赤毛姫の授業風景②
基本的にこの国の王族は赤毛を持っている事が重要視されるが王族であるか、王族の血を持たない貴族であるかも外見的特徴で見分ける事ができる。
"緑の目だ"
神の血は薄まり今では赤毛になるのは最も血の濃い現国王と正妃との間に産まれた者達だけだが緑の目だけは他の王族にも受け継がれている。この子爵家の子達だってみんな緑の目だし国王の従兄弟であるジョイ先生や私も持っている。だが、このシュイトン家のカマルが緑の目を持っているのはおかしい。彼は子爵家の息子で身分の高い騎士団長の息子、サージェスに嫉妬している設定だった筈だ。現にゲームでは目も青かった。その子が何故王族向けの子爵クラスにいるのだろうか…。と疑問の目で見ていたからいけなかったのか。
「(み・て・ん・じゃ・ね・え・よ・ブ・ス)」
隠蔽ばっちり赤毛姫だった私が女である事がバレてしまったかもしれないのである!!!
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突然授業も聞かずに真っ青な顔でガタガタと震え出した私を不審に思ったのかワーナーは肩に手を置いてきた。
「おいおいどうしたどうした」
「な、なんでもないでしゅ…」
「いや絶対なんかあっただろ…とりあえず落ち着けよ。今は大事な王国史だぞ。子爵クラスとは言え一応王族なんだから聞いとかねぇと」
「そ、そだね」
ワーナーに諌められなんとか私も落ち着こうと思えるようになった。
そうだ。まだバレたという訳でもないし万が一バレていたとしてもこっちは格下の子爵家の者、脅そうにも絞れるものもない筈だ。今度はカマルにバレないようにそっと視線を向けるが私の事は全く気にも止めずにつまらなそうに授業を聞いている。やはり気にしなくとも良いかもしれない。
気を取り直した私はジョイ先生の王国史を聞く事にした。
「そもそも、このフェリス王国は千年程前に赤髪の神"フェリス"によって誕生されたと言われます。フェリス神は同じ赤髪の兄弟神達とその強大な魔力を使い大陸、現在のユーツァー大陸全土を配下に置いたとされます。そして国を治めた後、フェリス神は妹神を妻に迎え現在のフェリス王家が誕生したと言う事です」
ジョイ先生はわかりやすく建国史を説明してくれた。まぁよくある神話みたいなもんだよね。それにしても何で神様って兄妹で結婚したがるんだろ。
「王国創立時に功績を挙げた家はそれぞれに爵位を与えられました。爵位に沿ってのリーダーとなるようにしたと考えられています」
カマルはふふんと得意げな顔をしている。
「我が大陸は神と関連していた大陸である由縁で他の大陸とは比べようもない程に幻獣の存在が確認されています。フェリス神の供は不死鳥であるフェニックスであったとされています。皆さんも10歳の折に幻獣召喚の儀がありますので自らのパートナーを楽しみにしていてくださいね」
ジョイ先生はそう笑顔で締めくくった。
幻獣かぁ…そういえば赤毛姫の寵愛に召喚師っていう幻獣使いがいた。確か…悪役…?思いの外登場人物が多いし一回まとめた方が良いかもしれない。
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「ふぃー」
初めての授業とカマルのせいで授業終了とともに力が抜けた。そんな私を見たワーナーは笑う。
「おいおい。次は魔法の授業だぞ。そんなんで大丈夫かよ」
「ちかれた」
「これ飲んで元気だせ」
そう言ってワーナーはよく冷えたレモン水をくれた。
「おいちぃ」
「だろ?俺のお手製」
「これ魔法で冷やしてんの?」
「おう、砂漠の民だからな?実は熱魔法より涼をとる魔法の方が得意なのだ」
「なるほど」
魔法を覚えておくと生活が便利になりそう。いずれ私もこの王城から抜け出すし覚えておいて損はないな…。
「クリス様」
「え」
そんな邪なことを考えていたらジョイ先生に声を掛けられてしまった。
「お聞きしたい事があります。少しこちらへ」
「あ、はい」
なんかやらかしたかな?私はジョイ先生に連れられ廊下に出た。
ジョイ先生は心配そうにその切れ長の目を細めて私に聞いた。
「授業中、体調が悪いように見受けられました。お加減が悪いのでしたらお休みして頂いても良いのですよ…?」
「あー」
カマルの件で私が動揺していたのをしっかりと見られていたようだ。しかし理由を話そうにも私がビビった理由が『実はボキュ女の子なんでしゅ!バレちゃったかもしれなくてビビデバビデブー!』なんて言った暁には殴り殺されそうだ。ここは初めての授業に武者震いしたのだと苦しい言い訳をしておいた。
「そうですか…。体調が悪くないようなら良かったのですが…。他の王子達に虐められた、という訳でもないですよね?」
「はい!まさか…!!(それに近いけど…)」
「………クリス様」
ジョイ先生は私の肩に手を置いた。
「私達は今日会ったばかりです。すぐに信用できるようにもなれないと思います。しかし、私は貴方達が心から幸せになれる道に向かって欲しいと思っています。……血の繋がった家族なのですから」
「!?」
「もし何かお困りごとがありましたら私にすぐ相談してくださいね」
「………はい。先生」
ジョイ先生はその"先生"という言葉に少しの笑顔を向けると去っていった。瞳に悲しげな光を称えて…。
ジョイ先生は良い人だ。こんな価値のない子爵家の王子達も大切に養育している。彼の言葉は本当で私達の事を家族だと思ってくれる。優しい人だ。
だからこそ
だからこそ彼は赤毛姫の寵愛で最恐のヤンデレキャラになったのだ。
私はため息をついて教室に戻ろうとするとカマルが不機嫌そうな顔をして私の前に立ち塞がっていた。
「今日初めて来たクリス・ウェイクだっけ?」
「はい。そうです」
「ふーん」
カマルはジロジロと私の顔と身体を観察した。
「お前さぁ…ジョイ様に優しくしてもらったからって調子に乗らないでよ?お前が初めてだから気にかけてもらってるだけだから」
「あ、はい」
「そーれーとーちょっと女の子っぽくいからって自分が可愛いとか勘違いしないでよね?どブスちゃん?一番可愛いのは僕だから〜」
「あ、はい」
きゅるんっとその大きな緑の目をきゅるきゅるしながら捨て台詞を吐きカマルは言ってしまった。
なんだ…女とバレてねぇじゃねえか!心配して損したぜ!!!だけどカマルの奴調子に乗りやがって…!!孕ませるぞメスガキが……!!!
あへあへメスガキだいしゅき〜!!