魔神登場
第2話 魔神の目論み
「こっちだ!」
大男に連れられ、王の間へとやって来た。
「ロンデス国王様!至急伝達させて頂きたい事項がございます!」
「どうした、ガバジ!」
凛々しい顔立ちの王様だ。
「最近、魔神ディアマグロスの動きが活発であることを説明づける異変が生じております!」
「なに!してそれはどのようなものか!」
王の焦りから、緊迫した状況であることが感じられる。
「なんでも、この者は現世からこの世界に転移してきたようで……」
「貴様、名をなんと言う?」
「マサールです」
自分で言おうとした名前とは違う名前が口から飛び出し、訂正しようとするも、
「いや、違います、マサールです!」
口が言うことを聞かない。僕の名前はマサルなのに。
「何を言っておるのだ。同じ名ではないか。そうか、マサール。現世から来たと言うが、どのような方法を使ったのだ?」
どう足掻いても、この世界では僕はマサールらしいので諦めた。
「下校途中に、横転したトラックに轢かれ、死んだと思ったらこの世界に入り込んでいました」
ロンデスは目を見開いた。
「な、なんと!それは誠かっ!?」
ロンデスはしばらく俯き、何かを考えていた。
隣で静かに話を聞いていた大男が耳打ちしてきた。
「君、マサールという名だったのか。俺はガバジ。名乗るのが遅れてすまなかったな」
「いえ、こちらこそよろしく」
話していると、ロンデスが口を開いた。
「心の水晶を覗いてみたが、私の悪い感が当たらなければいいのだが……」
「一体何が見えたんです?」
ガバジが問うた。
「うむ……ディアマグロスの魔力は現世にも及んでおるのだ。マサールがこの世になぜ入り込んだのかはわからぬが、このままでは現世を乗っ取られるのも時間の問題だろう」
「なんとっ!?それはまずい、今すぐディアマグロスを討ちに行かねば!」
「落ち着けガバジよ。私の見立てによればあと15~20年後にはディアマグロスは現世にも降りられるほどの魔力を得るだろう。それまでに奴を止めれば良いのだ」
「しかし国王様!兵力を損なったばかりのロンデス王国は、城を守る兵で他に回す余裕が無いかと……」
「そこでマサールの出番というわけだ」
「ぼ、僕ですか?」
「その鎧を着ていてもわかる肉体。しなやかさもあるところを見ると、腕がたつのだろう。城の兵士では制限があり自由に動けまい。だが現世から来たマサール、お主がいればどうにかディアマグロスの野望を阻止できよう。まずは、城下町のギルドへ行くが良い。そこで仲間を集めるのだ。大した戦力にならん奴が多いがそこはお主がどうにかしてくれ」
「え、あの……現世が乗っ取られるのって本当の話なんですか?この世界ってなんかたまたま入り込めてるものだと思ってて……本当なら大変だなあと思って……」
「これは世界の命運を分ける戦いになるだろう。ディアマグロスの好きなようにさせれば、人類は滅びる。これは冗談ではない。この世界の20年は現世では2年だ。もしお主が現世に戻れたとしても、2年後にはきっと何もかもなくなってしまうだろう。マサールよ、お主が頼りなんだ。この世界と現世を守るため、ディアマグロスを討ち取ってくれい!」
これは、ただのゲームのようなものだよな?そうだ。きっとVRのRPG最新ゲームかなんかの体験版で緊張感が出るようリアルな設定にしてあるだけだ。そう願いたかったが、2人の真剣な眼差しに、事実だと受け止め始める自分がいた。
「マサール。悪いがギルドまでは一人で行ってくれるか。俺達はディアマグロスの侵略の対策のため離れることが出来ない。わからなくなったら街の人に聞けばすぐ教えてくれるはずだ。武運を祈る」
魔神軍の要塞-demons fortress-
その頃、魔神軍の要塞では…………
「グハハハハ!身体に力が漲るのを感じる!もうすぐ地球は私の手の中に!」
5メートルある巨体に、頑強な鱗。鉄骨のような硬さを持つ羽を持ち、その顎は鋼をも砕く。ディアマグロスは、魔力の昂りに興奮していた。
「魔神王様、城へはいつ強襲しますの?」
紫色の唇をした女が訊く。
「時が満ちたらな……まだ暴れるには魔力が足りねえよ」
「私たち何をしていればいいのかしら。魔族は毎日退屈よ」
女騎士ゾダイシスは独り言のように呟いた。
「そう言えば、現世から転移してきた人間がいるみたいだな、ゾダイシス」
「ええそうよ、あのおじいちゃんに邪魔されちゃったけど♡」
「ラツはまだまだ老いぼれと言うには実力が健在だ。油断してると消滅するぞ。単独行動は控えろ、ゾダイシス」
その言葉に、頬を膨らませるゾダイシス。
「なら実戦形式の模擬戦闘でも始めようかしら。ねえメド?」
「妾は蛇ちゃんと遊んでるからまた今度ね」
メド。髪の毛が蛇で出来ている。不気味な姿だ。
「なあディアマグロス。その現世から来たってやつ、計り知れないものを感じるぜ?」
ネズミを捕え八つ裂きにしながら男が言った。
「ああ、俺も感じる。だが所詮は人間。現世に降りてしまえばこっちのものだ。お前は心配などしないで、魔物を狩って魔力を供給してくれればそれでいい」
「了解っす」
次は亀だろうか。指でなぞっただけで甲羅を易々と裂く。
「そろそろブゼも城に着く頃か」
「そうね、奇襲は彼の得意分野だものね」
「上手くかき回して戦力を削いで欲しいものだ。城にある魔封石。あれが手に入れば、もっと効率よく魔力を充填できるだろう」
「カフレクなら容易いでしょう。彼のサイレントスティールを持ってすればね」
「当たり前だ。これくらい出来ないようじゃ、魔神軍に必要ないからな」
受信中…………
「もしもし、ガバジ?こちらキアナ。魔神軍の情報を掴んだわ。また魔封石を狙いに来るみたいよ。宝物庫に兵力を割いて、できる限り王妃様の結界を保ちつつ成敗して」
「了解。報告ご苦労さん。気を付けて帰って来いよ」
またあの石か。あんなどこにでもありそうな石の何が目的なのだろうか。それを知るのは王と妃だけだ。知る必要は無い。守れと言われたものを守ればいいだけだ。ガバジは連絡室へ急いだ。
-ロンデス城下町-
タッタッタッタッ
ギルドはどこだ?武器屋、防具屋、さっきから店ばかりでギルドらしきものは見つからない。
「街の人に聞いてみるか」
近くにいた、おじさんに尋ねた。
「あの、すみません!ギルドってどこにあるかご存じですか?」
するとそのおじさんは驚いた顔をした。
「ギルドだって?」
「はい、さっきから探してるんですが見つからなくて」
「そりゃそうだよ。城下町に堂々とギルド建ててるわけがないだろう。魔神軍に見つからないよう、離れの村の井戸の中にひっそり存在しているんだ。道中は凶暴な魔物が出るから、一人で行くのはやめておくんだな。とは言っても王国騎士は城の護衛で動けないし……」
「そんなに魔物は凶暴なんですか?」
「ああ、1人じゃどんなに強くても太刀打ちできない。さて、どうしたものか……」