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8/42

第7話  ヴェイグランツ!

ハーレムメンバー紹介とチュートリアルの続きです。


3/6(日)

ハルのタレントリストを修正。二つほどタレントを追加。タレントに関する説明も少し追加しました。

2020/8/4(火)

ネロの一人称を修正。修正多過ぎる。猛省。

 言い争うような大きな声で目が覚めた。


「俺は反対だ!!

 いくらアイセが気に入ったっつっても、サキュバスをファミリーに入れるなんて御免だね!」

「【闇の眷属】だからか?」

「だったら私もファミリーから出てく?」

「あー! 違うっての! このサキュバス、アイセの奴を思いっきり誘惑してやがったんだ!」

「じゃあオイラがアイセを誘惑したら、ファミリーを追い出される?」

「だあぁっ! 面倒臭ええぇぇっっ!!【ネロ】! てめぇからかってんのか!?」

「うん」

「ああっ!? てっめっ、このっ! 喧嘩だなぁっ? 喧嘩売ってんだな!?

 よっしゃ分かった! バトルだこんちくしょう!! ぜってぇ泣かせてやる!」

「ちょっと【ライラ】ちゃん落ち着こうよ~」

「がるるるるっ!」

「【ライラ】。何度も言っているだろう? この子はレベル1で記憶喪失で右も左も分からない状態なんだ。

【オーバー・ディザイア】の事だって知らないし、防ぎようが無かったんだ」

「だから事故で済ませようってのか? は! アイセは甘すぎるんだよ!

 大体そのサキュバスが嘘を吐いてない保証がどこにあるって言うんだよ!?」


 目が覚めたら何やら剣呑な雰囲気ですよ?

 っていうかここどこー? 

 どうやらボクはソファに寝かされているらしかった。

 三人くらい座れる横長のソファに横倒しになり、毛布が掛けられている。

 

 ――ここは、居間かな。

 絨毯の敷かれた床。部屋を飾る調度品。

 大き目の四角いテーブルを囲んで、アイセさんと、他見知らぬ女の子が三人座っていた。


 うち一人はテンガロンハットの女の子。

 女の子は癖っ気強めのショートの赤毛に、裾短めの黒マントを羽織っている。

 黒マントの下には赤い軽装鎧にブルーのインナーが覗いた。

 そして背中には馬鹿でかい剣の柄がとっても自己主張。考えるまでも無く戦士系の職業だろう。

 背、高いな。アイセさんと同じくらいか。さっきから攻撃的な発言をしているのはこの子らしい。

 しかし。黒いマントに赤い鎧と巨大な剣、と聞けば見た目結構イケてる戦士なのになぁ。

 頭にのったブラウンのテンガロンハットがすごい不協和音。


 もう一人は子供用の高椅子に腰かけている、褐色の肌に銀髪の小学生くらいのロリっ子。

 魔法職なのだろう。黒とグレーのゆったり気味のローブと魔法使いらしい黒の三角帽子。

 前開き型のローブの下からは紫色のワンピースが覗いていた。

 ――あ。エルフ耳だ! ロリエルフだ! しかもこの肌の色から見るにダークエルフかな?

 つまりロリダークエルフ! うわ可愛い! お人形さんみたい! 

 でも何だか眠そうな目、というか全身からかったるいオーラを出してるなー。

 それにさっきテンガロンハットの女の子をガンガン煽ってたし。

 ちょっと気難しい子なのかも知れない。


 最後の一人も魔法職っぽい女の子。背はアイセさんよりも少し低いくらい。

 胸元まで覆う、ベージュ色のフード付きマント。

 その下には両サイドにふか~~~い切り込み(スリット)が入ったピンク色のチャイナドレス風衣装。

 むっちりとした健康的な二の足を包むのは黒スト。

 中々エロティッシュな衣装ではあるけど。それよりも何よりも!

 亜麻色のミディアムヘアの両サイドにテロンと垂れたイヌミミがですねぇ!

 大変プリティだと思いますねぇ!! 

