第8話 異世界の性事情! あとお風呂…(//艸//)
本当に長らくお待たせしました。じょとボク連載再開します。
お詫びに、という程でもないですか今回はお風呂回。
ムフフな成分も増しマシでお送りします。
それではどうぞ!
アイセさんのパーティ『ヴェイグランツ』に加入したその日。
宿で夕食を取りながら、皆で軽く団らんをしていた。
「レベル1なのに野良のゴブリンと戦ったんだ!?」
驚きの声を上げたのは犬亜人のココノさん。ヒーラーだ。
ベージュ色のケープマント、袖口が大きく開いた茶色のブラウス。
チャイナドレスのように深いスリットが入った桜色のロングスカート。
暖色系の色、ゆったり目のデザインでコーディネートされた衣装は、穏やかな性格をしているココノさんに良く似合っていた。
「そうなんですよ! しかも右も左も分からない状態でですよ!
ゴブリンとはもう戦いたくありません!」
「けっ。ゴブリン相手にビビるとかとんだ雑魚サキュバスだなおい?」
野次を入れたのはアタッカーをやっているライラさん。
戦士職らしく赤色の鎧をかっちりと着込み、黒いマントを羽織っている。
頭に被ったテンガロンハットが特徴的で、その下から炎のような赤毛が覗いていた。
粗雑な性格らしく、初めて会った時もいきなり剣の鞘で頭を叩かれたんだよね。
「ライラ。ゴブリンは強くは無いが知恵は回る。
私が倒したリーダー格のゴブリンはユニークアビリティ持ちだった。
確か、十人同時に【インターセプト】したぞ?
例え自分よりも弱い相手であっても油断しない方がいい」
ライラさんを戒めたのは、黒いポニーテールが魅力のアイセさんだ。
ロングチュニック風の碧い半袖衣服。黒スパッツ。それにロングブーツ。
外出時にはこの上から白いコートと赤いマフラーを付けるだけ。
ライラさんと同じく戦士系のクラスらしいけど鎧は一切付けていない。
困っている人を見たら放って置けない、っていうタイプの人らしく、ボクがゴブリンに襲われている所を颯爽と駆け付けて助けてくれた。そしてそういう慈善活動はこれまでずっと行ってきたらしく、今ではAFCなんてものもある。
もうアイドルと変わらない程の人気者だった。
「ゴブリンの癖に生意気」
ポツリと呟いたのは褐色の肌をした白髪の少女、ネロちゃん。
とんがり耳から予想出来る通り、彼女はダークエルフだ。
黒い三角帽子。黒とグレーの前開き型のローブ。
ローブの下からは菫色のワンピースが覗いていた。
見た目から分かる通り、魔法職――それも攻撃に特化したタイプらしい。
性格は、ちょっと分かんない。少し気難しそう?
とまあ、そんな感じで、転生初日からボクは四人の仲間と出会う事が出来た。
大変な目にも遭ったけど、結果オーライかな?
しかしこの宿――アイセさんのせいで大騒ぎになるんじゃないかな?
って思ったんだけど、杞憂だったみたいだ。
人気のある店ではなかったらしく、宿代は高い割には料理はイマイチ。
更に言うとサービスも悪いで、お客さんがいない。
ココノさんが口止め料を払うと、貸し切り状態となってしまった。
まあお陰でパーティ5人でゆっくり出来た訳だけど。
「……ふむ。もうこんな時間か」
アイセさんがふと時計を見、全員がそれに習う。
宿一階の壁に掛けられた時計は11時を回っていた。
「うーん。そろそろお開きにする? ハルちゃんも疲れたんじゃない?」
「そう…ですね。少し疲れたかもしれません」
片思いのクラスメートに告白をするも、フラれた挙句眼前で別の男と結ばれ。
下校時にリア充爆発しろと叫んだら、流れ星が落ちてボクが爆発四散して。
女神様にチーレム転生をさせてもらったと思ったらサキュバスになってて。
混乱したまま可愛いゴブリンズとバトルをして、ひん剥かれて、キスまでされて。
でも、アイセさんと出会って。パーティ『ヴェイグランツ』の一員になれた。
まあAFC会員の人達からの必死に逃亡したり。
かと思ったら【オーバー・ディザイア】で脳内ピンクになったり。
これ、転生初日の出来事だよ? 流石に疲れるって。
「うっし。じゃあここまでにすっか! 風呂入って寝るぜ!」
お風呂か。いいかもしれない。一日中動き回ったから汗かいたし。
剥き出しの自分の脇をクンクン嗅ぐ。
――あれ? 臭くない。むしろ果実のような、いい匂いがする。
例えば――桃とジャスミンと、それにイチゴの甘酸っぱさを足したような。
汗の匂いもするけど殆ど気にならない。これってサキュバスだからかな?
