第90話 北園VSアントリア
「キエアアアアアアアアアアアアッ!!」
クイーン・アントリアの号令を受け、アリたちが北園に向かって一斉に襲い掛かってきた。その数、優に二十を超える。三十匹くらいいるかもしれない。
『北園さん、火炎放射を!』
「りょーかいです!」
通信機から狭山の指示を受け、北園は両手に炎を生成。火炎放射として撃ち出した。前方のアリたちが炎に巻き込まれ絶命していく。
しかしアリたちも負けていない。一度に全員焼かれないように、左右に大きく広がって北園に迫る。これなら北園が左右どちらか一方に攻撃しても、もう一方の部隊が接近できるという算段だ。
「わ、わ、どうしよう!?」
『落ち着いて北園さん。とりあえず後ろの通路まで下がるんだ』
「あ、はい! 分かりました!」
狭山の指示通り、ここまでやってきた通路まで下がる北園。
アリたちも北園を追って走ってくる。
「通路に入りました! それで、この次は?」
『もちろん、火炎放射だ。通路ならアリたちも一列にまとまるだろう?』
「……あ、なるほど!」
北園を追うため、横に広がっていたアリたちは、通路に入ると再び縦方向にまとまっていく。そうなればもはやアリたちは、火炎放射の良い的だ。
「それ、喰らえーっ!!」
北園が火炎を放射する。
一列に並んだアリたちが次々と燃やされていく。
しばらくすると、通路に入ってくるアリたちはいなくなった。
「やった、全滅かな?」
『いや、まだ広間で見た時より数が少ない気がする。きっとまだ何匹か広間にいるな。バリアーを展開しながら広間に戻るんだ、北園さん』
「りょーかいです!」
北園は、言われた通りにバリアーを張りながら、通路を通ってアントリアのいる広間へと戻る。
広間に入った瞬間、北園に向かって酸が吹きかけられた。
アシッドアントが六匹ほど待ち構えていたのだ。
「わわっ!? ば、バリアーが無かったら危なかった……」
『やっぱりアシッドアントが待ち伏せしていたね。仕返しをしてやれ、北園さん』
「りょーかい! これでも食らえーっ!!」
叫び、両手から次々と火炎弾を連射する。
火炎弾は着弾と同時に爆裂し、六匹のアシッドアントがバラバラになった。
これで、残るはクイーン・アントリアのみ。
「よーし! いくぞーっ!!」
『……いや、待つんだ北園さん!!』
「えっ!?」
狭山の声を受け、急ブレーキをかける北園。
瞬間、目の前の地面から巨大なアゴがトラバサミのように飛び出してきた。もう少し止まるのが遅かったら、あのアゴで真っ二つにされていただろう。
「うわわわっ!? な、なに!?」
『ブラックアントだ。先の道路崩落といい、北園さんの背後から壁抜きといい、ブラックアントは土を掘り進める習性を持っているのだろう』
「と、ともあれ、これでトドメ!」
地面から現れたブラックアントに向かって火球を投げつける。
ブラックアントは火だるまになって息絶えた。
これで今度こそ、残るはクイーン・アントリアのみ。
「やぁっ!!」
北園がアントリアに向けて火球を連射する。
火球は次々とアントリアに命中し、爆炎を巻き起こす。
「キエアアアアアアッ!?」
アントリアが悲鳴を上げる。効いているようだ。このままいけば狭山の作戦通り、北園一人でアントリアを討伐できるだろう。
しかしアントリアもまた『星の牙』。
その生命力は兵隊アリたちの比ではない。
「キエエエエエッ!!」
アントリアが真正面から突進してくる。
北園の火球を受けながらも突っ込んでくる。
大型トラックのような巨体が北園に迫る。
「えいっ!!」
それを北園は念動力のバリアーで受け止める。
突進の衝撃で北園の身体も後ろへと下がるが、なんとかアントリアの突進を防ぎ切った。
「キイイイイイイイイイ………!」
「ううううううううう………!」
バリアーと身体を押し付け合う両者。
ひと時の膠着状態に入る。
「キエアアアアアアアアアッ!!」
先に動いたのはアントリアだ。
後方へ跳び、北園に向かってフェロモンガスを噴射する。
これを喰らえば、シャオランと同じく操られてしまうだろう。
「させないよっ!」