 あー、この女の子ビーグル犬を彷彿させるなぁ。


 と、いつまでもお仲間さん達をジロジロと見ていてもしょうがないか。

 いい加減起きよう。


「――あの~盛り上がっているところ済みません~」

「あっ!? 起きやがったな淫乱ピンク!」

「酷くないですか!? 初対面の人の呼び方じゃないですよねそれ!?」

「っるせぇ! 色仕掛けしておいて淫乱でないってなら何だってんだよ!?」


 歯を剥き出し、敵意を剥き出しにして食って掛かったくるのはテンガロンハットの女の子。

 あ。この人、さっきボクが気絶する直前に見た気がする。

 きっとボクがアイセさんを誘惑? しているのを見て実力行使(暴力)で止めてくれたんだろう。


「それを言われるとぐうの音も出ないのですが。ってああっ!?」

「何だよいきなり」


 ボクはアイセさんに向き直るとぶん、と音が鳴るくらい勢いよく頭を下げた。


「さっきはごめんなさい!」

「は、ハル?」

「【夜時間】になった途端に意識が……その……ピンク色に染まってしまいまして。

 アイセさんにご迷惑を掛けたと思います! だからごめんなさい!」

「ハル。もういい。私は気にしてないぞ?」

「でも……」

「大体、迷惑を掛けたというのなら私もハルに迷惑を掛けただろう? 森の中でハルの、」

「わあああぁぁぁっっっ!!!? アイセさんストップ! ストップです!」

「お、おっと。すまない。そうだった。うん。何も見ていないぞ。私は」


 なんでボクの放尿シーンを見た事をここで話そうとするんですかアイセさんは!!?

 ……AFCの騒ぎの事と言い、今の事と良い。アイセさん、案外うっかりさんですね?


「そういえば、さっきのボクのその、状態異常? みたいなのはなんだったんですか?」

「【オーバー・ディザイア】だね」


 犬耳の女の子が答えてくれた。


「【オーバー・ディザイア】?」

「うん。【夜時間】限定のステータス異常――って言うより現象かな?

 (ハート)系の状態異常に強制的に掛かっちゃうの。【欲情】とか【魅惑】とか」

「あー。成程」


 え、エロ系のステータス異常に掛かってしまう現象って事ね。

 確かに、リリウム様の【夜時間】の時報? を聞いた瞬間頭の中がお花畑になったし。


「ちなみにその【オーバー・ディザイア】って全員に掛かる訳じゃないですよね?

 それなら夜になる度にエロい事、っていうかエラい事? になりますし」

「【オーバー・ディザイア】の発動条件は『夜時間である事』。『DESが500以上ある事』。

 それから『MNDがDESの半分以下である事』、の三つだったかな?

 ちなみに発動は一日一回。気絶したり【オーバー・ハート】すれば状態は『ふつー』に戻るよ」

 

【オーバー・ハート】って何じゃい。また後で聞こうかな。


「はっ! レベル1っていうのがいきなり胡散臭くなったよな!」

「え? どういう意味です?」

「しらばっくれてんじゃねえぞ! レベル1でステータスが500を超える化け物がいるかっての!」

「珍しく正論」

「え? そうなんですか?」


 テンガロンハットの人――確か【ライラ】ってアイセさんに呼ばれてたかな?

 ライラさんの言葉にロリダークエルフ――【ネロ】ちゃんって呼ばれてたな――が同調した。

 ステータスの500越え、ってそんなに珍しいんだ。


「でもレベル1ですよ? あ、ちょっと待って下さいね」


 ボクはメニューウィンドウを呼び出してステータス画面を開く。

 ええと。このウィンドウ、自分じゃなくて他人に見せるように前後向きを変えられないかな?

 と思ってウィンドウの両端を引っ掴んで力を入れると――お。回転するじゃーん。

 ボクは慣れない動作でウィンドウの角度を調整して皆に見せた。


 勿論クソな称号の部分は両手で覆って隠しました!