「見せてもらおうか。新人の、ピンクサキュバスのオッパイとやらを」
「何言ってるのネロちゃん」
ダークロリエルフのネロちゃんが、渋いオッサンの声真似を披露した。
『アカン彗星』かな?
***
五人でぞろぞろと移動する。
廊下を歩くと進行方向に二つの暖簾が見えた。
その上には青い『♂』マークと赤い『♀』マークが描かれたパネル。
あーはいはい。男湯女湯ちゃんと分かれてる訳ね。
「覗かないでよね?」
半分本気と言った様子でココノさんは皆に釘をさすと『♀』の暖簾をくぐった。
ライラさんは肩を竦めると、アイセさんと一緒に『♂』の暖簾をくぐり――
――澄ました顔で女湯に向かおうとするネロちゃんの首根っこを摑まえる。
「お前はこっちだ。ココノを怒らせるとまーた頭にタンコブ作る事になんぞ」
「ぶーぶー」
ああ。ネロちゃん女湯行っちゃダメなんだ。
ココノさんのオッパイに触りまくって逆鱗に触れたんだろうなぁ。
「ん?」
そもそも。アイセさんもライラさんもネロちゃんも女の子――だよね?
でも当たり前みたいに男湯に入って行ったんだけど?
――そう言えば、この異世界に来てから『男性』を一度も見ていない。
その事と何か関係があるのかな?
うーむ、うーむと一人廊下に取り残されたボクは首を傾げる。
「まあ、考えても仕方ないか」
この世界に来てからおかしな事(エッチな事)ばかりだし。
もう大抵の事には驚かないぞ。なるようになれ、だ。
っていうかボク中身は男だからね!? 男湯に入って何が悪いの!?
ちょっとドキドキしながら男湯の暖簾をくぐる。
アイセさん、ライラさん、ネロちゃん(君?)が服を脱いでいる所だった。
ボクの気配を感じたのか三人同時にこちらに視線を向けて、固まる。
ボクも三人の胸と股間に視線を送って――
――あ!? なんだ、やっぱり皆女じゃん!?
全員、生えて無い事を確認(//艸//)。
いや、おっぱいは控え目だったけど。
確認が済むとマッハで視線を逸らす。
あれ? でもだったら何で、わざわざ男湯と女湯を分ける必要があるの?
多分だけど――この世界、女の人しか居ないよね?
それに何で三人共男湯に――
「なんたる!?」
「てめぇ、ピンク! 性懲りも無くアイセを狙いに来やがったか!?」
「ハァハァ。お嬢ちゃん。すけべ、しにきたんか?」
「えっ? ええっ!?」
な、何!? アイセさんもライラさんもネロちゃんまで!
まるで男湯に女が入ってきたようなリアクションなんだけど!?
「あのっ、ひょっとしてボクが男湯に入るの、おかしいですか?」
「はあっ!? 普通男湯に女が入るかよっ! やっぱりサキュバスだな!」
「えーっ!? でも皆さんもどう見たって女じゃないですか!?」
「はっ、馬鹿にしてんのか!? 俺達のどこが女だって言うんだよ!?」
どこがも何も無いわ! 生えてもないのに男とか馬鹿にしとるんかい!?
こちとら生えてたブツを無くしたんやぞオルルァアンッ!?
「ちょっとハルちゃん!?」
ギャーギャー騒いでいるとココノさんまで乱入。
「ココノさんっ!? 助け――い"っ!?」
ココノさん裸にバスタオル巻いただけだー!?
バスタオルで恥ずかしい部分は覆われている、けど。
どこか甘い女の子の体臭。柔らかそうな二の腕。剥き出しになったうなじ。
それにタオル越しに自己主張する、O P P A I !
と安産型のおっきな O S I R I !
控え目に言ってかなりエッチぃですよ!?
