第10話 異世界の洗礼
よろしくお願いいたします。
光の粒子となったレッサーゴーレムさん。あなたのことは……すぐ忘れると思う。なーんてね。
たぶん、レッサーとかゴーレムだとか、あの遅い動きに油断していたんだと思う。
もっと攻撃力の高い魔獣だったら食らった一撃でやられていたかもしれない。
どんな時でも油断するな。たぶん、そうレッサーゴーレムさんは教えてくれたんだと思う。
私の初めての戦闘。たぶん忘れることはないと思う。ありがとう。レッサーゴーレムさん。
なんて感傷に浸っているとレッサーゴーレムさんのいた場所にキラキラした、宝石のような物が残されていた。
「これって、ひょっとして魔石かな」
漆黒の小ぶりな宝石のような石を拾い上げる。
「あの、これっ……て……あれっ……」
石のことを訊ねようと、女神様の方に顔を向けた途端、視界はグニャリと歪んだ。
それと同時に瞼が開けていられないくらいの睡魔が襲ってくる。
「うっ、……ダメっ……立って……られ……ない」
ドサッとその場に倒れこんでしまった。
「これにてチュートリアルは終了です。良い旅となることを心から祈っています。緋色さん、……」
落ち込んでいくような意識の中、その声はとても穏やかで、どこか懐かしい響きだった。
***
「へっく、ちゅん……寒っ」
くしゃみで目が覚めた。と同時に肌寒さを感じた。
「えーと、私って……何を…………」
意識が鮮明になるにつれ、自分の周囲にも意識を割けるようになると、自分の置かれている状況に嫌でも考えがいく。
「ここは……」
それは、見たことも行ったこともないような見渡す限り一面の草原だった。
「えーと、たしかチュートリアルを終了したのよね、……そのあと……そうだ、なんか眠たくなって……」
女神さまの声でたしか名前を呼ばれたんだった。あとなんか、ごにょごよ言っていたような気がする。
「うーん、たしかチュートリアル終了って言ってたから、これが本編なのかな。だいぶ唐突だったけど」
そういえば、最初から転生とか演出に凝っていたから、いきなりゲーム本編に送りこむのも演出なのかもしれない。
「とりあえず、女神様の言っていた通りに近くにあるはずの国に入国して、生活基盤、取り急ぎ宿屋を見つけなきゃ」
外にいれば、魔獣に襲われるかもしれない。おちおち寝てもいられない。
時間の流れるスピードもわからない以上、明るいうちに移動しなければならない。
暗くなってからの移動は危険が伴うと考えられるからだ。
「夜行性の魔獣もいるかもしれない。それに視界不良の中での移動は足元の注意がおろそかになるし、接近する存在に気がつきにくくなる。特にこんな星明りがキレイに見えそうな何もない草原じゃ明かりは期待できないしね。
「とりあえず、現状確認、えーっと’ステータスオープン’」
すると半透明のカード状の画面が出てきた。
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〇ステータス △所持アイテム X閉じる
-ステータス-
名前:ヒイロ・トリイ
年齢:28歳
種族:魔血人
レベル:1
武器(装備上限4/4)
大鎌 (グリム・リーパー)(レアリティ:伝説)
短剣 (イガリマ)(レアリティ:伝説)
短剣 (シュルシャガナ)(レアリティ:伝説)
魔法銃 (スターダスト・トリガー)(レアリティ:伝説)
防具
大盾 (悠久の鎮魂歌)(レアリティ:至高)
衣装
戦場の星巫女(レアリティ:至高)
装飾類(装備上限2/5)
永劫の祝福(レアリティ:至高)
永劫の祝福(レアリティ:至高)
契約精霊
精霊:未選択(月属性・星属性)
スキル
剣術(レベル1)
魔法銃術(レベル1)
大鎌術(レベル1)
双剣術(レベル1)
錬金術(レベル1)
秘薬生成術(レベル1)
料理(レベル1)
魔力操作(レベル1)
混合魔法(レベル1)
幻詠絶唱(レベル1)
称号
稀人
祝福
女神アースティアの祝福
魔法スキル
火魔法(レベル1)
水魔法(レベル1)
風魔法(レベル1)
土魔法(レベル1)
光魔法(レベル1)
闇魔法(レベル1)
治癒魔法(レベル1)
虚無魔法(レベル1)
鑑定魔法(レベル1)
収納魔法(レベル1)容量(34/150)
魔術スキル
招喚術(レベル1)
陰陽術(レベル1)
神宿り(レベル1)
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前に見たときとほとんど一緒だ。違うのは称号と祝福の箇所。以前はなかったはずの項目が記載されている。
「稀人ってなに」
稀人と書かれた所をタップしてみる。
すると新たな画面がポップアップしてきた。
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稀人 (まれびと)
異なる世界より転生した者に授けられる称号。
各種行動によってポイントが貯まる。
