テューナ・ヘレニス・ヴァン・コルドール【職業:騎士】 魔法使いと賢者
本日は訓練も任務もお休みですので久しぶりにヘレニス様の授業に見学がてら参加しようと思います。
デュンヘン王国の首都であるここは、王国の存在するエータリア大陸一発展した街として大陸中に名を轟かせています。
王城を中心とした円形の町並み。中心から四方向に伸びる主道で区切られた区画には商店、学校、宿屋など様々な建物が並び、その区独自の様式を生み出しています。
ヘレニス様はそのうち北西にある魔法大学に勤務している賢者様です。賢者と呼ばれる方々は2属性以上の魔法を極めた方たちの総称で、基本的に各地にある魔法大学、魔術ギルド、貴族や王族に仕えています。
ヤールグワィト様は非常に珍しい【放浪の賢者】という称号を持つ賢者様で、今はコルドール家に客人としていますが1年の大半を旅して過ごす方ですので特定の組織に所属していません。
なんでも称号の能力で滞在するほど魔力が低まり、放浪するほど魔力が高まるそうです。長寿なのもその能力なのだとか。なかなか難儀な生活を送っていそうですが本人はとても楽しそうです。
子供の頃はよく旅の間のお話を聞かせていただきました。妹のイレイナにもそのうちお話してくださるかもしれません。
コルドール家は王都の北東を収める貴族ですから、屋敷も北東区にあります。ここから大学までは馬を使って1時間ほどです。騎士として乗り慣れているとはいえ、未だに長く乗るとお尻が痛くなります。
少し蒸し暑い日差しを感じながら馬屋からわたくしの馬を連れてきて跨がり、使用人の1人に大学へ行くことを伝え出発しました。
*
大学へ向かう途中の街並みを楽しんで見ていると、人だかりを見つけました。きな臭い感じです。この手の事件は本来巡回兵のお仕事ですが、わたくし騎士ですから問題があると解決したくなる性分なのです。特にヘレニス様とは約束したわけでもありませんので寄り道も大丈夫でしょう、きっと。
「なにかございましたの?」
馬から降りてわたくしが尋ねると人だかりの外側にいた髭面のおじさまが面倒くさそうにわたくしを見てきました。すぐにわたくしがコルドール家の家紋の入った剣柄を見せると謙って話してくださいました。
「騎士様でしたか! いえね、よそ者の商人みたいな奴が露天商の奴にいちゃもんつけてるみたいなんですよ!」
話をまとめると外部から来た商人の方がここに来る途中に山賊に襲われたそうで、撃退には成功したものの荷物をいくつか盗まれてしまったそうです。
無事な荷物を持って街に入った所、盗まれた商品と全く同じ物を露天を出してる商人がいたのできっと山賊に違いないと言い争っているうちに人だかりができたみたいです。
「だから! その壺とスクロール、それにポーションの銘柄は明らかにうちの扱っていた商品だろ!! ここに貴族様の証印付きの受注書があるから間違いない!!」
「バカ言っちゃいけねえよ、これはうちが独自のルートで仕入れた特注品だ。その受注書も偽物だろうよ。ここに発注した時の発注書があるんだから変な言いがかりはよしてくれ!」
どうやら両名とも商品の持ち主を証明できる文書を持っているようで一向に決着が付きそうにありません。
1つ気になることがあるとすれば発注書のほうは証印が無いので捏造できてしまうという点でしょうか。
「第4騎士団所属のテューナ・コルドールです。野次馬の方々は解散してください。この場はわたくしの預かりとさせていただきますので当事者のお二方はこちらの質問に答えていただきます」
「なんだこの小娘……コルドール? コルドールって北東区の領主様の!?」
「ああ助かりました騎士様! この嘘つきの泥棒をさっさと逮捕してください!!」
「それはあなた方次第ですわ。わたくしは公平な判断を下します。伝聞だけで判断を下すなどありえませんから」
ここでわたくしのユニークスキルを発動させます。【絶対尋問官】わたくしの質問に対して決して嘘はつけなくなるスキルです。
「さてまずは外来商人の方。ここに来る途中山賊に襲われたそうですが?」
「ああ、ここから東の山林を馬車で通ってたら山賊どもに襲われたんだ! 護衛の戦士ギルドの連中が追い返してくれたがいくつか荷物が盗まれていた!!」
どうやら本当に襲われたようですね。あとで騎士団と冒険者ギルドに遣いを送り山賊を指名手配しないといけません。多分届け出は出しているでしょうが念のためです。
「では露天商の方。あなたは商人ですか?」
「いいや、俺は商人じゃない……な、なんだこれ口が勝手に……!?」
「あなたは東の山林でこの方の馬車を襲った山賊の一味ですか?」
「ああそうだ、周囲の山を張り込んで荷物を盗んでこうやって売ってる……嘘だ! 俺は商人……じゃない! 山賊だ! え? は? なんだよこれはああああああああ!?」
特に面白味もなく解決してしまいました、不謹慎ですが。衛兵もやってきましたのであの方々にお任せしてわたくしは大学へ向かうとしましょう。
元露天商の方が魔法で操られたとかなんとか言っていますが、わたくしこれで有名人でして。皆様わたくしのスキルのことは知っていますの。
──ですから魔女だ売女だと叫ぶのはやめていただきたいのですが……。