うわ。ココノさん着痩せするタイプだ。予想以上のエチチボディ!
控え目に見てもFカップくらいありまっせ!
「おまっ、ココノ! 何でお前までこっちに来るんだよ!?」
「ハルちゃんを助平達から助けに来たの! すぐに出ていくから!
――ほらっ、ハルちゃん、行こっ?」
「えっ!? あのっ? うわっ」
連行されるような形で男湯から連れ出され、勢いのまま女湯の暖簾をくぐった。
「ほら。もう大丈夫だよ? 怖く無かった?
ライラちゃんやネロちゃんに無理矢理男湯に連れて行かれたんだよね?」
「え!? 違います! ボクがその……間違った部屋に入っちゃったみたいで。
その、こういう所、分からないから…」
いや。分かるよ。トイレも銭湯も♂♀で分かれてるのは当然だし。
分からないのはこの世界での♂♀の区別の仕方なの!
ココノさんはタレ目をぱちくりとさせると。
「あっ! そっちかぁっ。なーんだぁ」
と言って屈託無く笑った。
「そっか。ハルちゃん記憶喪失だもんね。分からない事ばっかりだよね」
笑顔で話すココノさんにちょっとだけ罪悪感。
ごめんなさい、ココノさん。記憶喪失っていうのは嘘なんです。
まあ、分からない事ばっかり、っていうのは本当なんだけど。
「お風呂は、分かる?」
「は、はい。体を洗う所ですよね」
「そう。でも大体男と女で別々になってるから。女のハルちゃんが男湯に入っちゃダメだよ?」
「は、はい」
「それじゃ服を脱いで。ほら、そこに籠があるからそこに仕舞って」
「はい」
促がされるまま服を脱ごうとしてピタリと動きが止まってしまった。
……え。ちょっと待って。もしかしなくてもこの流れって。
ココノさんと一緒にお風呂に入る、って事だよね!?
しかも! 女・子・風・呂・に!!
やばい。なんて犯罪的なシチュエーションだ。
そりゃ、物心がついたかついて無いかくらいのガキンチョの時に、ねーちゃんズと一緒に風呂に入った記憶があるけど――この背徳感、そんなレベルじゃない。
意識した途端、顔がみるみる赤くなっていくのが自分でも分かる。
心臓が、バクバクと早鐘を打ち始めた。
「? ハルちゃん? どうしたの?」
覗き込もうとするように顔を近づけてくるココノさん――って近ぁい!?
やや童顔でタレ目のココノさんはカッコ可愛い系のアイセさんとは違い純粋に可愛い。
そんな人と一緒にお風呂とか! どどどっ、どないせーっちゅねん!
「えっ!? ええとっ…、そのっ、あのっ…何というか、恥ずかしくてっ」
「くすくすっ。ハルちゃん、顔真っ赤だもんね。あーもうっ、可ー愛いーなーっ♪」
「っ! っ!? !?」
だ、抱き着かれてる! っていうかオッパイ! オッパイに顔が埋まるぅ!
「あーん♪ 服の上からでも分かる程よいぷに感! ハルちゃんの抱き心地最高~♪」
「むー! むぅ~!」
「すんすんっ……ん~♪ 匂いもさいこ~♪ ずっとハグしてたいよぉ♪」
半裸の犬耳お姉さんにハグされながら髪の毛やうなじの匂い嗅がれているッ!
えっなーにこの嬉し恥ずかしシチュは!? 天国か!? でも息苦しいぃっ!
予想外過ぎる展開にボクが目を回していると、意外な所から助け船はやってきた。
ドンドンドン! 隣の脱衣所から壁を叩く音が響く。
『ココノてめぇ! 人の事を助平呼ばわりしといて乳繰り合ってんじゃねえ!』
ライラさんの声が壁越しに女子脱衣所に響いた。
「むぅ。折角良い所なのに」
口を尖らせて渋々にボクを解放するココノさん。
ああっ。新鮮な空気が美味しいです。
でもココノさんの汗ばんだ体臭も一緒に嗅いでしまい――
やばっ! ドキドキが止まらない…!
