責任ヲ取レ」


「責任ヲ取レ」


「我等ヲコンナ姿ニシタ、責任ヲ取レ」


「許して……許してっ……!」


 とうとうオリガの心は折れて、同時に一つの考えが浮かんでしまった。彼らを(しず)めるには、彼らの要求を呑まなければならない、と。


 ……と、その時だった。


 オリガを閉じ込めていた赤い空間の一部が割れて、そこからゴスロリ型のレッドラムが顔をのぞかせた。どうやら彼女が血の山の一部を崩し、中に閉じ込めていたオリガの様子を見に来たようだった。


「うふふ。お楽しみタイム、堪能してもらえたみたいね、オリガちゃん。とても良いカオになってるわ」


 ゴスロリ型の声を受けて、オリガはゆっくりとゴスロリ型の顔を見上げる。そのオリガの瞳は完全に光を失っており、表情は茫然自失としている。


「もうわかったでしょ? これ以上アナタが人間のために戦っても、ぜーんぶ無駄なんだって。()()()()()は決してアナタを許さないし、アナタ自身の罪も決して軽くはならない。アナタもう詰んじゃってるのよ」


「そう……かもね……」


「そんな詰んじゃってるアナタが唯一できる贖罪の方法、もう分かるよね? アナタも私たちのお友達になるの」


「あなたたちの……友達……」


「この子たちの怨嗟の声を聞きながら、かつての仲間たちから裏切り者と罵られつつ、アタシたちと一緒この星を破壊し尽くすの。アナタの夢も希望も全て台無しにするその行動こそが、この子たちがアナタに求める唯一の(ゆる)しなのよ」


 微笑みを浮かべながら、ゴスロリ型はオリガにそう語り掛ける。オリガはやはり茫然としたまま、ただゴスロリ型の言葉にうなずいている。


 ゴスロリ型がオリガを懐柔しようとしていることに気づいた北園とシャオランが、目の前のレッドラムと戦いながらオリガに声をかける。


「オリガさん、しっかりして! その子の言うことを聞いちゃダメー!」


「オリガ、目を覚まして! ズィークやグスタフ大佐はどうするんだよ!」


 ……だが、そんな二人の必死の呼びかけに対して、オリガは無反応だった。目の前のゴスロリ型を見つめるのみである。


 そしてゴスロリ型は、オリガに向かって優しく右手を差し伸べた。


「さぁ、オリガちゃん。アタシたちとお友達になりましょう?」


 これに対してオリガは。

 ゆっくりとうなずいて、ゴスロリ型の右手に自身の左手を重ねた。


「わかったわ……。私、あなたたちのお友達になる……」

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