赤毛姫、剣を習う
予想外のSANチェックにより私の精神は疲弊したが無事男装ができた。鏡を見てもそこには黒髪に碧眼の王子様しかいない。
「良いわねぇ…。アンタ、若いから肌綺麗で」
ハァ……。
うっとりした眼差しでマリアさんは言った。
キラリとマリアさんの油ギッシュな肌が光る。
……ちょっと精神衛生上キツイところがあるのであまり目に入れたくないんですが…。
「てかアンタ王子の癖して授業出なくて良いの?そろそろ始める年頃でしょ?」
「授業?」
「やだ!アンタ知らないの!?」
信じらんなーいという顔をするマリアさん。
「王様が子供産みすぎて一人一人に家庭教師なんて付けてらんないから簡易学校作ったの知らなかったの〜!!」
「マジで!?」
どんだけ種蒔いたんだんだクソジジイ!逆にすごいな!!
「どんな事やるの?」
「アタシが知るわけないでしょ。まぁアンタ王子だし剣とか習っとくんじゃないの?」
ほう…剣か…。確かにもしこの赤毛がバレてしまえばこの城にいられなくなるだろうしその時は外に出ても身を守れる力があった方が良いかも。この世界の知識もゲームのしかないし。
「わた……僕!授業出てみたい!どうやったら出れる?」
「あら?出るの?なら今から丁度始まるし案内してやるわよ」
よっこらせっとと言いマリアさんはそのヘビー級の腰を上げた。
……思い出した。確か王族の親戚や教師も攻略対象者だった。もしかしたら会うかもしれない。その時は……。
髪の魔法が解けないように髪に魔力を集中させてから私はドシドシ歩くマリアさんに付いていった。
「ここが王族用の簡易学校よー」
そうマリアさんに案内された建物は赤レンガでできた可愛らしいデザインだった。東京駅みたいな。看板を見てみると"初等部"と書かれていたのでクソジジイは予想以上に種を蒔いたみたいだ。
「おや?マリアさん。こちらに来るとは珍しい」
建物に入ると眼鏡をかけた水色の長髪の男性が声をかけてきた。
「あら、ジョイ。今日も顔が良いわねぇ」
「ご冗談を…。貴方の美しさには敵いません」
こいつ目でも腐ってんのか?マリアさんはどこからどう見てもメタボハゲ親父がメイドコスをしているだけの存在だが他の人には絶世の美女に誤認するんだろうか?胡散臭い私の視線に気づいたのか水色長髪眼鏡、ジョイ?はこちらに視線を向けた。
「ところでその子は?見たところ王族だと思われますが…?」
ジョイは私の目を覗きこみながら言った。
「そうなのよぉ。今まで側妃が面倒みてたんだけど先日にね。その、色々あって…。で、最近になって私が面倒みることになって性別と年齢がわかってねぇ。学校に通わせるかってなったのよ」
「なるほど…家格は?」
「子爵よ。田舎貴族のウェイク家」
「ありがとうございます。では王子は私が連れていきますね」
「あらありがと。…じゃあ私は行くけどイジメられないようにね」
マリアさんはそう言い残すと仕事場に戻っていった。本当に仕事をするんだろうか?また隣の奴と激しい運動をしに行くのではないだろうか?
「ええっと…。こんにちは、小さな王子様。貴方のお名前を教えてくれませんか?」
ジョイさんは私の側に屈むと緑色の目を穏やかに細めながら聞いてきた。切れ長の目に眼鏡だったから冷たい印象を受けたけど子供好きの優しい人みたいだ。それと、顔というか、声というか…既視感がある。
「クリス・ウェイク・フェリスです。齢は五つです。これからよろしくお願いします。」
「おや、これは賢い王子様だ。素晴らしいご挨拶ありがとうございます。私はジョイディア・バーナー・フェリス。王族の教育係を務めさせていただいております。クリス様、これから貴方の才能がどのように伸びていくか楽しみにさせていただきますね」
「あ、ありがとうございます」
おいおいおい、この名前知ってんぞ。すげえ知ってんぞおぉお。
「おや?お顔が引きつっていますがどうなさいました?」
「き、緊張して」
「大丈夫ですよ。みんな優しい子達ばかりですから」
「あは、あははははは」
この人、攻略対象者だ。
では教室まで案内しますね。と柔らかい口調で語るこのジョイさん。本名はジョイディア・バーナー・フェリス。フェリスというファミリーネームと緑の目から察するように王族。文学博士や魔法学の祖などを多く輩出したバーナー伯爵家の娘を母に持つ。今の国王の従兄弟だっただろうか。ゲーム上では主人公の教育係兼年上のお兄さんの役割。主人公を育てていくうちにその健気な性格と美しさに独占欲を増していくっていうのが醍醐味だった。ヤンデレみがあって私は好きだった。
『そんなこと、私は教えた覚えはありませんよ』
『美しく成長してくれましたね』
『他の誰にも嫁がせたりしない…』
彼のキャッチコピーだ。ドSヤンデレお兄さんか。良いじゃないか。そういうの好きだろ?まぁ冗談はさておき王子生活をしようとしたら何の因果か出会ってしまったという訳だ。私は男だと思われているから惚れられることはないだろうけど警戒はしておいた方が良いだろう。
「ここが子爵家の子の教室ですよ。総勢20名。お友達ができると良いですね」
クソ親父種まきすぎ。逆にすげえよ。