「でもいつまでもじゃれ合ってる訳にはいかないもんね。
ほら。ハルちゃんも早く服を脱いで♪」
「は、はい」
正直、お風呂に入る前からのぼせそうな気さえするけど。
ボクは観念して、服を脱ぎ始める。
ええと、この服はノースリーブワンピースって感じか。
胸元がV字状にばっくり空いている袖なしのワンピース。
そして露出する襟元や肩を平たい付け襟で覆い隠している。
胸元にはしっかり谷間が覗いていて、脇だって丸見え。
更にウェスト部分をリボンで絞っていたり、ややぴっちり目のサイズのせいで、体のラインがもろに強調されてる。
フレア状に開いたスカート部分も丈が短く、油断してたらパンチラ不可避。
サキュバスらしい、エッチぃ衣装だ。
うわ…。ようこんなん着とったなボク。完全にお水系の服やぞ。
いや、深く考えるのは止めよう。今は取り敢えずこれを脱がないと。
ええと、この服の構造なら――
肩の生地をずらして、腰のリボンを解いたら足から脱げるかな?
僕はワンピの肩の生地に指を掛けて外側にずらす。
ペロン、と上半身部分の布がずり落ち、露になったのは純白のブラジャー。
とそれに包まれた O P P A I !!
って、でかぁい!!? 今しがた堪能したココノさんのOPPAIと大して変わらないよ!?
えぇ……これ、ボクの自前なの…?
世の中の女子の皆様。ごめんなさい。元男なのにこんな立派な物を恵んでもらって。
すぐ隣でココノさんも「うおぉ…」と感嘆の声を漏らしているし。
う……まじまじと見られると恥ずかしい(///)
「ココノさん……その、あんまり見られると、恥ずかしいです……」
「そ、そうだよねっ。あんまり意識しても恥ずかしいだけだし、どんどん脱いじゃおう!」
「わ、分かりました!」
その後、ココノさんに助けてもらいながらも慣れない女子服と格闘。
ブラの着脱も教えてもらいながら、何とかSUPPONPONになる事が出来た。
うむ。これで着替えに手間取る事は無さそうだ。
今は裸にバスタオルを巻いて鏡台前に座り、ココノさんに髪を弄ってもらっている。
長い髪は入浴時にお団子やアップで纏めてしまって、湯船に浸からないようにするらしい。
髪が濡れると背中に張り付いて気持ち悪かったり。
そもそも抜けた毛が湯船に浮いてマナー的にアウトだったり。
色々理由があるようだった。
女の子ってだけでも大変なんだなあ、とか他人事のように思ってしまった。
「そう言えば、ハルちゃん。替えの服って持ってないの?」
「――あっ!?」
そう言えばボク、何も持ってないじゃん!
お風呂入った後、着替えどーするの。
「……着の身着のままです…」
「あちゃー。じゃあ、今日はもう仕方ないから今着ている服、また着てくれる?
替えの下着とか、明日買いにいこっか? 私、付添ってあげるから♪」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
新しい服! 装備! こんなスケベ衣装とはいち早くおさらばしてやんよ!
と意気込むボク。
「それじゃ、いい加減お風呂入ろっか♪」
そしてココノさんの楽しそうな声に一気に現実に引き戻される。
今から、ボク、女子風呂にハイリマス。
***
―――― カポーン ――――
そんな、お風呂場でお決まりの音を聞いた気がした。
「んん~♪ 気~持ちい~♪」
湯船の中で座りながらぐい~と伸びをココノさん。
おっきな胸を隠そうともしない。
まあ、お湯が乳白色、且つ大事な所は水面下なのでアウトなポイントは見えないけど。
ボク、ココノさんうぃず、女子風呂なう。
女の子になってしまった自分の体を観察してやるぜぐヘヘ。
とか。
マイサンの代わりにこの立派なおっぱいを可愛がってやるぜゲヘヘ。
とか。
考えないでもないけど。
今はそんな余裕は無いです(///)
こんな可愛い女の子(年上だろうけど)と二人で裸のお付き合いとか。
嬉しさよりも只々気恥ずかしいからっ。
「思ってたよりも立派なお風呂だね~♪
ご飯はイマイチだし、料金もかなり割高だったから微妙だなぁ~、
って思ってたけど。このお風呂があれば納得だね♪」
日本で足の運んだ銭湯なんかに比べれば話にならないくらい小さいけど。
石造りの湯船はダブルベッドくらいの広さで、女子二人が足を延ばしても余裕がある。
湯船の外には金属製の桶と蛇口やシャワーノズル(!?)らしきものがあった。
いや、現代のお風呂と遜色無いやん。
相変わらずファンタジー要素の少ない異世界だなー。
わー。シャンプーやボディソープらしきボトルまであるぞー。
現実の風呂と一緒じゃんかー。
他にも何かないかなーイロイロしらべちゃうぞぼくー。
「ハルちゃん?」
「ひゃいぃっ!?」
現実逃避していたボクをココノさんが呼び戻した。
「ななな何でしょうか!?」
「…何でそんなに遠いの?」
「と、遠い、ですか?」
確かにボクは、湯船の中でココノさんが陣取った場所とは正反対側にちょこんと座っている。
「遠いよ。こっちおいで」
ココノさんはぺちぺち、と浴槽の縁を左手で叩き、ボクを誘う。
「大丈夫大丈夫。怖く無いよ~♪」
今度はおいでおいでのジェスチャー。
いや、こんな可愛い年上の女子とお風呂、というだけでもいっぱいいっぱいだから!
