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異世界は1日1時間までです。  作者: Glanzio
チュートリアル
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ヴィシュターブ【職業:カースドラゴン】 1日1善、ドラゴンは今日も空を飛ぶ

 なんか岩陰でこそこそしてる暗殺者みたいな奴がいたから雷を浴びせて強精してやった。

 むしゃくしゃしてやった、後悔はしていない。奴の精力は今日から7日間途切れないだろう。

 

 我輩はドラゴンである名前はまだない。

 ────いや、ごめん嘘ついた。オレはヴィシュターブ。カースドラゴンだ。ついでに転生者。


 こちらの世界で1000年ほど前のことになる。

 気づいたら女神さんが目の前にいて、転生の際の注意事項5つとユニークスキルを1つ与えられた。

 んで目覚めるとドラゴンになってたわけだ。

 

 ではなくになったのは運が良かった。

 前者では下手するとちょっと強いトカゲ程度の強さしかないが、後者であれば最低ランクの種族でも強さでは上位に入る。

 無論オレは後者。龍種の中でもさらに希少な邪龍種。カースドラゴンだ。


 おっと傷ついた女性冒険者?発見。

 どうやら崖から落ちたらしい。

 全身を強く打ったための内出血が多数と、頭部裂傷。それに両足の複雑骨折ってとこかな。


「うっ……ド、ドラゴン!?」


 問答無用のドラゴンブレス。相手は回復する!


「こんな……ところで…………あれ? 傷が……治ってる……?」


 カースドラゴン──邪龍と呼ばれる呪いの龍ではあるのだが、オレの呪いは全てユニークスキル【反転リフレクション】によって変質している。

 全てを貫く雷は、直撃した者にある種強烈な電気マッサージを与え活発化させるものになった。

 

 万象を焼きつくす炎のブレスは、浴びた者の傷を全て癒やし病魔を焼きつくす癒しのブレスへ。


 万物を切り裂き叩き割る禍々しい爪と尻尾は、周囲や自分が悪と断定したものしか攻撃できなくなった。


 回復特化のドラゴンってただの的じゃね? とか思っていたが、ユニークスキルの効果でオレに対する攻撃は全て相手に跳ね返る。ぶっちゃけ無敵だ。名前負けしてるとは思うけど、転生前はネトゲでヒーラーばっかりやってたオレからすると結構気に入ってる人生……いや龍生だ。ビバ異世界無双。


『こんなとこまでよく入ってこれたなアンタ』


 龍種は人型に变化しないと喋れない。これは念話というやつだ。

 

「しゃ、しゃべっ!? もしや高名な聖龍様でしょうか……? 傷を治していただきありがとうございます!!」


 うーん真反対の邪龍なんです、すいません。


『あーまあそんなもんだ。で、なんでこんな危ない場所の奥地にいるんだ?』


「娘が病気で……賢者病の治療に使える薬草が奥地にあると聞いて……ここに……」


 賢者病とは、生まれながらにして肉体にそぐわない強大な魔力とMPを持っている子供が突如発症する病気で、死亡率は99%。

 発症した子供はその後約2~3週間で高濃度の魔力によって肉体の端から壊死していく。


 あるいは魔力をコントロールし強大な力を持つ魔法使いになるか。

 この病気を克服した者は皆、歴史上に名を残す大賢者となっている。それ故に『賢者病』。

 無論そんなことは持って生まれた才能なくしては不可能に近い。


『賢者病に効く薬草が絶界領域にあるなんて初耳だな』


 ここは絶界領域。10年程前に突如現れた新大陸だ。

 広大な大地に降り積もる雪。

 白銀の世界にはいつの時代の物か──いや、どこの世界の物かわからない朽ちた遺跡が点在している。


 生息しているのは未知のモンスターと他大陸から流れてきた犬人族コボルト、リザードマン、ダークエルフといった亜人種。

 弱いモンスターの多い外縁部には人の集落もまばらにある。彼女はその1箇所から来たようだ。

 

 未だ未開の地が多いことから、未知のお宝を求めて冒険者が来たり、新たなダンジョンが見つかることもある。最近ではどこかの国の騎士団が開拓に来てるらしく、南の大陸に近い外縁部の一角にちょっとした要塞が作られていたな。

 当然ありもしない噂が出回ることも少なくなく、5年ほどこの地に住んでいるオレでも賢者病に効く薬草なんて見たことがない。


『そもそもこの大地に草花は咲かない。あったとしても精々リザードマンが植えた集落の旗木か、誰かが捨てていった流木ぐらいだ』


 オレの言葉に涙を流し崩れ落ちる女性。残念ながら病に効く薬草の話しはデマだろう。

 心苦しいが下手に希望を持ってこの先に進んでもモンスターや亜人に襲われて死ぬだけだ。


「そんな……やっとここまで……来たのに……」

 