 アイセさんを除いた三人の女の子が興味津々とばかりにウィンドウを覗き込む。


「げ。マジでレベル1じゃねーか」

「ほんとだー。久しぶりに見たよレベル1」

「天然記念物」

「で。肝心のステータスは、と――――は!? DES508!?」

「うわ、ほんとに500超えてるんだね…」

「どすけべ」


 最後の一言がぐさりと刺さった。

 いや待って。ボクの称号を見てないのにどうして『どすけべ』と言ったネロちゃん。


「元の数値は170って、まあまあ高いけどサキュバス的には普通だよな」

「+の数値が凄いね。+338とか。これ何の補正だろ?」

「その+338の内の+100は【闇の眷属】の補正。

【夜時間】ならサキュバスはDESが+100」

「え。でも夜時間が無くても+238だよ? 元の数値より高いプラス補正なんて聞いた事無いよ」

「恐らく【ユニークタレント】」

「だな。おいピンク。【タレント】のページも見せろ」

「【タレント】ですか。ちょっと待って下さい」


 ボク。命名ピンクらしいです。もういいや。後でちゃんと自己紹介しよう。

 そう言えば【タレント】って項目、メニューにあったけどまだ見てなかったな。

 何を表す項目なんだろ?

 ウィンドウの『戻る』ボタンを押してメインメニュー画面へ。

 九つの項目から『称号&タレント』を選択。更に『タレント』を選択。


『==================


  ◎温和

  ◎肝っ玉

  ◎策士

  ◎乙女

  ◎貧弱

  ◎小柄

  ◎巨乳

  ◎ピンク髪…

  ◎気遣い

  ◎舌技

  ◎ツッコミ役

  ◎女子力高め

  ◎闇の眷属

  ◎『○○○』の魂


 ==================』


 なんか色々あるな。

 うーん――パッと見では【タレント】ってその人の特徴みたいな感じかな。

 リストの上側は精神的特徴、真ん中は肉体的特徴、下側は――


「「「【女子力高め】!?」」」


 そこに反応するんかい。リストの一番下にすごく胡散臭いのがあるのに……


「マジか!? お前料理とか出来るのか!?」

「はあ。まあ、そんな気がします」

 

 実際は母さんに結構仕込まれてるので和洋中と種類を選ばず一通り作れる。

 でも記憶喪失って設定だからね。あんまり得意気には出来ない。


「お肉料理出来る!? ねえお肉料理出来る!? 骨付きのヤツ!!」


 目を血走らせて聞いてくるのは犬耳の女の子だった。

 何故二回聞いたのか。そしてこの食いつきは間違いなく腹ペコ系キャラである。


「スイーツ作って下さい。お願いします作って。いいから作れ」

「あはは。頑張ってみます」


 ロリダークエルフのネロちゃんは甘いものが好みと――ふむふむ。

 スイーツはあんまり凝ったものは作れないなぁ。

 クッキーくらいなら作れるけど。


「是非に和食を頼むうううぅぅぅっっっ!!!」


 アイセさんが全力でボクの肩を掴むと魂の懇願をした。

 ここにも腹ペコさんが居ましたか。いや、アイセさんの場合は違うか。

 でも味噌とか醤油とか。異世界で和食系の調味料、揃うかなぁ?


「あの。料理は機会があればちゃんと振る舞いますから。

 それよりボクの能力の話じゃありませんでしたか?

 えーと。DESのプラス補正でしたっけ?」

「あ、ああ。そうだった…やっべぇ。

【女子力高め】のインパクトが強すぎて本来の目的をすっかり忘れるところだったぜ」

「あはは。もう私はどうでもよくなったよ」

「同意」


 あんたら、どんだけ飢えてるんだ?

 アイセさんのお仲間ならそれなりに強いでしょうに。

 で強いって事はランクの高いクエストとか受けて、きっちり儲けてるんじゃないんですか?


「ま、まあハルのDESの高さの原因と言えばこの三つだろう」


 アイセさんがリストの中の【巨乳】【ピンク髪…】【『○○○』の魂】を順番に指差した。


「そうだね【巨乳】がDES+10%で、【ピンク髪…】がDES+30%」

「合わせて40%だな! えーと元が170でその40%って事は、」

「68ですね」

「お。計算早ぇな」

「じゃあ+238の内68が【巨乳】と【ピンク髪…】。残りは+170!?

 DES+100%の補正!? 何それ聞いた事ないよ!?」

「その正体がこれ」


 ネロちゃんが【『○○○』の魂】を指差して、ボクに目で何かを訴え掛けてくる。

 ――ああ、詳細が見たいって事ね。

 っていうかこのウィンドウ、本人しか操作出来ないようになってるって事かな?

