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しらゆきひめゲーム、始めます  作者: 姉川正義
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5. 疑い

 【白雪姫】を死なすユニークスキル使用のために【白雪姫】と同行したい、というアカリの作戦はあっさりと実現していた。あっさり過ぎて拍子抜けするくらいだ。


 3人の内の誰かが、ひょっとすると全員が嘘をついているという可能性は高い。が、この中に少なくともひとり【白雪姫】がいることは魔法の鏡が証明している。


 自称【王子】のユウヤか。

 自称【王子】のトオルか。

 それとも自称【こびと】のミグゥなのか。

 もう少し探りを入れてみよう。


「ゆんちゃんとトオルちゃんは【王子】の何~?」

「その呼び方定着しちゃうんですね……。僕が《石炭》でトオルが《鉄のスリッパ》でワンセットなんですよ。あの、ラストの、【白雪姫】と【王子】の結婚式のシーンで」

「ひょえっ」


 いかんいかん、つい動揺が声に出てしまった。だって。


「つっつまり~、【女王】様を拷問するシーンだよね~?」


 3度も命を狙われたお姫様の逆襲。もしくは罪を犯した魔女への制裁。《まっかに焼けた鉄のスリッパ》は凄絶なラストシーンの拷問具だ。姫と王子の婚礼の宴で、女王はそれを履いて倒れるまで踊るのだ。

 ということは、彼らの持つユニークスキルは。


「【女王】様攻撃系のスキルかなっ?」


 こく、こく、とふたりがほぼ同時に頷いた。


「【女王】クラスタに当てると一撃で【女王】を死亡状態にできるみたい」


 トオルが得々と説明するのでアカリは内心で激しく焦った。


(だって冗談じゃないですよ~)


 【白雪姫】と違って【女王】に蘇生力というステータスはないのだ。復活しないのに何で一撃必殺のスキルなんかあるんですか。不利じゃないか~。


「まだレベル全然足りてないんだけどね。てかレベル80まで行かないと解放されないとか無理ゲーじゃね」

「そ、そいじゃ、ぐっちゃんのキャラは~?」

「私は《ランプ》です」

「ミグゥはユニークスキルで【王子】キャラの居場所を探知できるんですよ。それで僕とトオルを探知して、一緒に行動してるんです」


 だとすると、ユウヤとトオルは間違いなく【王子】なのだ。ユニークスキルで探知したというなら嘘をついているはずがない。昨日ユウヤがくれたアドバイスは、アカリへの仲間意識から出たものではなかったのか? 【白雪姫】であるトオルかミグゥのどちらかを騙すために【王子】の振りをしているのではないのだろうか? いやしかしこのスキルの話も何かの策略かも?


(ううう頭がこんぐらかってきたなり~! どこまで嘘で何が本当なの~)


 落ち着け、考えろ。アカリちゃんは馬鹿じゃないぞ!


 ぴろぴろぴろ~。

 気の抜けるアラーム音が必死の思考を遮った。


「あっパパが帰って来る時間だ~。アカリちょっと落ちるね~。すぐ戻るからねっ、お帰りのちゅーするだけだから」

「あ、うん、さいですか……」

「この近くでアイテム狩りでもして待ってましょうか?」

「ちょっとくらい離れてもだいじょぶだよ、アカリ頑張って探すから~! そいじゃ後でにっ」


 しゅん、と消えるピンク色のアリス。後には呆気に取られた3人が残された。


「不思議なテンションの方でしたね……」

「うん」


 少し不満げなトオルがユウヤに向き直る。


「なあユウヤ、何で嘘ついたん?」

「ああそうだった、そうですよ。私もびっくりしましたが」


 咄嗟に話を合わせた、というよりも、ひたすら嘘を喋り続けるユウヤを遮らないようにしていただけだが、トオルとミグゥにはユウヤの行動がよく分からなかった。


「……さっきの人さ、まっすぐ僕らの方来ただろ? 偶然見つけたんじゃなくて、事前に僕らがここにいるの知ってて来た感じがした。ミグゥと同じで特定の相手を探知できるスキル持ちなんだと思う」


 初日にミグゥが自分のところに来た時と雰囲気が同じだ。そうユウヤは考えた。


「え、そんな理由? 別に良くね、【王子】なら味方だろ」

「いやそこなんだよね、【王子】の《従者の靴》に探知スキルって噛み合わなくない?」


 あっ、とふたりは驚く。


「【王子】は【白雪姫】を探しに【こびと】の家に来たから、とか」

「原作読むと違うんだよ。単に迷い込んで来たことになってる。このゲーム、スキルでもキャラの特性でも何でも、原作に添ってるはずだから」

「……そもそも、探知スキルを使っていたならそれを言わないのは妙ですね」

「でしょ? だから、僕のこと【女王】だと思ってた、って言ったのも鎌かけじゃないかなって」

「ユウヤさんを【白雪姫】だと知っていて接近してきた……正体は【女王】ですか?」

「ただそれだと、特に僕を攻撃する素振りもなかったからなあ。目的がいまひとつ分からなくて」


 考察に熱中するふたりに、トオルは突っ込んでいいものかどうか迷っていた。


 なあユウヤ、お前もしかしなくてもゲームのためだけに原作読んだの? どんだけゲーム好きなの? その洞察力とか記憶力とかを少しでいいからゲーム以外に使えよ……。


「そうすりゃ俺が楽できるのに。テストの山とか当ててくれ」

「何の話」

「あぁあーっ!!」

「えっ何、誰」


 突然の大声に3人が一斉に臨戦態勢に入った。叫びながら猛スピードで近づいてくる白い人影。


「やーっと見つけたっスよアッキー! どこ行ってたんスかもおー!!」


 そう怒鳴ってユウヤに突進する男は柔道着のような服装に角刈りではち巻きだった。どの程度加工してあるものか不明だがかなりガタイがいい。これ格ゲーでしたっけ?


