ビターチョコは失恋の味
嬉しい事が起こった。学校の下駄箱入れにチョコレート(ガーナチョコレート)が一つだけポツンと入れられていたのだ。
瀧(十五歳独身、年齢=彼女いない歴)はいつものように学校から自宅へと帰宅しようとした。いつもの様に昇降口の下駄箱の扉を開けるとチョコが入っていた。
「バレンタインデーキスねーー……クソくらえよ!」
そう言いながら瀧はチョコレートをカバンへ放り込んだ。
今日は二月十四日。リア充たちがサカる日の一つでもあるバレンタインデーであった。と言っても瀧(彼女いない歴=年齢)には関係のない日であった。そう、そのはずだった。
「誰がこのチョコを下駄箱に入れたんだ?」
瀧は無性にチョコをくれた人が誰なのか気になった。
そりゃそうでしょ。どんな女性がどんな気持ちでチョコを入れたのか……下級生? 同学年? 先輩? ツンデレ属性に従順系……ボーイッシュも捨てがたいし。そこんとこ地の底を這いつくばってでも知りたいだろう?
我、瀧に続く同志たちよ。偉大なるバレンタインデー同志とチヨコレイト同志の思想を受け継ぎ、我らの興隆閨房主義世界を作り上げよう!
「ひとまずいつものメンバーに聞いてみるか」
時間は四時過ぎ。まだ時間はある。幸い友人たちは部活などには所属していない。瀧(彼女はおろか慕ってくれる人すらいない)は友人たちに声をかけた。
瀧はとある空き部屋で声をかけた友人たちの到着を待っていた。それかしばらくすると誰かが扉を開けて空き部屋へと入ってきた。
「ちーす。この後家に帰んないといけないで早く辺鄙な話を終えてもらえるとありがたいんすけど……クソ下郎のクズ瀧」
窓から差し込む陽光を反射させる銀の髪(染め)をいじり、御託を並べながら部屋に入ってくるのは幼馴染のナナだ。一様女子生徒だ……念のため。
てか理由悲しいだろ、先輩と待ち合わせとかの方がまだギャルぽいだろ。
パイプ椅子に大股に座るナナの態度に嘆息しながら瀧は他のメンバーを待った。
「リア充は死ね! ……クスクス……キーー!!! ふぅふぅふぅ」
次に教室に入ってきたのは黒前髪を目の当たり伸ばしたいわゆるエロゲ髪の男の子。自称ニャ○ラトホ○プ(某宇宙人との因果関係は不明)こと新山・ラルホス・宝正(ハーフらしい)である。
まあ、髪を切れば印象変わりそうだし無貌という意味ではその名前もあながち間違ってはいないであろうが……まあ彼は頭のイカれた中二病患者だ……おそらく。あと釘○病も併発してそう。
瀧は「嘘だ!」とか言ってるニャル男(仮名)に『ひ○らし』ネタかよと尻目に思いながらもう一人メンバーの到着を待った。
「やっほー! いつもニコニコあなたの近くに駆け寄る秩序、遊希、です!」
いや、どこかで聞いたようなセリフ……てか新山といい遊希といいなんで『這○よれ! ニ○ル子さん』ネタなの? 他にラノベ知らないの!? すごーい二人ともパロディーが好きなフレ○ズなんだね!
扉を思いっきり開け軽率というか爽快な態度で挨拶をするのは前髪を三つに分け、左右の二つをそれぞれ外側にピンで止める「秀○ヘアー(仮名)」にする華奢な体つきの女の子……いや男の子(男の娘とも表記するのか?)であった。かの……彼はその辺の椅子に座った。
「ひとまず全員揃った。これより第一回賢人会議を始める」
「なんすかーその名前マジしょぼー」
「ただの人間には興味ありません……クフォォォーーー! ハリュヒハリュヒ……ぎーー!」
瀧は某セカイ系ラノベのセリフを叫ぶ男の子を無視して話を続けた。
てかそのあとに『大丈夫です。原作派ですから』とか言うなよ……絶対に!!