 ボクは【『○○○』の魂】をタッチ。


『==================


     『○○○』の魂


 ==================


 説明


 『○○○』ってエッチだよね?

  その魂を持っているそこの貴方!

  貴方はとってもエッチです!


  え?『○○○』が何かだって?

  分かる人だけ分かればいいよ~。


  ちなみに効果はすっごいよ~♪

  DESがメチャンコヤバイ程上昇♪

  H系等の称号・アーツ・アビリティの

  取得・装備条件もアリエナイ程緩和♪ 


  これで今日から貴方もエロ大魔王だ!


 ==================』


 微妙な沈黙が場を支配した。

 生温~い視線がボクに集中している。

 いやあの。いわれの無い誤解を招く文章ですねこれは。

 っていうか結局『○○○』って何さ。


「なあ淫乱ピンク?『○○○』って何だ?」

「この文章を読んだら淫乱ピンク言いたくなるのも分かりますけどね!

『○○○』が何かは全く心当たりがありませんよ。こっちが聞きたいくらいです」 

「まあでもDESの+100%補正はこれで間違いないみたいだね」 

「それに称号・アーツ・アビリティの取得・装備条件も緩和されてる。

 エロ方面特化チート」

「ぶっ…」


 ネロちゃんのチートという言葉に思わず吹き出してしまった。


 ――転生した直後からチートは発動してるから、有効に使ってね♪――


 これはボクがこの異世界【リリアレス】に転生する直前にリリウム様が言った言葉であるのだが。

 ひょっとして、そのチートって【『○○○』の魂】の事じゃないの?


「あの。確認なんですけど。ひょっとしてDESの数値って性欲とかだったりします?」

「は? なんでサキュバスがDESの事を今更聞くんだよ?」

「ライラちゃん。だからこの子記憶喪失だって。

 ――あのそれで合ってるよ? DESは性欲の数値。

 ちなみにサキュバスが全種族の中で一番DESが高いの」

「そしてSTRが一番低い」


 あのクソ女神マジ殴りたい。

 筋肉とは一番無縁で代わりにエロに特化した種族とか。

 一体ボクに何の恨みがあるっていうのさっ。


「しっかしこんなに至れり尽くせりのタレントなんて聞いた事ねえな。

【ココノ】? これ、タレントリストに載ってるか?」


【ココノ】と呼ばれた犬耳さんがウィンドウを展開。何やら操作する。


「――うーん。無いね。やっぱりユニークタレントじゃないかな?」

「あの。これも確認なんですが。【タレント】はその人の特徴や特技?とかで合ってます?」

「そうだ。そして【ユニークタレント】はその中でも珍しい【タレント】だな。

【タレント】には色々な種類があって、各々ステータスが微量だか増減する」

「付け外しとかは出来るんですか?」

「基本的に出来ない。それは『個性』を変えるという事だからな」

「それもそうか。じゃあ付け外しの出来ない、効果弱めのアビリティみたいな感じですね。

 ちなみにステータスの増減量って具体的にどれくらいなんです?」

「大体は5%か10%くらいの変動で、高くても20%とか30%くらいだね。

 ちなみにSTRとか、各ステータスの右側にある()(かっこ)の中の数字は大体がタレントによる補正の値だよ」

「しかしこの【『○○○』の魂】はデメリットの無いとても優良なタレントだな。

 普通のタレントにはメリット、デメリットがある。試しにリストの中から【温和】を選択してくれ」

「はい」


 アイセさんに言われるがウィンドウを操作する。


『==================


        温和


 ==================


 説明


  気性の穏やかな子だね。

  仲間を気遣うのは得意だけど、

  その反面、攻撃には向かないかも?


  仲間への回復・補助の効果がプチ上昇。

  敵へのダメージがプチ低下。


  そんな貴方にはヒーラー職がお勧め♪


 ==================』


「とまあこんな感じだ」

「説明には細かい数値は出てないけど。

 実際には回復・補助効果に+5%。敵への与ダメージが-5%になるの」

「なるほど。確かにメリット・デメリットがありますね」

「……けっ。【タレント】の事も知らないとか。本当に記憶喪失だったのかよ」

「だからそう言っているだろう?」

「でもよ。こいつのタレントの中には【策士】もあったぜ?

