第6話 夜時間!
早速のゲリラ投稿です。
ちょっと短めかもです。
「――アイセ様?」
気が付いたら愛しのアイセ様の姿が消えていた。
キス待ちの間抜けな顏を晒してからもう数分が過ぎ、余りにも遅いと思って目をこっそりと開けてしまったのだ。
更にあのサキュバスも消えているではないか。
「あー! アイセ様が居ない!!」
「そんな! アイセ様が私達を騙したって言うの!?」
「あのちんちくりんのサキュバスも消えてるわ!」
「分かったわ! あのサキュバスがアイセ様をそそのかしたのよ!」
何て事、とミスティ=フォーエストは愕然とする。
悪さをしたら承知しないと言ったそばからあのサキュバスはとんでもない事をしてくれた。
「ちょっとミスティ様! どうするおつもりですか!?」
「は? え? どうもこうも……」
「ミスティ様のせいであのサキュバスがアイセ様を独り占めしてしまったじゃないですか!?」
「大体どうしてその二人を見逃がしたんですか!?」
「え? 別にそんなつもりは……私も目を閉じていたから逃げたのが分からなかっただけで……」
と言い訳をしてから後悔した。
「目を、」
「閉じていた?」
周囲の女の子達の殺気が膨れ上がる。
「ちょっと! おでこにキスを頂いた上にさらにキスをねだろうって言うの!?」
「最低! 会長最低!」
「なんて意地汚いの!?」
「まじ調子乗り過ぎでしょ? ちょっと皆、こいつ絞めちゃわない?」
「さんせー」
「会長まじムカつくしー」
「ちょっと皆パーティ組もうよパーティ」
「うんうんそれいい」
「皆で凹ろっか♪」
気が付けば、四面楚歌。
噴水広場に一人、ミスティは孤立していた。
デデン! と聞きなれた通知のSE。
[バトル申請が来たよー♪]
『==================
パーティ:クソミスティ凹り隊
人数:32
状態:ヤル気満々
平均LV:21
合計LV:672
==================』
「ひっ!?」
ミスティは戦慄した!
32人のパーティ! 平均レベルは大した事無いものの、圧倒的人数!
合計レベルは672! まさに絶望!
「ねー会長さん? バトルしよーよ」
[バトルする~?]
『==================
『バトルする~?』
『返り討ちにしてやんよ』
『ちょっとお腹が……』
==================』
勿論『ちょっとお腹が……』を選択しようとした。
「まさか断らないよね~? 会長レベル72でしょ?」
「私達よりも全然凄いしー」
「ここで逃げたら低レベル会員からのバトルを断ったチキン会長、ってそこら中で言い触らしてあげるね♪」
逃げ場は無かった!
「ええい! こうなった覚悟を決めます! 私は仮にも中級職、【ソードダンサー】! 初級職ばかりのパーティに遅れは取りません!」
『返り討ちにしてやんよ』を選択!
[申請受理! これより【クソミスティ凹り隊】対【ミスティ】のバトルを開始しまーす!]
こうして、ミスティの一世一代の大勝負が始まった!
結果はミスティの負け!
――静かになった噴水広場。
暦上は初春だが、この時期の夜はまだまだ寒い。暖炉もまだまだ現役の季節。
そんな寒空の下、裸に剥かれたミスティが目を回して倒れていた。
「ママ―。あの人裸だよー?」
「しっ。見ちゃいけません」
共同浴場の帰りらしい母と娘の二人組が噴水広場のミスティを見ながら会話。
そそくさとその場から立ち去っていく。
ひゅおーうと木枯らしが吹いた。
気絶したミスティはまだ目を覚まさない。
彼女を介抱する者は、誰もいない。
また木枯らしが吹いた。
きっと女神様が不憫に思われたのだろう。
冷たい風が近くの木々から葉っぱを運ぶと、目を回したミスティの大事な所を、偶然に覆い隠した。
***
月明かりの夜の街を跳ぶ。
家屋の屋根の上を次々と八艘跳びしていくアイセさん。
ボクはそんなアイセさんにお姫様抱っこをされていた。
また顔が赤くなってるなぁ、ボク。
女体化してからゴブリンに剥かれたり、ラッキースケベされたり、お姫様抱っこされたりと。
順調にヒロインのフラグを回収して行っている気がするよ?
ああ、それにしても、月明かりに照らされた、アイセさんの顔、綺麗でカッコいいなぁ♪
こんな時間が続くなら、別にヒーローじゃなくてヒロインでもいいかも♪
アイセさんに見とれていると、何度目かの跳躍の後、屋根の上で下された。
「この辺りでもう充分だろう」
「あっ――ええ。大分噴水広場から離れましたね」
というかもう見えないよ。2キロ程移動したのかな? 街を覆う外壁がすぐそこにあるし。
「仲間が待つ宿はすぐそこだが……」
「先に打ち合わせをしましょう。ボクは女神様の呪いで記憶を失い、レベル1に弱体化したサキュバス。
それはアイセさんがたまたま救った。そういう事にしましょう。
あとボクが転生人である事も黙っておいた方がいいと思います。ややこしい事になると思うので」
「それが一番良さそうだ。しかしハルは頭がいいな」
「? そうですか?」
「謙遜する事はない。レベル1の呪いや記憶喪失だという事をミスティに説明していただろう?