「まあ今日起きた出来事ですが、なんと……俺の下駄箱にチョコレートが入っていました」
「なわけ……ちょーウケるんですけどーー!!」
ウケるーはもう死語だぞ。
そんな事を頭の片隅で考えながら更に話を続けた。
「で下駄箱にチョコを入れたのが誰なのかを調べたいと思った」
「一人でやれ下郎」
「面白そう! ボクやる!」
「スター……バースト・スト――(椅子の倒れる音で聞こえなかった)」
ま、まあ新山はほっておこう(なんの為に呼んだんだろう)。
ナナは興味なさそうに椅子を傾け転び、遊希はやる気を見せ、新山はーーうん、やる気なし。
遊希と瀧はチョコレートの差出人を調べに部屋を出ようとすると。
「背は高く、大人っぽい女性もしくは男性が差出人だろう……イィーエムゥットゥウ――(ナナが扉を閉める音)」
新山がマジな助言をしてくれた。
まあ、後半のがなければいいんだが。てかやめなさい『E・○・T』とか色々な意味で問題あるから。
瀧と遊希はチョコを下駄箱に入れた人を探すべく廊下へと出た。それから数十分経過した。
「すまん……そろそろ帰んなきゃいけないんだ! 今度なんでもするから許してくれ……それこそ私の大事なものも使わせてあげ――」
「え、なんだって?」
「なんでもねーよ! じゃあまた明日な」
そう言いながら走って昇降口に向かう遊希を「ああ」と言いながらポツンと見つめる瀧。
それからまたしばらく歩いていた。
「きゃっ!」
「わー!」
腹に何かが当たった。当たった物がなんなのか気になり床の方を見たら驚いた。
そこには金のラメ糸の様な毛を集めたような髪を纏った少女がへたり込んでいたのだ。手先は震え、口はわずかに開き、ルビーの様な双眸には小さな雫のような涙が浮かんでいた。
「ごめん! ほら、掴めるか?」
「す、すみません……本当にすみません」
そう言いながら自力で立ち上がる目の前の少女を見て瀧は思った。
(外敵に怯えながらも過ごす小動物のようで可愛い)。
保護欲だとか支配欲だとか少女嗜好なんて言葉はどうでもよかった。ただ自分の胸に抱きしめ、その頭を優しく撫でてあげたい。
瀧はそんな事を考えていた。
柏崎さんや涼宮さんの気持ちがよくわかるよ。いや、あの二人は行き過ぎてないか? しかも同性に。
瀧は変な考えを忘れさせるように首を振りながら喋ろうとする。だが、少女の方が先に喋りだした。
「あのーちょっと良いですか? 少しでいいのでついて来てください」
「あ、ああ」
瀧は言われるがままついていった。そして行き着いた場所は小さめの個室だった。大抵気持ちの落ち着かない人や少人数の面談を行う人なんかが使う部屋だ。
少女はそこに入れと促す。瀧は言われるがまま部屋に入った。
「少しだけでいいので待っててください……準備をしなくてはならないので」
「わ、わかった。あ……君の名前を教えてくれないか?」
「禁則事項です……というのは冗談です。愛里寿と言います」
そう言い、彼女は思いっきり笑って見せ部屋を出ると廊下を走って何かを取りに行った。
てかこの人もラノベ通!? なんなんだよ俺の周りの人たちは。
瀧は心で不思議な気持ちになりながら彼女が来るのを待った。
それは突如に起きた。カーテンからもぞっと誰かが出てきた。その人の髪は亜麻色で目はキリッとしており鼻は高くボーイッシュな体型の人だった。運命の出会いとはこの事か。
「だれ?」
「瀧、俺は……俺は……」
「え?」
「俺はお前の事が好きなんだ!」
……。
…………。
う、うん。
運命の出会い。まぁあながち間違ってはいない。
瀧は無性に聞きたいことがあったので聞いた。
「チョコレートに媚薬とかマカとかすっぽん、黒酢、卵黄、黒にんにく、バイアグラなどは混ぜてないよな?」
「う、うん」
ひとまず言わせてくれ。このガーナチョコレートブラックに媚薬の類精力増強剤などは入ってないよねぇ?
瀧は困惑していた。知らない男性からの告白を受け、どうしようもない気分になっていた。
「やらないか?」
「うほっとは言わなし、やる気もない。ノンケ食うのはよろしくないぜ」
そういうのが精一杯だった。本当にどうしようもなくだるい口をこじ開けて瀧は聞いた。
「君の名は?」
「……禁則事項ですっ!」
「――やかましいわ!!!」
俺はチョコレートを机に置きながら言う。ひとまずこんな赤の他人とは恋人になる気持ちはないし、阿部ちゃんのようなノンケ食いの被害に会う気もないので言っておいた。
「すまんがお前とは付き合えない。俺にはすでに恋人がいるし……男とそう言うのは……ごめん」
「………。っぁ――」
嘘をついて悪い。ただ、お前の事を思ってだ。
教室を出た。その時瀧は窓辺の男の子に言った。
「いい恋人ができるといいな! 期待てるぜ」
***
どこぞの男にチョコレートを渡されてから数日が経った。
その男に会うことはなかった。そして、いつもの様にナナ、新山、遊希と四人で過ごす日々が続いていた。そんな変わらない日々とは変わったことが一つだけあった。それは……。
「ありがとうござます……瀧くん」
「ほら、あったかいうちに飲めよ……愛里寿」
そう、謎の少女――愛里寿が瀧たちの集まりに加わっていた。
彼女はいつもの瀧にくっついていた。まあ、恋人とかになったわけではないが周りからみればそれなりにいちゃついてるカップルに見えるだろう。まあ、愛里寿が恋人になるのはまた別の話である。
瀧はいつもの様な日常を今日も普通に過ごすのだった。
突貫工事クオリティですみません。はい、これからは連載作品に精を出します。
なおこの物語に出てくるキャラやセリフ、人名、実在の組織とは関係ございません。