第1072話 増援を断て
引き続き、下水道担当班のオリガ、北園、シャオランたちの様子。
通路の前後から挟撃してくるレッドラムの群れ。
まずは北園が前方の群れに向かって火炎放射をお見舞いする。
「いっけぇー!」
通路の床から天井まで、壁の端から端まで覆うほどの特大の火炎が発射される。火炎が奔る速度も凄まじく、レッドラムたちは成すすべなく巻き込まれるしかない。
「GYAAAA……」
「SYAAOOOAAAA!!」
多くのレッドラムたちは焼け死んだ。しかし何体かのレッドラムはバリアーを発動させ、北園の火炎を防いでいた。生き残ったレッドラムたちがバリアーを解除し、改めて北園に襲い掛かる。
これに対してオリガが北園とレッドラムたちの間に割って入り、北園をレッドラムから守る。
「良乃に近寄らせるもんですか」
「SYAAAAAA!!」
オリガは右手に軍用ナイフを装備している。
目の前の通常型レッドラムもそれを把握し、オリガの右手のナイフを警戒。
通常型レッドラムは、オリガの右手のナイフに注意しつつ、爪を突き出す。地の練気法の”瞬快・撃”も使用し、コンクリートをも容易く抉る一撃だ。狙いはオリガの顔。
オリガは通常型の爪をギリギリまで引き付け、上体を右へ傾けて回避。そして同時に左腕を氷柱で覆い、レッドラムの腹部に氷の槍のような正拳を突き刺した。
「GA……」
「ふふ、右手のナイフで攻撃すると思った?」
通常型レッドラムは絶命。
素早く左腕をレッドラムから引き抜くオリガ。
そのオリガを狙う、クロー型のレッドラム。
右側の壁に向かって跳躍し、その壁からオリガめがけて飛び掛かる。
鋭い長爪が、オリガの首筋へと迫る。
「KIEEEEE!!」
だが、オリガもすでにクロー型が攻撃を仕掛けてきていることを把握している。身を屈めてクロー型の長爪を回避し、同時にクロー型の腕を取り、勢いよく背負い投げで床にたたきつける。
「はっ!!」
「GOAA……!?」
床にヒビが入るほどの勢いで叩きつけられたクロー型。
悶絶しているところにオリガが顔面をナイフで三回刺し、トドメとした。
今度は右腕が大振りの刃と化している刃型のレッドラムが、その切れ味抜群の右腕でオリガの足元を薙ぎ払う。
「SIAAAA!!」
「遅いっ!」
オリガはジャンプして刃型の薙ぎ払いを回避。
同時に空中で回し蹴りを繰り出し、刃型のこめかみを蹴り抜く。
刃型の首があらぬ方向へと回転し、首だけ後ろを向いて床に倒れた。
そしてこの間にも、北園はオリガに守られているだけではない。次々と電撃の光線を撃ち出し、自分に襲い掛かってくる個体やオリガを攻撃しようとする個体を攻撃している。
「えいっ! えいっ! えーいっ!」
光の速度で放たれる光線が、次々とレッドラムを撃ち抜いていく。顔面に当たれば首まで消し飛び、胴体に当たればきれいな風穴が開く。
だが、そんな北園の圧倒的火力に耐えている個体もいる。
左腕が大きな盾と化している、大盾型のレッドラムだ。
大盾型は左腕の盾に二重のバリアーを展開し、北園の攻撃から身を守っていた。
「”二重展開”の使い手だ……!」
「GUUUUU……!!」
大盾型のバリアーを突破するべく、次々と攻撃を仕掛ける北園。電撃の光線だけでなく、ミサイルのような火球や、一瞬で身体の芯まで凍る冷気弾も織り交ぜて。
その全てを大盾型は防御してしまう。
ジリ、ジリ、と少しずつ北園との距離を詰めてくる。
しかし、火球や冷気弾によってまき散らされる炎や冷気が目くらましとなり、大盾型は左側から回り込んできたオリガの姿に気づかなかった。
「背中がお留守よ!」
「GUO……!?」
大盾型の背中に飛びつくオリガ。
そのまま大盾型の頭部に両手をかけて、首をへし折った。
これでオリガと北園が担当していた、前方のレッドラムは全滅。
二人は、後方のレッドラムを担当してくれていたシャオランの方を見る。
「シャオラン! そっちは終わった?」
「見ての通りだよ」
シャオランはたった一人で、襲い掛かってきたレッドラムを全滅させていた。オリガと北園の二人が相手したレッドラムより数は少なかったとはいえ、恐るべき戦闘力だ。
「やるじゃない。今のあなた、ズィークと同じくらい頼もしいわ」
「オリガにとっての最高の褒め言葉だよね。へへ、嬉しいな」
……しかし、オリガたちがやり取りを交わしている間に、またどこからかレッドラムの歪な雄たけびが聞こえた。まだ姿は見えないが、この下水道のどこかにいるらしい。
「急いで探索を開始しましょう。ここがレッドラムの製造工場になっているのなら、時間がかかればかかるほど、私たちは多くのレッドラムを相手にしなくちゃならなくなる」
「地上の増援に向かっちゃうレッドラムも増えちゃうだろうしね……。りょーかいです!」
三人は改めて、下水道の探索を行なう。
途中、やはりレッドラムと何度か出くわしたが、三人は見事な連携と迎撃態勢でレッドラムを撃破していく。
天井から、血雫がポタポタと落ちている。
見上げてみれば、天井一面が血に塗れている。
そして、その天井の血だまりからレッドラムが三体ほど飛び出してきた。
「SYAAAAAAA!!」
「KUAAAA!!」
「GIEEEEE!!」
「”凍結能力”+”吹雪”っ!!」
北園が両手を前に突き出し、輝くほどの冷気を発射。
冷気は三体のレッドラムを容赦なく氷づけにして、その背後の天井の血だまりまで凍結させた。
そして北園に戦闘を任せながら、オリガはふと疑問が浮かび、考え事をしていた。
「この壁や天井に付着している血……改めて見ても尋常じゃない量よね」
ゴスロリ型のレッドラムは、己を構成する血から別のレッドラムを生み出していた。この下水道のあちこちにある血痕がゴスロリ型の血なのだとすれば、ゴスロリ型は相当な量の「自身を構成する血」を消費していることになる。
「血を使い過ぎてミニマムサイズになっていたりしないかしら。そうすれば楽に勝てそうなのだけれど。あ、ペットにするのも良いかもね。あの子、見た目だけは悪くないから」
「そんなの絶対イヤだもーん」
北園でもなく、シャオランでもない声がオリガにかけられた。
声のした方を見てみれば、そこにはゴスロリ型のレッドラムが立っていた。三人が目を向けると、ゴスロリ型はふわりとしたスカートの裾を左右の指で摘み、丁寧にお辞儀をする。
「うふふ! ようこそおいでくださいました、紳士淑女の皆々様!」
「で、でた! ゴスロリちゃんだよ!」
「周囲に他のレッドラムの気配も感じるよ。油断しないで」
「ミニマムサイズにはなっていなかったのね。ちょっと残念だわ」
ゴスロリ型に向かって構える三人。この下水道中の血痕がゴスロリ型の一部なのだとすれば、彼女を倒せば血痕も機能を停止し、レッドラムの増援を一気に断てるかもしれない。
しばらくその場で構え、三人はゴスロリ型の出方を窺う。
ゴスロリ型もそのつもりなのか、三人を見ながらその場でゆらゆらと立っているだけだ。
……と、ここでゴスロリ型が唐突に口を開いた。
「ねぇオリガちゃん。あなた、いつまで正義の味方を気取っているのかしら?」