北園は念動力のバリアーを膨らませ、破裂させた。
衝撃波が発生し、家一つ包み込みそうな量のフェロモンガスが、一瞬で押し退けられた。
「キエエエエエエッ!!」
自身の攻撃が失敗に終わったのを見たアントリアは、すぐさま次の攻撃へと移る。大きな顎を使って地面を抉り、北園に向かって大岩を投げつけた。
「効かないよっ!」
北園はこれを念動力で止める。
空中で静止した岩は、そのままアントリアへ向かって投げ返された。
「キエアアアアッ!?」
大岩はアントリアの頭部に命中。
驚愕と衝撃でアントリアの巨体が崩れ落ちる。
「チャンスっ!」
北園はアントリアに接近し、火炎放射を撃ち出す。
アントリアの巨体が高熱の炎で炙られていく。
「キエアアアアアアアアアッ!?」
アントリアは悲鳴を上げ、転げまわる。
そしてすぐに起き上がると、北園に背を向けて一目散に逃げだした。
アントリアが逃げた先は土壁。
これを上がって地上へと逃げる気だ。
『マズい。アントリアが地上の街に出れば、間違いなく街は大混乱だ。北園さん、追えるかい!?』
「任せてください! 念動力を使います!」
北園は自身を抱くように両腕を交差させた後、翼のようにその両腕を展開する。すると、北園の身体がふわりと浮いた。
「よし! 成功!」
北園は、狭山から習った「念動力の空中浮遊」をほぼマスターしていた。
これには狭山も驚かされたものだ。
(アレを教えてからまだ二週間程度しか経っていないのに、よくぞここまで……!)
北園は空中を飛び、アントリアを追う。
あっという間にアントリアの頭上に到達し、攻撃の姿勢を取る。
「狭山さん! 『アレ』をやろうと思います!」
『了解した。『アレ』なら間違いなく、アントリアの巨体だろうと叩き落とせるだろう。……けど、北園さんは今、両手で念動力を使っているから、別の能力を使うには念動力を解除する必要がある。『アレ』を使ったらすぐにバリアーを張るんだ。北園さん自身も巻き込まれかねないからね!』
「りょーかいです!」
◆ ◆ ◆
北園が狭山と超能力のトレーニングをしている時、狭山から一つの提案をされた。
「必殺技……ですか?」
「うん。必殺技。ちょうど北園さんだからこそ使えそうな、面白いのを思いついたんだ」
「へー……。なんかカッコ良さそう!」
「だろう? この技はちょっとした化学の応用だ。北園さんのパワーなら相当な威力を叩き出せるだろう。……ただ、その威力ゆえ、あまり街中では使えないし、練習する場所も慎重に選ぶ必要があるけど」
「それは、どんな技なんです?」
「うん。それはね……」
◆ ◆ ◆
アントリアの頭上を取った北園。
そのまま右手に炎、左手に冷気を集中させる。
念動力を解除したことで、北園の身体が落下を始める。しかし、襲い来る浮遊感にも取り乱さず北園は集中を続ける。
精神統一により超能力が鍛えられた今の北園なら、以前は両手で生み出していた威力の火球と冷気を、集中すれば片手で生み出すことも可能だ。
「いくよー、私の必殺技! ”氷炎発破”!!」
生成した火球と冷気を、アントリアに向けて同時に射出する。
放たれた火球と冷気は徐々に混ざり合い、アントリアの目の前に来ると同時に融合し……。
「キエッ………!?」
大爆発が起こった。
地下全体を揺るがすほどの巨大な衝撃だ。
クイーン・アントリアの身体が、凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。
「うわーっ!?」
北園も爆風に巻き込まれる。
しかし、狭山に言われた通りバリアーを展開していたおかげで熱風に身を焼かれることはなかった。
爆風で吹き飛ばされた後、再び空中浮遊を発動して受け身を取る。
結果、北園は無傷で済んだ。
氷炎発破。
発火能力と氷結能力の合わせ技。
熱気と冷気を融合させて水蒸気爆発を巻き起こす、北園の新しい必殺技。
その威力はご覧の通り。
着弾地点の土壁が、ミサイルでも撃ち込まれたかのように抉れている。
これをまともに受けたクイーン・アントリアは、その身が半壊し、高熱の蒸気に身を焼かれ、既に息絶えていた。