赤毛姫vsイケメン眼鏡
目の前の鏡にはイケメン眼鏡に抱き抱えられた赤毛の子供がいた。
いやいやいやいや!!!???落ち着いて情景描写してる場合じゃないよ!!??私が髪にかけた魔法解けちゃってるじゃん!!これ、ジョイ先生がやったんだよね…!!??
「は、はわわわわ…」
「…やはりその慌てよう、貴方が意図的にやった事なのですね…」
「あうぇ…」
ジョイ先生は色気たっぷりに目を伏せるので私は咄嗟に言い訳することができない。黙り込んだ私にジョイ先生は語りかける。
「私が無理に解かなければならない程の魔力、そしてこの赤毛…。貴方は完璧に王家の始祖、赤髪のフェリス神の先祖返りです。まさか子爵位の家からお生まれになるとは思いもよりませんでしたが…これは王家にご報告しなければなりませんね…」
「!?そ、それはダメです!!!」
ジョイ先生が冷静に分析を始めるので呆然としていたがヤバいワードが聞こえたため慌てて止める。
王家に報告なんてヤバいよ!!そんなことされたらゲーム通りに孕ませ袋だよ人権侵害だよ!!イケメンと恋ができるかもしれないけど残りの人生監視三昧だよ!!!そんなの嫌だ!!!
「報告だけはしないでください!!お願いします!!!」
私はジョイ先生に必死にしがみつき懇願する。その鬼気迫る様子に先生は困惑の表情を浮かべる。
「で、ですがそれは貴方のためなんですよ…?先祖返りだとわかれば正妃の御子と同等の扱いになりますし…」
「でもそれって正妃様に明らかに睨まれますよね…!?しかも第一王子は僕と同じ先祖返りだ!!後継者争いになりますよ!!」
「それは…そうかもしれないですが…」
ジョイ先生への反論のために少しゲームの知識を使わせて貰った。『赤毛姫の寵愛』には攻略対象の他にも多数のイケメンが登場する。その筆頭が赤毛姫の兄、正妃から生まれた第一王子だ。第一王子は優秀で優しく、しかも主人公以外で唯一の先祖返りであり姫の苦悩を理解し寄り添う。ぶっちゃけ攻略対象よりも性格が良いため何故か人気投票で一位を取った逸話のあるキャラだ。ファンからはその人気の高さから『攻略できないバグ』『どうしてお前を寵愛できない』『倫理の壁を越えて行け』『奈良時代なら結婚できた』などと赤文字を付けられていた。
その第一王子と自分が赤髪がバレた場合に起こる争いを理由にジョイ先生を説得しようとしているのだが……。
「…それでもここにいるよりはよっぽど良い」
先生は頑なに頷こうとしない。
「ジョイ先生…」
「…私は、貴方達に死んで欲しくないんです」
先生は私を強く見つめる。
…わかっている。先生は何も王家への忠誠心で私のことを報告しようとしている訳ではない。そこにあるのは生徒に生き残って欲しいという純粋な想いだ。
だからこれからやる行動は本当にしたくない。それは彼の優しさを利用する行為だ。
でも
「…でもね、ジョイ先生」
「クリス様?」
私が顔を伏せたのを怪訝そうな声をする先生。
ごめんね、先生。
「僕、赤毛だって知られたら殺されちゃうんです」
その言葉を聞いた瞬間、ジョイ先生の顔は恐怖で引きつった。