第1075話 蘇る亡者
ゴスロリ型が召喚した、ゾンビのようなレッドラムたち。
彼らはオリガを見ると、何やら恨みがましい言葉を発し始める。
それを聞いたオリガの身体が、ビクリと震えた。
オリガの異変に気付いたシャオランが、彼女に声をかける。
「オリガ、どうしたの? アイツらがゾンビみたいだから怖い? そりゃあボクも怖いけれど、今は堪えないと……」
「違う……そんなんじゃないわ……。あのゾンビみたいなレッドラムたちは恐らく、私がここでクーデターを起こしたときに死んだ、ここの兵士たちよ」
「え!? そ、そうなの!?」
「あの兵士みたいな服装、この怨念に満ちた気配、まず間違いないと思う。きっとあの赤鎌型のレッドラムと同じで、成仏できずこの基地をさまよっていたところをゴスロリ型に拾われたのでしょうね……」
「ど、どうするの? 倒していいんだよね!?」
「彼らは私への敵意に満ちている。確実に襲い掛かってくる。そして今はレッドラムである以上、生かしておく理由は無い……けど……」
気まずそうに、苦い表情を浮かべるオリガ。
そんな彼女にはお構いなしに、ゾンビ型のレッドラムたちは一斉に襲い掛かってきた。北園やシャオランには目もくれず、オリガだけに狙いが集中している。
「WOOOAAAAAA!!」
「くっ、迷っている場合じゃない!」
オリガは最初に接近してきたゾンビ型の頬を真正面から殴りつけた。彼女の腕力で、こうもモロに殴られたら、首がふっ飛んでもおかしくはない。
そのはずなのだが。
ゾンビ型は、オリガの拳が大して効いていないようだった。
「こいつも私の拳が効かない……!? いや違う、今のは私が攻撃する直前に躊躇ってしまったから……」
「オ前ハマタ、俺タチヲ殺スノカ……」
「俺タチガ邪魔ダカラ、殺スンダロウ」
「罪ヲ償ウトカ言ッテオイテ、ソノ償ウ対象デアル我々ヲ手ニカケルンダナ」
「オ前ハ結局、ソウイウ奴ダ。アノ時モ、ソシテ今モ」
「ち、違う! 私はそういうつもりじゃ……!」
ゾンビ型たちの声を受けて、明らかにオリガが動揺している。
このままではまずいと判断したシャオランは、オリガに声をかけているゾンビ型たちを急いで殴り飛ばす。
「せやぁッ!!」
「WOOOOO……」
「オリガ! 今は戦いに集中して! キミまで守りながら戦う余裕はないよ!」
「わ、分かってる……けど、さっきの人たちをあまり傷つけないであげて……。彼らは犠牲者よ。いくら今はレッドラムとはいえ、これ以上苦しむ必要は……」
「だから! そんな余裕はないんだって! あのゾンビ型はさっきゴスロリ型が落とした血だまりの中からどんどん湧いて出てる! このままじゃ物量に押し潰されちゃうんだよ! また反射されるかもだから、キタゾノの吹雪も頼りにしづらいし!」
「でも……!」
「どうしたんだよ、普段の気丈なキミらしくない! キミはボクに説教されるような意気地なしじゃなかったでしょ!?」
オリガに声をかけながら、もしかすると、とシャオランは思う。
ゴスロリ型は”怨気”を使用することができ、その”怨気”による攻撃をオリガは受けてしまったようだった。ならば”怨気”の効果の一つである”失意絶念”……対象の心をマイナスに傾けてしまう能力がオリガに作用しているのかもしれない。
「うふふ! 逃がさないんだから!」
シャオランがオリガを説得していると、ゴスロリ型が襲い掛かってきた。血のイバラを伸ばしてシャオランとオリガを捕まえようとする。
二人は急いでその場から飛び退き、ゴスロリ型の血のイバラを回避。しかし攻撃は回避できたものの、二人は分断されてしまった。