衛兵に引き渡して馬に乗りわたくしはぱぱっと北西区に向かいます。
*
「ということがございましたの」
「朝から大変だったわねテューナ。最近どうも流れの山賊が増えてきたようで、訓練がてら騎士連中で掃除にでも行ったらどう?」
大学につくとちょうどお昼で、ヘレニス様を見つけ一緒に食堂へ向かうことになりました。
その席でわたくしはチキンステーキ定食を。ヘレニス様は山盛りのサラダを食べながらお話をしています。
別にエルフだからサラダしか食べないのではなく、単純に野菜が大好きな方なのです。普通にお肉とか食べることもあります。
「東の山脈に居を構えているバルドデアスの一味が縄張りを拡張しているみたいね。その影響で東にいた無法者共がこちらに流れてきているみたい。ヤールグワィトの奴がめんどくさそうに嘆いていたわ」
「バルドデアスというとあの【英雄堕ち】のバルドデアスですか?」
300年前、伝説の称号【英雄】を持ちながら、突如として祖国を滅ぼし、山賊に身をやつした竜人族。バルドデアス・アード・ソル・メイナス。
東の谷にあった魔法使いの隠れ谷を占拠し、山賊の街に変えた後そこを拠点に各地へ出向き虐殺と略奪を繰り返している最強の山賊です。
本人もさることながらその配下にいる幹部格の者達も【勇者】クラスの力を持つ上に、賢者も1人協力しているようで、一国にも匹敵する戦力と隠れ家を取り囲む入り組んだ地形、魔法による妨害で我が国も手を焼いている厄介な人物です。
「全く、アードヴェグの奴も厄介な男を育ててくれたものね。あいつに勝てる者なんていないんじゃないの?」
アードヴェグとはかつていた【勇者】のお一人でバルドデアスの師であると言われている方です。バルドデアスが反乱を起こした際に不意を突かれて戦死されてしまいました。
希少魔法である陽魔法の使い手であり、聖剣を持っていた当時の最大戦力であった方です。
「おまけに陽魔法の使い手ですからね。厄介な事この上ないですわ」
彼はソルの名を持つ者ですから陽魔法の使い手であります。
わたくしとヘレニス様はヴァンの名を持つ者ですから風魔法が使えます。
この世界の魔法は火、水、風、土、陰、陽の6種類あり、一定以上の使い手である者は属性に対応した名前を第3の名として持つことを義務付けられています。
名乗らなければならない理由もしっかりとあり、遥か昔の研究で自分の得意属性以外の名を名乗った者は魔法が使えなくなっていったそうです。
そのためこの世界では魔法に頼らない戦い方をしない人物でない限り第3の名を名乗ることが常識となっているのです。
第3の名の種類は基本6種。火はエル、水はウィン、風はヴァン、土はゴル、陰はイル、陽はソルです。
中にはこれに当てはまらない種類の魔法を使いこなし、それに合わせた第3の名を名乗る者もいますが、わたくしは知りません。
それらは大系外魔法と呼ばれ、ほとんどが伝承の中の存在です。
複数使いこなせる者は使えるもののうち自分の好きな名を名乗ることができます。ヘレニス様は風と陽が使えますが風の方が得意なのでヴァンを名乗っています。
陰と陽を除く4属性を大系属性魔法と呼び、最も使い手が多い魔法系統です。貴族ですとか魔法使いの子ですとか血統に恵まれている子は大体この4属性のうち最低1つ使えます。
一方陰と陽魔法は遺伝せず後天的にも先天的にも突如使えるようになることから希少属性魔法と呼ばれています。
ヤールグワィト様や弟のシンが陰魔法の使い手です。陰魔法は大系属性に比べれば使用者が少ないのですが、さらに少ないのが陽魔法の使い手です。
陽魔法の使い手は国家級戦力として数えられ手厚く保護されます。低級陽魔法しか使えないヘレニス様でさえ国外に出るのに数百の手続きを必要としています。それほどの存在、威力を持つ魔法なのです。
そんな陽魔法を極めたのがアードヴェグとその弟子のバルドデアスの2人。
バルドデアスによって上級陽魔法が王都に放たれればあっという間に灰となるでしょう。
ですが──
「バルドデアスは王都を攻撃してこないでしょうね。さすがにまだ大陸全土を相手するには戦力が足りないと思いますわ」
「そうね。まだ彼らの力は一国にしか匹敵していないから。2つも3つも国を相手にしたら大きな被害は免れないでしょうね」
デュンヘン王国は大小含めて20カ国との同盟を結んでいます。円満とは言えない仲の国もありますが、それでもバルドデアスたちの戦力には危機感を覚えているようで、どこかの国が攻められた場合は同盟軍を結成してバルドデアス一味を討伐する条約が結ばれています。
この条約のおかげでバルドデアスは攻めてこないのでしょう。
「でもそうね……20いや15年くらいで彼らは戦力を整えてくるでしょうね」
「理由をお聞きしても?」
「あなたは弟子だから教えますけど、お父上にも口外してはダメよ。」
そう行って周囲に気づかれないように遮音魔法を使いついでに気配を希薄化する魔法をわたくしも使用します。そうして耳元に顔を近づけてきたヘレニス様は言いました。
「ランダラムの巫女による予言……5年前に隠れ谷にて新たな魔王の器が産まれ、20年の時を経て覚醒する」
そう言ったヘレニス様は口にしたこと自体を恐れていたようで、頬に汗が伝っていました。
『残り時間は72時間です』