 アイセを騙す企てがあるのかもしれねぇ」

「まだ言うのか…! 確かに【策士】のタレントはあるようだが。

 しかし、AFCの会員に囲まれた時もハルの機転と知恵のおかげで私は脱出出来たのだ」

「お前を独り占めしたかっただけだろ?」

「ここまで言って分からないかっ?」

「ここまで言ってソイツを信じるのかよ!?」

「この石頭っ」

「このお人好し!」


 あ、あれ? ライラさんとアイセさんが顔を突き合わせて喧嘩し始めたよ?


「あの~そもそも何が原因で揉めてるんですか?」

「お前のせいに決まってるだろ淫乱ピンク!!」

「あ、すいません聞き方を間違えました。アイセさんはボクをどうしたいんですか?」

「決まっている! ハルを【ファミリー】に迎え入れたい!」

「だ・か・ら・な! 見ず知らずのサキュバスをいきなり【ファミリー】とか意味わからねぇ!!」

「オイラも元は見ず知らずのダークエルフ」

「話を引っ掻き回すなあぁぁぁぁっっ!!!」


 ライラさんネロちゃんに煽られて発狂です。


「まあでもネロちゃんの意見も一理あるよね。

 というか私もネロちゃんも、それにエルちゃんもアイセちゃんにファミリーに入れてもらったクチだし。

 私はその子――ハルちゃんだっけ? 別にファミリーに加えてあげてもいいと思う」

「というか、アイセは【エルダー代行】。私達に拒否権無し。鶴の一声。だから私も賛成」


【エルダー代行】?【エルダー】って確かファミリーの長って、アイセさんが言ってた。

 その代行っていう事は、今は実質アイセさんがファミリーの長をやっている、って事かな。


「お前らそんな暢気なっ。アイセの性格は俺もよく知ってるけどよ! 限度ってもんがあるだろ!?

『可哀想だ』なんて理由でイチイチファミリーを増やしてたらキリがねえっての!」


 ライラさんの言葉にアイセさんが「うぐっ」と声を詰まらせる。

 犬耳のココノさんも思い当たる節があり過ぎるのか「あ~」と言いながら視線を泳がせた。


「ネロもよく考えろって! 確かにアイセは【エルダー代行】でファミリー加入の決定権を持ってるけどよ!

 それでアイセが勝手に決めた奴を同じ家族だって認められるのか!?」

「ファミリーの環を乱すようなら追い出せばいい。それまでは料理番でもしてこき使う」

「つまりは様子見、って事だね?」

「そう。オイラの時もそうだった」

「ちっ! どいつもこいつもお人好しめ! 分かったよ! 好きにすればいいだろ!

 でも俺は認めねえ! この淫乱ピンクをファミリーだなんて絶対認めねえぞ!」

「ライラ。いい加減にしろ…!」


 またまた一触即発状態になるアイセさんとライラさん。

 このギスギスした空気はちょっと、マズイ。

 早いうちに手を打たないと、ボクは良くてもライラさんがファミリーの中で浮いてしまうのじゃないだろうか?

 と思って、口を挟んだ。


「待って下さい。ライラさんの言う事も一理あると思います」

「ハル!? 何を言っているんだ!?」 

「アイセさんがボクの事を心配してくれるのは嬉しいですけど。

 ボクは皆さんの事も知りませんし、それに自分の事も分かりません。

 信用しろ、って言う方が無理だと思います。

 だから最初はファミリーではなく、パーティで結構です。

 そうやって様子を見てもらって、ファミリーの皆さん全員が納得出来たら、ボクをファミリーに入れて下さい。

 ライラさん? これでは駄目ですか?」


 全員がライラを見た。

 無言の『空気読め』の圧力にライラさんが顔をしかめる。


「けっ。頭も口も良く回りやがる。分かったよ! パーティに入れて様子見だな?

 異存は無え! でも覚えてろよ!? 少しでも尻尾を見せたらすぐに追い出すからな!?」


 ぴこん、とボクは閃いた!


「「尻尾!」」


 ナイスタイミング! ボクと犬耳ココノさんのダブルコンビプレー!

