第1073話 悪の華
下水道にてゴスロリ型のレッドラムと遭遇したオリガたち三人。
「『いつまで正義の味方を気取っているか』ですって? 何を言っているのかしら」
ゴスロリ型が自分に投げかけてきた言葉に対して、オリガは首をかしげる。ゴスロリ型は皮肉めいた微笑みを浮かべながら、続けてオリガに言葉を投げかける。
「だってあなた、この場所でたくさんの人間を殺したでしょう? 言ってしまえばアタシたちと同じじゃない。自分を苦しめた人たち、自分が苦しんでいる傍らでのうのうと幸せそうに生きている人たちが憎くて、関係ある人もない人も見境なしに殺したんでしょ?」
ゴスロリ型にそう言われ、オリガは目を細めながら返答した。
「……否定はしないわ。確かにあの時の私は、この国のあらゆる物、あらゆる財産を破壊してやろうと思っていた。町も、人間も、文化も、何もかも。でも今は違う。私の罪の重さを受け止め、私が奪ってしまった物に少しでも見合う償いができるよう戦っている」
「そんなのムダよ。今さらどれだけ善人ぶったところで、罪の穢れは水では流せないの。ぜーんぶあなたの自己満足!」
「そんなことは分かってるわ。私がこんなことをしたところで、私のことを一生許せない人間がいるってことくらい。でも今の私には、この生き方しかないの」
「この生き方しかない? そんなことないわ。あなたには別の生き方があるの」
「なんですって?」
ゴスロリ型の予想外の言葉に、オリガは思わず話を聞く姿勢になってしまう。それを見たゴスロリ型は、皮肉めいた微笑みを蠱惑的なものに変えて、オリガに言葉をかけた。
「ねぇオリガちゃん。アタシたちとお友だちになりましょうよ。みんなで力を合わせて、この憎い国も、この星も、みーんな滅ぼすの! アナタが来てくれたら、ジナイーダちゃんもきっと喜ぶわ!」
それを聞いたオリガは、無言で懐から拳銃を取り出し、ゴスロリ型の眉間めがけて発砲した。ゴスロリ型は咄嗟に頭を抱えてしゃがみ、銃弾を回避。
「きゃっ!? もー! あぶなーい!」
「何を言い出すかと思えば、馬鹿じゃないの? 私がそんな誘いに乗ると思った?」
「ふん。いいもん。いきなりこんなこと言っても断られるとは思ってたし。それなら、オリガちゃんの方から『お友達になってください』って言いたくなるまで、わからせてやるんだから!」
言い終わると同時に、ゴスロリ型が攻撃を仕掛けてきた。振りかぶった右手から大量の鮮血のイバラを伸ばしてきて、オリガたち三人をまとめて拘束しにかかる。この下水道の通路の床から天井、右端から左端まで埋め尽くすほどの量のイバラだ。
これに対して、北園が半円状のバリアーを展開。
自分と一緒にオリガとシャオランの二人も防護する。
「”球状展開”っ!!」
北園のバリアーは、ゴスロリ型の血のイバラを受け止めた。
しかしその次に、ゴスロリ型のイバラは北園のバリアーを覆うように巻き付き始める。
「うふふ、おバカさん。バリアーが壊れるまで締め付けちゃうんだから」
イバラの締め付けるパワーはかなりのものらしく、北園のバリアーがミシミシと音を立て始める。このままでは本当にバリアーを破壊されかねない。しかしここでバリアーを解除して逃げようとしても、すでにイバラに取り囲まれているため逃げられない。
するとここで、シャオランが床を殴りつけた。
その右拳に”地震”の振動エネルギーを込めながら。
「バリアーの中じゃ攻撃できないと思った? せりゃあッ!!」
シャオランが床を殴りつけると、その拳に込めていた振動エネルギーがゴスロリ型の足元まで伝達。彼女の足元をピンポイントで爆砕した。
「きゃあっ!?」
不意を突かれて、シャオランの攻撃はゴスロリ型に直撃。
ゴスロリ型は吹っ飛ばされ、血のイバラもただの血に戻るように解除された。
ゴスロリ型に初めてのダメージを与えることに成功したが、まだまだゴスロリ型は健在のようだ。
「もー! むかつくー! そんな攻撃ができるなんて聞いてないー!」
地団駄を踏むゴスロリ型。
それと同時に、床や天井の血痕から大量のレッドラムが飛び出してきた。
「SYAAAAAAA!!」
「また無駄にたくさん出てきたわね。良乃、お願い」
「りょーかいです! 吹雪くらえー!」
オリガの声を受けて、北園が両手のひらから吹雪を発射。
下水道を丸ごと凍らせるほどの強烈な吹雪だ。
「こ、これもやばいかも……! 隠れなきゃ!」
ゴスロリ型は血のイバラで繭を作り、その中に隠れた。
残されたレッドラムたちは、成すすべなく吹雪に巻き込まれて凍結。
「GYAAAAA……」
ゴスロリ型の繭も吹雪に巻き込まれて、カチコチに凍り付く。
凍った繭が少しずつ割れて、再びゴスロリ型の姿が現れる。
その繭ごと粉砕するように、シャオランがゴスロリ型に殴りかかった。纏う気質は”空の気質”。
「せやぁッ!!」
「やんっ! もー、危ないんだからー!」
シャオランの拳は、ゴスロリ型の血のイバラの繭を一撃で粉々にした。ゴスロリ型はそのシャオランの拳の衝撃に身を任せるように、後方へと飛び退く。
シャオランの拳は、あまりゴスロリ型にダメージを与えられなかった。だが、シャオランに殴り飛ばされたゴスロリ型を追うように、今度はオリガが前へ。シャオランのすぐ側を矢のように追い抜いた。
オリガはゴスロリ型に追撃を仕掛けるつもりだ。
しかし、シャオランがそのオリガを呼び止めようとする。
「待ってオリガ! あまり前に出たら、ボクの”空の練気法”でキミを守れなくなる! もしもソイツが”怨気”を使えるなら危ないよ!」
オリガは、そのシャオランの言葉はちゃんと聞いていた。シャオランが言及した危険性についても最初から覚悟の上だ。その上で、返事をせずにそのままゴスロリ型への接近を続行。
「あなたの言うことも分かるけど、ここは攻め時だって私の勘が言ってるのよ。次の攻撃は間違いなく命中する……!」
ゴスロリ型は、先ほどシャオランから殴り飛ばされて着地したばかり。
オリガは鋭い踏み込みで、ゴスロリ型を拳の射程範囲に捉えた。
彼女が言った通り、次のオリガの攻撃は確実に命中するはずだ。
「わ、はやい……!?」
「もらったわよ、小娘!」
オリガが、自身の右拳に氷のナックルダスターを作り出す。
そして、その氷の拳を、ゴスロリ型のみぞおちど真ん中に突き刺した。
「はぁぁっ!!」
オリガの拳は、彼女が見上げるほどの大男だろうと悶絶するほどの破壊力がある。加えて能力を使って生成した氷のナックルダスターが拳の威力を底上げする。これは大きなダメージになったはずだ。
……と、思いきや。
ゴスロリ型は、その場に平然と突っ立ったまま、オリガの拳をみぞおちで受け止めていた。
「なっ……!? 私の拳が、効かなかった……!?」
「うふふ。アナタのへなちょこパンチがアタシに通用すると思った? 残念でしたー!」