でもそれだけじゃない。気のせいか、その――
ココノさんの瞳に、ハートマークが浮かんでいる気が……
「うふふふ…♪」
更にUの字口をしながら薄笑いまでしている!?
気のせいか息も荒いような……って、普通に怖いんやけどっ…!
正直遠慮したいところだった。
でも距離を置きすぎて気を悪くしてしまうかもしれない。
それに女になった手前、唯一の女性(?)であるココノさんとは仲良くなるべきだ。
ボクは借りてきた猫のように、恐る恐ると言った感じで湯船の中を進み――
ココノさんの間近にまで接近した瞬間、
彼女の目が、闇夜に光る野獣の眼光のようにギラリ、と輝いた!
「つっかまえたぁっ♪」
「ひゃあっ!?」
***
この世界の性事情は未だに理解に苦しむ所がある。
というのも。実はこの世界には生物学上――男という物が存在しない。
皆女だ。
しかもだ。ファンタジーに登場するエルフのように、若々しさを長く保てる。
お陰で見た目と年齢が全く合致しない。
現実世界の女性が聞けばさぞうらやむ事だろう。
いや、まあ、かく言う私がそうなのだが。
永遠の若さや美貌などとは無縁の性格だからなぁ。
兎も角、この世界には女しか――正確には若い女しか存在しない。
それが人であれモンスターであれ変わらない。
「ったく。ココノの奴、何の警戒もせずにピンクとイチャついてやがる」
ばしゃり、と飛沫を立てながら湯船に入ってきたのはライラだ。
無論、彼女も女だ。女、なのだが――
この世界では男、であるらしい。
私も初めて知った時は驚いたが――
どうやらこの世界、胸のサイズで性別が決まるらしい。
この世界の人間は12歳から15歳まで間で必ず肉体の第一次成長(胸の凹凸)を終え、女ならばそれはもうすくすくと育っていくが、逆に男なら殆ど成長せず、所謂『絶壁』や『ぺったんこ』となる。
後者である私やライラは男であり、前者であるハルやココノは女と区別される訳だ。
「わっぷ!?」
ライラが勢いよく湯船に浸かったせいで、近くに居たネロが水飛沫を被ってしまった。
「この脳筋っ…もっと静かに入れ…っ」
額に青筋を浮かべながら抗議するのはダークエルフの少女だ。
いや。彼女も、実は彼と言う方が正しい、らしい。
つまりネロもこの世界では男――らしい。
らしい、と言ったのは、それを確かめる手段が、ほぼ無いからだ。
ネロは11歳。そして性成長が始まるのは12歳から。
つまり、12歳以下の子どもの性別を判断する事がほぼ不可能となる。
外見から性別を判断出来ない為、ネロが男と申告したのを信じるしかない。
いや、実は胸の大きさ以外にも簡単に男女を判別する手段はあるのだが。
いかんせんその――デリケートな話になるので、気軽に実行出来ない。
兎も角、私から見れば誰も彼も女にしか見えないのだ。
全く、多少は慣れて来たとは言え、目のやり場に困るというものだ。
「そりゃ悪かったな、と!」
「わぷっ!?」
ライラが両掌を組んで水鉄砲をネロに放つ。
愛らしい顔が乳白色のお湯で濡れた。
むっ。褐色の肌が乳白色の液体で濡れる様はなかなかに――色っぽい。
「ライラ。大人げ無いだろう」
「うるせぇ! こちとらバトルの度に背中から攻撃魔法でぶっ飛ばされてるんだぞ!?