 つまりは犬尻尾&矢じり尻尾で振り振りするのである!


「アホか!? 物理の方じゃねぇっての! っていうかココノも何ノリノリでやってんだ!?」

「あはは。いや、ね? 今のはボケるところかなと思って……ついやっちゃった♪」

「ナイスタイミングでした♪」 


 イエーイ♪ とココノさんとハイタッチ。

 うん。ココノさんとは直ぐに仲良くなれる気がする。


「はははっ。これならすぐにでも馴染めそうだな!

 そうだ。早速パーティ加入の登録をしようか?」

「どうすれば良いんです?」

「ああ。先ずはメインメニューの『通信』を選択してくれ」

「はい」


 ええと。通信、通信っと。

 メインメニューの九つの項目の内、下段の真ん中にそれは在った。

 デフォルメリリウム様が携帯電話(!?)でお喋りしているアイコンを選択する。

 更に新たなアイコンが出現した。


『====================


  メッセージ   通話    バトル


  フレンド   パーティ  ファミリー


  ネット    BBS    チャット 

                      

 ====================』


「ぶっ」


 思わず噴き出した。

 九つの項目には例によってデフォルメされたリリウム様のイラストがアイコンとなっているのだけど。

 あれ? おっかしいな~? ここ異世界だよね? ファンタジィイ~な世界だよね?

 上段と中段は良いでしょう。まあ許しましょう。

 だが下段。てめーは駄目だ。ファンタジー世界に許される単語じゃねえ。

 

「あの。アイセさん?」

「ん? どうした?」

「――いえ。なんでもないです」


『ここ異世界ですよね?』って聞こうとして言葉を飲み込んだ。

 危ない危ない。記憶喪失って言う設定をいきなりぶっちするところだった。


「この『パーティ』の項目ですね?」


『パーティ』のアイコンは赤リリウム様と青リリウム様の二人ががっちり握手をしているイラストだった。

 ああ、と頷くアイセさん。

 アイコンを押すと再びウィンドウが切り替わる。


『==================


   貴方は現在『ぼっち』だよ


 ==================


  最寄りのパーティに加入申請する?


   『あたいは一匹狼なのよ』

   『誰か拾ってー(´・ω・`)』


 ==================』


 もう。またこう言う迂遠だか、どストレートだが良く分からん選択肢を。

『誰か拾ってー(´・ω・`)』を選択。


 キーンコーンとお知らせのSEと同時にアイセさんの目の前にウィンドウが開いた。

 

[パーティ加入申請がきたよ~?]


「『精々こき使ってやろう』、っと」

「それ、イエスの選択肢ですか? 酷いですね」

「全くだ」


 ボクとアイセさんは向かい合って笑う。


 ぱんぱかぱ~ん! とお祝いのSE。ついでにクラッカーの音も追加。


[おめでとー♪ パーティ加入申請が受理されたよ~]


