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第11話 異世界で初めての出会い

よろしくお願いいたします。

更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。

音が聞こえる。

 かすかだが、確実に音が聞こえる。金属がぶつかるような甲高い音、それから何かがぶつかるような音。

 直観だが、この先で何かと何かが戦っているのかもしれない。

「どうしよう」

 仮に魔獣同士の争いとかだった場合は完全に詰む。かといって人同士の争いの場合も友好的じゃない相手なら詰む。

 仮に逃げたとしても、おそらく夜になって魔獣のごはんになる……かもしれない。

 八方塞がりじゃーん。オワタ。

「……しょうがない、日々の行いに賭けるか」

 自分で言うのもなんだけど、今まで善良に生きてきたつもりだ。少しくらい報われたっていいじゃない。

 そう自分に言い聞かせて、この現状を打開するために森の奥へ駆けた。

 音が段々と大きくなっていく。

 近づくにつれて心臓がバクバクしてくる。

 ダメだ、緊張しては。緊張していては本来の力も出せやしない。

 自分を鼓舞するように思考を続ける。

 木々の隙間から漏れる光が多くなってきた。どうやら開けた場所がこの先にあるようだ。

 音をあまり立てないように慎重に進んでいく。

 すると、木々がまばらになり、草花が多くなってきた。

 木の陰に隠れて、遠くを見つめる。

 木の生えていない一面に草花が生えた平地が見えた。

 獣のような咆哮と複数の人の声。……どうやら魔獣と何人かの人が戦っているようだ。


「グロロロロォォォ」

「qwrsdzcxv、fgrtjbvm、bvc」


 ゆっくりと近づき、目を凝らした。

 魔獣の方は大きなコモドオオトカゲの様な外見だった。

 戦っているのはどうやら男女二人ずつの4人組のパーティみたいだ。なに言ってるのかさっぱりだけど。

(というか言語はデフォルトで通じるようにしといてよ、女神様ぁ)

 言語は通じるものとして考えていたけど、考えが甘かったらしい。

 これじゃあ意志の疎通すらまともにできないじゃない。

 戦場の喧騒に耳を傾ける。

「……slaaaa、……yosus、uvokinibkt」

「mooochdo、magmagiwl。abiii、ittontoch」

「plpkmj。martellee、lethichiaawoftwk」

「dfv。’howlleeeheetee’」

「emileee、ptslnwoohooo」

「aglerereeee。polsumokufu」

 はーい、理解不能ー。ありがとうございましたー。

(はぁ、現状、打つ手がないわね)

 仕方ない。少し様子をみるか。

 ……。

 …………。

 ………………。

 ポク、ポク……チーーン。なんちゃって。

 理解できない部分も沢山ある。沢山あるんだけど、大体なんとなく理解できたような気がする。

 それに伴って、4人の名前も把握できたと思う。

 マーテルという高身長の盾を持った人とアビーという中背の剣士の男子2名。

 レティシアという魔法使い?とエミリーという回復要員?の女子2名。

 ……たぶんだけど。

 攻撃要員2名、タンク1名、補助1名のバランスのとれたパーティーみたい。

 盾職のマーテルさん(仮)が攻撃を引き受けて、隙に乗じて剣士のアビーさん(仮)が剣で攻撃する。

 魔法使いのレティシアさん(仮)が火の魔法で、逃げつつ攻撃し、エミリーさん(仮)が回復魔法のような魔法を唱えて回復してる。

 その戦いぶりは安定していて、特に危なげもなかった。

 (どのタイミングで声をかけようかしら。今は流石に空気読めなさすぎでしょ)

 戦闘が終わるのを待つのが無難だろう。

 (この戦闘はそろそろ終わるのかしら)

