毒島 健太【職業:暴走族】 転生初日
良い異世界ライフをお楽しみ下さい──その言葉を最後に俺の意識は暗闇に落ちていく。
何をしていたんだっけか……そうだ、族同士の抗争があって、宗治の野郎を庇って……目を覚ますと目の前に羽根の生えた銀髪巨乳の姐ちゃんがいて──何かを、説明された。
異世界がどうとか転生がどうとか言ってたな。これはあれか、俺は仲間を庇って死んで、最近流行りのラノベみたいに異世界に転生っていうパターンか。
ヒロ辺りが聞くと興奮しそうな内容だ。この手のラノベは大体アイツに借りていたからな。
そういえばいくつか返し忘れていたような気がする。まあ遺品として返ってくれるよう願おう。あっちは嫌がるだろうがな。
毒島健太17歳──短い人生だった。俺達の作り上げた覇李飢怒紋朱咫亜の奴らともお別れか……喧嘩喧嘩喧嘩の人生だったが、悪くなかった。
心残りはある。仲間たちだ。まあ単純な奴らだからすぐに立ち直って覇李飢怒紋朱咫亜を日本一の暴走族にしてくれるだろう。
ん? 暗闇が晴れてきた。中々騒がしい音が聞こえてくる。香りも感じるようになってきたが……血なまぐさい。一瞬光が強まって目を閉じる。しばらく目を閉じて黙っていると、突然尻の辺りを叩かれて思わず「おぎゃあ」と叫んでしまった。
「こいつはどっちだ?」
「男ですぜお頭。母親の方はくたばっちまいやした」
「ふん、貴族の女ってのはどいつもこいつも貧弱な野郎だ」
「まったくその通りでさ、へっへっへっ」
いかにも小物といった男の声が聞こえて目を開けると、まず目に入ったのはなんとも言えない表情をして、刻まれた皺をさらに深くして横に倒れている半裸の女性──恐らく俺の母親──を見ている老婆だった。その姿を見て無性に悲しくなってきた俺は泣く。甲高い声を薄暗い洞窟の中に響かせた。
「うるせえぞ!! さっさと黙らせろババア!」
小物男が叫ぶと、老婆が睨み返す。
それに怯んだ小物男は、ツバを吐いてその場を去っていった。
「おーよしよし……赤子なんだから泣くのは当たり前さね。そんなことよりこの子に名前を付けておやりよバルドデアス。アンタは一応父親なんだ」
老婆の腕の中で揺られ、泣きながらも周囲の話はなんとなく頭の中に入ってくる。俺は赤子に転生して、ここは洞窟で、父親の名はバルドデアスで、母親は死んだ。
「ふん、勝手にできたガキだ。テメエが適当に付けとけババア」
「なんて親だい。この馬鹿者が」
呆れたように老婆が言うと、長いヒゲに傷だらけの顔をしたバルドデアス──親父は俺と老婆を睨みつけ、下っ端を連れて洞窟を出て行った。残ったのは俺と老婆と、お産の時に付いたのか血で汚れた布1枚に包まれた女性2名だけだ。
「あの男は必ず地獄に落ちるよ。あの子の無念もアタシたちの恨みも必ず……必ずね」
険しい顔をして男たちが去っていった出口を睨むと、腕の中の俺に向き直り優しい表情を見せる。
なんか安心してきたのか眠たくなってきた……。
「さて、アンタに名前を付けてあげないとねえ。そうさね……アンタの名前はケイラス。母親の苗字と合わせて、ケイラス・コルハートだ」
毒島健太改めケイラス・コルハート。それが俺の異世界での名前らしい。その後の言葉を聞くことなく、俺の意識は落ちていった。