 リリウム様のお知らせの後、ウィンドウの内容が変化する。


『====================


 貴方は現在

 パーティ『ヴェイグランツ』に加入してるよ


 ====================


  ○メンバー確認  ○パーティ状況

  ○クエスト状況  ○フリーメモ

  ○パーティ離脱  


 ====================』


 あ。『ぼっち』じゃなくなった。

 アイセさんがリードしてくれると分かっているとはいえ、それが形になると、こう。

 じんわりと、胸に温かいものが広がっていく気がした。 


「そうだ。メンバーを紹介しようか」

「あ。じゃあ私から」


 言って手を上げたのは犬耳娘のココノさん。


「【ココノ=シックステール】。種族は犬亜人。職業クラスは【プリースト】。

 パーティでは中衛センターでヒーラーをやってるよ。

 ちなみに特技と趣味は食べる事! だよ! よろしくね! ハルちゃん!」


 にっこり、と眩しいスマイルを頂きました。

 はあ~。犬耳娘カワエえなぁ~。ほっこりするよ~。

 あの犬耳を思う存分モフモフしたいなぁ~。


「後でモフらせてね♪」

「あれ? ボクがされるんですか?」

「だってネロちゃん嫌がるんだもん~。代わりにハルちゃんがモフられてね!」


 まあいっか。


「ん。じゃ次私」


 ロリダークエルフのネロちゃんだ。


「【ネロ=シックステール】。ダークエルフ。職業クラス【ソーサラー】で後衛バックスアタッカー。

 戦闘中、オイラの魔法の射線に入るな。以上」

「ちなみにおっぱい星人だぜコイツ」

「え」


 ボクは思わず自分の半分剥き出しのオッパイを見てしまう。


「あ~。確かにネロちゃんはおっぱい好きだよねぇ」


 困った様子のココノさん。そう言えば、ココノさんも結構胸あるよね。

 これは、ひょっとしてネロちゃんにキマシタワー的な事をされている?


 そしてボクもされる!?


「良かったなぁネロ? 貴重なオッパイ成分が補充出来てよう?」

「ん。これでライラがココノのデカパイを視姦せずにすむ」

「なっ…おまっ!? ば、ばっかやろ! てきとーな事言ってんじゃねえ!」


 顔を真っ赤にして否定するライラさんとそれをジト目で眺めるココノさんが印象的だった。

 うん。この人達の人間関係、結構おもしろいな(愉悦笑み)。

 ――と。騒ぎ立てるファミリー達をごほん! とアイセさんが咳払い一つで喧嘩を鎮静化した。

 決まりの悪そうにライラさんが両手を上げて肩をすくめると、ボクに向き直る。


「【ライラ=シックステール】。人間。職業クラスは【ソードマスター】。

 ま、ガチの前衛フォワードアタッカーだな。毎回ネロの魔法の誤射に頭を悩まされてるよ」


 あー。ネロちゃんの攻撃魔法に巻き込まれて吹き飛ばされるライラさんの図が容易に想像出来ました。


「アイセなら避ける。ライラはのろま」

「まあまあネロもそこまでにしておけ。話が進まないだろう?」

「ん」

「ハル。ライラはこれでも【シックステール流刀剣術】の姉弟子だ」

「え!? じゃあアイセさんよりも、」 

「昔は強かった」

「ネロぉぉぉっっ! てんめええはあああぁぁぁっっっ!!!」


 ばたばたと部屋の中をライラさんとネロちゃんが走り回る。


「ま、まあネロの言う事もあながち間違ってはいない、か?」

「レベル差が30近く開いてたら勝てるもんも勝てるかぁぁっ!!」


 あー。アイセさんのレベル121だっけ? じゃあライラさんは90くらいか。

 それでも強そうだけど、アイセさんには敵わないって事だろうなぁ。


「まあ今更私の紹介などとは思うが一応。これでもパーティリーダーだからな」


 居住まいを正すアイセさん。


「【アイセ=シックステール】。種族は人間。職業クラスは【ソードクイーン】。

 中衛センターでアタッカーをやっている」


 アイセさんは苦笑いをしながら「趣味も特技も剣術だ」と続け、沈黙する。

 走り回っていたライラさんとネロちゃんが足を止める。

 四人の視線が、ボクに集まっていた。


「【ハル】です。種族はサキュバス。職業クラスは【マジシャン】。

 ええと。多分、家事が得意です。趣味は――何だろう?」

「エロ画像収集」

「違います」

「あー? DESお化けが言っても説得力ねえな? この淫乱ピンク」

「……ライラさんにだけはご飯作ってあげませんから」

「え? あっ!? わりっ! 勘弁してくれ!?」


 慌てふためくライラさんにどっと笑いが湧く。

 


 なんて、良いパーティだろう。

 ここならずっとレベル1でも。

 サキュバスでも。

 別に良い気がした。



 ひとしきり笑い終えた後、アイセさんが代表してボクに手を差し伸べる。


「ようこそハル。パーティ【ヴェイグランツ】は君を歓迎する」


「……はい。不束者ですが、よろしくお願いします」


 差し伸ばされたアイセさんの手をボクは握り締めると、硬い握手を交わしたのだった。




キャラが増えるとストーリー進行も難しいですね。

掛け合いばかりで中々話が進まないW

ともかく第一章もここでようやく折り返し地点となります。

チュートリアル的な解説も続きますがちょっとずつシナリオも進んでいきます。

よかったら次回もお付き合い下さい。


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