 言い方はすごく悪いのだけど、ヒット&アウェイでチマチマ削っているので、少し時間がかかっている。

 生死のかかっている場面で安全マージンを取るのは当然ではあるのだが……まぁ、傍から見ている分には少し退屈である。

 変化が起こったのは、体感で数分経ったくらいの頃だった。

「weg、golbalruberla」

 剣士の男性が苦々しげに言い放った。

 コモドオオトカゲ(仮)は巨体をがむしゃらに動かして暴れ出した。

「ギャャャャャャャャ」

「bega、suupula」

 補助役の女性が、驚いた声をあげた。

 それもそうだろう。コモドオオトカゲ(仮)が突然吠えたかと思うと、巨大な上体を起こしたからだ。

 二つ折りといえる程にしなやかに曲げられた体躯。

 剣士とタンクの男性が向かっていったが、魔獣の方が一手速かった。

 魔獣が体を地面に叩き付けた瞬間、衝撃波といえるものが生じた。

 それは魔獣の後方以外の地面を砕きながら伝わり、向かっていた二人を弾き飛ばしてしまった。

「あっ」

 私は思わず声を出してしまった。

 近くにいた二人が衝撃波を直に食らってしまい、勢いよく外周の木に叩き付けられたからだ。

 というか、これって結構ヤバいのでは。

 だって、近接の二人がやられて残ってるのって後衛の二人だけでしょ。

「グルゥガァ」

 魔獣は砕けた土塊を尻尾で弾き飛ばし、固まっていた魔法使いの女性を倒してしまった。

「ガァァァアアア」

 サポーターの女性も短剣を手にしたが、さっきと同じく射出された土塊で倒れてしまった。

(……えーっと、これって、すごくまずい状況じゃないのかな、どう考えても)

 急変した形勢に思わず冷たい汗が流れた。

「グシュルルルルル」

 魔獣はひどく醜悪に笑っているような気がした。

(えーっと、どうしよう。みんな倒されちゃった。ほっといたら食べられちゃうのかな)

 倒れた人たちはピクリとも動かない。もう死んじゃったのかもしれない。

 魔獣が魔法使いの女性の方へ動き出した。

(まずい、なんとかしないと)

「ちょ、ちょっと、待ちなさいよぉ、あんたぁぁあ」

 我ながら情けない、完全に裏返った声が出た。

 魔獣は急に現れた私の方を向き、ギロリと睨んでいる。

(あぁ、生きた心地がしない。なんで、出ちゃったんだろう。反省はしないけど、めっちゃ後悔するわぁ)

「え、ちょっ、……来ないでよぉぉ」

 なんとコモドオオトカゲ(仮)は一直線に私の方へ突進してきた。

 しかも猛スピードで。

「グォォォォオオオオ」

 目前に迫るコモドオオトカゲ(仮)。

(あ、これ死ぬかも)


***


 走る走馬灯。ゆっくりと動く現実世界

 頭の中を記憶がぐるぐると駆け巡る。

 古い記憶から映写機のように次々と思い出してくる。

 その中で強く思い出した。いや、思い出してしまった。

 ずっと見て見ぬフリをして、先送りにしてきた思い出と感情を。

「……」

 気持ちがさーっと冷めていくのを感じた。恐怖心といったすべての気持ちが麻痺したかのように、何も感じなくなった。


 ――思い出した。私は死なんて恐れる必要なかったんだって。


 加速する思考、減速する時の流れの中で、私は考える。私の使える持ち札、それを切り札に変える術を。

「ガォォォオオオオ」

 牙の並んだ大きな口を開けて突っ込んでくる魔獣を躱すように、私はとっさに右の方へ跳んだ。

(おそらく魔術は使えないはず、ならっ)

「我が戒めを解き放て、ディスグラヴィ」

 呪文を唱えた瞬間、体が軽くなったように感じた。

 跳んだ先で右手を地面に着くと、来るはずの衝撃はかなり軽減されている。

 私は転がりながら体勢を整えた。

「正直、ぶっつけで肝が冷えたけど、魔法は使えるみたいね」

 虚無魔法のレベル1で覚える魔法は2つある。その1つが自身もしくは生物以外の重さを軽くするディスグラヴィ。今さっき使った魔法だ。

 魔獣の方も体勢を整えたようで、こちらに食い掛かってきそうだ。

「こっちよ」

 私は広場の中央に向かって走りだした。

 案の状、魔獣は私に追従してくる。

「風よ我が翼となれ、ウインド」

 右足で思いっきり地面を蹴り、覚えている風魔法の1つを唱えた。

 すると風が私の足元から沸き上がり、身体を空高く運んでくれた。

 下ではガキンと歯の打ち合わさった音がした。

 どうやら、噛みつきが空振ったようだ。割と危なかった。

武装(アームド)

 途中で手放してしまった短剣を強く両手にイメージしながら詠唱した。すると握った両手には、もう見慣れた短剣が現れた。

(これでよし)

「エアスラッシュ」

 左手の剣で斬撃を放った。

 剣術がレベル2になって覚えた、初めて使うアーツだけど、不思議とこの技を使うとどのようなことが起こるか直感的に分かった。

 魔獣に吸い込まれるように一直線に斬撃が飛んでいく。

「ギャウ、ギャァァァア」

 当たった。一瞬怯んだが、大したダメージは負ってないみたいだ。

(ダメージはさすがに通らないか……)

 思考がさらに加速するような感覚を覚える。

 今の状態ではダメージは通らない。なら、次にとるべき一手は……。

武装(アームド)