「い、今のオリガを一人にしちゃうのは絶対にヤバイ……!」
シャオランはオリガを守りながら戦うべく、彼女のもとに駆け付けようとする。だが、他のゾンビ型や筋肉型のレッドラムがシャオランの行く手を塞ぎ、オリガに近寄らせない。
「KEKEKEKE!!」
「AAAAA……」
「キミたちの相手をしている暇はないのに……!」
今のシャオランなら、この程度のレッドラムは敵ではない。しかし、いかんせん数が多い。他の個体に気を取られている間に殺傷力の高い能力で背後から攻撃を仕掛けられたら、今のシャオランでも流石に危険だ。
北園も超能力を行使し、少しでもレッドラムの数を減らそうとしてくれている。だがやはり、先ほど彼女の能力を反射してきた大盾型を気にして、これまでのような大火力を撃ち込むのをためらっているようだ。
そしてその間にも、孤立してしまったオリガに向かってゾンビ型の群れが殺到している。彼女に向かって怨嗟の声をつぶやきながら。
「殺スノカ」
「マタ殺スノカ……」
「我々ヲ殺セバ、オ前ノ贖罪ハ全テ無駄ナ行為ニナルゾ」
「ワタシタチハ、オ前ヲ許サナイ……」
「家族ノトコロヘ帰リタカッタ……」
「くっ……! やめて、それ以上、私の心をかき乱さないで、お願いだから……!」
オリガの背後は壁だ。
このままでは追い詰められる。
オリガは能力を行使し、ゾンビ型たちの足を床ごと凍らせる。
足が凍り付いたゾンビ型たちは、一斉にその場で転倒。
だが、後からやってきた第二のゾンビ型の群れが、先に転んだゾンビ型たちを踏みつけながら侵攻してきて、オリガの目の前までやって来てしまった。
「こ、来ないで……!」
オリガは目の前のゾンビ型を押しのけようとする。
しかし、いつもの彼女のパワーがその腕にこもっていない。
逆にゾンビ型がオリガを捕まえてしまった。
「許サナイゾ、オ前ダケハ……」
そう言いながら、ゾンビ型がオリガに向かって倒れ込んできた。
さらに他のゾンビ型も次々とオリガにのしかかってくる。
重みに耐えきれず、あえなくゾンビ型の山に押し潰されてしまうオリガ。
「うぐ……! どいて……どきなさいよ……!」
そのオリガの言葉は、懇願しているようにも聞こえた。
しかし、やはりゾンビ型たちは聞く耳を持たず。
オリガを押し潰しながら山となったゾンビ型たちは、徐々にその肉体が溶け始め、一つの血の山へと変化していく。そして、その血の山からたくさんの腕が生えてきて、オリガを血の山へと引きずり込む。
オリガの下半身はすでに血の山に呑み込まれている。
残った上半身で、どうにか血の山から自分を引き抜こうともがく。
「や、やめっ……むぐっ……!?」
……しかし抵抗虚しく、オリガは血の山から生えてきた多数の腕によって、完全に引きずり込まれてしまった。
「お、オリガぁぁぁ!?」
「オリガさーんっ!?」
シャオランと北園の悲鳴が下水道内にこだまする。
二人は急いでオリガを救出しようと、目の前のレッドラムたちへの攻撃を強める。
だが、二人が次々とレッドラムを倒しても、ゴスロリ型が次々と新しいレッドラムを生み出してしまう。オリガが欠けてしまったことでレッドラムを倒すペースが落ちてしまった。倒しきれない。
そしてこの間に、ゴスロリ型は悠々と歩きながら、オリガを捕らえた血の山へと近づいていく。彼女が歩いた場所には血の足跡が残り、そこから新たなレッドラムが湧いて出てきてシャオランたちの行く手を遮る。
「うふふ……! お楽しみタイムね、オリガちゃん!」
オリガが捕らえられている血の山に向かって、ゴスロリ型はそうつぶやいた。