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しらゆきひめゲーム、始めます  作者: 姉川正義
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17. 演技

 セイジは困っていた。一昨日山に強制移動されたかと思ったら昨日は山の麓の「村」に強制移動。但しこのゲームの仕様上、村といっても村人はいない。廃村と呼ぶにはあまりに小綺麗だが紛れもない廃村である。そこにひとり。ぶっちゃけ怖い。ホラーゲームをやっているつもりは毛頭ないのでそそくさと脱走した。そして今日は再び山の中。


 セイジはソロプレイヤーではない。ないのだが、仲間であるアキラというプレイヤーは何故か神出鬼没だった。チャットなどの連絡手段が用意されていないため自分の脚で探さなければならなくなる。開催期間6日目の今日に至るまで、セイジのプレイ時間の大半はアキラを探して駆けずり回ることに費やされていた。


 そのことに特に不満はなかった。何れにせよセイジのクリア条件に【白雪姫】であるアキラは必須だし、アキラはセイジなどより余程賢いのでセイジの替わりにプランを考えてくれる。賢いアッキーの言う通りにしていれば勝てるのだ。


 考えることを止めたセイジは今日も鏡を取り出した。


「〈鏡よ鏡、壁の鏡よ、教えておくれ。国中で、誰が一番うつくしいか、言っておくれ〉」


 近場にいる【白雪姫】を表示してくれる探索アイテムだ。だが、今日はいつもと様子が違った。


> 鏡は答えました。「女王様、あなたがこの国で一番うつくしい」

> 【白雪姫】は死亡しているため探知できません。


 そして鏡は沈黙した。


「うっそおおお……」


 途方に暮れる。他の方法なんて知らない。アッキーは何て言ってたっけ? そもそも「死亡」? アッキーもひょっとして既にゲームオーバーなんだろうか?


「あ~っアカリの鏡だあ。じゃあこのひとは殺しちゃダメなひとかな~?」

「へっ何スか、誰スか!?」

「うん、このお兄さんは味方だから殺さないでね、アカリ」

「は~い、了解だよゆんちゃんっ」

「良かった、アッ……『ゆんちゃん』?」


 おもむろに現れたふたり組を見てセイジは混乱した。ピンク色のアリスみたいなドレスの女の子は初対面だ。緑色と灰色の少年はよく知っていた、はず。だが名前が違う。


(アッキー……じゃなくて、ユンチー?)


 一度遭遇しただけの、アキラそっくりなプレイヤーがユウヤとかそんな名前だった気がする。


「てか、『アカリの鏡』ってどういうことスか? これアッキーからもらったんスけど」

「だって~それ、【白雪姫】探す鏡でしょ~? 【女王】様が使う魔法の鏡だもん、アカリちゃんは【女王】様だも~ん。おそろいだから、仲間だねっ。お名前は~?」


 問われて大人しく名乗りながら、内心では気が気でなかった。だってセイジは【こびと】なのだ。目の前のふたりが【女王】というなら敵対クラスタである。あれ? ユウヤって子も【白雪姫】じゃなかったっけ?


「死ね【女王】!!」

「どぅえ!?」

「や~ん! アカリちゃんは死なないも~ん」


 自分ではない。セイジは「死ね!」なんて叫びながら奇襲したりしない。突如として斬りかかってきたのは赤いポニーテールの女騎士だった。長剣の鋭い太刀筋を、ピンクのドレスから取り出した無骨なナイフが危なげなくさばいていく。


 強い、何この戦いハイレベル過ぎて怖い。引いているセイジの肩がこっそり親しげに叩かれた。


「せーじ君、僕、僕」

「へ……えっ!? あ、あれっ? アッキーの方っスか!?」

「彼女には『ゆんちゃん』ってことになってるから。内緒ね?」


 にっこりと笑って少年が唇に人差し指を立てた。ああ確かに自分の知っているアッキーだ。不機嫌そうなジト目のユンチーじゃない。セイジは泣きそうなくらい安堵した。


「無事だったんスね! けど何でユンチーの振りするんスか?」

「彼女が、本物の『ゆんちゃん』に遭ったら殺しちゃいそうだから、身代わりってのもあるんだけど。せーじ君、『ゆんちゃん』と一緒にいたチャイナドレスのひと、覚えてる?」