ポイントは女神のギフトによって各種アイテムと交換可能。
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転生……これも何かの演出の一つかな。
×印を押し、ポップアップした画面を消すと、女神アースティアの祝福の箇所をタップしてみる。
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女神アースティアの祝福
女神アースティアからの祝福。
女神のギフトがアンロックされ、任意に使用できる。
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女神様からの祝福。うーん、女神のギフトってなんだろう。
それらしきボタンもないし、調べる手段もないから、とりあえずほっとくか。
今は入国する方が先よね。
「そういえば、精霊さんがいない。あれー、どこ行ったのー」
しばらく周辺を探したけど見つからない。わからないことだらけで少し不安になってきた。
「あ、そうだ。攻略サイトを見ればいいんだ。攻略サイトには何か書いてあるっしょ」
妙案を思いついた。とりあえず、いったんログアウトして……。
「あ、……ログアウトってどうやるの」
肝心なことを聞いてなかった。これはしまった。
「ステータスにもなかったし。’ログアウト’……だめか、えー、どうしようー」
このまま一生ログアウトできなかったら……そんなことが一瞬だけ脳をよぎった。
「えーと、たしか、異常な心拍数とかに起因して強制ログアウトするとか言ってたよね」
なら心拍数を異常に上げればいいか。
「とりあえず、走ろう」
適当な方向に走り出した。
***
「ハァ、ハァ……エッ、エライ」
つい方言が出てしまった。それくらい苦しかった。
「なんで……こんなに……走れるんだろう」
それはともかくとして、なぜこんなにも長距離を走れるのかがわからなかった。
全速力で走ったはず。普通ならすぐにバテてしまうにもかかわらず、結構な距離を走れてしまった。
「ふぅ、……少し息が楽になってきた。この方法じゃログアウトできないか……というか苦しいからこの方法はなし、死ぬかもしれないし」
異常な心拍数というとおそらく心臓に異常が起きているだろう。ログアウトできても死んでいたら意味がない。
「なんか森が見えてきたし、とりあえず人を探すか」
行き当たりばったりでは、入国できる気がしない。その間も刻一刻と時間は過ぎていっている。
ここは誰か地理の知識のある人を見つけて聞く、それしかないと思った。
「森の中に入るのはちょっと勇気がいるわね。とりあえず周りから様子を観察しましょう」
押しつぶされそうな不安のなか、自分を落ち着かせるようにそう呟いた。
森といっても手前の方には、まばらに木が生えている。見通しも悪くない。近くの木まで近づいていく。
一定の距離まで近づくとおもむろに近くにあった手ごろな石を手に持った。
「てぇい」
掛け声とともに木めがけて石を投げた。
ゴンという音とともに木に当たった。ビクともしてないけど。
木に近づいていく。
「なんの変哲もない木ね。木に擬態した魔獣という可能性も考えたけど……」
葉っぱを見る限り、広葉樹っぽい。
「大学の専攻は生物だったけど、植物に関してはほとんど無学なのよね。こんなことならもっと身を入れて勉強しておくんだったわ」
植物に関してもっと予備知識があれば、植生を見てある程度の生態系について知ることも可能かもしれない。
しかし、そんな知識は残念ながら持ち合わせていない。
「人の気配は草原にはないし、森へ入らざるを得ないかな。まぁ、まずは……’武装’」
2つの剣を思い浮かべながら唱えると、目の前にゴトリと2つの剣が落ちた。
「あれ、前って宙に浮いてなかったっけ。……まぁ、考えても仕方ないけど」
剣を拾い、両手にしっかりと握りしめる。
短剣のため攻撃のリーチは短い。が、慣れていない魔法銃、ましてや取り回しに苦労している大鎌は現状では実戦で使えない。消去法的に短剣による双剣しか選択肢がなかった。
「よし、森へ突撃ー」
早歩きで、森へと歩を進めた。あまり時間をかけては夜になってしまう。
「……ッ」
少し、進んだところで地面に動く影を見つけた。
一気に緊張感が高まる。
(たしか、私は鑑定魔法が使えたはず。念じるだけでもいけるのかな。’鑑定’)
息を潜めながら、鑑定を発動させた。
すると、空中に画面がポップアップした。
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種族:シャドウ・スクワーォル
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(って、これだけ? 種族しかわかんないじゃない)
……そういえば、鑑定魔法はレベル1だったはず。もしかしてレベルが足りてないのかな。