 剣を放り投げ、大鎌をイメージする。

 ゆっくりと落下していく身体。

「’真祖の血族’……’真祖の血統’」

 空中で体勢を立て直しながら唱えた。

 体から不思議と力が湧いてくるようだった。

「ギャァァァァァァァ」

 魔獣が大口を開けてこちらを向いている。

(直立してないか、こいつ)

「’デスチャージブレード’」

 大鎌術のアーツを唱える。

 刃先にエネルギーが蓄積していく。技が発動するまで恐らくあと数秒かかるだろう。

 私は魔獣に向かって落下していった。

「我が一撃の一助となれ、ウインド」

 私は刃に風を当て、勢いをつけた。

(くぅ、……目が回る)

 案の定、大鎌が勢いよく、私を軸にしてぐるぐると回り目が回りそうになる。

 魔獣の鼻先まであと少しという所で、剣が黒く、鈍く光った。恐らく、チャージが終わったのだろう。

「私の命ごと持っていけぇぇぇぇぇえええええええ」

 大きく開いた口内から頭をめがけて大鎌を突き刺した。

「ガァァァァアアアア」

 魔獣は頭を思い切り下に振った。

「きゃっ、かはっ」

 私は為す術もなく少し離れた地面に叩き付けられた。

 ぐるぐると回転する視界と、地面に何回も弾みながら飛んでく身体。

 何回目かの地面との衝突の後に身体は動きを止めた。

「はっ、はっ、……はぁ……はぁ」

 全身の痛みで呼吸すら満足にできない。

(どう……なったんだろう。私死ぬんだろうか……)

 目がよく見えない。痛みが強いせいか全身の感覚がない。

 死ぬかもしれない。そう思ったけれど、恐怖も不安も全くなかった。

(まぁ、しょうがないかぁ……やっと……)

 胸にあふれたのは、やっと終わるのだという安堵だった。

 どこかでドシンという地響きが聞こえたような気がした。

(なんかすごく揺れたような気がするけど、もうどうでもいいか)

『魔獣:アーシー・サウルスを討伐しました。初回討伐ポイントを100ポイント獲得しました』

『ヒイロ・トリイのレベルが4に上がりました』

『ヒイロ・トリイのレベルが5に上がりました』

 ……なんだか、意識が遠くなってきた。

『ヒイロ・トリイのレベルが6に上がりました』

『ヒイロ・トリイのレベルが7に上がりました』

『大鎌術のレベルが2に上がりました』

『スキル:苦痛耐性 (レベル1)を獲得しました』

 ……もうだめ。意識が……遠のく。

 私は意識を手放した。


***


「…………sl」

 なんか声がする。……なんかだるいし、無視しよ。

「おいっ、しっかりしろ」

 バシャ―と顔面になにか液体をかけられた。

「わぷっ……ちょ、何するんですか、いきなり」

 急速に意識が引き戻された。

「何ってポーションをかけたんだけど」

「ポーション?……って、あなたはさっき戦ってた人」

 そこにはアビーと呼ばれていた(ような気がする)人、赤みがかった茶色の短く切り揃えられた髪が特徴的な男性が立っていた。

「そうだ、……俺はアビー。俺たちが目覚めた時には倒れていたんだけど、大丈夫か?」

「えーっと、……今どういう状況ですか?」

「うーん、どういう状況って言われてもなぁー」

「はぁ……私が説明するわ。ここは私に任せて、アビーは野営の準備をして来て」

 この人は……たしかレティシアと呼ばれていた(と思われる)魔法を使っていた女性のはず。

 深紅のゆるりとカーブしたツインテールに目が行く。コスプレ以外ではお目にかかれない髪色だ。

 顔も整っていて、年齢は私より下っぽい。おそらく10台後半から20台前半だろう。

「いきなり失礼致しました。私はレティシアと申します。アビー……先ほどの彼が中級ポーションを使ったので、重傷以外なら治っていると思いますが、体は起こせそうですか?」

「あ、はい、大丈夫です。……っと」

 私は体を起こして、彼女と向き合う。びしょびしょに濡れたと思っていたが、服は乾いていた。ポーションとやらは揮発したのかしら。

「……失礼ですが、あなたのお名前は?」

「え、あ、はい、私は緋色と言います」

「ヒイロさん……ここら辺では聞かないお名前ですね。それはまぁいいか……ヒイロさんはどうしてこんなところにいたのですか」

「はい、えーと……」

 私は少し迷った。ここに至るまでのことをどのように話そうかと。

 正直に話すか、それともはぐらかすのか。

 嘘はアドリブだと見抜かれる可能性が高いため悪手だと思った。

 うーん。見た限りこの人達は悪い人ではなさそうだし、正直に話そうか。

 ポーションが私の思っているものと同じだったら、それをわざわざ私に使ってくれるような人たちだし。

「実は、目が覚めると森の外の草原にいました。どうして草原にいたのかはわかりません。それにここがどんな所かも分かりません。気づいた時に持っていたのは武器だけで、食料等の類は持っていませんでした」