 勿論だ。忘れようがない。いきなり水魔法ぶっ放してきたおっかないお姉さん。


「ぐっさんっスか?」

「【白雪姫】と【こびと】の敵なんだ。でも強いから、倒すためにアカリに協力してもらおうと思って。あの娘は僕のこと、【女王】だと思ってる」


 流石は賢いアッキーだ。敵キャラの【女王】さえも騙して利用するなんて。


「それで、せーじ君に頼みたいことがあるんだ。聞いてくれる? 他の人にはできないことなんだ」

「トーゼンっスよ!」

「もし僕の嘘がばれたら、アカリは僕を攻撃すると思う。その時は、せーじ君のユニークスキルで守って欲しい。僕が死んじゃうと【白雪姫】の逆転勝利も難しくなっちゃうから」


 ふむふむ。すごい。アッキーは死んだ【白雪姫】を生き返らせる方法を知ってるらしい。その活路を断たないために自分にもできる役割がある。セイジは一も二もなく協力を約束した。


 その短い会話の間に、アカリは襲撃者をきっちり返り討ちにし終えていた。ドロップも回収済み。


《裁縫道具》Lv 38

> しらゆきひめは家の中のことをするかわりに、7人のこびとの家に置いてもらうことになりました。

> 《裁縫道具》には【白雪姫】の防御力を向上させる能力があります。


> ルールブック No. 132 衣服の破れは〈修繕〉スキルによって直すことができます。


「わ~ほんと~? じゃあ〈修繕〉スキル拾得したら、町の仕立て屋さん使わなくていいんだ~」


 あれだけ強かったのに今はふわふわと衣装の心配。女子とは分からんものである。リボンのひとつやふたつほつれたところでプレイに支障はないのでは、とセイジなどは思ってしまう。


「ユウヤ!? お前そこで何やってんの!? ログアウトしろっつったじゃん!!」


 弛緩した空気に怒鳴り声が割り込んできた。おや、この声にも聞き覚えがあるような。


「あ~トオルちゃんだあ、久しぶり~」


 のほほんと手を振ったアカリにはおざなりな挨拶を返し、黒マントが何やら緑頭巾に詰め寄っている。ゲームは2時間までとか小学生みたいな説教が聞こえてきた。


「お前さっき『分かった』って返事したろうがよ!」

「あー、うん、そうだった。ごめんー」


(……?)


 気のせいだろうか。緑頭巾の少年の口調が変わったように聞こえてセイジは不思議に思った。寝惚けたようなまったりした喋り方だ。トオルとかいう黒いマントの少年が現れてから急に、セイジの知る才気煥発な雰囲気が消えた。そしてトオルの方も、それを感じたらしい。


「ほら見ろ、やっぱり本調子じゃねえんじゃねえか。帰れ、寝ろ!」


 はっとした。さっきは何ともなさそうな様子を見せていたが、やはりアッキーは【白雪姫】死亡の影響を食らっているのでは? 何らかの状態異常なのでは?


 気遣えなくてごめん、とセイジは内心で謝った。冷静に考えればゲーム内の状態異常に対して「帰れ、寝ろ」は妥当な助言ではないのだが、そこまでは考えが回らない。


***


 言い争う、というよりも一方的に説教を食らう緑色の頭巾の少年を、陰から凝視する視線。


「どういうことだ……!? あの小僧はカナ氏が殺してしまったはず……!?」

「昨日の夕方5時頃、とのお話でしたよねコユキさん。確かに、私の探知スキルが作動しなくなった時刻と一致しています」

「カナ氏が倒したのは『アッキー』とやらでクラスタは【白雪姫】、それは間違いない。……だが、我々は……私とカナ氏は、貴様の仲間のユウヤとかいう小僧を狩っているつもりでおったのだ」


