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しらゆきひめゲーム、始めます  作者: 姉川正義
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25. (c) IF: ある教育実習生のひとコマ

 計画書は完璧に仕上げた。準備ノートも綺麗に作った。


 初め震えていた声も、今は落ち着いて普段のペースで喋れている。板書も歪まずに書けているし見やすいはず。教室の後ろに控えている担当教師の顔にも何ら心配や不安は見えない。


「ですので、ここの構文は……」


 溝口涼香の教育実習は実に順調だった。


 特進クラスというだけあって生徒は皆とても真面目だ。私語も内職もなく熱心にノートを取っている。中には休み時間に質問に来てくれる生徒もいて、実習生冥利に尽きると言えた。


 ――――――ひとりを除いて。


「チャイムが鳴ったのでここまでにします。これ、資料室に運ぶの手伝ってくれますか? 橋本君」


 静かにチョークを置き、いかにも適当に指名したという態を装って声をかける。


「え、あ、はい」


 頷いた男子生徒がのそのそと立ち上がる。どちらかというと小柄で痩せ型のくせに、冬眠後のクマのような重い動作だった。雑用を嫌がっているからではなく、彼の場合これが常態なのだ。


 寝起きだからではない。その手は授業中ずっと一生懸命にペンを走らせていた。


「すっごく熱心にノート取ってる―――と見せかけてゲームの攻略表作ってた橋本雄也さん!?」


 資料室の扉をバタンと閉めるや否や、抑えた声で涼香は詰め寄った。


 橋本雄也は教師の天敵である。それは教育実習生が相手であっても変わらない。文系特進クラス唯一の遅刻・居眠り・内職常習犯、それが2年1組17番橋本雄也なのだ。


「……ごめんなさい」

「ええ、気持ちは分かりますよ? あのシリーズのVIは表作らないと攻略順間違えないようにするの難しいですもんね?」


 正しい順に攻略しないとラストステージのシナリオが解放されない。2年前に出た旧作だが難易度ではいまだにシリーズ歴代最高と言われている。


「よくVIって分かったねミグゥ」

「リアルでは! 溝口先生って呼んで下さいって! 言ってるじゃないですか!!」

「……ごめんなさい?」


 こいつ分かってないだろ明日もまたやらかすだろ。


「12頁から20頁の例題、全部解いてきて下さい。明日あてます」


 宣言すると雄也の顔が大変哀しげに歪んだ。


「えー……。今日やっと水竜のステージなのに」

「うそっ!? 先週買ったばっかりって言ってたじゃないですか!」


 つい話題に乗っかりかけてしまい、いかんいかんと自戒する溝口先生であった。とにかく課題はやって下さいね、と早口に告げ、立ち去り際にぽつりと付け足す。


「……右手側の彫像から分身が飛び出してくるので気をつけて」


ハッピーエンドと呼べなくもない結末ということで、これにて幕とさせて頂きます。最後までおつきあい下さり、真にありがとうございました。

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