これくらい可愛いもんだろうが!?」
「人のせいにするな。のろま」
「明らかにお前のせいなんだよなぁ!!?」
ぎゃーぎゃーと言い合いを始める。
これもまた見慣れた光景だった。
風呂くらい静かに入りたいものだが、ライラとネロが同じ風呂に入る限り無理か。
「ん……?」
ふと、思い立つ。
そう言えば、この異世界の性の事情について、私はハルに話しただろうか?
――――――――しまった。話していないぞ。
だがハルは聡い。この世界の奇怪な性事情など、きっと既に理解してい、
『ひゃあっ!?』
壁の向こうから、甲高い少女の声が漏れた。
この声は――ハルだ。
『ちょ、ココノさん!? どこ触ってっ、あっ! だ、ダメですぅ!』
『ふむ…この張りとツヤ…ボリューム……流石はサキュバスだね♪ もみもみ♪』
『あっ! だめっ、ダメって言ってるのにぃ!』
「なっ、ななな、何たるっ…!?」
女湯から聞こえてくる色っぽい声に思わず唸るように声を上げてしまう。
これは、この壁一枚を挟んだ向こう側では何が起こっているのか!?
いや、何が起こっているかなど、勘繰るまでも無い。
じょ、女子がじゃれ合う姿などは現実でも珍しくないが……
このスキンシップは……少々度が過ぎているのではないか!?
『はぅ……なんという魔性のオッパイ♪
ハルちゃんの甘~い匂いを嗅ぎながらこれを独り占めに出来るなんて……』
『こ、ココノさぁんっ…これ以上は、ほんとに勘弁して、ふあ、んっ…!』
「ふむ……続けたまえ」
「ああ。全くスケベったりゃあねえよなぁ」
いつの間にかライラもネロも風呂から上がり、壁に耳を当てている。
「お前達二人とも節操というものが無いのかっ!?」
「オイラ子供だから難しい事言われてもワカラナーイ」
「節操無しだぁ? はっ。その言葉そのままお隣の二人にも言ってやれよ」
ぴたりと耳を壁に当てたまま二人からの反撃を食らった。
「いやいや! ライラ! さっきは壁越しにココノに釘を刺していただろう!?
今回は何故放って置くのだ!?」
「――分かんねえか、アイセ?」
それは粗雑な彼女らしくもない――真摯ともいえる声だった。
一片の汚れも雑念も無い、覚悟と決意に満ちた声なのだ。
こんな声は、戦いの中でも聞いた事が無い。
壁にへばり付いたままでなければ、さぞ様になっていた事だろう。
「何がだ」
「……エロに勝る物はねえ、って事だよ…!」
私は頭を抱えた。
「激しく同意せざるを得ない」
ライラとネロが見つめ合い――がっしりと手を握り合った。
普段は犬猿の仲だというのにこういう時だけは意気投合するのか……
しかしこの反応、ネロとライラの精神はやはり男子に近いのか?
「お前も素直になれよ。アイセ」
「冗談ではない。私は仮にもリーダーだぞっ」
「じゃあ聞くけどよ。お隣のイチャコラ…アイセ的にはアウト、って事かよ?」
「あ、アウト? い、いや、ダメとかそういう話ではなく…」
「じゃあグッドボタンとバッドボタンが在ったらどっち押す?」
ヨーチューブ的な二択!?
ネロから誤魔化しの利かない問い掛け。
ココノとハルのお風呂場での苛烈なスキンシップ。
良いか悪いかで聞かれたら、それは――
「勿論グッ――」
グッドと、喉から言葉が出そうになった。
ニヤリと、悪魔的笑みを浮かべるライラとネロ。
――――私とした事が何たる!!?
「――カンジーザイボーサツ! ギョウジンハンニャーハーラーミッタージー!」
煩悩に飲まれかけた瞬間、いつものように般若心経を唱えた!
