ケイラス・コルハート【職業:山賊見習い】 山賊の隠れ家
──もう一度幼年期というのも面倒でしょう。幸い面白そうなイベントもしばらくないようなので5年くらい飛ばしちゃいましょう。
え、ちょ、そんな重要なことさらっと言われても困るんだが。というかあんた一体何なんだ!?
──バリバリの女神様ですよお気になさらずー。周期はすこーし長めに設定しておきますから……良い異世界ライフをお楽しみください。
待て待て待て!色々聞きたいことがあるん────
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「だがあああだだだだあ頭が痛い!?」
夢が覚めた瞬間俺の脳内に5年間の記憶が一気に入ってくる。5年間ケイラスが経験してきた景色、会話、感触や味まで、あらゆることが走馬灯のように一瞬で流れてきた。
14の時に単車にはねられた時以上の痛みだ。あの時は幸い両足の骨折だけで済んだが今回は傷が無い分かなり不快な痛みが続く。
『レベルアップしました。レベル10になりました。ユニークスキル【苦痛を楽しむ者】を獲得しました』
「苦痛が楽しいわけないだろ……あだだだだだ……」
ゲームみたいなアナウンスが脳内に響く。段々と痛みが治まってきて、ようやく周囲の確認ができる余裕ができた。
どうやらここは薄暗い洞窟の中のようだ。俺は生まれた場所と同じ所で眠っていた。
決して綺麗とはいえない布にくるまって眠っていたので全身に先ほどとは別種の痛みを感じている。
入り口らしき付近から日の光が少し差し込んできていたのでそこそこ明るい。冷え込みもなく温い感じの気温とちょっとした湿気が痛みからの不快感をさらに加速させていた。
全身を確認してみる。女神とやらが言った通り5~6歳くらいの肉体だ。が、所々にアザや傷跡があり不快感で気付き辛かったが筋肉痛のようなものも感じた。
流れ込んできた記憶から察するにこれは山賊連中による訓練によってできたものらしい。
少しケイラスの身の上を確認してみよう。ここは山賊の隠れ家で、俺はどうやら攫ってきた貴族の娘と山賊の親玉との間にできた子供らしい。
貴族の娘はやはり俺を産んだ時に死んでしまったようで、他の奴隷と同じくぞんざいな扱いで土葬されたみたいだ。
山賊の親玉の息子ということで山賊の英才教育?を受けている。これは去年……4歳くらいの時から始まったようで、全身いたるところにある傷の数々が1年そこらでついたことになる。なんというスパルタ教育。
今日も朝から訓練とは名ばかりのタコ殴りに合うため、非常にひっじょおおおに憂鬱な気分になりながら起きたところだ。
「おら! 朝だぞガキども!」
起床時間になったようで入り口からいかにも山賊といった身なりの男が叫びながら入ってきた。その声に反応して俺の周囲の丸まった布がモゾモゾと動きだす。ここは生まれた子や攫ってきた子、老人たちの寝所だった。
「おはようケイラス」
俺のすぐ側にあった布から同い年くらいのやせ細った女の子が出てくる。流れ込んできた記憶から名前を引き出し、いつもの(・・・・)ように言葉を返す。
「おはようアルミナ。今日は良い天気みたいだよ」
彼女──アルミナは俺より1年後に産まれた子で親は俺とは違う。淡い青色をした短い髪を、頭の両側で縛っている快活な子で妹のような存在だ……こっちにも妹がいるのか俺。
いつも俺より遅く起きるため、外を確認できる位置にいる俺が挨拶と一緒に今日の天気を伝えるのは日課になっていた。彼女の寝る位置はいつも壁沿いの岩陰になっているのだ。
伸びをする彼女のさらに奥では、俺を取り上げた老婆が起きる所だった。90を超えているがまだまだ元気なようだ。
洞窟の中には他にも、猫耳と尻尾を持つ猫人族や二足歩行の蜥蜴としか言いようのない蜥蜴人族、1人だけだが鱗がある以外は人とほとんど変わりのない竜人族の子など、狭い洞窟の中で50人くらいがひしめき合って眠っており、続々と起き上がってきていた。中には踏まれたのか「いてっ」という声が聞こえてくる。この狭さだと日常茶飯事なので小競り合いとかは起きない。
「今日の朝ごはんはなんだろうな、なんだろうな」
「昨日あんだけボコボコにされたのに次の日にはこの食い気だもんな。ドルはなんつーか神経も太い奴だなあ」
年長組である2人。ふとっちょの人族ドントルシア──ドルと銀髪の狼人族イルヤデュン──ヤデュンが外へ出て行く。
毎朝洞窟から出ると大人たちから何かしらの暴力を受ける。理由なんて力の誇示以外特にはない。産まれたばかりの子が1人で出た結果蹴り殺されたなんてこともあった。
大体1番痛い暴力は最初の方に出てきた子供が受けることがわかったドルとヤデュン……主にヤデュンは、無駄な犠牲を出さないため毎朝率先して頑丈なドルを連れて洞窟を出るようにしていた。
今でこそ山賊であるヤデュンだが、奴隷契約魔法とやらで強制的に従わさせられている。殺された両親は誇り高い戦士だったとかで、彼自身も自らの誇りに則って子供たちを守っているらしい。本当に山賊にしておくのがもったいない存在だ。
ドルとヤデュンに続いて続々と子供や老婆たちが外に出て行く。着替えなんて上等な物はなく、いつも俺たちは薄汚れた布1枚しか与えられない。戦闘訓練の時にでさえだ。なのでこの隠れ家では子供の死なんて特に珍しいことでもなく、1週間死人がでなければラッキーなくらいだった。
正直そんなことで将来の戦力を減らすのはどうかと思うが……。
外に出ると案の定ドルが大人3人ほどに殴られていた。傍から見ると痛そうなのだが、彼自身はケロッとしている。痛覚耐性のスキルでもあるのかもしれない。
殴り疲れた大人たちが離れていくタイミングを見計らって食堂へ移動を開始する。
この隠れ家は山中にあり、かなり大きな集落となっている。
周囲を崖に囲まれたこの隠れ家は以外にもしっかり設計された造りになっており、まず5つの区画に分けられる。
中心にあるのはそのまんま中央区。ここは山賊の主力、親玉や主力たちが暮らす場所で、貴族の屋敷ほどの大きさの家が建っている。その周囲には小さな家が点々と存在していて、中には店を営んでいる者もいた。
北には炭鉱区があり、数百年は使えると言われている鉱脈が大量に存在する区画となっている。製鉄所や鍛冶屋があり、山賊の使う武器や防具はここで生産させている。
東には隠れ家唯一の入り口があり、要塞となっている。木で作られた要塞だが魔法で強化されているので見た目以上の強度を誇り火にも強い。要塞の先には8つの門があり、開いた先には山中にある隠し道に繋がる洞窟があった。その洞窟から山賊たちは出入りしているのだ。
南には女性たちの住む娼館区がある。非戦闘員や奴隷の女性は全てここに収容され、娼婦を始め食堂や服飾を行っている。大人たち曰く調教とやらもここで行っているらしい。
そして西に子供たちが住む洞窟があるここは訓練区となっており、山賊の訓練や、将来戦力となる子供の訓練としつけが行われる。
元々は迫害されたある魔法使いの一派の隠れ家だったようで、総人口約5000人ほどと相まって隠れ家というより小さな街のような場所になっている。
そんな山賊におよそ似つかわしくない街の中、俺たちは訓練の前に食堂がある西南方面──娼館区との間に向かっていた。
『残り時間は43799時間です』