 そう言うとレティシアさんは驚いた表情をした。

 私は続けた。

「暗くなる前にどこかの街にでも入ろうと思って、そこら中を歩き回りました。その途中でこの森を見つけました。人がいるかもと思って森の中を進んでいく途中で音が聞こえて、音の方向に向かって行ったらあなた方が戦闘を行っていて、声をかける機会をうかがっていました」

「……はい」

「その後、みなさんが魔獣に倒されてしまい、思わず木の陰から出てしまって魔獣と戦闘になりました。運が良かったのか何とか魔獣は倒せましたが、その際に重い一撃を食らってしまって、意識を失っていました」

「……なるほど、……それは……」

「……はい、信じられない話かもしれませんが、それが私に起こったことすべてです」

 レティシアさんは少し考えるそぶりを見せた。

「……ちょっと他のメンバーと相談してもいいですか。私一人では、どう対応していいか判断がつかないので」

「はい、分かりました」

「では、少しお待ちください」

 レティシアさんは野営の準備をしているメンバーの元へと向かって行った。

「うーん。私ってどうなるんだろう。殺されて彼らの夕食にされるんだろうか」

 私は一人だし。たぶん元々いない人間だろうからいなくなっても不都合はないはずだしなー。

 向こうは話し合っているようだが、声はこちらまで聞こえてこない。

「なんで、こんなことになったんだろうなー」

 私はただゲームを楽しみたかっただけなんだけどなー。

 運命の悪戯か、神さまの意地悪か。私は今、未知の世界で彷徨っております。

 なんかすごく疲れたし、お家に帰りたい。

 うーん。だめだ。ネガティブになってしまう。

「あれ、そういえば、なんで彼らの言葉がわかるんだろ」

「ヒイロさん、お待たせしました」

「あ、はい」

 レティシアさんが戻ってきた。

「他のメンバーと相談した結果なんですが、ヒイロさんが良ければ、今日は一緒に野営しませんか?」

「…………え? 良いんですか?」

「はい、ヒイロさんは食料をお持ちでないとのことなので、良ければこちらの食料を提供します。今日はもう遅いので、明日の朝にタロルの街に戻ります。ヒイロさんが良ければ一緒にタロルへ行きませんか?」

 おぉ、なんか願ったり叶ったりの話だ。

 ただこういう、うまい話は裏があるのが世の常なのです。

「えーっと、失礼ですが、それってなんらかの見返りが求められるのではないですか?」

 レティシアさんは苦笑いした。

「ヒイロさんは慎重な方なんですね。えーっと、コホン。申し遅れました、私は冒険者組合タロル支部職員のレティシア・アーキと申します」

 レティシアさんは居住まいを正して、そう言った。

「えーっと、レティシアさんは冒険者組合?……の職員さんなんですか」

「はい、そうです。他のパーティーメンバーも冒険者組合の職員です。あぁ、なんでこの話をしたかといいますと、冒険者組合職員の野外任務における付随任務として、遭難者等の救助を必要とする方の救援及び保護が規定に定められていまして……まぁ、簡単に言えば、困っている人がいたら助けなさいってことなんです」

「……はい」

「なので、見返りがどうとかではなく、困っている人がいたら助ける。こちらにその能力があり、手段があるのならなおのこと。それに危ないところを救って頂いたみたいですから、当然のことですよ」

 そういって、レティシアさんは微笑んだ。

 私は少し驚いた。相互扶助の精神なんて日本でも廃れていってるのに。

 彼女の真意は分からないけれど、どのみち、彼らに頼るという選択肢以外は現状取れないに等しい。

 友好的に接してくれる間は、まぁ問題はないかな。

「……そうなんですね。分かりました。お言葉に甘えてもよろしいですか」

「はい、では他のメンバーにもそのことを伝えてきますね」

「あと、あの、すみません」

「はい」

「私は情報が欲しいです。それも一般常識と言われる類のものが。先ほど言った通り、突然、何も分からない状態で草原に放りだされた状態なので、この世界についていろいろと教えていただけませんか?」

「はい。そのようなことで良ければ可能な限りお伝えしますよ」

 よし、これで何かのヒントが掴めるかもしれない。

 私は動き始めた展開に、不安とちょっぴり期待を抱いたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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