「おいおいアイセ。またそれかよ。でも俺は知ってるぜ。
その訳の分からねえ呪文を唱えている時、実はお前、ムラッとしてるだろ?」
「ショーケンゴーウンカイクーッ! ドーイッサイクーヤクッ!」
「リーダーは百合好き。はっきり分かんだね」
「シャーリーシー、シキフーイークー!!」
『ココノさぁんっ…! こんなの、へんですよぉっ、なんでこんな、エッチぃ事ぉっ』
『うぅん? エッチぃ事? 傷ついちゃうなぁ。
私はただ、ハルちゃんのおっぱいのサイズを測ってるだけだよ?
ほらぁ、明日、服、買いに行くでしょ? 今の内にぃ、調べておかないとぉ♪』
『手つきがぁ、エッチ過ぎるんですぅ! これ以上されたらボクっ、』
『これ以上したらぁ……どうなっちゃうのかなぁ♪』
「…ゴクリ」
「やっべぇ…ココノの奴ノリノリだぜ…アイツSっ気も結構あるんだなぁ。
っていうかアイツ地味に『オーバー・ディザイア』してねえか?
理性完全に飛んでるだろ。まっ、それが良いんだけどな!」
「シンムーケイゲー! ムーケイゲーコオー!!」
『だめぇっ!! くるくるうっ! なんか来ちゃうよお!! 怖いよぉ!!』
『大丈夫っ、はあはあ♪ お姉さんが、ちゃんと支えてあげるから♪
ふふ♪ ふふふっ♪ ふぅぅっ♪』
『あっ! あっ!? だめ、だめだめっ! ホントに、らめぇぇ!』
「【オー】するのか?【オー】するのか!?」
「【オー】!【オォー】っ!!」
「コーセツハンニャーハーラーミッターシュー! ソクセツシューワツ!」
『さぁ、【オー】しちゃなよ、ハルちゃん!!』
『んにゃああぁぁぁぁんっっ!【オー】ってにゃにぃいぃぃぃぃっっっ!♪?♪?』
『ハァッ、ハアッ♪ ハルちゃん可愛いぃ♪』
「ギャーテーギャーテーッッ、ハラギャーテー!! ハラソーギャーテエェー!!!」
「【オー】した!! あれはハルの奴【オー】したぜ! 間違いねえ!」
「【オー】!【オー】ッ!」
ハルの嬌声とココノの猫撫で声(犬なのに)。それにライラとネロの野次。
更に私の般若心経が響き渡り、宿場の風呂はこの世とは思えないカオスと化した。
***
勿論、アイセ達パーティ一行の乱痴気騒ぎは、宿の外にまで響いていた。
幸いな事に、今は夜も更け、宿のある通り付近に人気は無い。
彼女達の名誉は大方守られたと言えよう。
このバカ騒ぎの正体を知っているのは、宿屋の女将くらいなものだ。
「――全く、呑気なものね」
いや、あと一人。
宿の裏手側にある、うす暗い路地。
月の光も届かない闇の中で何者かが隠れ潜んでいた。
「アイセ=シックステール。いい気になって居られるのも今の内よ」
ゆらり、と路地の影からその人物が歩み出る。
全身を黒いローブで覆った、女だ。
「貴方もすぐに、私の物になるのだから」
氷のような微笑が漏れた。
ルージュを引いた色っぽい唇の上を、舌が滑る。
口の端から覗くのは、獣を思わせる立派な牙。
「その時はすぐにやってくる……くす。今から楽しみだわぁ」
頭に被ったフードから、彼女の顔が覗いた。
癖っ毛の強いブロンドの髪。
海外モデルのような整った顔立ち。
切れ長の釣り目。そして金色の瞳の中には、縦長の瞳孔。
人外の妖艶さを纏った、絶世の美女。
だが、腕に覚えがある者ならばすぐにでも気が付くであろう。
彼女の放つオーラが、いかに恐ろしく、おぞましいか。
そして彼女は静かに夜の街を歩き出した。
「ところで『ギャーテーギャーテー』って何の魔法の詠唱かしら?
攻撃魔法? ううん、あんな詠唱は聞いた事は無い。だったら――」
彼女の疑問に答えられる者は、きっとアイセとハルの二人だけだろう。
読了お疲れ様です。
また投稿を続ける事になると思います。
よかったらこれからもお付き合い下さい。
次回投稿は8/10(月)AM8;00の予定です。