情報不足の中でのいきなりの戦闘はまずいわね。ひとまず撤退を…………ポキッ。
(まずい)
後ろに下がるときに枝を踏んでしまった。
「キキッ!」
向こうは完全にこちらに気づいたようだ。
「バレてしまってはしかたないか。……やってやろうじゃないの」
草が揺れる。こちらに向かってきている。
速い。ガサガサと音を立てながら私に向かってくる。
攻撃の目標を定めようと目を凝らすが、相手の姿はぼやけており、輪郭を目で追うのが精一杯だ。
「初戦がこんなトリッキーな相手だなんて、勘弁してよっ」
相手はジグザグに、しかし着実に私に近づいてくる。
「あっ、ちょっ、……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
シャドウ・スクワーォルが飛び掛かってくる。
スローモーションの様な視界の中で、飛び掛かるぼやけた輪郭。しかし牙を剥いてるのだけはなぜかしっかりとわかってしまった。
「……あ」
死ぬかもしれないと思った瞬間。とっさに体が動いた。それはたぶん本能的なものだと思う。
右手に持った剣を飛び掛かってきた相手にとっさに向けた。
「ギキィィィ」
すると、相手の勢いそのままに剣に相手が突き刺さった。
「ひっ、……いやっ」
何かが刺さる感触とその重さに、とっさに右手の剣を落としてしまった。
私は恐怖からバサッとその場に座り込んでしまう。
シャドウ・スクワーォルという名前の得体のしれない何かは、剣にくし刺しになったままびくびくと震えている。
黙ってその様子を見ているしかできない中、徐々に相手の姿が見えるようになってきた。
その姿はリスのようで、しかし私が想像しているリスよりもだいぶ大きい、それでいて前歯が鋭利に尖ったリスだった。
いくらか時が流れたころだろうか。シャドウ・スクワーォルは動かなくなった。
するとその体は光の粒子となって消えた。後に残ったのはビー玉くらいのきれいな石と鋭く尖った牙だった。
「は、……ハハッ……」
衝撃的な出来事に乾いた笑いしか出てこない。
『魔獣:シャドウ・スクワーォルを討伐しました。初回討伐ポイントを100ポイント獲得しました』
『ヒイロ・トリイのレベルが2に上がりました』
『ヒイロ・トリイのレベルが3に上がりました』
『剣術のレベルが2に上がりました』
怖い。……その感情が心を支配しており、助かったのだということを認識したのは、それから少し経ってからだった。
***
「第一回、現状把握会議ー」
パチパチパチパチ。まぁ、会議といっても私一人ですけどね。
とりあえず、正気に戻った私は、現状を把握することから始めた。
「まず、第一にシャドウ・スクワーォル、最後に光の粒子になって消えたってことは魔獣ってことよね」
からくりはわからないがシャドウ・スクワーォルは姿が見えづらかった。おそらくスキルの関係だろう。ということは魔獣もスキルを保有している可能性がある。
また、戦闘に関しても相手のなすがままで、一方的だった。特にジグザグに動き相手のかく乱を図るあの動き。ある程度の知能がなければこのような動きはできないだろう。このことにより、魔獣にもある程度の知能を持っている可能性が生まれた。これからはいっそう気をつけないと。
戦闘で一方的にやられたのは私の弱さが原因だと思う。戦う覚悟が決まっていなかった。相手を殺すこと、殺される可能性があること。ゲームの中だろうとログアウトできない以上これは命がけのデスゲームだ。
私的に死ぬのは別に構わないけど、死に方ぐらいは選びたい。食べられて死ぬのはさすがにごめんだ。
「あ、そういえばレベルが上がったんだった」
脳内に響いた無機質な、合成音声の様な声。それはたしかに私のレベルが上がったことを告げた。
「’ステータスオープン’……うん。たしかにレベルが上がってる」
ステータスの画面には私のレベルが3と表示されている。また、剣術のスキルも2に上がっていた。
おそらく、剣を使って敵を倒したからだろう。まぁ、レベルが3になろうが、客観的に自分を測ることができない状況では喜んでも仕方ないだろう。
「しゃーない、奥に進もうっと」
再起動した私は、ビー玉の様な魔石?と牙を拾うと、ベストのポケットに入れた。
落ちている剣を拾い、持ち直す。
今度はより慎重に、それでいて確実に森の奥へ歩を進めた。
この森は奥に行くにつれて木がうっそうと生い茂っており、木漏れ日ぐらいしか外の時間を知るすべがない。
「やっぱり森へ入ったのがそもそもの間違いだったかしら、っと、そろそろいいかしら」
そういいながら、適当な木の根元をザクっと傷をつけていく。
まぁ、いわゆる目印だ。来た方向がわかるように。ただその目印も辺りが暗くなってしまってはあまり意味がなくなってしまう。
「やっぱり、引き返すかなー」
今のところ魔獣にはまだ遭遇していない。
諦めようかと思ったその時、遠くの方で音が聞こえた。
お読みいただき、ありがとうございます。




