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赤毛姫よ、逃亡せよ!  作者: バール
お城時代
9/12

赤毛姫vsイケメン眼鏡②



『赤毛姫の寵愛』に登場人物の一人、攻略対象ジョイディア・バーナー・フェリス。主人公の教育係兼お兄さん、そしてヤンデレ担当。彼は教師の役割のように優秀な魔法使いでありそれを鼻にかけない穏やかな人柄。その彼が何故ヤンデレ担当かと言うと彼が長年王族の教育、つまり私達の学び舎で働いていた事に起因する。

突然だがこのフェリス国は赤毛を生み出すために国王は連日側室の元に通う種馬と化している。特別配合の薬のおかげてそれは百発百中の威力があり王子・王女は専用学校が作られる程爆発的に増えた。王族とそれに連なる貴族との婚姻によって魔力の強い子供が多く存在する事になったのだ。しかし、それは利点ばかりじゃない。要は子供が多くできすぎた事による後継者争いの激化だ。国王としては少しでも血の濃い王族から輩出した正妃との子に継がせたいがそれにも横槍が入る事になる。そのため国王は外道的な考えに走った。


成長する前に間引けば良い。


後継者争いになりそうな王子達は国境へ送りそこの警備に当たらせるのだ。国境に当たる辺境は常に他国からの攻撃、魔物の襲来があり日常的に戦争状態にある。王都とは比べものにならない程に死亡率も高いのだ。いくら魔力の多い王族であろうとも経験の少ないお坊ちゃんである王子達では3年ともたない。つまり正妃との子以外は全員死地に送り間引くという政策をしているのだ。これに心が壊れてしまった人がいる。

それがジョイ先生だ。

ジョイ先生は私達に教えているように王家の専用学校で教師をしている。元々人の世話を焼くことが好きだった彼は生徒達を愛しみながら指導していた。だがそんな彼の生徒達の未来は辺境での死だ。どんなに手塩にかけて育てた生徒も皆死んでいく。せめて遺体だけでもと取り寄せようにも戦争によってその死体は破損していたり下手すると魔物に食い荒らされて歯しか残らない。こんなことやめて欲しいと願えども王の政策には歯迎えない先生は絶望の毎日を送っていた。その時に主人公への教育依頼が来る。初めての死なない生徒、穏やかに過ぎていく時間、母親が亡く家柄的にも誰にも頼らない主人公からの信頼。それが彼を癒していくと共にその時間を守るためなら何がなんでもしてやる。例え主人公を監禁してでも…!!というのが先生のルートだ。


めっちゃ重い。

他の攻略対象と比べてめちゃくちゃ話が重い。しかも辺境で死んだ王子のスチルが何故か存在しこのゲームは何を目指しているんだ恋愛をさせてくれとネットで書き込まれた程だ。重いストーリーではあるがこの設定からも彼が生徒想いの優しい人柄であるという事は、わかるだろう。なので本心から嫌なのだが彼の優しさと『死』を盾に彼を説得する。


「僕、赤毛だって知られたら殺されちゃうんです」

「……え」


ジョイ先生は青ざめるが私は続ける。


「僕の母の実家であるウェイク家は子爵家です。それは先生もご存知ですよね」 

「…えぇ、それは知っています。何故なら…」

「一代前の当主が当時の国王の隠し子だからですよね」

「………」


我がウェイク家の二代前の当主は当時他に男児がいなかったため女性が就いていた。その女当主を気に入った今の国王の祖父が密かに通い産まれたのが前当主だ。つまり母の父親となる。ウェイク家には他の子爵家とは違いかなり濃い王家の血が入っていた。しかもその当時の国王は赤毛の先祖返りだ。私が先祖返りになったのもその国王からの遺伝である可能性が高い。


「だから僕の髪も赤くなった。それに母も赤毛ではありませんでしたが、他の貴族と比べて魔力も高かった。僕のこの髪を隠す魔法を教えたのも母です。母はかなり優秀な魔法使いでしたから…。だから殺されたんです」

「!?それは、どういうことですか」

「母はずっと健康だったのに突然体調を崩しました。どんどん衰弱していって最後には寝たきりに…。母の周りには禍々しい赤い光がありました」

「…呪い……」


ジョイ先生は呆然と呟く。

私は死の床にあった母を思い出す。心臓が冷たくなったのに涙はちっとも出なかった。そんな自分が嫌だった。


「今ならわかります。あんな真っ赤な魔力、王族の血を引く光だ。母、いやウェイク家が王の隠し子である家系である事を知っている高位貴族に赤毛の子を生むことを危惧されて呪われたんです。侍医に頼んでもその貴族の息がかかっていたからか取り合っても貰えませんでした。最後は世話する侍女も来ない始末で息を引き取ってからも放置されました。私は母が死んだことがわからずに眠っているのだと思って起きるのをずっと待っていました。ずっとずっと、母から異臭がし始めても、虫が止まっても、腐ってもずっとずっとずっとずっと………」

「クリス様!もう良いです!」


ジョイ先生は私が淡々と話し続けるのを抱きしめて止める。彼は『お辛かったですね…』と涙を流しながら私に寄り添う。私の体験を自分のことのように悲しむ彼はやっぱり優しい人なんだろう。全く、自分がとことん嫌になる。


「だから僕は赤毛である事がバレちゃいけないんです。バレたらきっとその貴族に殺されます。母の時とは違い一人ぼっちで…。僕を気にかけてくれる人はもう誰もいないから…。

だから、

ねぇ…先生…」


私はシクシクと泣き続ける先生の顔を掴んで上に向ける。顔を上げた先生の緑の瞳は涙だけではなく澄んでいた。私も同じ色をしているのだろうか。

そして私は運命を変える一言を発す。



「僕を助けて」

『私を助けて』


それは奇しくも『赤毛姫の寵愛』で主人公がジョイ先生に言った台詞と同じだった。



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