 逃げる暇もなくガシッと両肩を掴まれるユウヤ。ぐらぐらぐら。頭は揺さぶっちゃいけません。


「てか近い近い近い、顔が近い!」

「迷子になるから勝手に動いちゃだめっておにーちゃん言ったじゃないスか!」


 誰がお兄ちゃんだ。その台詞の間にミグゥが魔法を撃つ体勢に入っていた。


「ユウヤさん動かないで下さいね!」

「ちょ!? 待って撃たないで俺このひとの知り合いっスからっ」

「すみません違いますよ?」

「へ……? ってどわぁっだから撃たないでってば!」


 問答無用に撃たれた〈水撃〉をかわしざま、柔道着の男は飛び退って転がった。そして見事に頭を打った。柔道着のくせに受身は取れないらしい。


「痛ってえー……」

「ミグゥ、ストップ。多分ただの人違いだから。よく見て下さい、本当にあなたの探してる人ですか?」


 後頭部をさすっていた男はユウヤの顔をまじまじと確認した。


「えっアッキーっスよね? 目開いてないけど……もっとくりっとした目じゃなかったっスかアッキー」

「ぶはあっ、やっべこの人とは仲良くなれそうな気がする!」


 僕は仲良くなれない気がする。ジト目のユウヤと爆笑のトオル、そして困惑顔のミグゥであった。


「どもはじめましてっス、はじめましてっスよね? 俺セイジっスよろしくう!」


 ノリとテンションにつられて3人もそれぞれに自己紹介を返す。もし油断させて懐に入る作戦だとしたらアカリなどより余程手強い敵だった。おそらく素のテンションなのだろうが。


「ユウヤ君っスか。んじゃユーリンチーで!」

「それは僕じゃない僕の先週の晩ご飯だ!」


 カラリと揚げた鶏肉にネギダレの香ばしさが嬉しい中華のお惣菜である。白いゴハンが進む。


「えー……じゃユンチー、トオル、ぐっさん」


 何故この手の連中は本名より長い仇名をつけたがるのだろうか。そしてさっきもそうだったが何故トオルだけ常に無傷で済むのだろうか。


「ユンチー達、アッキー見なかったっスか」

「そもそもアッキーって誰だよ」

「ユンチーと同じ格好でユンチーに似てるけどユンチーよりお目々のぱっちりしたビショーネンっス」


 再びトオルが吹き出した。どうやらツボらしい。


「ぶふっ、いやごめんてユウヤ、ぶくく」


 そんな人見てないです、と不機嫌なユウヤが言う。


「うわーマジっスかー、もし見たらおし、あっ痛い痛い! 引っ張らないで店長! ログイン中にバチ切りしたら危険なんスって! えっお客さんっスか!? やっべ、しゃーせー」


 最後の台詞と前後してセイジのアバターが消えた。さっきまで柔道着の男が立っていた地点を呆然と見やる。どうやら突然ログアウトしたらしい。いらっしゃいませ? お客さん? 店長? ゴーグル型インターフェースがいるゲームを、まさか仕事中にやっていたということか?


「いや勇者すぎるだろ」


 そもそも何屋だ。……深く考えるのはやめよう、うん。全員の心がひとつになった。



***

「パパ、お帰りなさ~い」


 洒落た背広に抱きついてほっぺにキスをする。疲れていても朱里のパパはダンディだ。格好いいパパと美人のママ。朱里は自分の家族が大好きだった。


「ただいま朱里。またゲームか?」

「うんっ。こないだ届いたやつ、すっごく面白いの~」

「あんまり遅くならないように寝るんだぞ」

「は~い」

「あらあなた、お帰りなさい」

「そいじゃに~。パパ、ママ、おやすみなさ~い」


 母親と入れ替わりでリビングを出る。廊下に立って薄く開いたドアから漏れてくる声を聞く。


「朱里……。あの子も、女の子じゃなかったらまともな未来があったのになあ」

「あなた、そんな言い方」

「……かわいそうに」


 パパ、ママ。自分を責めないで。朱里、今楽しいよ? しあわせだよ? 可愛い女の子に生まれて可愛いモノに囲まれて、セーシュンをオーカしてるよ?


 部屋に戻り、にこにこしながらゴーグルを身に着ける。


 ゲームの中でならアカリは無敵だ。リアルではできないことだっていくらでもできるのだ。一方的に狩られるだけのか弱いオンナノコじゃない。自分より大きい男を殴り倒すことだって平気だ。


「それに今のあかりはね~、うふふ、悪いオンナなのよう」


 こう見えて馬鹿ではないアカリは気がついている。


 個々のプレイヤーのクリア条件が異なるとは言ってもあくまで『しらゆきひめ』のストーリーに則ったものである以上、ヒロインやら悪役やらといったキャラどうしの関係性は変わらない。極論、【王子】【こびと】【白雪姫】で徒党を組んで【女王】を狩ってしまえばかなりの数のプレイヤーがクリア条件を満たせてしまうだろう。それができないのは誰が【女王】なのか分からないからだ。このゲームの実態は魔女狩りならぬ【女王】狩りなのだ。


(狩られたりなんか~するもんか~)


 アカリは【女王】だ。

【女王】は狩る側なのだ。


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