 少なくともコユキはそう考えていた。緑頭巾に同行していたピンクのロリータ娘が「ゆんちゃん」と呼んでいたし、何よりカナの記憶力は一度会った人間の顔を見間違えたりしない。故に「ユウヤ」は「アッキー」で、仇名が風変わりに歪んだだけだと見ていたのだ。


『コユキさん達が探してる『アッキー』っていうのは、僕のことで間違いないとは思うんですけど』


 僕のことなんですけど、それは本名ではないです。そういう意味ではなかったのだろうか。


同じ顔の別人ドッペルゲンガー、ですか?」


 そんな偶然がそうそう起きるとも思えないが、そうとしか考えられない。カナが昨日倒した【白雪姫】は「アッキー」で、今そこにいる【白雪姫】はユウヤ、のはずだ。


 しかし、ミグゥにとっても気持ち悪さは拭えなかった。


「あれがユウヤさんだとして、今の状況が不自然なんですよね。【白雪姫】なのに【女王】のアカリさんと組んでプレイして、しかも見てると【こびと】を狩らせてるんです」


 他人の手を使って【こびと】を排除するやり方。【王子】と【こびと】が潰し合うようなミスリードを煽っていた「アッキー」の行動に通じるものがある。


「両者ともに【白雪姫】でなく【女王】であったと考えれば少なくともその点は辻褄が合うがな」


 そうでないことはミグゥ、コユキの双方が自ら確認している。「アッキー」にしろユウヤにしろ、【白雪姫】であることは間違いないのだ。


「……私、本人に接触してみます」


***


「ユウヤさん! トオルさん、アカリさん!」

「げっぐっさんじゃないスか」


 トオルとは別の方角から聞こえてきた声。振り返ると、駆けて来たのはド派手なチャイナドレスのセクシーお姉さんであった。皆さん無事だったんですね、良かった、と息を切らして笑っている。


 今まさに敵だと聞かされたばかりの相手を目にして、動揺が悟られないようにセイジはこそっと後ろに下がる。待ってお願い心の準備が。そんなすぐに戦闘とか無理。アカリの強さはさっき目にしたばかりだし、アキラほどのプレイヤーが警戒するからにはミグゥも強いのだろう。待って怖い。


「……ねえねえせーちゃん。せーちゃんはアカリ達の仲間だよね?」


 いつの間にか隣に立っていたピンクロリータに囁かれ、ぎょっとしたのも内緒だ。この娘、ぱっと見は可愛い気がするのに言動がホラーっぽいからちょっと苦手。母ちゃん、都会の女の子は怖いです。


「あのチャイナドレスのおねーさんね、ぐっちゃんて言うんだけど、敵なんだ~」

「えっと、そっスね、聞いたっス」

「がんばろ~ね。えへへ」


 笑顔のアカリが、これあげる、と小さな果物ナイフをくれた。さっき拾得したドロップらしい。いやこれを俺にどうしろと!? 激しくうろたえるセイジである。アサシンなんて向いてねえ。


「あーはいはい、分かりましたー。それじゃ僕はログアウトして仮眠取ります。後は皆で仲良くしてね?」


 肩を竦めた緑の頭巾が意味深にセイジの方を見た。あっ察し。


 そうしてひとりがログアウトし、後には4人が残された。


(ぐっちゃんは~【白雪姫】蘇生を助けちゃうスキルを持ってるです~。だから、アカリの敵~)


 【女王】ピンクのアリスはにこにことアーミーナイフを隠し持っている。


(ミグゥは【こびと】、【こびと】は【王子】の敵。ユウヤには悪いけど俺だってクリアしたいんだ!)


 【王子】の黒いマントの下には毒入りの吹き矢が潜んでいる。


(ぐっさんは【白雪姫】と【こびと】の敵、んじゃあ倒すしかないっスよね)


 【こびと】は密かに小さな刃物を握りしめる。


「仲良く、って、人の心配してる場合ですか。全くもうユウヤさんは……」


 嵐が吹き荒れるまで、後数分。

 わるものは、ダレだ?

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