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しらゆきひめゲーム、始めます  作者: 姉川正義
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2. – 2. 同盟

後編です。これの前に2.-1.を投稿しています。そちらを先にお読み下さい。

 ユウヤのユニークスキルは自分を囮にした味方へのステルス効果。それをうまく活用するには、リアルの自分のイメージから逃れ、自在に動けるアバター「ユウヤ」のイメージを描くこと。


「それでですね。だから、というわけではないんですが、その。ユウヤさんは、他のプレイヤーと組んではじめて活躍できるキャラクターのはずなんですよ」


 何故かぎゅっと強くユウヤの両手を握りしめたまま、ミグゥの視線が泳いだ。ちょっと顔が赤い。うわ何だこの雰囲気。校舎裏で甘酸っぱい青春が始まりそうだ。


「だっだから! 私と、共闘しませんか?」


 勇気を振り絞った上目遣いのミグゥに、情けなくも現役高校生ユウヤは激しく慌てた。だってそんなキャラじゃないしむしろ空気だし女子とか僕のこと多分見えてもいないし!


 普段から仙人だの枯れてるだの言われがちな雄也少年だが、その手の感情がないわけではないのだ。内心冷や汗を流しつつ、ユウヤは姑息な逃げを打った。


「い、いい考えですね! さっきもバトル強かったし、ミグゥは前衛系なんだ!?」


 ちょうどいい組み合わせだね! そうこれはあくまでもゲームの話、よくあるパーティ申請とかその辺りの相談。火力の高い攻撃型プレイヤーと援護型プレイヤーが組むのは自然な流れ。


「あ、このゲーム、パーティのシステムはないんですよ。フレンド登録とかもできなくて」


 逃げに乗ってくれたのか天然なのか。真面目な先生口調に戻ったミグゥが真面目な顔で告げる。ということは、本当に単純に「一緒にやろう」ということになるようだ。


「それに私のキャラクターもそこまで攻撃偏重型ではないんです。ただ、《ランプ》のクリア条件に【白雪姫】クラスタの協力が必要で」


> どんなお話がハッピーエンドとなるのかは、あなたがゲームの中で誰であるのかによって変わってきます。


 ゲームクリアの条件はキャラクターによって異なる。


「《ランプ》のクリア条件って?」

「例によってあの文章なので分かりにくいんですけど……『ゲーム終了時に【こびと】と【白雪姫】がどちらも無事であること』だと解釈しました」


 無事でないケースとは即ち、クラスタ所属のプレイヤーが全滅して親キャラのライフがゼロになるデッドエンドを指す。いくらなんでも全滅など起こり得るとは思えないが、クリア条件として提示される以上その可能性があるということである。


「だからずっと【白雪姫】のプレイヤーを探してたんですっ」


 ユウヤはふとあることに気がついた。


「ミグゥは、さっきのゴーレムがプレイヤーって分かってたんだよね? ……つかぬことをお伺いしますが、あっちが【白雪姫】って可能性は」

「だってマップにユウヤさんの位置が映ってたから」


 首を傾げたユウヤに向かってミグゥが自分のマップを表示して見せた。


「《ランプ》のユニークスキルで、【白雪姫】所属プレイヤーを探知できるんです」


 マップを最大まで拡大すると森の中にミグゥ自身を示す三角形、そしてその正面に、緑色の丸い印が点っていた。このユニークスキルで見つけられるのは【白雪姫】クラスタのみで、通常のゲームにある索敵スキルとはまた違うらしい。


「実はうっかり気づかずに【白雪姫】のひとを攻撃しちゃって、その時にスキルが覚醒したんです」


 お姉さんこの短時間で何人に遭遇したんですか? そしてその全員倒したんですか? うっかり、と恥ずかしそうな顔をしてみせているが、むしろ超熟練のネトゲ武者かも知れない。


「ええっそんな全員とはバトルしてませんよ。情報交換だけの相手もいましたし」

「あ、ですよね……」


 恐れをなしたからというわけではないが、こちらも言わないとフェアでない気がしてユウヤは自分のクリア条件を開示した。


「僕のクリア条件は多分、【白雪姫】と【王子】の結婚エンドだと思うんだけど」


 ミグゥの勝利条件が単に「無事であること」ならば、ユウヤの勝利条件は更に難易度が高いことになる。親キャラのステータスに「結婚」という項目はない。正直どうやって達成に持っていくのか検討もつかなかった。ひょっとしてお姉さん知ってたりしないかな、とうっすら期待してみる。


「多分、魅力値をどうにかするんだと思うんですが……。ごめんなさい分からないです」


 これから方法を探すしかないようだ。しかし、魅力値というものの存在に気づいたのは僥倖だった。これを上げれば少なくともクリアに近づきそうだ。


「ひょっとして、【王子】クラスタの人と一緒に何かやったらイベントが起きたりして」


 冗談半分に言ってみて、あながちはずれでもないんじゃないかと思う。【王子】所属の人が何かそんな感じのユニークスキルでも持っているんじゃなかろうか。パラメータに「親密度」とか足されたりして。冒険ファンタジーと見せかけてギャルゲかよ。


「でしたら、【王子】のプレイヤーさんと会えるまで私がユウヤさんを守りますから!」


 再びぎゅっと手を握るミグゥ。

 と思いきや何故か小さくなって俯いてしまった。


「あ……えと、あの……私の都合ばっかりで、ごめんなさい……」

「ええっいや別に!」


 急に自信がなくなったらしい。そんなにしゅんとされると良心が痛い。

 俯いたミグゥが消え入るような声を出す。


「で、でも、結婚させるためには少なくとも【白雪姫】が生きている必要があるわけですし、その部分は一緒に目指してもいいんじゃないかと……い、如何でしょう?」


 如何でしょうも何も、こんな心強いお姉さんと組めるなら願ったり叶ったりである。最初はハズレキャラだと思ったけど《イノシシ》で良かった。


 ユウヤの練習も兼ねて城の近くのフィールドを探索しつつ、情報交換を続けた。交換というのは勿論建前で、実質はミグゥによる講義だ。ユウヤから渡せる情報など皆無だった。


 木や岩からのアイテム採取の方法、そしてそれを街で換金する方法なども教わる。


「でもプレイヤー以外人間いないんだよね?」

「そうですね、自販機みたいな感じです」


 明日は街に行って試してみましょうか、と言われアイテム探しに熱が入った。


「あっもうこんな時間、私そろそろ落ちますね」

「お疲れ様です、……でいいのかな。僕もうちょっと狩りやってますね」


 そう言うとミグゥが何故か腰に手を当ててメッと叱る顔をした。


「ダメですよユウヤさん、ちゃんとリアルに戻ってゴハン食べて下さい!」

「……はーい」


 頼りになるかと思えばヘタレだったり天然だったり、そして時々小学校の先生っぽい。どうにも掴めない相手だった。

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