 と、ここでおかしな点に気付く。

 今いる場所は相当な奥地だ。

 未だ発見されていない未知のモンスターが現れる可能性のある、人類にとってはほぼ未開の地と言っていい。

 多少良い武具は装備しているようだが、1人で入って来られるような場所ではない。


『アンタ1人でここまでやってきたのか?』


「……はい」


 ありえない。

 ここに来るまでには個人で相手ができるような強さではないモンスターが大量に存在し、人に迫害され、敵対している亜人種の集落がいくつもあったはずだ。

 そんな中を軽装の女性がたった1人で……崖に落ちるまで無傷でやってこれるなんてありえないことだ。


『……いや、不可能じゃないな。アンタ勇者か?』


 この世界に存在する一騎当千の存在。勇者であればそれは可能だ。

 彼らは苦難であればあるほど才能が昇華していくこの世界最強の人類。いや、エリフとかドワーフもいたか?

 いや、とにかく、彼女が勇者であるならこの場所にたどり着けたのにも納得がいく。


「はい、私はかつて勇者と呼ばれた者の1人……今はこの地の東の果て。名も無き村に住むただの女でございます聖龍様」


 いや、聖龍じゃないんだけどな。訂正してなかったから仕方ないか。


『なら納得だ。たった1人でここまで来れるとは流石勇者と言うべきか』


「いえ、毒にやられ崖から落ち死にかけた、娘すら救えないただの出来損ないです……」

 

 ものすっごいネガティブ入ってる……。オレまで気落ちしそうな空気だ。

 が、オレはこの空気すら逆転させる! 【反転リフレクション】だけに!


『その娘の所までオレを連れて行け。治してやる』


 その言葉に沈んでいた女性が、首がもげるんじゃないかと思うほどの速度で顔を上げ驚愕の表情でオレを見る。


「な、治せるのですか!?」


『オレの力は癒しの力。壊死していくなら治し続ければいい。その間に魔力のコントロール方法も教えてやる』


 東の果てなら飛んで行けば1日ほどで着く距離だ。

 治療方法についても多分さっき言った方法でいけるはず。というかこれしかない。

 通常この方法を取るとコントロールできるようになる前に子供は死んでしまうのだが、オレの力を使い続ければコントロールできるようになるまで生きることが可能だ。


「あ……ああ!! ありがとうございます! ありがとうございます聖龍様!!」


 涙を流しながら頭を下げる女性をなだめ、背に乗せ飛び立つ。


『デイリークエスト:1日1善開始』


 転生してしばらく癒しまくって気づいたのだが、どうやらデイリークエストやウィークリークエストというものが設定されてるようで、今のところ条件がわかっているのはこのデイリークエスト:1日1善だけだ。

 まあ暇を見て色々試そうとは思っているが、正直面倒なのでやっていない……1番の理由はこのクエストの報酬である酒がうまいからなんだけどな。


 【収納アイテムストレージ】というスキルを使用して脳内にイメージされたメニューを見て酒を確認する。


『【龍酒】光炎龍の吐息』


 うむ、しっかりとストックされている。この酒が超美味いんだよ。

 1000年間毎日デイリークエストをこなし、ちょくちょく飲みながらも貯めていった結果約200トン分の龍酒がインベントリにある。

 ドラゴンの状態で飲むとあっという間になくなってしまうためあちらに戻ってから(・・・・・・・・・)飲むようにしているので、無くなるどころかどんどん増えていくのだ。


 彼女の娘を治したら眠らなければならない。そろそろ周期しゅうきの終わりだ。

 ああ、起きたらまた新しい職場でのデスマーチが始まる……そんな前世のことを考えながら、オレは飛び続ける。


『そういえばまだ名乗ってなかったな。オレはヴィシュターブと言う』


「ヴィシュターブ様……私はシャイカ・ソル・エントイマ。元ではありますが【閃律の勇者】の名に誓い、この御恩は一生忘れません」


『まだ早い。その言葉は娘さんが治ってから頼むよ』


「あ……そうですね……」


 早ってしまった自分が恥ずかしいのか、ちょっと苦笑いをしてうつむいてしまうシャイカ。

 ようやく見せてくれた笑顔にオレも笑いながら、白銀の大地の上を飛んでいった。


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