あんな言い訳、私には思いつかなかった。噴水広場から脱出する時もそうだ。
私がファンの皆に全員キスをする、などと言った時は肝が冷えたが、ハルの嘘のおかげで脱出できた。
どうやら君は機転が効く人間のようだな」
「も、もう。そんなに褒めても、何も出ませんからね?」
少し照れ臭いけど、好きな人に褒められ事は、とっても嬉しい事だった。
顔が綻んでいくのが自分でも良く分かった。
えへへへ。きっと今、すごいだらしない顔をしているよボク。
「あ、そうだ。やっぱり、サキュバスって人間には嫌われていますか?」
「まあ、【闇の眷属】だからな」
「その【闇の眷属】って一体何なんです? ゴブリン達も言ってましたけど?」
「そうだな。一言で言うなら『魔王の僕』、だろうか」
うわそれ滅茶苦茶人間と敵対している存在ですやん。
「個体差はあるがモンスターを使役する能力を持ち合わせ、暗黒魔法を使える。
また、【夜時間】になると特定のステータスが変動する」
「モンスターの使役能力を持ちつつ闇属性に特化した種族って事ですね。
ところで【夜時間】ってなんです?」
「ああ、それは、」
キーンコーン。アイセさんの言葉を遮るようにお知らせのSEが響いた。
[午後8時になりました。うふふの【夜時間】だよ~♪]
リリウム様の声が聞こえたのとほぼ同時だった。
――ドクン。
ボクの中で、ナニかが目を覚ます。
ドクン、ドクン、と心臓が脈打つ度に体の中を血液以外の何かが駆け巡る。
それは熱く。
それは激しく。
そして、それはどこまでも甘く、狂おしい。
「……は、ぁっ」
堪らず膝を折った。
なに、これっ。体、あつっ……
「ハル!? おいっ、大丈夫か!?」
焦るアイセさんの声がどこか遠い。
体は気怠く、どこか熱っぽい。
風邪でも引いたような症状だけど、風邪とは違って正体不明の高揚感と愉悦が全身から湧き出てくる。
酒に酔ったなら、こんな感じになるのだろうか?
「ハル!? しっかりしろ!」
「…アイセさぁん…なんかぁ…頭ぽわーって、急になってぇ…♪
これぇ、なんですかぁ…♪」
信じられないくらいの猫撫で声だった。
「……【オーバー・ディザイア】だ」
「オーバー…? なんですかぁ…それぇ♪」
「よ、要は……その……悪酔いのようなものだ! サキュバスには良くある現象と、」
目が合ったアイセさんがすごい勢いで顔を背けた。
顔を背ける前にアイセさんの視線がボクの胸元に――あ、そっかぁ♪
「おっぱいの谷間、見てドキッとしちゃいましたかぁ…?
しちゃったんですよねぇ…♪ アイセさん可愛い♪」
「か、勘弁してくれないかっ」
「何を勘弁するんですかぁ? 減るものじゃないですよぉ? もっと見てもらっていいんですよぉ♪」
あはっ♪ なんか滅茶苦茶気分いい♪ 頭ぱっぱらぱーになって、気持ち良いよぉ♪
調子に乗って大きなおっぱいを寄せて上げてみたりするとアイセさんが声にならない悲鳴を上げた。
もう、しっかり見てるんじゃないですかぁ。
可愛いなぁ♪ アイセさん♪ そんなに可愛かったら――
食べちゃいたく、なるじゃないですかぁ♪
アイセさんの唇にボクの目が吸い寄せられる。
化粧もしてないアイセさんの唇は、健康的で色っぽいピンク色。
その唇をどうしようもない程、むしゃぶりたくなった。
「ねえアイセさん? キス、してもいいですか?」
「ハ、ハル? 何を言って?」
「だってアイセさん、ミスティさんにはキスしてたじゃないですか」
「え、あれはだな、日頃から情報の交換や暴走したファンの抑止力など世話になっているから」
「じゃあこれからボクも毎日アイセさんのお世話をしまぁす♪」
「え? いや、それはどういう?」
「お洗濯とかぁ、お掃除とかぁ、ご飯とかぁ、買い物とかぁ。
そういう、お嫁さん的な事全部ですよぉ♪」
「っっっ!? なんたるっ!!?」
あー、今、アイセさんとっても嬉しそうだったよぉ?
もうひと押しかなぁ?
「あの、もし、アイセさんが良かったらぁ、ボクの事、性的に食べて、」
「だめだああぁぁぁっっ!! それ以上は駄目だハルっ!」
「あんっ♪」
がしり、両肩を捕まれて妙に色っぽい声が出た。
「いいかハル! 君は今、普通の状態じゃない!」
あは♪ アイセさんの顔、近ぁい♪
「自分が今何を言っているのか理解しているのか!?」
良くわかんないですぅ♪ でも、そんな事よりもぉ♪ アイセさんとエッチな事、したいですぅ♪
あはっ♪ エッチな事、だって♪ ボク完全にぶっとんじゃってるよぉ♪ あ、そーだ♪
良い事思い付いちゃった♪
ボク、確かアビリティで【魅了の瞳】って持ってたよねぇ?
これを使ったら、アイセさんだってメロメロに出来るかも♪
よぉーし、早速使っちゃうぞ♪
それっ、目力スイッチオン♪
ばきゃんっ!
「みぎゃんっ!?」
まるで脳天にタライでも直撃したような衝撃に視界が散って溜まらずひっくり返った。
「――ったく。どこで油売ってるのかと思ったら。
こんな弱そうなサキュバスと何乳繰り合ってんだよ? なあアイセ?」
仰向けになったボクの視界に満点の星空と双子のように並ぶ二つの三日月が浮かんでいる。
その視界の端に、テンガロンハットと黒マントを羽織った女の子が写り――
それっきりボクの意識は闇に沈んだのだった。
次のお話でハーレム要員が大体出揃います。
嘘じゃないからね!? 振りじゃないからね!?
予定通り金曜日夕方に投稿出来たらいいな……(遠い目)